2ー2 チーム配属

 グレイ教官は言い切り、一瞬教室に静寂が訪れる。

 そして、その静寂を押し返すように教室は一斉にうるさくなる。


「静かにしろ。一つずつ順に説明してゆくぞ」


 グレイ教官はそう言って説明し始めた。


 どうやら『エア・ファイティング』という競技はチームが当たり前だという。

 と言っても『エア・ファイティング』を行うのは『スカイファイター』の選手であり、ライセンス所持者である空闘科の生徒がメインらしい。

 しかし通信を行う者「通信士」や、機体を整備する「整備士」なども大会ではなくてはならない存在らしい。

 なので空闘科、整備科、気象・管制科の生徒が少数編成され、一つのチームとなるらしい。

 なんか、いいな。

 俺はチームの事を想像しながら、少し微笑んでしまう。俺は一体どんな人とチームを組むのだろう。

 そんなことを思っているとグレイ教官は重々しい口調でそう告げた。

 

「因みにチーム編成は決めさせてもらった」 


 俺は一瞬固まった。

 え、成績順となると……、ア、俺ヤバイナ……

 

「毎年成績順にAからDチームに振り分けられる。なので今から一人ひとりにお前ら個人が所属するチームランクとチームメンバーが書かれたプリントを机に置いていくので、確認するように」


 グレイ教官はプリントを机に一人ひとりの机に置いていく。その置かれたプリントを配られた生徒は表にめくって、確認しだした。

 配られた生徒は一同に声をあげた。

 その声は喜びの声もあれば、落ち込むような声、更には良く分からない奇声まで様々な声が教室の中に響く。

 やがてグレイ教官は俺の前にきて、プリントを置く。

 この一枚に俺が所属するチームが書かれているのか……

 ごくり、と唾を飲みこむ。

 そして、俺は覚悟を決めて――プリントをめくった。

 

 プリントの下には小さな文字列が書いてある。だが注目すべきはそこではない。

 プリントの上段に、それはでかでかと書いてあった。


 ――――――――


 チーム所属

 貴殿ソウタ・エノモトはとする。


                           ファイス育成学園長

               

 ――――――――


 ん? Eチーム?

 俺はその単語を見た瞬間、まるで噴火するかのように疑問符が頭に浮かび出た。

 グレイ教官の説明ではチームランクはA~Dの全部で四チームだった。

 しかしプリントに書かれていた俺の所属するチームランクは、ランクが一つ増えている。

 となると俺は――

 俺がプリントを持ったまま硬直していると、ガイが喜々とした表情でこちらを見てきた。


「ソウター! どうだったか⁉」

「うん、まあ……」

「俺はCチームだったぞ! 正直Dチームかと思っていたから普通に嬉しいぞ!」


 そう言い、喜々とした表情で喜ぶガイ。心なしか浮足立っていた。

 俺はガイの事を素直に喜ぶことはできなかった。

 確かに試験では己の慢心が原因で合格点ギリギリでクラス内では最底辺の成績だろう。だが、俺は死ぬ気で学科試験の勉強に取り組んできた。しかし、ガイはどうだ。俺より勉強していなかった。だがガイの成績は俺より上だった。

 俺は歯ぎしりしながら、自己嫌悪する。素直に友を喜べない醜かったのかと、自分自身を卑下する。

 だが妬ましいのも事実。

 それらの感情が、俺の中で渦巻いていく。ぐるぐると、それらは粘性の液体みたいに俺の中にへばりつきながら俺を侵食していく。

 俺はそれを制止するように、拳を握り、自分自身に鳩尾をかました。

 痛みはじわじわと湧いてくる。だが反比例するようにその禍々しい感情は徐々に消えていった。

 そして俺はガイに、


「良かったな」


 と精一杯の作り笑いで言ってあげた。

 ……本当に俺は嫌な奴だ。

 だから、せめてチームランクは堂々と言おうと決意した。

 拒絶されたって構いはしない。これが今の、俺自身の結果なのだから――

 

