2ー3 Eチーム集合

 実習場ではすでに様々な学科の一年生が混在しており、チームを 組んでいた。

 俺も自分のチームの元へ向かう。Eチーム集合場所として書かれていた場所は、この実習場のはずれにあるウインドソックスがあるところへ向かった。

 人をかき分け、飛行場の人混みから脱出する。

 脱出した先にウインドソックスが取り付けてある支柱があり、その周りにはすでに四人が立っていた。

 俺は急いでその場へ向かう。大半の生徒は飛行場のところで集合なので、はずれに人はおらず、一直線にその場へ赴いた。


「ごめん、もしここがEチームの集合場所だったら待たせた」


 その場に着いた俺はそう言った。

 

「おっ、これで全員揃ったね! 紙に書かれているメンバーは全部で五人だからキミが最後だね」


 紙をめくりながら、つなぎを着た少女が俺に向かってそう言った。

 俺を含めると計五人。全員何かしらが原因でこの最底辺のチームに配属されたのだろう。やはり俺みたいに成績が起因しているのだろうか?

 ふっと一息つき、そこにいたメンバーを見るとよく見知った人がいた。


「あ、消しゴム忘れた人」

「あ、貴方は消しゴムを貸してくれた人!」


 偶然かつまさかの出会いだった。

 俺と彼女は互いに指をさしながら驚いていていた。

 互いに固まってしまったが、俺は飛んでいた意識を取り戻し、


「まさかいるとは……」


 正直空闘科のクラスメイトがいないと思っていたので、少し衝撃を受けた。まさか俺以外にもEチームに選出されてしまった奴がいるなんてな。

 そんなことを思っていると、先ほど話しかけてくれたつなぎを着た少女が困惑した表情で一言。


「ええと……、一応自己紹介しない?」

「そうだね」

「ご、ごめんなさい……」


 すかさず俺と彼女は謝罪を入れる。

 つなぎの少女はコホンと一つ咳ばらいをしながら、

 

「では私から! 私の名前はエリナ・カーウェイ。純情乙女な十五歳です! 所属は整備科。気軽にエリナって呼んでね! よろしくねっ!」


 エリナと名乗ったつなぎの少女は舌を出しながら「てへっ」という動作をする。客観的視点から見てもとても痛々しい自己紹介をしてくれた。恥ずかしくはないのだろうか。

 しかし、見た目だけなら可愛いと言える顔立ちだ。エリナ自身の性格を表したとうな明るめの赤髪で今だ幼さが残る童顔。だがしっかりと整っており、かわいい系の小動物みたいだ。

 だがその小動物の雰囲気を打ち消すかのように、彼女の近くに工具が置いてあった。

 俺自身見たことある工具から、「これどんな時に使う工具なの?」と思わず聞いてしまいそうな工具まで、様々な工具が彼女の周りに置いてあった。

 そんな俺の視線を感じ取ったのか、エリナは工具を一つ手に取り、


「ナニナニ、君工具に興味あるの? みっちり教えるわよ!」


 とこちらにすり寄りながら聞いてきた。

 

「……やめろ、エリナ」


 そう言って、近くに座っていたいかつい男が立ち上がり、エリナの脳天めがけてチョップをした。


「痛っ⁉ ちょっとやめてよアル」

「うるさい。今は自己紹介だとお前が言った事だぞ。お前が工具オタクなのは良いが、もう少し自分が言ったことに責任を持て」

「うっさい、馬鹿アル。この堅物ヤンキーが!」


 エリナがそう言ったと同時にゴツンと鈍い音がエリナの音がした。俺はアルと呼ばれた男のほうを見ると、彼は拳を作り、そこに「ふぅ」と息を吹きかけていた。恐らくエリナに拳骨でもしたのだろう。

 しばらく俺を含めた残りの三人はその場でこの光景を見ていた。

 するとそんな俺達に気が付いたのか、彼は、


「すまん。自己紹介がまだだったな。俺の名前はアル・スターリング。そこに蹲っているエリナと同じ整備科だ」


 と簡潔に自己紹介をした。

 アルは俺よりも背が高く、また肩幅も広い。見た目としては正しく「男」と言うよりは「漢」を体現した姿だろう。

 金髪でしかも顔の頬に数ヶ所傷があり、特に右頬に刻まれた二本の傷がとても目立っている。

 確かにこの風貌なら先ほどエリナから「ヤンキー」と言われてもおかしくないな。確かに顔つき怖いし。


「先ほど伝え忘れたが、俺もエリナと同じ十五だ。――まあここにいる大半は十五歳だとは思うがな」


 え、マジかよ。てっきり二十歳後半かと思ってしまった。

 俺はアルの発言に驚きつつ、エリナのほうを見る。エリナはまだ頭を両手で抑えながら「うーん……」とうなっていた。

 にしても整備科の方々、変人多いなおい。


「えっと、アルさん。彼女は大丈夫なの?」

「ああ、心配するな。こいつの暴走は悪い癖だ。じきにケロッと治るから安心してくれ。それよりも早く自己紹介していこうぜ」


 そう言って、アルは俺と消しゴム女以外に、アルとエリナの茶番を見ていたもう一人の女の子を指さした。


「次、良いかな?」

「は、はい!」


 アルに指名された彼女は少しおどおどとしながら自己紹介を始めた。


「わ、私はマリー・ベネゼイと言います。年齢は同じく十五歳。所属は気象・管制科です。どうぞよろしくお願いします」


 そう言ってマリーはぺこりとお辞儀した。

 その姿は正しく淑女そのものだ。その動作一つ一つがすこしおどおどとしているがそれはおそらく緊張によるものだろう。

 アルと同じような金髪だが、色合いが少し違っており、少し大人しめな金髪だ。佇まいはお淑やかでとても落ち着いている雰囲気だ。

 マリーはどこかのお嬢様なのだろうか?

