記憶の不思議
記憶は、不思議なものです。
私が聞いた中で一番神秘的だったのは、産まれる時の記憶の話です。
おぎゃあ、と産まれ出る直前、とても苦しくて苦しくて、どんどん苦しくなった、という感覚の記憶。
その方のお母さんの話では、分娩時に首に臍の緒が絡んで、危険な状態になったのだそうです。
強烈な体験は、記憶に刻まれやすいのでしょうか。
その一方で、強烈だからこそ記憶から消えてしまう、ということもありませんか?
私には消えた記憶があります。
周囲から当時の様子を語り聞かされても、全く思い出せません。
母の話では、地域の親子旅行で訪れた観光地で、それは起きたらしいのです。その場所には吊り橋があります。
小学校低学年だった私は既に高所恐怖症で、高くて揺れる古い吊り橋を渡れなかったそうです。
吊り橋の3分の1辺りまで進み、揺れに耐えられなくなってしゃがみこんでしまったらしく、そこから引き摺って戻るのに苦労したのだと、母はよく笑っていました。
その記憶が私には全くありません。毎年行われた親子旅行の記憶は、いくつかあるのですが、吊り橋のある観光地へ行った年の記憶だけが、全く無いのです。吊り橋の他に訪れたという場所も思い出せないし、通った峠道でバス酔いしたことも記憶に無いのです。
本当に行ったのだろうか、とさえ疑うほど記憶に無いのは、たぶん吊り橋の恐怖のせいではないかと、考えられます。
よほど怖かったのでしょう。少なからず記憶が飛ぶくらいには、恐怖な体験だったのです。
記憶とは、不思議なものです。
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