第6話 新ヒロインの襲来
ゲームの電源がオフとなれば、恒例の話し合いが待っている。
集合場所は変わらず『始まりの平原』となる。
目的は例によって、編集モードによるシナリオの歪みを矯正し、キャラクターたちの認識を擦り合わせる為だ。
特にリーディスは、先程のマリウス達が失踪した件について話し合いたいのだが……。
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話し合いのテーブルには見慣れた顔が並ぶ。
エルイーザ・デルニーア姉弟に3聖女。
そしてリーディスの隣には、今作初出場となる『看板娘レミール』が同席していた。
まずは新キャラの紹介をすべき所だが、リーディスは真っ先に疑問を口に出した。
「なぁ、マリウスとミーナはどうしたんだ?」
誰もが左右を見渡すが、2人はもちろん出席しては居ない。
行方に心当たりも無いようで、困惑の表情を浮かべるばかりだ。
ただ1人、エルイーザを除いては。
「アイツラなら、幕間の演技が終わるなり人気(ひとけ)のない方に消えたぞ」
「開演中に? 役目を放り出したって言うのか?!」
「何やんてんのよ全く……。私が呼んでこようか?」
「やめときな。アイツら、今頃とんでもなく盛り合ってるから」
「さか……えぇッ?」
「それとも何かい。テメェは知り合いがヤリあってるとこを覗きたいってのか?」
「そ、そんなことしないわよッ!」
リリアは顔を真っ赤に染めてうつ向いた。
助け船を出す形で、ルイーズが言葉を繋ぐ。
「エルイーザさん。あなた、同じシーンに出演していたわよね? 2人の暴挙を止めなかったの?」
「おうよ。アタシはこれでも一応は子宝の神様でもあるからな。繁殖行為は奨励してんだよ」
「初耳だわ……。本来なら豊穣の神様でしょうに」
「あんだよ。作物もニンゲンも、種付けして実るのは一緒だろ。つうかイヤに突っかかるじゃねぇか」
「どうにも納得がいかなくてね。普段のあなたなら『サボって乳くり合いすんなボケカス』くらい言いそうだもの」
「まぁまぁ、お前らちょっと落ち着けよ」
白熱していくやり取りの間に、リーディスが割り込んだ。
些細な喧嘩で止まれば良いが、その程度では済まなそうであったからだ。
「ともかくさ。マリウスたちの件はアイツらが戻ってから考えようぜ。今はともかく、今後のシナリオについて話し合おう」
「そうですね。メリィは寸分違わず同じことを考えていました。これはもはや一心同体。そろそろ物理的にも同体に……」
「冗談でもその言い回しは止めときなさい!」
不穏な空気を残しつつも議論の場が整えられていった。
まずは新人の紹介から始められる。
「ええと……武具道具の補給をやらしてもらってます、レミールでっす! みなさん、よろしくおなしぁーすッ!」
「はい、みんな拍手ー」
「若い子は元気があるわねぇ。羨ましいわ」
「ねぇさんだって、まだ20歳過ぎじゃない」
「なんだかね、節目を超える度に老けていく気がするの」
レミールの真っ直ぐな声が空気を入れ換えてくれた。
先程までの緊迫感が霧散し、一同には重圧の和らぎが感じられた。
列席したベテラン勢の顔も徐々に晴れていく。
だが、歓迎ムード一色とまではいかなかった。
「新人さん。このお仕事を舐めてもらっちゃ困りますねぇ。見た目は華やかだけども、厳しい世界です。生半可な気持ちで来られても迷惑なんですよ」
「ウッス! 全身全霊で頑張るんで、どうかご指導ご鞭撻(べんたつ)の程よろしくおねしぁっす!」
「メリィ。先輩風なんか吹かせてんじゃないわよ」
「前作の人気投票を忘れたんですか? 気持ちだけでぶつかっても、結果には結び付かないんです。気迫だけで人気が出りゃあ誰だって苦労しませんよ」
「ところが……そうでも無いみたいです」
デルニーアが肩をすぼませ、小さく異を唱えた。
苛立ったメリィが中坊ヤンキーの如く睨み付ける。
小心者の邪神はそれしきの事で悲鳴をあげてしまうが、保護者2名の介入により、辛うじて冷静さを取り戻すことが出来た。
「デルニーアさん。何か根拠があるようね」
