蒼穹の彼方、神風の翼
二魚 煙
プロローグ
あの空に近づきたいと思った。
無限に広がるあの蒼い空は、いつ見ても飽きさせないものだった。
「うわあぁー!」
いつものごとく僕は特等席である孤児院の屋上から、空を眺める。
この屋上にいれば、僕もいつかはこの大きく蒼い空に少しでも近づけると
思ったからだ。
しかも今日の空はいつもの空と少し違うのも知っている。
それは――
「うわあぁ、飛行機だー!」
無限の蒼穹を駆ける金属の物体――飛行機が飛ぶ日だったからだ。
遠くながら聞こえる飛行機が発するエンジンの音。この音が僕はとても好きだった。
そして無限の蒼穹が、飛行機が出す白煙によって自由自在に描かれていく。まるで白いスケッチブックに自由にお絵描きをするみたいだ。
僕は持ってきたマットを屋上の真ん中に敷き、そのマットの上に仰向けに寝そべる。
こうすればより僕の好きな空が独り占めできるからだ。
そして今日は、これまた僕の好きな飛行機が飛んでいるので、この景色を誰一人として見せたくはなかった。
この蒼い空。いつしか僕もあの空へ行けたら――
「坊主、お前は飛行機が好きかね」
僕が寝そべって空を見ていたら、その景色が一つの顔によって隠された。
「……おじさん誰? 不審者?」
「いや、違うよ坊主。おじさんはこの施設の施設長に用があって来ただけだ」
「じゃあ何でここに来たの?」
「おじさんも少し空が見たくてな。大丈夫だ、ちゃんと施設長から許可は得たからな。だからおじさんは不審者ではないよ」
そう言っておじさんは僕の隣に座る。
「また聞くが、坊主は飛行機が好きかい?」
「うん! 大好きだよ! もちろん空も!」
「そうか……」
そう言っておじさんは着ていた上着の内ポケットから一冊の青い手帳を取り出した。
「坊主にこれをあげよう」
おじさんは僕に手帳を差し出した。
僕はその手帳を受け取り、中を開いてみる。
その中には色々な文が書かれており、まだ僕が読めない字も沢山あった。その文の中にも多少の絵が描かれており、また様々な飛行機の絵も描かれていた。
「これは……?」
「おじさんには不必要なものだよ。だが坊主にとって後々必要になってくるものだよ。そのメモには色々な飛行機の事について書かれているからね。坊主もしっかりと字を読めば読めるようになるよ」
「そうなんだ!」
おじさんは空を見上げ、空を自由に飛ぶ飛行機を見て、
「坊主、お前は『神風』を知っているか?」
「『神風』?」
「そうさ、飛行機がまるで自分と同化したように飛べるんだよ。その『神風』に出会えればな」
「ふーん……、よく分からないや」
「そうかい、まあ坊主も飛行機に乗ればもしかしたら体験できるかもな。あの不思議な現象をな」
おじさんは真っ直ぐな瞳で空を見ている。
その瞳はまるで何かを思い出している時みたいな感じの瞳だった。
僕はおじさんから貰った青い手帳を天に掲げ、おじさんのほうに向き、
「僕は大きくなったら絶対に飛行機に乗る人になる! そしておじさんが言った『神風』に会う!」
おじさんは僕のほうを見て目を丸くした後、すぐに大きな声で笑った。
……どこかおかしかったのかな?
「良い夢だ! 是非とも坊主の夢が叶うように祈っているよ」
「うん! ありがとう!」
「いつか『神風』が見られるといいな!」
「うん! ……おじさん、またここに来てくれる?」
「ああ、たまにしか来られないがな。来たときは是非とも飛行機について話そうか」
「約束だよ!」
僕は絶対、飛行機に乗るんだ!
僕はその日、飛行機乗りになることを固く誓った。
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