第1章 『スカイファイター』の卵たち

1 C級ライセンス取得

1ー1 入学

 ある晴れた何の変哲もない日。空は快晴で見渡したところ雲一つ無く、とても太陽の日差しが眩しかった。

 その快晴の下、入学生一同がグラウンドと思わしきところに立たされていた。

 目の前には短髪で筋骨隆々、まるで格闘家と思わしき男が朝礼台の上に立っている。

 

「諸君の入学を歓迎する。しかし、ここで満足していてはお前たちは立派な『スカイファイター』になどなれん。お前たちをこれからビシバシと指導してゆくので覚悟しておくように。以上! ――自己紹介がまだだったな。私の名はお前たちの主任教官を務めるグレイ・ヴォルグだ。これからグレイ教官と呼べ」


 目の前の男――グレイ教官がそう言い、目の前の朝礼台から降りた。

 周りの入学生はグレイ教官の見た目と言い方に気圧されたのか、若干何人かがびくついていた。

 俺はそんなびくついた新入生を気にせず、一つの事ばかりに集中していた。


 それは――このグラウンドから遠くにある駐機場から見える戦闘機だ。


 遠くからでもしっかりとした存在感をだす戦闘機。そのボディは太陽から発する光を反射し、ライトみたいに光を帯びていた。

 また別の戦闘機では暖機運転が行われており、エンジンから発する音がこの場所まで聞こえてくる。

 とてもいい音だ。


「さて、入校式を終わりにする。お前たちには時間がない。早速オリエンテーションを始める。私は準備があるので前もって渡したプリントに書いてある校舎内図を見ながら各自教室に向かえ、以上解散!」

 

 こうして、俺を含めた新入生の入校式は簡素なもので幕を閉じた。






 ※






 ここ、ファイスは蒼い海と空に囲まれた一つの島国だ。

 人口は約五百万人の小さな国家。しかし様々な人々によって活気に満ち溢れていた。

 ファイスはこの雄大な自然を生かし、海では新鮮な海産物を、内陸の農地ではこれまた新鮮な野菜や果物を育て、獲りながら暮らしていた。一見田舎に見えるかもしれないが、今では工業化が著しく発展し、様々な場所で製造業が増加、また最先端技術の研究開発が行われ、様々な国からの出入りも多い。


 そんなファイスで今民衆の間で人気なものがある。


 それは――戦闘機を使用した賭博だ。


 過去は戦争の兵器として使用されていた戦闘機。しかし、各国の平和条約が結ばれた現在では無用の長物だとなっていた戦闘機を使用した賭け事だ。

 事の発端は単純で、退役軍人の些細な賭け事がこの戦闘機賭博を生み出した。

 今ではこの戦闘機賭博は『エア・ファイティング』と呼ばれるようになり、今では民衆や一部の権力者にも親しまれるものとなった。


 俺が入学したファイス育成学園では、この戦闘機賭博『エア・ファイティング』の選手もとい戦闘機搭乗者『スカイファイター』の育成を目的としている学園だ。

 昔は野良の選手が多かったこの賭博だが、色々なルールや規約、法律などが創られ、今ではこの『エア・ファイティング』の選手はライセンス所持が義務付けられており、選手になるにも面倒くさい手続きや試験を受けないといけないのだ。

 しかし、このファイス育成学園ではライセンスの手続きが簡単に済むので、そこは野良の選手より利点となっている。

 だからこそこの学園は将来スカイファイター志望の若年者が集まってくるのだ。

 そして、入学倍率が高いこの学園に見事俺はギリギリのラインで合格し、晴れてスカイファイター候補生としての一歩を踏み出したのだ。


 そして今、俺はこのファイス育成学園の一人として、この学園に入学した。

 俺は先ほどの入学式でグレイ教官が指示した、教室への移動を行っていた。

 一応国立という事もあり、校内はとても綺麗で内装にもこだわっており、また掃除も行き届いているのだろう。埃一つない、清潔な校内。 

 

「凄いな……、メイドでも雇っているのかこの学園は?」


 一人でぼやきながら周りの内装を見ていた。

 ……にしても広すぎるだろ、この学園。

 校内に入ってから俺は少し迷っていた。プリントを見ながら教室に向かおうとしているのだが、この学園の校舎が広く、また部屋数も多いので今自分がどこに向かっているのかすら分からない。

 

「えーとここは……、【第五資料室】か。全然違うな」


 プリントに印刷してある校舎内図を頭抱えながら見ていた。

 やばい、早く指定された教室に行かなければ絶対教官から大目玉をくらうぞ。こんなことなら他の新入生の後ろについて行くべきだったな。


「貴方……、もしかして新入生?」


 俺は声がしたほうを振り向く。

 そこにはこの学園の女生徒と思わしき人が立っていた。しかも美人。

 黒髪がまるで渓流のように綺麗なロングで、男だったらこの女生徒の事に釘付けになるだろう。

 