 俺はそんなことを思いながら、マリーに「よろしく」と一言言った。


「次、私いいですか?」


 マリーが自己紹介を終えたと同時に、消しゴム女が手をあげてそう言った。

 俺やアル、マリーは頷き、その動作を肯定と捉えた消しゴム女は自分の自己紹介を始めた。


「私はアリス・マクロードと言います。所属は空闘科です。私は皆さんより誕生日が早いので、今は十六歳です。よろしくお願いします」


 この消しゴム女、アリスって言うんだな。

 そんなこと思いながら俺はアリスの自己紹介を聞いていた。

 アリスは堂々とした立ち振る舞いで自己紹介を行っていた。あのC級ライセンスの時のおどおどと少し気弱だった時とは違く、今はとてもハキハキとしていた。

 風がなびくとアリスのまるで白銀プラチナのような銀髪の長い髪がとてもキラキラと輝きながら風に揺られていた。とても綺麗な髪だ。

 

「あの時とは全く仕草が違うな、アリスさんよ」

「え、ええ。あの時は少し緊張をしていましたから……。少し気弱になっていたのは確かです。だからこそそんな緊張で消しゴムも忘れてしまったんですよね」


 アリスは少し恥じらいを見せながらそう言った。

 うん、あれだ。この手の娘は多分「ポンコツ」に部類するだろう。しかもそれを言うとすぐにも突っかかってくるような面倒な部類だな。

 俺は長年の経験からアリスをそう分析した。では、ここは一つ……


「お前、なんかポンコツだな」


 少しからかってみることにした。

 俺がそう言うと、すぐさまアリスが突っかかってきた。


「なっ⁉ 私はポンコツじゃないわよ! ちょっと心が繊細なの」

「さいですか」

「何なのその態度! ムカつくっ!」


 アリスはムキーっと顔を赤くしながら怒りを露わにしてきた。要するにアリスはとても単純な子だった。こりゃ本気で怒らせたら面倒だ。

 俺は怒っているアリスを軽く受け流し、俺自身の自己紹介をする。


「俺はソウタ・エノモトっていいます。歳は十五。所属は空闘科。よろしく」


 簡単自己紹介を述べた後、先ほどまでアルの拳骨によりその痛みで蹲っていたエリナが急に立ち上がり、皆がいるほうに振り向く。

 そしてビシッと人差し指を天に掲げ、


「自己紹介はこれだ終わりだね! 皆よろしく! ところでなんだけど、チームの結束を高めるための第一歩としてこれからこのチーム員の事を名前で呼び捨てにしない? 勿論私の事は気軽に「エリナ」と呼んでくれていいし、私は皆を名前呼びするし。どうかな?」


 人差し指を下ろし、そのままその手でこちら四人を順々に指さしながら言った。

 確かにチームとしてやっていくなら友好関係を含む高い結束力を生み出すのならば、このような行為はとてもプラスになるだろう。

 実際に『エア・ファイティング』という競技のチームは一つ一つが高い結束力や友好関係、他コミュニケーションに関係するようなことはとても重要になってくる。ギスギスした関係ではすぐにチームの崩壊へと導くからだ。

 実際グレイ教官もチーム説明の時に軽く説明をしていた。

 

 曰く「チームとは家族同然」らしい。


 だからこそ互いに認め、そして尚親交を深ませるのだと。

 『エア・ファイティング』とはこの学園の学科で表すなら、〈空闘科〉〈整備科〉〈気象・管制科〉の三学科が力を合わせて一つの競技に挑むもの。だからこそどの分野でも些細な綻びがあっては最大限の力が発揮できない。

 チームの結束力がそのチームのという事なのだ。


「そうだな、これからチームでやっていくんだ。俺も皆と仲良くしていきたい」


 俺は自分の気持ちを言いながら、真正面のエリナに手を差し出す。

 エリナはその意図を分かってくれたのか、彼女も手を差し出した。


「それで、アルや他の二人はどう?」


 エリナはそう他の三人に問いただした。


「俺は、エリナの事は最初っから呼び捨てで名前を呼んでいるし、勿論チームとしてやっていくなら必ずと言っていいほど意思疎通は必要だ。だからこそ打ち解けて仲間としてやっていきたい」


 アルが手を差し出す。これで三人目。


「わ、私も。こんな気弱な私だけど……ここにいる皆と一つのチームになりたいっ!」


 マリーが手を差し出して加わる。これで四人目だ。


「私も問題ないわ。ソウタがちょっとムカつくけどこれからここの皆でチームになるのだから、皆と仲良くなりたいし」

「大丈夫じゃんアリス。もう俺の名前を呼び捨てで呼んでいるからもう決まったと同然だね」

「うっさいソウタ! 少し黙ってください。――というか貴方も私の名を……」

「早く手を差し出せよ」

「あっ、ちょっと……」


 そう言って俺はアリスの手を強引に引っ張り、皆の手の前にアリスの手を差し出した。


「強引ね」

「ま、どうせイエスなんだろ?」


 アリスは頷いた。これは肯定と捉えていいだろう。

 俺が手を戻し、エリナに頷く。

 エリナは俺を見て、皆の姿を確認したのち、 

 

「皆大丈夫ってことで、これからよろしくね! これにてEチームは今日付けで結成という事で、頑張っていきましょー!!!」

「「「「おーーーー!!!!」」」」


 俺達の手は、周りに響くような声と同時に天へと掲げられた。


 

 

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