2ー8 歓迎会

 食堂に入ると、一斉にクラッカーの音がした。

 真正面をみると上級生と思われる人たちが四人、拍手したり口笛を吹いたりして俺達を迎い入れてくれた。


「こ、これは……」

「見ての通り――貴方たち一年生の歓迎会よ」


 よく見てみると食堂の壁に〝ようこそ一年生!〟と書かれた大きな紙が貼られていた。

 テーブルにも色とりどりかつ種類豊富な料理がたくさん置かれていた。ガイのほうを見るとすでによだれを垂らしていた。

 

「ほらほら、貴方は今夜の主役よ! ささこっちに」


 リオンさんは俺達の背中を押しながら三つ並べられた椅子に座らされた。

 

「ようこそ一年生諸君。私達は貴方たちを歓迎します。私はこの寮の寮長を務めさせてもらってます。空闘科四年のレイ・アッシュと言います」


 そう言ってアッシュ先輩は深くお辞儀をする。そのお辞儀もきっちりとしており、声音もとても親しみやすいものだった。

 しかも空闘科四年生という事はファイス育成学園の中では最上級生だ。きっと『スカイファイター』としての腕前は相当なものだろう。


「因みに彼はB級ライセンス所持者でランキング三位の実力者よ」


 リオンさんがアッシュ先輩の挨拶に一言付けたしてくる。


「ええっ! マジっす⁉」

「……凄いですね」


 ガイはオーバーリアクション気味の驚き方で、アリスも尊敬するようなまなざしでアッシュ先輩を見ながらガイ同様に驚いていた。

 無論俺も二人同様に驚いた。

 B級ライセンスを受験するには条件がある。

 それは、C級ライセンス持ちが出場できる公式戦にて一・二位を獲得しなければ受験できないのだ。なのでB級ライセンス持ちというのは学園生の中でも少ない。それほどに受験者が限られていくのだ。

 なのでアッシュ先輩はC級ライセンス公式戦にて優勝・準優勝した実力者だ。

 しかもB級ライセンスとなると学生以外にも一般の人もたくさんいる。無論全員がその手のプロ選手だ。その中でB級ライセンス三位となると本当に手練れた実力者としか言いようがない。

 無論ファイス育成学園の空闘科の中でも指折りの実力者――もしかしたらトップ選手かもしれない。


「リオンさん。そんなこと言わないでくださいよ。運が良かっただけですよ、運が」


 照れながらアッシュ先輩が後ろにいる他の先輩たちに指さした。


「僕以外にもB級ライセンス持ちはいますよ。現にここにいる全員がB級ライセンス持ちの実力者ですよ」

「「「えーーーーーー!!!」」」


 食堂内に俺達の驚いた声が響く。

 え? この人今何て言った? 全員がB級ライセンス持ちだって?

 普通に考えてここにいる学生の全員がB級ライセンス持ちとなると凄いことになる。この寮はエリート集団なのか?

 

「え、ここにいる先輩方って全員が空闘科何ですか?」

「いや、そうじゃないよ。僕の伝え方が間違っていましたね。正しくは空闘科所属の生徒全員がB級ライセンス持ちです。僕の他に後一人います」


 先輩の話だとこの寮に住む空闘科所属の生徒はぜんいん全員がB級ライセンス持ちという事だ。目の前には四人いるのでアッシュ先輩を含めて二人という事になるが、それでも凄いことだ。

 この寮に住む先輩方は全員実力者揃いのエリートなのだろうか?


「先輩、色々と聞きたいことが……」

「ええと、取り敢えず質問は後でにして自己紹介を続けましょう。リオンさんがこしらえてくれた料理も冷めてしまいます。手早く自己紹介していきましょう。――では誰から自己紹介します?」

「はいはーい! では私から言いまーす!」


 元気よく手を挙げる女の先輩。

 そして俺達の近くまで来て、


「私はニーナ・テレステ! 貴方たちと同じ空闘科の三年よ!」


 とウインクしながら元気よく言った。

 小麦色のとても健康そうな肌をしており、見た目はとてもギャル風の先輩だ。容姿も男受けがよさそうだ。

 一見遊んでいそうな見た目をしているが、先ほどアッシュ先輩が言っていた空闘科所属のB級ライセンス持ちの先輩だろう。相当な実力者だろう。


「それにしても、今年はこの寮に三人も入寮するとはね! これから楽しくなるわよ~」


 そう言ってテレステ先輩は俺達に一人ずつ握手しながら挨拶をした。


「次はオイが、オイはレトー・レネゲードっちゅうんや。よろしく! 因みにオイは気象・管制科所属の三年だ」


 そう言って次に近づいてきたのは大男だ。

 おそらくここにいる場の中で一番背が大きくガタイが良いだろう。現在も半袖のTシャツを着ており、そこから見える上腕二頭筋はいかにも鍛えられた腕だろう。またてTシャツもパツパツで、胸筋などが隆起して見えていた。相当鍛えているのだろう。客観的に見てガイと気が合いそうだ。

