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 田舎の交通手段は主に自家用車やバスであることが多い。この町は電車が止まるが、市内を回ることが目的である場合には適さないため、車を持っていないかなめと涼は駅前から二時間に一本のバスに乗ると二十分ほどの時間をかけて目的地近くのバス停で降りていた。


 既に陽は地平線に隠れ時刻は午後八時を少し回っている。時刻表に書かれている駅前に戻る次の便の時間まではあと一時間半とちょっと。道の端では水銀灯が等間隔に並んでオレンジ色の光を灯していた。

 かなめはスマートフォンの地図アプリを起動して、古めのアパートが立ち並ぶ小道を歩き涼がその横に並んでいる。メモに書かれた住所まではデジタル表示であと十分ほどと表示されていた。


 目的地に近づくに連れて見えてくる景色は一昔前に開発途中で放置された住宅街。レトロ感に溢れる一軒家やアパートで並んでいた。小豆色や空色のトタン屋根の下にはひび割れた壁。窓には防寒の為の黄ばんだ気泡緩衝材、所謂ぷちぷちが貼られっ放しになっている。二階建てのアパートの外階段は酷く錆びて所々腐って穴が開いていた。


 駅前物件ではあるかなめの貸しアパートもそれなりの古さであるのだが、駅前を外れたここ一帯は更に年季が入っていると感じられた。保樹の住む住宅街古めの作りの家が多かったがここはもう一昔前の作りだろうか。恐らく築四十年以上は硬いだろう。


『もう直ぐ目的地です』


 スマホからナビの声が聞こえる。かなめと涼は画面を覗き込むと少しして顔を上げる。


「あそこのアパートかね」


 涼がひとつのアパートを指差しながらそう言った。


 指差した先には小豆色のトタン屋根の二階建てのアパートが見える。ドアは全部で六個ありそのうちの四つには入居者募集の張り紙が貼られ、どうやら家賃収入は芳しくないように思われた。昔は白かっただろう壁にはかすれてしまって読みにくいが、縦書きで初栄荘と書かれていた。


「そのアパートで良いみたい」


 かなめはメモを取り出し几帳面な字で書かれた住所に目を走らせると頷いた。


『目的地に到着しました。お疲れ様でした』


 直ぐにスマホからナビの声が聞こえてきた。目的地はこのアパート初栄荘で間違いないらしい。かなめの手にあるメモに書かれている住所の最後には2号室と書かれている。ドアの上に書かれていたのだろう部屋番号は読めなくなっていたが、幸運なことに三つあるドアのうち真ん中のドアで間違いはないだろう。


「まぁ、どの部屋か分からないよりかは助かるけど……」

「電気ついてないよね」

「留守だよね。一応インターホン押してみるけど」


 ドアの横にある窓からは明かりは漏れていない。恐らくは不在だろう。入居者募集の張り紙がないもう一つのドアの横の窓からは電球色の光がカーテンの間から漏れている。

 かなめはそれでも一縷の望みを託してドアのやや上方についているボタンを押すと、今時のインターホンの電子音ではなく金属のベルを叩く音が部屋の中に響き渡るが、中で誰かが動くような音はなく、十秒ほど待ってからもう一度ボタンを押したが状況に変化は見られなかった。


「家が見つかっただけでも良しとしますかね」

「私はお腹減ったから丁度良かったわ。飯食いに行こう、飯」

「そうだね。考えてみたらちゃんとご飯食べてなかったしそうしようか」


 かなめは苦笑すると涼と来た道を引き返し始めた。


「バスが来るまで多分一時間以上あるけどどうする?」

「んー、それじゃあ歩いて帰りますかぁ」

「涼は何か食べたいものある?」

「んーとね、焼肉食べたいなぁ」

「残念。俺の財布には諭吉はいない」

「じゃあ仕方ないから肉買ってかなめの家で焼こうよ」

「それなら何とかなるかなぁ」

「よし!途中で肉買うぞ肉!」

「俺油っぽいのダメだからサガリと野菜で良いや」

「何だよ年寄り臭いこと言ってんなぁ」

「三十過ぎると胃にもたれるんだって」


 アパートから遠ざかる二人をブロック塀の上で二匹の猫が身体を丸めて眺めていたが、十字路を曲がり姿が見えなくなると二匹の猫も塀の上から飛び降り何処かへと走って消えていった。

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