第11話 突破口はどこに
難易度ヌルヌルのユルユルなゲームにて、手詰まりが発生するというまさかの事態。
これには演者であるリーディスたちはもちろん、プレイヤーでさえも驚いた事だろう。
それもこれも、過半数の友軍がカカシと化しているせいであり、言い換えればエルイーザのせいである。
彼女の暴走によるツケは、無関係な人たちが払う形となってしまった。
今現在も、プレイヤーは必死になってステージ攻略を試みている……が。
「ごめんなさい。私は離脱するわ……」
「チィィ! 覚えてるですよ! 後でコッソリ巣穴に火ィつけてやるですよ!」
「クソッ! 撤退だ! 撤退するぞ!」
竜ネズミの大群を前にして、敢えなく撃破されてしまう。
かれこれ同じステージを8度もチャレンジしているが、全て完敗であった。
特別リーディスたちが弱いのではない。
レベルや装備は適正、むしろ過剰なくらいだが、クリアできる兆しすら無かった。
画面は何度もコンテニューの可否を問いただしてくる。
【ここで諦めますか?】
⇒あきらめない
あきらめる
決定ボタンは連打されている。
まるで苛立ちをコントローラーにぶつけるかのように。
そして始まるロード画面。
その様子を不安げに眺めるのは、リーディスとルイーズ、そしてメリィだ。
これまで良い所無く全滅を繰り返しており、何ら突破口を見いだせず、皆が頭を抱えてしまっていた。
「どうすりゃ良いんだ。これ完全に詰んでるぞ……」
「リリアは何をやってんですか! どっかの屋台でブヒブヒ鳴きながらサボッてるんじゃないです!?」
「マズいわねぇ。あの子が居ないと、戦いにもならないわ」
このステージでは竜ネズミの大群を撃退するのだが、この敵は厄介な事に多くの耐性を持っている。
ゲーム用語で言えば、斬・突・聖・邪・氷・風・打属性の攻撃が効きにくいのだ。
ではどうやって攻略するのか。
それは、リリアだけが扱える炎魔法が頼りとなる。
本来なら今ステージは防衛ミッションの色合いが強い。
攻め寄せる竜ネズミ大群からリリアを守りつつ、彼女の炎により撃退する……というのが基本戦略だ。
だが、その攻略の要は、現在クマさんのヌイグルミと化していた。
「仕方ねぇ。管理画面でデータを書き換えちまおう」
「無理よ。ロード時間が足りなすぎるわ」
「リーディス様ぁ。流石にプレイヤーさんの目の前で画面をいじくるのは……」
「クソッ! 完全に手詰まりじゃないか!」
これまで散々に『長い長い』と不評であったロード時間だが、再戦だけは別である。
なにせ基本的な読み込みは完了しているのだ。
わずか10秒足らずでの切り替えを可能としていた。
……それでも十分長いのだが、裏で編集作業をするには全く足りない。
プレイヤーが電源を落としてくれれば、編集にて改善させられるが、それも賭けである。
彼から見れば、理不尽な難易度を一方的に突きつけられた形なのだ。
怒りに燃えている内はまだ良い。
それはやる気と言い換えられるし、ゲームを続けてくれるから。
だが、この流れでプレイを諦められてしまったらどうか。
不貞腐れて、2度と起動してもらえなくなるかもしれない。
そうなれば評価点は最低のまま。
覆るチャンスすら無くなってしまうのだ。
ゆえに、リーディスたちは自力で勝ちを納めなくてはならない。
頼みの綱である『編集モード』に頼ることなく。
「そろそろ始まるわ。行きましょう」
「そうだな……」
無策に挑めば結果は同じである。
負けることがほぼ確定した戦が、再び幕を開けた。
「火矢、放てぇー!」
ソーヤの掛け声により、開戦の火蓋は切って落とされる。
城壁からは守兵が散々に火矢を放ち、それが油に引火、燃え盛る炎に竜ネズミは錯乱し始めた。
この開幕イベントこそ攻略ヒントそのものであり、プレイヤーは敵の弱点を知る。
