1ー2 C級ライセンス取得開始
校舎内図を見ながら俺は大食堂に着いた。
正直さっきみたいに迷うのではないかという心配があったが、何とかたどり着いて一安心する。
ここの食堂はファイス育成学園の生徒や教員が使用するという事で、席数もかなりの数があり大人数が収容できそうな場所だった。
俺は食堂入り口前のメニュー表を見てみる。
どうやらメニューの種類は豊富らしい。しっかりとした栄養が摂取できる定食や丼ものや麺もの、さっと食べたい人用と思われるサンドイッチやパン、あるいはデザートなど。とにかく種類が多かった。
値段も手ごろで、普通の店で食べるよりも安い。流石国立という事だけある。
「よおっ、一緒に食おうぜ!」
メニューを見ていたら、手を振りながら誰かが話しかけてきた。
見た目からして体育会系だった。制服の上からでも分かる肩幅の広さで、筋肉も程よくついている。見るからに熱血漢な男だ。
「すみません――誰ですか?」
「おいおい、マジかよ。……一応お前と同じ
そう言って、彼は頭をポリポリと掻いた。
「あ、ごめん。緊張しててあまり周りを見てなかったからさ」
「それならいいんだが。ならここで自己紹介だ。俺はガイ・ギャレット。これからよろしくな!」
「俺はソウタ・エノモト。こちらこそよろしく。ギャレット君」
そう言い、俺達は握手した。
「ああ、俺の事はガイで良いぜ」
「なら俺はソウタと呼んでくれ」
「オッケーソウタ。ところでお前は何食うの? 午後から早速C級ライセンスに向けての勉強だからしっかり食べておいたほうが良いぞ?」
「俺、今金が無いからこの安くて量が多い日替わり定食にするよ」
「それだけでいいのか? なら俺はこのカツ丼と焼肉定食で」
おいおい、多すぎるだろ……
俺はガイの食欲に少し驚いていた。
「腹、壊すなよ」
「大丈夫だ、これならまだ腹五分目だな」
俺とガイは各々メニューを決め、それを食堂で配膳しているおばさんに伝える。
そして、頼んだものとお金を交換し、空いている席へ着席して、ガイと少し話をしながら昼食を取り始めた。
昼食後、再び教室へと戻った。
流石に二度目という事もあり、朝みたいに迷うことはなかった。正直言ってあの時案内してもらったシンジョウ先輩に案内してもらいたいなという願望は少なからずあったが、いちいちお世話してもらうのは迷惑かけているにも程があるので、その思いは自分の胸にしまい込んだ。
しかしそれよりも今は午後から始まる授業について頭がいっぱいだった。
とうとう、俺も『スカイファイター』に向けて始まるんだなという実感がじわじわと心の底から湧いてくる。
「一体、どんなことやるんだろうな?」
隣のガイが声をかけてくる。
どうやら本当にこいつの胃袋は大きいらしく、かなり量のあったカツ丼と焼肉定食を俺よりも早くぺろりと平らげていたので驚きだ。
「何だろうね?」
「取り敢えず俺はひと眠り……」
ガイがそう言いかけた時、教室の扉が勢いよく開かれた。
勿論入って来たのは――グレイ教官だ。
しかし、今回はグレイ教官だけではなく、グレイ教官と同じ服装をした人達が各々荷物を持ちながら、教室に入って来た。
ファイス育成学園の教室は、どちらかというと作りは講義室みたいになっており、様々な教官が入ってもある程度余裕はあった。
「これからお前たちは一週間後にC級ライセンスを取得してもらう。このC級ライセンスは今後お前たちが飛行実習を行うのに必要な資格だ。心してかかるように」
そう言ってグレイ教官は近くの教官の持っていた本を一冊取り、
「お前たちにはこれから一週間、C級ライセンス筆記試験に向けての勉強をみっちりと行う。この筆記試験に受からなければお前たちは『エア・ファイティング』の選手のスタートラインにすら立てない。そこを覚えてしっかりと勉強、また予習復習を行うように。ではこれから学科試験の科目と勉強について説明する」
そう言い、グレイ教官の説明が始まった。
