2ー7 帰寮

 格納庫に戻った俺達は、戦闘機関連の書類を何枚も書かされた後、チームに関する書類をこれまた何枚も書いた。

 正直言って書類仕事はとても大変で、仮だが一応このEチームのリーダーである俺がその書類の大半を行った。他のメンバーも記入する書類はあったが、それでも俺が記入した書類のの十分の一程度しか記入してない。

 全く貧乏くじを引かされたものだ……。

 必要書類を書くこと約一時間。周りを見渡すとすでに陽が傾き、夕方になっていた。


「やっと終わった……」


 俺はぐっと背伸びをしながら、ぐりぐりと肩を回した。ずっと座りっぱなしで、重要書類を一字一字を丁寧に書いていただろう、予想に反してとても疲れが溜まっているようだ。

 手に持ったペンを置いて書類の束をまとめ、一枚一枚書類の数を確認する。書類の不備も無し。うん、大丈夫だ。


「おーい、皆は書類書き終わった?」


 俺がそう言うと、「終わったよー」と言う声が聞こえた。皆書き終わったようだ。

 荷物をまとめた俺達は各自書類を持って、指定の場所に書類を提出する。

 担当の事務員さんががそれらを一枚ずつ確認していった。


「…………」

「…………」

「……はい。書類に不備はありません。大丈夫ですよ」


 事務員さんが微笑みながらそう言ってくれた。それを合図に俺達は喜びながら学園外へと向かった。どうやらこの書類が全て書き終えれば今日の活動は終了ということらしい。

 

「やっと解放されたー!」

「エリナ、喜ぶのもほどほどにしなさい」


 はしゃぐエリナをアリスが注意した。このまま騒がれてもただうるさいだけだとアリスは判断したのだろう。

 隣のエリナ世話係(と勝手に命名)であるアルもその光景を目を丸くしながら見ていた。恐らくアルもエリナに対して注意をしようと思っていたのだろう。その握られた拳が物語っていた。

 アルはすぐさまアリスに近づき、「こいつのお目付け役になってくれないか?」とスカウトしていた。その言動を反発するようにエリナが反論しており、アリスはアルに「ええ、是非」と言っていた。第三者視点からみるその光景は漫才そのものだ。

 やがて学園の外へ出た俺達はここで別れ、それぞれが在籍する寮へと帰っていく。

 





 帰り道。

 いつもならば大半は一人で帰路についている道。

 だが今日は珍しく隣がいた。


「……で、何故アリスさんも一緒なのかな?」

「私も貴方と同じ方角に寮があるからでしょ。学校指定の寮じゃ静かにできないと思って、学校認可の外部寮にしたのよ」

「あっ、そうなんだ」


 そういいながら俺は横に歩くアリスを横目で見た。

 あの試験の時とは違う佇まいには最初驚かされたが、チーム同士で話しているうちに慣れてしまっていた。

 ……にしてもまさかアリスも外部の寮だったとはな。一体どこなんだろ。外部寮と言っても限られてくるからな――。


「因みにアリスさんの住んでいる寮の名前って何て言うの?」

「……なんでそんなこと聞くのです?」

「興味本位だよ」

「そう。私の利用している外部寮は『蒼天寮』っていう寮よ」


 何⁉ 蒼天寮だと⁉

 それって、まさか…………。


「あのさ、アリスさん。その蒼天寮の寮母って誰?」


 まあ、あれだよ。他にも蒼天寮ってあるよな? な?


「ええと、確かリオン・バーツさんという方です」


 はい。現時点を以って確定しました。俺とアリスは同じ寮です。


「あのさ、アリスさん」

「何でしょう」

「俺も一緒なんだよね……」

「と言いますと?」

「俺も、の寮として住んでいるの――蒼天寮なんだよね」


 刹那、その場の空気が凍り付く。俺とアリスから会話が消え、その場に凍りつく。

 うん。なんとなくそうかなとは薄々思ってたんだよね。実際この方角にある外部寮って『蒼天寮』だけだからな。

アリスは気を失いかけてたがそれはほんの数秒で、意識を取り戻しすぐさま、


「あ、貴方も『蒼天寮』に住んでるの?」

「う、うん。ついでに言うともう一人一緒だぞ。俺たちと同じ空闘科だ」

「……そうなのね」


 入学してから結構な月日が経っているが、まさかこんな発見があるなんて驚きだ。

 そんな事を思いつつ俺は寮の玄関へと向かう。


「ただいま帰りました……」

「あら。おかえりなさい。ソウタ君。アリスちゃん」


 そう言ってリオンさんは優しい声音で迎えてくれた。

 

