第12話 苦労人の宿命

無事にカバヤの防衛戦を乗り越えたリーディスたちは、次のステージへと歩を進めた。

ゲームの電源が切られる気配が無いために、編集画面で諸々の設定を変更するどころか、消えた仲間たちの安否を知ることすら出来なかった。

重苦しい不安が漂うなか、幕間の準備がなされていく。


その一方で、我関せずとばかりに暴走する少女が居た。

ミーナである。

彼女は怒りに精神を乗っ取られ、大陸の各所を疾走するのだった。

力なく制止するマリウスを巻き込みながら……。



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「エルイーザァァアッ!」



殺気立った声が深い森の中に響き渡る。

ミーナの咆哮(ほうこう)だ。

普段の可憐なものとかけ離れた叫びは、猛獣や狂人のそれである。



「ミーナさん! おち、落ち着いてぇぇ!」


「グルァァあァぁア!」



怒りによって何かに目覚めた彼女は半狂乱そのものであり、諌める声など聞こえない。

それ所か、標的を求めて絶賛爆走中である。

背中に愛すべき人を乗せたままに。


一方でマリウスは生きた心地がしなかった。

暴走するミーナを止めるべく、どうにか相手の首元に取り付いたのだが、その動作には何の意味も無かった。

今はただ振り落とされないように、しがみつくのが精一杯という有り様である。


この騒動は屋敷を飛び出してより、片時も休むことなく続いた。

よってミーナはもちろん、マリウスはゲームの出演が不可能なままである。

せめてリーディスたちに、自身の無事と状況を伝えたいのだが、その暇(いとま)すら無い。



「死ネぇェ! エルイーザぁあ!」


「ミーナさん! それはただの石像ですよぉ!」



彼らはいつの間にか、デントの街付近にまでやって来ていた。

大陸北西にただずむ小さな街だが、女神信仰が篤い事で有名だ。

すなわち、道の辻から街中に至るまで、数えきれない程のエルイーザ像が設置されているのだ。

これでは火に油。

乙女の鉄拳によって、例外なく粉砕された。

大陸最大級を誇る、街中の社であっても。



「フゥぅウゥ、フゥぅうゥ」


「あの、落ち着きましたか……?」



全ての石像を屠った頃に、ようやくミーナは動きを止めた。

その体を汗で濡らし、肩も大きく膨らんでいる。

これでやっと対話が出来ると、マリウスは安堵したのだが……。



「グァアァアア! ドコに消ヱやがッタァァアーーッ!」


「えぇーーッ!?」



終わらない。

狂乱の宴は始まったばかりだ。


仇を求め、ミーナは再び走り出す。

マリウスは馬に飛び乗るようにして、彼女の背中に飛び付いた。

彼らが物語に復帰する目処は、今のところ立っていない。

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【お蔵入り】クソゲーって言うな3だったもの おもちさん @Omotty

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