1ー3 勉強①
俺達空闘科一年のC級ライセンス取得の為の授業が始まった。
周りは教官の板書したところを写したり、グレイ教官が重要だと言った部分をペンでアンダーラインを引いたりする。
無論俺も行った。
正直言って覚えられる気がしない。今現在進行形で行われている科目〈航空機体基礎〉だけでも覚えることが多い。
教本の最初の数ページを行ったが、覚える単語や内容が多すぎる。
「お前らの操縦する戦闘機の翼には主翼・水平尾翼・垂直尾翼の三種類があるんだ。いいか、一機に翼が三種類ついているんだぞ……」
黒板にすらすらと書かれていく重要な内容。
グレイ教官はどうやら黒板に板書するスピードが速く、書いて数分後にはその内容を消して新たな内容を板書する。
とても追いつけないスピードだ。
俺は一心不乱になりながら、ノートの上にペンを走らせて板書していく。
「単葉機、操縦桿、風防…………」
小さい声で唱えるように単語を覚えていく。
恐らくこうして覚えていかなければ、すぐに忘れてしまうだろう。
他の生徒も一心不乱にノートを取り、教官の話に耳を傾けながら教本とにらめっこしている。
俺は小さく溜息をつき、隣の席――ガイの様子を見てみる。
「……スー、スー」
まるで食後の赤子のいびきみたいに静かで可愛らしいいびきをかきながら、夢の中へ旅立っていた。
恐らく覚えることをあきらめたのだろう。証拠として一応教本は開いているが、現在行っている内容とは数ページ前の内容の部分を開いていた。
だが今は居眠りをこいている。ある意味清々しい男だ。
こうして隣りの男をほんの一、二分観察しているだけでも授業は進んでいく。
「現在の戦闘機には昔に無い技術が使われている技術がある。それは反重力物質を使用した安全装置だ。この装置は……」
ふむふむ、成る程。
俺は今グレイ教官が話している部分の内容に目を通す。
この『安全装置』は十五年前に発見された反重力物質を利用したものとなっているらしい。
重力に反発する物質として、当時はその発見でかなりの騒ぎがあった。
反重力物質など元は空想上の産物でしかなかった。だからこそ発見された当時は主に研究者や学者が一丸となって研究が行われた。
そして、現在では汎用性のある物質として、生活のあらゆる面を支えている。
『安全装置』は主に事故防止等に使用される。
この『エア・ファイティング』という競技の根本を辿れば戦闘機同士の
だからこそ二機の戦闘機が絡み合う接近戦は事故を起こす場合もある。
また、エンジントラブルやその他機体トラブル等で墜落してしまうこともあるだろう。
そこでこの『安全装置』の出番だ。
例えば、主にエンジントラブル等の機体トラブル等における事故が起きたとする。この反重力が発見される前はその原因が元となり、墜落または不時着によって事故を起こすことがあった。無論この事故には軽微な怪我の事故もあれば、死亡事故の場合もある。
勿論戦闘機には脱出装置も常備してあるが、搭乗者自体がパニックに陥り、使用せずそのまま墜落、というのが前例にある。
しかし、現在の戦闘機には反重力を使用した『安全装置』を戦闘機に積むことにより、仮に陸地に墜落しそうになったとしても、地面とは接地せずに約五百ミリメートル浮く。
こうして反重力の利点を活かした『安全装置』のおかげで、現在の戦闘機搭乗者等や『スカイファイター』たちは無事故で安心して飛行機に乗ることができるのだ。
俺は教本を見ながら一人で納得していた。
内容は多少難しいが、内容は――とても面白いな……
これらの講義はまだまだ続き、一日目の授業は太陽がオレンジ色に染め上げられた夕方に終わった。
授業が終わり、グレイ教官は荷物をまとめ、「今日の授業は終わりなので気を付けて帰るように。解散!」と言い残し教室を後にした。
グレイ教官が立ち去った教室には、緊張や勉強の疲れからか、背伸びする人や机にうずくまる人など様々な人が見られた。
「……っふぁ~、あれソウタ。もう終わった?」
「ああ、終わったよ。にしてもお前良く寝られるよな? 授業内容はちゃんと頭に入っているのか?」
「うん、分からないな!」
ガイは自信満々に笑いながらビシッと親指を立てた。
俺はそんなガイに呆れつつ教本を片付ける。ガイも教本を少しがさつに自前の鞄に入れる。
「ところでソウタは寮?」
「ああ、そうだな」
「ラッキー! 俺も寮なんだよ。一緒に行こうぜ!」
ああ、と俺は頷き、元気なガイの背中について行くように教室を後にした。
ファイス育成学園を出て徒歩二十分。
程よく自然に囲まれ、尚且つ交通の便や様々な店などがある街にファイス育成学園が管理している寮があった。
