第2話 安易過ぎた決断
本作は前回と異なり、アクションに寄せた内容となっている。
各キャラクターは軍団を率い、南端の王都から始まり、魔物に支配されてしまった大陸を解放していくのだ。
グラフィックと音楽は、前作のデータを丸々引き継ぐと言う手抜き……もといエコ設計のため、良くも悪くもプレイヤーは随所で既視感に襲われた事だろう。
それでも迫り来る魔物の臨場感や、仲間と共に切磋琢磨しながら攻め上る快感は中々の出来栄えであった。
……が。
蓋を開けてみれば、世間様の風は暴風のごとき吹き荒れた。
その理由については、じきに明かされる事になる。
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「では僭越ながら、今回は私デルニーアが進行を務めさせていただきます。宜しくお願い申し……」
「うっせぇぞボンクラ! とっととやれよケツ穴広げんぞオラ!」
「いたた、姉さん蹴らないでよ!」
この姉は身内と言えど容赦がない。
躊躇の感じられない蹴りが、デルニーアの尻肉に突き刺さった。
もはやお馴染みの光景であるが、若い女性が化け物を虐める姿というのは、なんとも異様な絵面であった。
「ええと、まず最も多かったご意見は、ロードが長い……ですかね」
「あぁ、それはもっともだな」
「メチャクチャ長いわよね。ちょっとした軽食が食べられるくらいには」
「おかげでリリアは食ってばかりですね。太りますよ?」
「うるさいわね。ちょっとくらい太ってたほうが女の子は可愛いのよ!」
サラリと語られてはいるが、これが不満の大部分であると言っても過言ではない。
回数ではなく、時間の方だ。
仕様上、ロードを必要とするタイミングは少なく、各ステージのアクションパートに入る前だけである。
何百ものキャラクターがステージ内を縦横無尽に駆け回るので、読み込むべきデータ量は膨大だ。
だからある程度は仕方ないにせよ、今回は限度を越えた時間であるというのが、ユーザーたちの共通認識だった。
『夜食のカップ麺にお湯いれてからロードした。待っている間に出来上がるどころか、水分が吸い付くされてブヨブヨになったころ、ようやくスタートした』
『ポテトチップス食いながら待ってたら、2袋平らげた頃に終わった。おかげで健康診断引っ掛かった』
『あんまり長すぎるから寝落ちした。起きたらゲームオーバーになってたクソクソのクソ』
『ロード待ってたらゼミに遅刻して単位落としたぞ。留年とかふざけんなボケ』
『↑それはお前のせいだろ?』
といった具合に、辟易するほどの時間を要するのだ。
短いもので3分前後、長いときは10分近く読み込んでしまう。
これでは批判もやむ無しと言ったところか。
「なるほどね、じゃあ編集モードいっちゃおうか文句無いよね?無いよな?じゃあ満場一致で移行……」
「ちょっと待ってリーディスさん! 問題は他にもあるんですよ!」
「んだよぉ。早いところやらせてくれよぉ」
不満顔のリーディスはさておき、難易度にも批判が集まっていた。
簡単すぎるのである。
具体的に言えば、仲間が異様に有能かつ高性能な為だ。
本来なサポートや演出程度の働きしか求められない人たちが、アッサリとエリアボスを倒してしまうのである。
その様子は終始変わらず、最終ボスのデルニーアでさえも同じ道を辿る。
つまり、主人公はさしたる危険を犯すこと無く、世界を救えてしまうのだ。
これでは没入も感情移入も出来やしない。
ちなみに、有志よりこんな報告がある。
『開始位置近くの安全な場所に移動してから放置。それを全ステージで試した。気づいたらオレはエンディング画面を眺めていた。誰か時間を消し飛ばした犯人を教えて欲しい』
『ゲーム会社じゃねぇの?』
『消しとんだのは果たして、時間だけかな? んん~~?』
『新作、8800円……。畜生!』
『ネットオークションでは値崩れ! 大崩落クラスの値崩れだ! 繰り返す!』
『いや、繰り返せよ』
『教授めっちゃキレてんだけど。どうしてくれる』
大学生らしき彼にはキチンと講義に出て貰うとして。
これは明らかな設計ミス、そして調整不足であった。
プレイヤーとしてはやはり、自分の手で悪を打ち払い、達成感を得たいものである。
「ふぅん。つまり、ロード時間が暇で、ゲームも簡単すぎるって話か」
「難易度はどうにかできても、読み込み速度を変えることは難しいですよね……」
「じゃあさ! 劇やろうよ劇! 5分10分あるんだから、色々と遊ぶ時間はあるじゃない!」
「うんうん。良いじゃねぇか。じゃあ決まりでーす」
リリアの提案はろくに吟味されること無く、ほぼ素通りしてしまった。
だが、すぐに雲行きは怪しくなる。
脚本は、配役はと決めていくうちに、皆が首を傾げ始めた。
ーーどうしてこうなったんだろう、と。
だが、後悔したくとも時すでに遅し。
ゲームは再起動され、再び彼らは編集モードの世界へと誘われるのであった。
安易な決断が果たして、どれほどの代償を支払う事になるのか。
この時の彼らには知る由も無い。
ただ漠然とした不安があるばかりである。
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