「それで、ソウタはどうだったの?」


 聞いてきた。

 ガイは目をキラキラとさせながら、俺の返答を待つ。

 俺はガイにプリントに書かれていたチームランクをそのまま言った。


「俺、Eチームだった」

「――っふぇ?」

「だから、俺はEチームだった」

「確かチームランクって最低はDまでだったよな?」

「ああ、だから俺も少し驚いている」


 ガイは目を丸くしながら、その場で硬直してしまった。途端、その場は気まずさに包まれる。

 あー、やっぱりこんな空気になっちゃったな。

 俺はそんなことを思いながら、ガイに「気にするな」と言おうと考えてたら、


「なんだ、退学とかじゃなければいいじゃないか。まだお前と戦っても無いからな。だから成り上がって来いよ」


 そう励ましの言葉をガイから受けた。

 正直、馬鹿にされるかと思っていた。拒絶されるかもしれないと、心のどこかでそう思っていた。

 だがガイは、馬鹿にも拒絶もしないで俺を励ましてくれた。

 俺はそんなガイの言葉にどこか心の中で安堵し、そしてガイの「成り上がって来い」と言う言葉を胸に刻み付ける。

 まだ俺には野望がある。こんなところで落ちこんでたって――時間の無駄じゃないか。


「ガイ。俺は負けないぞ」

「ああ、俺もだよ。ソウタ。因みに俺、お前の事ライバル視しているからな?」


 ガイはフッと笑いながら俺にそう言った。

 俺はそんなガイに微笑みながら、


「ありがとな。ガイの言葉に励まされた。――ありがとうな」


 俺はガイの右手を取り、強引に握手する。


「今度、飯奢るよ」

「マジ! サンキュー、ソウタ」


 皆がガヤガヤしている教室で俺達はまた握手をする。

 グレイ教官は「そろそろ実習着の採寸が始まるから準備しろ」と促す。それを聞いた空闘科一年はいそいそと準備を始め、いつでも採寸に行ける準備を整える。  俺は準備をしながら、先ほどのぬくもりが残る右手を見た。

 学園に入学して初めての友と呼べる存在であり、初めてのライバル。

 この日、俺には初の闘友ともができた。






 実習服の採寸が淡々と進められ、思っていたより短い時間で終了した。

 採寸の終わった生徒は順に実習場へと向かう。これからチームメンバーとの対面がある。

 俺も自分の実習服の採寸値が書かれた紙を担当の人に渡し、実習場へ向かおうとすると、グレイ教官が俺を呼び止めた。

 

「何ですか?」

「ああ、お前の所属するチームについてだ」


 グレイ教官は淡々とそう述べる。


「ああー、Eチームの事ですか?」

「そうだ」


 確かに詳しいことを知らない。

 まず前提として、学年内には成績順によりA~Dの四段階にチームのランクが分かれる。しかし俺の所属するチームのランクはE。Dチームより低いランクという事になる。

 それ以外は良く分かっていない。チームによって待遇が違うのは分かる。しかし

俺の持ち合わせている知識ではDチームの待遇まで。Eチームの待遇など聞いたことが無かった。

 他にも気になっていることは多々ある。だがプリントに詳細等は書かれてなく、口頭でも説明されていないので不安だけがこの採寸中溜まっていた。

 もしかして無条件に退学なのだろうか?

 俺はそんなマイナス思考を振り払うように首を振り、グレイ教官を見据える。そして覚悟を決めるかのように唾を飲みこむ。


「正直今回のチームランクでEができたのは学園創立以来の珍事だ。まあ端的に言えばの集まりと言っても過言ではない」


 グレイ教官は堂々と述べる。

 成績最底辺者。予想していたことだと分かってはいたが、いざ聞くと心にちくりと嫌な何かが刺さる感触がある。


「まあ、Dより低いってことはなんとなく予想はしていました。しかしよく分からない事ばかりで困っているんですよね」

「異例中の異例だからな。正直俺もよく把握していなんだエノモトよ。取り敢えず俺が知っていることを教えるからこれにでもメモしておけ」


 そう言ってグレイ教官は自身の制服の左胸ポケットからメモ帳とボールペンを取り出し、俺に渡す。


「ありがとうございます」

「今から言う事をEチームのメンバーにも伝えておいてくれ。頼んだぞ」

「分かりました」


 俺はグレイ教官から口頭で言われた説明をメモ用紙に書いていく。グレイ教官は話すスピードが速いので、俺はありったけの殴り書きでメモしていく。

 そして書き終えた俺は、メモ用紙を切り離してメモ帳とボールペンをグレイ教官に礼を言って返した。


「じゃあ頼んだぞ」


 俺は「了解しました」といい、実習場へと向かった。


 

 


 

  



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