『蒼天寮』
この寮が俺が今後このファイス育成学園を卒業するまでお世話になる寮だ。
ここ、ファイス育成学園はいくつか寮を所持しており、この『蒼天寮』もファイス育成学園が所持する寮の一つだ。
寮を希望する生徒の大半はファイス育成学園の隣に併設されている『ファイス育成学園寮』という最新設備の豊富で、かつ学園から近いという事でこの寮を希望する生徒が多い。
しかし、他の寮をを希望する生徒も少数だが存在する。実際俺もその中の一人でここの寮を希望した。
理由は様々だが、やはり一番は家賃等が安いという点にある。
この案件は学生にとってとても重要だ。金欠学生にとって節約とはとても重要な課題。
だからこそこういう『蒼天寮』は俺みたいな金欠学生にとって神たる存在であるのだ。
この『蒼天寮』はそこそこ年式が経っている建物らしい。
しかし、外観としては、お金持ちが購入しそうな少し大きめのお屋敷みたいな感じで、高級感がある。しかも敷地内の庭等もしっかりと整備され、家庭菜園等も行われていた。
「きれーだな。この寮! なあソウタ」
「本当にこの寮古いのか? 普通に綺麗だぞ……」
俺と同じくこの寮に入居予定であったガイはこの『蒼天寮』の綺麗さに少し驚いていた。
正直俺が考えていた『蒼天寮』のイメージは、年式が経っているという事もあり、言い方が悪いが少しボロいのではないかとひそかに思っていた。
しかし、その考えを払拭するような寮がそこにあった。
まったく、驚きだ……
「あら? もしかして新しい入居者の方?」
俺とガイが玄関前でうろうろしていたら、玄関の扉が開き、中から女性が出てきた。
「はい、俺は本日からこの『蒼天寮』に入居することになったソウタ・エノモトです」
「同じく、この『蒼天寮』に入居することになったガイ・ギャレットっす!」
俺とガイは目の前にいる、寮から出てきた女性に挨拶をする。
「あらあら~、そうなのね。私はリオン・バーツと言います。一応この『蒼天寮』の寮母をやらせてもらってます。今後ともよろしくねソウタ君、ガイ君。私の事は「リオンさん」と呼んで結構よ~」
そう言って『蒼天寮』の寮母――リオンさんは一礼した。
リオンさんはとても美人で、穏やかな雰囲気のある人で、初対面の俺でもすぐに打ち解けそうな感じだった。そして包容力もありそうで、まるで母性の塊みたいな女性だった。
俺もリオンさんの後に深く一礼をする。
「早速お部屋に案内するから、ついてきてください」
リオンさんに手招きされ、俺とガイは寮に入る。
その中は、外観を見た時と全く一緒で、年式が経っているのにも関わらず、とても綺麗で内装も高級感がある。
近くにあった小さな棚の上を人差し指をなぞってみたが、埃一つない。細かいところもしっかりと掃除が行き届いているんだなと実感した。
「どう? やっぱりこの寮古いから少し汚いかな?」
「いえ、とても綺麗です。寧ろ細かいくらいに掃除が行き届いていてすごいなと思っております!」
つい脊髄反射で返答した。
しかし、この寮を見た人は誰しも脊髄反射で俺みたいに返答するだろう。寧ろしないほうがおかしいくらいだ。
「そう? それならよかったわ! あ、着いた。ここがソウタ君の部屋で、その隣がガイ君の部屋ね」
リオンさんに手渡された鍵を使用し、部屋の扉を開ける。
そこは角部屋で、沈みかけの夕日の光が差し込んでいた。
部屋には簡易的な机とクローゼットとベッドなどがあり、部屋中央には少ないが寮に前もって送っていた荷物が置かれていた。
「どう? 気に入ってくれた?」
「はい! とても気に入りました!」
「それならよかった。角部屋人気だからソウタ君とても運があるわよ」
「ありがとうございます」
その後、俺とガイはリオンさんにこの寮の簡単な説明や、食事、風呂などの説明を聞いた後解散となった。
俺は部屋に入り、前もって送っていた少ない荷物を広げる。
中には、ほんのわずかな生活用品、そして一つの写真立てと二つの戦闘機のおもちゃが入っている。
俺は写真立てを机の端っこのほうに置き、近くに二つの戦闘機のおもちゃも置く。
「…………」
俺は写真立ての中にある一枚の写真を見る。
その写真は――あの日育った孤児院と、子供たちや孤児院の職員たちが皆一同に集まっている写真だった。
「――待っててくれよ……」
俺は部屋の電気をつけ、カーテンを閉めた後に今日習った〈航空機体基礎〉の教本と、一冊の青い手帳を取り出し、そのまま机へと向かった。
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