グレイ教官の話を聞いていると、どうやらC級ライセンスの学科試験は大きく分けて四科目あるらしい。
一つ目は〈航空機体基礎〉だ。
この教科はいたって単純。主に航空機もとい、戦闘機の機体に関する学科だ。
主にコックピット内の部位名称や、機体の部位名称を覚える。いたって基礎中の基礎学科だ。今後『スカイファイター』の商売道具である戦闘機を乗りこなすためには必要と言っていい科目だろう。
一つ難点を挙げるなら、多少航空力学を齧る部分があり、そこの問題が多少難しいらしい。だがグレイ教官曰く「後々授業で航空力学をやる」という事なので、予習と思えば苦にはならない。
二つ目は〈機体整備基礎〉だ。
こちらは先ほどの〈航空機体基礎〉と若干かぶっている部分もあるが、この科目の特徴は機体の整備に特化しているというところだ。
このファイス育成学園はこの空闘科のほかに、整備科と気象・管制科の計三学科あり、その科にちなんだ勉強をする。
しかし、空闘科というのは、他の二学科の知識を必要とする部分もある。
現に機体整備も簡単な者なら自分で行わないとならない状況もある。だからこそ整備の知識が必要なのだ。
グレイ教官曰く「他にも各種エンジン等を理解しておくことによって、今後自分が『スカイファイター』になれたとき、相手はどのようなエンジンを積んでいるからこのような技が得意そうだな、という分析に役立てることができる」らしい。何気に重要な科目だ。
三つ目は〈通信技術基礎〉だ。
こちらもとても重要な科目で、主に管制塔の人や仲間内と連絡を取り合うのに必要な科目らしい。
主に無線の通信技術や波長等についてだが、この科目もといC級ライセンス取得にあたり特に重要なのは「管制塔との連絡」だ。
管制塔とのやり取りが上手くできなければ、例え『エア・ファイティング』の選手であっても戦闘機を飛ばすことができない。
過去は管制塔とのやり取りが無かったが、現在ではこの『エア・ファイティング』という競技がしっかりとルール整備され、特に選手の安否確認等が必須になった。だからこそ飛び立つ選手を記録しておくことにより、「まだ帰ってきていない選手はいるか」という事をすぐに確認できるようにしている。
だからこそこの「管制塔とのやり取り」を含んだ〈通信技術基礎〉も重要という事だ。
四つ目は〈航空法令〉だ。
こちらも重要。空を飛ぶにあたっての法律を学ぶ。飛行機乗りのすべてが『エア・ファイティング』の選手ではない。だからこそ様々な航空機がしっかりと規則を守るための、飛行機乗りならだれでも必要な教科だ。
グレイ教官曰く「C級ライセンスでは基礎中の基礎部分しか出題されない」らしい。だが航空法令自体はかなりの規則等があるらしい。
一通りの説明をし終えたグレイ教官は一呼吸置き、
「何か質問は?」
と言う。
しかしこの完璧な説明後では質問など無いだろう。それだけ詳しい説明だった。
「質問は無いな、では今から教本を配る。ではお願いします」
グレイ教官がそう言うと、グレイ教官以外の教官が教本を配りだす。
一冊一冊がとても厚く、教官たちも配るのに一苦労していた。
やがて俺のところにも四冊の教本が回ってくる。
正直言ってどの科目の教本もそこそこ分厚い。これを一週間で覚えられるのだろうかという心配が俺の今の率直な感想だ。
実際周りの人達も不安な声を漏らしている。隣のガイに至っては思考停止したのだろうか、教本を受け取ったきり動かないでいる。ついでに目も死にそうなほど虚ろだった。
「グズグズしている暇はないぞ、早速始める! まずは〈航空機体基礎〉を行う。教本の五ページを開け。説明するぞ」
授業が始まった時、他の教官はすべて退室していく。
こうして俺を含めた空闘科一年のC級ライセンス取得挑戦が始まった。
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