 しかしこの先輩の所属学科は気象・管制科。肉体は一切使わない。何故この学科を選んだのかが知りたいぐらいだ。


「では、最後に私ですね。私の名前はルチア・アイシング。整備科に在籍しております。因みに私は貴方たちより一学年上の二年生です。よろしくね」


 そう言って最後に俺達の前に出てきてくれた先輩はそう言って俺達に軽く礼をした。

 黒髪で華奢な体躯はいかにも触れたら壊れやすい陶器のように見える。おそらく美人の分類に属する女性だなと思う。因みにニーナ先輩も美人の分類に属するだろう。まあ美人のベクトルは違うだろうが。

 それよりも俺が気になったものはアイシング先輩が手に持っている物だ。

 そう、アイシング先輩が手に持っている物。それは両口スパナだ。

 意を決して俺はこの問いをぶつけることにした。


「つかぬことお聞きしますがアイシング先輩。なぜ先輩はスパナを持っているんですか?」

「私、工具が好きなの。――貴方も見てごらんなさい。この流線型のスパナをっ! ああ、美しい……」


 そう言って鼻息を荒くさせるアイシング先輩。更にその両口スパナに頬を擦りつけながら「はあっ、はあっ」と艶めかしい吐息を発する。

 なんだ、新手の変態かっ!


「まーた始まったよ……。どうするレイ?」

「取り敢えず現実に戻してあげて。まだ一年生の紹介が終わってないからね」


 アッシュ先輩はレネゲード先輩に指示し、軽く揺さぶって現実に引き戻していた。

 

「――っは! す、すみません……」


 ぺこぺこと謝るアイシング先輩。そのまま先輩は後ろへと下がっていった。

 それにしてもアイシング先輩とエリナはもしかしたら気が合いそうかもしれないな。工具とか熱く語り合いそう。

 

「これで全員の自己紹介は終わったようだね。では次は一年生のキミたちに自己紹介をお願いしようかな。じゃあ順番にお願いできるかな?」


 そして自己紹介は俺達の番になった。

 

「じゃあ俺から言います! 俺の名前はガイ・ギャレットって言います! 空闘科一年です! 先輩方よろしくお願いしますっ!」


 そう言ってビシッと深いお辞儀をするガイ。そのお辞儀はとても洗練されており、俺から見ても綺麗だと思えるものだ。まあ授業中居眠りがバレて謝罪の意味を込めていつも頭を下げているからこそ身に着いたスキルだと思うが。

 

「では次は私が。私の名前はアリス・マクロードと言います。ギャレット君と同じ空闘科一年生です。先輩方どうぞよろしくお願いします」


 そう言ってお辞儀をする。


「じゃあ俺で最後ですね。俺の名前はソウタ・エノモトと言います。二人と同じ空闘科一年です。よろしくお願いします」


 俺は特に奇抜な自己紹介をすることなく普通に挨拶を言ってお辞儀をした。


「二人の事はよく知っているよ。エノモト君。マクロードさん。君たちは今ファイス育成学園において有名人だからね」


 自己紹介ありがとうねと言いながらアッシュ先輩は俺とアリスに向かってそう言った。


「ね、皆」

「そうだね~」

「うむ、確かに」

「そ、そうですね。確かに噂されてますよね」


 アッシュ先輩の言ったことに他の先輩たちが一斉に頷く。

 俺とアリスが学園の有名人になるなんて一つしか考えられない。考えなくても大体予想はつく。寧ろあれしか考えられない。


「もしかしてですけど、俺達が有名な理由ってチーム編成の事ですか?」

「そう、ご明察。まあ君たちと言うよりはチーム自体が学園にとって有名な存在になっているけどね」


 やっぱりか。もうこれとしか考えられない。

 ファイス育成学園のチーム編成のクラスはA~Dの四つだ。これはファイス育成学園設立当初からの制度らしい。

 だが今年はその制度に俺達Eチームが例外的にできてしまった。学園内では異例だと捉えられてもおかしくない。

 しかも俺達はDチームよりもさらに出来の悪いEチーム。他から見れば落ちこぼれと問題児の寄せ集めと思われてもおかしくない。学園内で有名と言うよりは格好の笑いのネタだろう。

 まあ仕方のないことだ。これに関しては数が多い。笑われても仕方のないことだ。


「それにしても早いですね。もう上級生の耳に届くとは思ってもいませんでした」

「まあね、いろんなところから情報をよく耳にするからね。でも――――」


 アッシュ先輩は途端に声のトーンを下げて、


「だけど、『エア・ファイティング』という競技は最終的に空に残ったものが勝者だ。チームのクラスなど関係ない。エノモト君。マクロードさん。それにガイ君も。キミたちには是非とも高みを目指して頑張ってほしい。周りの評価など関係ない。結果を残せるように頑張ってほしいっ! 以上だ」


 そして普段の声音に戻り、


「さて、料理が冷めてしまいます。それではグラスを持って乾杯しましょう」


 そしてその場に居る全員がグラスを持ち、アッシュ先輩が乾杯の音頭をとることになった。


「それでは、新入生歓迎と共にここ『蒼天寮』の益々の発展を願って、乾杯っ!」


「「「「「「「乾杯っ!」」」」」」」


 食堂中にグラスの音が鳴り響いた。

 

 

 


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