「あのー、聞いてる?」

「……っ、は、はい! 大丈夫です!」

「そう? それならいいのだけれど」


 いかんいかん、つい見入ってしまった。

 俺は女生徒のほうを見て、


「俺は今日入学したソウタ・エノモトと言います。実は指定された教室に行こうとしたら迷子になってしまいまして……」

「成る程、分かりました。ソウタ君。ではその場所を教えてください」


 俺はこの女生徒に行先である教室を伝える。

 女生徒は「あぁ~」と言い、微笑みながら、


「丁度そこ近くの教室に用があったの。良ければ一緒に行きましょ。案内してあげる」

「ありがとうございます! ところで何てお呼びしたらいいですか?」

「私は空闘くうとう科三年のマイ・シンジョウよ。ソウタ君。ところで貴方は何科所属の新入生なの?」

「俺もシンジョウ先輩と同じ空闘科です」

「あら、そうなの? これからよろしくね。いづれ貴方とも闘ってみたいものね」

「その時はよろしくお願いします!」


 そう言い、俺はシンジョウ先輩に右手を差し出した。

 シンジョウ先輩は俺の意図をくみ取ったのだろう。シンジョウ先輩も右手を差し出し、共に握手した。


「では行きましょうか」

「はい!」


 俺はシンジョウ先輩の案内の元、指定された教室へと向かった。





 教室の前でシンジョウ先輩と別れ、俺は目的地である教室【空闘科一年】の教室に入った。

 すでに多くの人は席に着いていた。だが幸いなことにまだ教官は教室にはいない。

 俺はほっと胸を撫でおろし、教室の後ろのほうに開いている席を見つけ、そこに着席した。


「待たせて悪かった。今からオリエンテーションを始める」


 着席した直後、勢いよく教室の扉が開かれグレイ教官が入って来た。

 小脇には配られるであろうプリントが挟まれている。遠目から見てもかなりの量のプリントを教官は持っていた。

 グレイ教官は小脇に挟んでいたプリントを置き、


「では、今からオリエンテーションを始める。今からこのプリントに沿って進行していくので、しっかりプリントを見るように。前の人にプリントを渡すので後ろに回してくれ」


 そう言ってグレイ教官は束のプリントを前列の席の人に配りだす。

 そのプリントを一部とっては後ろに回すという一連の流れが起こり、やがて最後列の俺の席までプリントが回って来た。

 回って来たプリントは、まるで小冊子のような厚さで、見た感じでも内容が多いという事が感じ取られる。

 俺はぺらぺらとそのプリント束をめくり、中身をざっと見る。

 ……字が多いな。


「では説明する」


 グレイ教官の圧のある言葉から、オリエンテーションが始まった。

 内容としてはプリント通りに進行していき、校内の大まかな説明や規則、主に行う授業の簡単な説明、寮を使用する生徒対象に寮の使用方法など、休憩を挟みながら説明された。

 いたって普通のオリエンテーションだ。


「では、オリエンテーションを終わりにする。本当は校内の案内をしたほうが良いのかもしれないがそれは無しだ。お前らにはやることがある」


 教室内がざわつく。

 それはそうだろう。入学したてで右も左もわからないこの学園の校内案内がされないのだ。実際このファイス育成学園は敷地が広い。もしかしたら俺みたいに校内で迷子になる生徒も出てくるだろう。

 まあ、校内図や校舎内図を頼りに行けば問題ないがな。――俺は迷子になりかけたが。

 にしてもシンジョウ先輩、美人だったな。


「教官、一ついいですか」


 そう言って誰かが手を挙げた。

 そいつのほうを見てみると、いかにも真面目という言葉が似合いそうな男子生徒がいた。


「何だ、言ってみろ」

「先ほどグレイ教官は「お前らにはやることがある」と言いましたが、その私たちがやる事とは一体何でしょうか?」

 

 グレイ教官は鼻でふっと笑い、


「お前、名前は」

「マルコ・ユクスキュルです」

「ではマルコ、お前の入学した学科は」

「空闘科です」

「なら分かるだろう?」


 グレイ教官は俺達生徒のほうを見て、教卓に手を叩きつけこう言った。


「お前たちには一週間で『エア・ファイティング』のC級ライセンスを取得してもらう! これは決定事項だ! 午後からC級ライセンスの勉強を開始する。以上」


 そう言ってグレイ教官は、教室を後にした。

 ……え、C級ライセンス取得?


 しばらくの間、俺を含めた新入生一同はその場でただ茫然としていた。

 そして少しの時間が経ち、俺は昼食を食べに食堂へと向かった。

  

 

 


 

 


 


 


 


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