だが、今は知ったところで何一つ活かしようがない。
巻き上がる火柱を、リーディスは苦々しい想いで睨み付けた。
……が、その時だ。
彼の脳内に突如閃きが走った。
「そうか。こうすりゃ良かったんだ!」
急ぎ隣の仲間たちに伝えた。
ノンビリ説明している暇はない。
なにせ半狂乱になった竜ネズミの群れが、自軍目掛けて迫っているのだから。
「ルイーズ、あそこから風魔法で攻撃してくれ」
「あそこって……火が燃えている所で?」
「頼む。そもそもオレは自由に動けない。でもCPU操作のお前たちなら平気だろ?」
「そうね……。新しいことを試さなきゃ、同じ結末だものね。任せて」
「でも、でも! そうなるとリーディス様の部隊だけで敵と向き合う事になっちゃいます! 危険ですよぉ!」
「無茶は承知だ! ボヤッとしてると火が弱まる、急げ!」
怒号により聖女隊が城壁側まで駆けて行った。
残されたリーディス隊は防衛態勢に移行する。
辺りは僅かな起伏があるだけの平原地帯だ。
防御には不適だが、ここで足止めをしなくては聖女隊の背後が脅かされる。
攻撃の要が撃破されてしまえば、ミッションクリアは不可能となる事は確実だ。
そうはさせじと武器を振るう。
「全軍、防げぇ!」
リーディス率いる義勇兵は民兵だが、歴戦の猛者たちである。
装備は貧弱ながらも極めて勇敢だ。
死線を幾度となく潜り抜けた事で、素人の一団は見違えるほどに成長したが、今度ばかりは流石に分が悪い。
皆が剣を抜き放ち、一斉に斬りつける。
だが、やはり相性が悪すぎた。
気迫の籠った一撃は掠り傷にしかならず、竜ネズミの疾走を止めることは叶わない。
それどころか、何人もの兵が体当たりを食らい、遥か彼方へと吹き飛ばされていく。
「みんな、怯むな! どうにかして押し留めろ!」
リーディスも前線に立ち、猛攻を切り抜けながらも攻撃を重ねていく。
たが、腰の入っていない小手先の技では、相手を怯ませる事すらできない。
やがて部隊は半壊。
陣形の名残すらなく、潰走(かいそう)して散り散りになるのも時間の問題だった。
ーーまだか。急いでくれ!
焦りで心が汗をかく。
そんな最中、辺りに凄まじい轟音が鳴り響いた。
リーディスから離れた場所を炎の竜巻が過ぎ去っていったのだ。
もちろん、多くの敵を巻き込んで。
その身を焼かれ、上空に跳ね上げられた竜ネズミは、受け身を取ることもなく地面に叩きつけられた。
起き上がる気配はない。
戦闘不能である。
突然現れた炎の攻撃により、生き残った竜ネズミたちはパニックに陥ってしまった。
こうなれば敵も味方もない。
目についた生き物を襲うという、一種の恐慌状態となったのだ。
「みんな、一旦退がるぞ!」
巻き添えを恐れたリーディスは号令を出した。
それを聞いたプレイヤーも、コントローラーを動かして激戦地から距離を取った。
残されたのは同士討ちを繰り返す竜ネズミのみ。
そのパニックは最後の時まで解ける事なく、全ての敵が膝を折るまで続いた。
そして迎えたのは、全滅。
ステージクリアである。
「勝った、オレたちの勝ちだぁ!」
リーディスは勝どきをあげた。
ルイーズたちや、配下の兵たちもそれに続く。
いつもは義務でやっている作業も、この時ばかりは心の底から飛び出したのである。
それからはリザルト画面。
となると、お次にやってくるのは……。
「いらっしゃい! 今日も一杯買っていってちょうだいな!」
買い物、すなわちレミールの登場である。
これにはリーディスも気まずい。
彼の心には別れ際の台詞が、今も生々しく蘇るからだ。
だが、それはあくまでも別のお話。
幕間は埒外なんだと自分に言い聞かせつつ、いつものように買い物を終えるのだった。
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