第8話 そして、また1人
大陸の南半分を取り返したリーディスたちは、3聖女と神官部隊を仲間に加え、意気揚々と進軍した。
次なる拠点はイサリの町。
そこで勇者の盾が手に入るのだが、特別なイベントは一切用意されていない。
クリア後のリザルト画面にて、シレッと入手されるだけである。
手抜き……もとい、エコ設計である為だ。
よって今作においては、勇者装備の封印に絡んだ聖女たちも、特別な責務を負ってはいない。
ちょっと品の良い魔法キャラ姉妹、というだけの存在だ。
ゆえに新しき3人、いや結論から言えば2人の助力を得つつ、次なる町を攻略していくのであった。
なぜ1人欠けたのか。
その理由は、お馴染みとなった幕間で判明する。
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【ゲームデータのロードを開始します】
襲撃の機会を虎視眈々と狙っていたエルイーザであるが、何者かの登場によって遮られた。
茂みから姿を表したのはリリアだった。
「エルイーザ様。いや、エルイーザ。屋敷に戻って貰うわよ」
依然として行方の知れないマリウスに対し、捜索活動が続いていた。
リリアはその捜索隊の一員という配役であった。
その頃屋敷はというと、天地がひっくり返ったかのような騒動の真っ只中だった。
何せ嫡男の失踪である。
現当主はあらゆる伝手を辿り、息子を探し出そうと努めた。
マリウスは婚約者と共に消えていたので、駆け落ちという線が濃厚と考えられ、多くの人がウェスティリアの街へと向かった。
だがリリアは、屋敷方の見解は誤りであると確信した。
寒気がするほどのエルイーザの狂気を目の当たりにした為だ。
ーーこの女、普通じゃない。おぞましい悪事に手を染めたはずだ。
その直感は確信めいており、態度を厳しいものさせた。
話し合いの段階はとうに過ぎている。
断れば力付くで連れ戻すとでも言いたげに、体からは闘気に満ち溢れていた。
「ハンッ。ヒョロヒョロのメスガキ風情に、このアタシを捕まえられるとでも?」
「確かに私はすっごい痩せてるけどさ……舐めんじゃないわよッ!」
エルイーザの煽りに対し、素直な覇気で応じられた。
『痩せてる』の部分だけ妙に声が上ずっていたが、理由について語るのは野暮であろう。
それはそうと戦闘だ。
リリアはみるみる内に赤いオーラを身に纏(まと)った。
「チッ。炎使いかよ面倒くせぇ。森の中だってぇのに」
「安心しなさい。命までは取らないわ。今のうちはね!」
リリアの両手が魔力で満ちる。
すると、エルイーザの足元から巨大な蛇が出現した。
本物ではない。
炎により形を模しただけである。
だが、扱いの困難な火焔を縦横無尽に操り、標的の体を縛り上げようとした。
かなりの使い手である事は間違いない。
エルイーザは咄嗟に魔法防御を展開し、囚われの身となることを免れた。
だが、まだ窮地は脱していない。
炎の猛攻は女神の魔法防御を突破し、少しずつ彼女の身を焼いていった。
「さぁ、観念しなさい! その炎蛇に捕まったが最後、火傷くらいじゃ済まない……」
「しゃらくせぇーーッ!」
エルイーザの拳が唸る。
それは蛇の眉間を正確に撃ち抜き、大いなる火焔を消滅させてしまった。
魔道に精通するエルイーザならではの対処法なのだが、これには流石の聖女も驚きを隠せない。
「そんな! 私の炎が……ッ!?」
それからリリアは更に驚愕した。
目の前に居たはずの標的を見失ったからだ。
必死に辺りを見渡すが、付近は遮蔽物の多い森の中。
探す側が圧倒的に不利である。
「へへっ。やっぱり、メスガキ一匹じゃ物足りねぇよ」
「あぅッ!」
宙から突如現れたエルイーザは、素早くリリアの背後に回り込み、腕を細首に絡めた。
体格差がある為にリリアの体が浮き上がる。
足を使って懸命に抵抗するが、まるで効果は無かった。
勝ちを確信したのだろう。
狂った殺意が森のなかを駆け抜けていく。
「テメェもおネンネしちまいな。マリウスみてえによぉ!」
「あ、あんた……やっぱり……」
この台詞。
もはやどこに出しても恥ずかしくないほどに、悪役っぷりが板について居た。
細かいことを指摘するなら、なぜ執拗に首を狙うのか。
それは確かに効率的な手法であるが、同時に好感度も加速度的に落下していく。
今後2度とヒロイン役を任される事は無いだろう。
「おらよ、くたばれ!」
「ヘムッ!」
鈍い音と共にリリアが陥落。
その意識を遥か遠くに手放した。
エルイーザは即座に獲物を抱き抱え、手頃な民家に侵入した。
そしてこれまでと同様、室内の戸棚にリリアの身柄を隠した。
3人目ともなれば手慣れたものである。
ちなみに幕間のシナリオについてであるが、本筋から大きくかけ離れてしまっている。
エルイーザがマリウスを拒み、屋敷から逃げ出す所までは同じだ。
だが今回のように、人的被害など出す予定ではなかった。
本来であれば幕間は『真実の愛を追求する』テーマに準じるはずが、『とりあえず邪魔なヤツは皆殺しにする』という猟奇的な物語へと変貌していた。
これもすべてはミスキャストが原因。
いくらエルイーザが名女優とは言え、長回しで正統派ヒロインなど演じきれる訳がなかったのだ。
「クフ、クフフ。これで3人目かぁ」
彼女の狂気が加速する。
何人もの仲間たちを手にかけた事で、その狂気は妄執へと形を変えていった。
「クフフ。7人の敵を葬ったら、何でも願い事が叶うに違いないィィ」
その邪悪な発想はどうしたら生まれるのか。
良識ある者には、決して理解が出来ないだろう。
だが、彼女は確信していた。
そして、有りもしない未来を夢想し、独り高らかに笑うのだった。
【データのロードが完了しました】
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幕間が終わり、画面はアクションパートとなる。
攻略予定のイサリの町たが、これより難易度が跳ね上がる。
出現する敵部隊が一新される為だ。
だから、一刻も早くマリウスとミーナには復帰して欲しいのだが、現実はその真逆を行く。
「お、おい! リリアはどうした!?」
「そんな……何が起こっているというの?」
神官部隊よりリリアの姿が消えた。
マリウスたちと同じようにして、赤いヌイグルミが代役を勤めている。
立て続けに頻発する異変に、彼らは身を震わせた。
これは誰の仕業なのか。
また世界を震撼させるようなバグが発生したのか。
何一つ手がかりが無いまま、1人、また1人と脱落していく。
次の話し合いの以降は厳戒体制にすべきだと、リーディスは固く心に誓った。
ちなみに、このステージは割りと簡単にクリアができた。
リリアを欠いても神官部隊は精強だ。
彼らの大戦果に便乗する形で攻略を果たし、シレッと『ヘップションウスの盾』の入手を成し遂げたのだった。
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