「それってもしかして……」
「はい。前作と同様に、アンケートがとられましてね」
「……聞かせて貰おうじゃないの」
少女から睨まれる代わりに、三姉妹から前のめりに迫られる事となった。
デルニーアは覚束ない指先で1枚の紙を取り出した。
そこにはもちろん、投票結果が克明に記されている。
「ええと、僭越ながら発表させていただきます。まずはルイーズさん、3万2千票です」
「あらぁ。随分と票が入ったのねぇ」
「前回とは規模も桁違いですから」
「デルニーアさん、私はどうなの!?」
「僅差です。3万とんで500です」
「くぅぅ! いま一歩だったぁ!」
健闘虚しくも敗北を喫したリリア。
周囲を憚(はばか)る事なく悔しがる彼女をからかうとしたら、世界でただ1人だけだ。
「やっぱりリリアはダメ女。本格的に聖女から降板したらどうです?」
「ちょっと! アンタはどうして余裕面して居られんのよ!」
「私が大躍進しているのは聞くまでもありません。何せロリコン勢という、歴とした支持基盤がありますから」
「ううん……姉としては、そんな人たちに頼って欲しくは無いのだけれど」
「さぁデルニーアさん。晒け出してください。このメリィに何十万の票が投げ込まれましたか!?」
デルニーア、この問いかけに対して挙動不審となる。
彼は視線を手元の紙とメリィの顔を散々にさまよわせ、唾液で喉を緩めてから、静かに発した。
「め、メリィさんは……1万8千」
「いぃ!? 1万ですかッ!」
「ブヒャーッヒャッヒャ! メリィの大躍進! 最下位に向かって大躍しーん!」
「どうしてですか! 世のロリコンどもは何をやってるんですか! ここで私を支持しないなんてどうかしてます!」
「アンタは打算的すぎんのよ。もっと可愛らしい美少女になってからホザきなさい」
「間違ってます……間違いだらけの世の中は矯正しなきゃ……」
失意の底にメリィが撃沈した。
ルイーズはその頭を慰めつつ、再び問いかける。
「それでデルニーアさん。もちろん、他にも言うべきことがあるわよね?」
「はい……。前回はミーナさんの独走状態でしたが、今回は上位2名に票が集中するという展開となりました」
「まさか、私たちじゃあ……ないわよね?」
「ええ。残念ながら」
「その上位について聞かせてもらっても?」
「はい、1位はやはりミーナさんです。票数は32万5千でした」
「さんじゅうに!?」
「次点は新人のレミールさんです。29万1千と、結果的には1位と大差が生じましたが、開票当初は大接戦だったようです」
「……すっごい格差ね」
レミールの登場シーンは極めて限定的だ。
製品版においては、ステージ間の買い物時にしか出演する事はない。
それが彼女の稀少性を高め、更には表裏の無さそうなキャラクターが作用し、投票に反映された形となったのだ。
「ほらメリィ。レミールさんに言うことあるでしょ?」
「チクショウ。ナマイキ言ってすんませんっしたチクショウ」
「あの、その、何つうか……この結果はビギナーズラックですから。余りヘコまんでくださいよぉ」
「それにしても、私たち姉妹って、どうして不人気なのかしら?」
「さぁー。サッパリ分からない」
「格好が似偏ってるからです! そのせいでモブキャラっぽい扱いを受けてるんです! そうとしか思えません!」
「似てるかなぁ? 役職が同じだから、ある程度は共通点があるけどさ……」
「メリィはやりますよ! 人気最下位だなんて恥ずかしくって生きてられませんから!」
「それ、前回最下位だったアタシにケンカ売ってんの?」
「レミールさん! 協力してください! メリィは生まれ変わりたいんです!」
「ええと、アタシはどうすりゃ良いんです?」
メリィはレミールの腕をひっ掴み、街の方へと消えた。
半ば狂気を宿したような少女の事を、誰も止めることが出来ずに、無言のまま成り行きを見守った。
そして、その場に残されたメンバーたちは一様に思った。
……そういや、シナリオの話してねぇな、と。
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