「そうそう。今夜は貴方たち一年生の歓迎会をやるわよ! 着替えが終わったら食堂に来て頂戴。ガイ君はもう来てるから残るは貴方たちだけよ」

「分かりました」

「分かりましたわ。リオンさん」


 俺とアリスはそう言い、各自部屋へと戻っていった。






 着替え終わった俺は早速リオンさんに言われた通り食堂へと来た。

 食堂前に来た時リオンさんに「ちょっとここで待機しててね」と言われたので俺は壁に寄りかかりながらリオンさんに呼ばれるのを待っていた。

 

「あら、早いわね」

「ああ、アリスさん」


 アリスも着替え終わったらしく、階段から降りてきた。

 制服姿しか見たことが無いので私服姿を見るのはとても新鮮だ。部屋着ではあると思うが決してだらしない服装では無く、清楚なオーラを醸し出していた。

 

「始めて見たな。アリスさんの部屋着」

「いやらしい目で見ないでください。変態」

「そんな目で見てないんだけどな……」

「で、貴方は何故そんな場所に立っているのですか? 食堂に入ればいいのに」

「ああ、リオンさんにまだ入らないでと言われていてね。だから待機しているところ」

「成る程。そういう事ね」


 アリスは階段に腰かける。俺のほうには近づきたくないという意思表示だろうか?

 まあいいや。


「よう! わりいなソウタ。筋トレしてたら遅くなった!」


 そう言って二階から降りてきた人物は俺の友達であるガイだ。ガイは汗をかきながら首にタオルをかけ、その汗を拭きとりながら階段を下りてきた。

 ガイの服装は想像通りの服で、「筋肉は友達」とプリントされた半袖Tシャツに短パンの服装。想像していた服装と一致して少し笑ってしまう。


「お前のそのTシャツお前に似合うな」

「おっ! 分かってんなソウタ! 俺にぴったりだろう!」


 鼻を鳴らしながら自慢したげにそのTシャツを見せびらかす。

 本当に気に入ってるんだな、あのTシャツ……。


「――貴方がガイさんですね」

「うおっ! ビックリしたぁ~」


 アリスに当然声をかけられたガイは驚いていた。恐らく階段にいたガイの視界に同じく階段に座っていたアリスが見えなかったのだろう。どこか死角があったんだな。


「初めてまして――というのは少し変な感じがしますが、私との名前はアリス・マクロードと言います。貴方と同じファイス育成学園空闘科一年です。以後お見知りおきを」


 アリスは丁寧な口調で淡々とガイに挨拶していった。

 

「おおっ、よろしく! 俺の名前はガイ・ギャレット。同じく空闘科一年でアリスと同じクラスメートだ! 今後とも仲良くしてくれよなっ!」


 そう言ってガイはアリスに近づき、右手を差し出した。恐らく握手を求めているのだろう。

 アリスもガイの意図が分かったのだろう。手を差し出しガシッと手を握り握手する。


「こちらこそ、貴方より弱いチームに所属しているけどね」

「え、そうなの?」

「ええ、私の所属はEチーム。――あそこにいるソウタ君と同じチームに所属しているの」

「へぇ~、まあそんなの関係ないと思うけどね。俺はまぐれでCチームに所属が決まったけど、結局は空で勝ち上がった奴が強いと思うんだよね」


 ガイが至極まっとうな事を言う。学園内でのガイを見ている限りではそんな事を言う奴ではないと思っていたが、良いことを言うものだな。

 それは教官も言っていた。

 

 ――空で最後まで残っていた奴が勝ちだ。それは今も昔も、戦争でのドックファイトでも賭け事でのドックファイトでも変わらない。最後まで残った奴が勝利者だ。

 

 俺はこの言葉がどこか遠くのように感じられた。

 それはかつて幼いころの記憶。とあるおじさんと飛行機について話した記憶だ。


 ――空は、飛び続けたものが真の勝者だ。


 昔の事なのでおじさんの顔も、話した内容などもあまり覚えてない。

 しかし、この言葉は何故だか知らないが鮮明に覚えていた。

 あの日、あのおじさんと会ってから少なくとも何か約束をしたはずだ。その時この言葉を言っていたような気がする。

 ……駄目だ。全く思い出せない。

 壁にもたれながら俺は小さく溜息をついた。


「あら、全員揃ったわね」


 食堂からリオンさんが出てきた。


「そうですね。確か三人でしたよね」

「ええ、そうよ」


 おれはリオンさんと話していると、


「あっ! リオンさん! 俺腹減りましたよ~。早くご飯にしましょうよ」


 威勢の良い声でガイが腹をぐるぐると鳴らしながら近づいてきた。


「ええ。ではソウタ君。ガイ君。アリスちゃん。食堂の中に入ってきて」


 リオンさんに手招きされ、俺達は食堂の中へと入っていった。




 

 

 



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