第42話 おやすみ
先に上がった紫は雨森家のリビングのソファーに横になるとすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
「紫ちゃん、眠っちゃったわよ。雪がひどく降る前にお家に送ってあげないと、ご両親がうるさいわよ」
百合が出かける支度をしながらまだ店の後片付けをしていた若店長に声をかけていく。百合は今から友達とクリスマス・パーティーらしい。
「わかってる。ちゃんと送るよ」
百合はそそくさと家を出て行く。雪がまだ舞っていた。
長い長い一日がようやく終わった。
朝から今までがいろんな事があり過ぎて自分の頭の中で処理しきれていなかった。
ふと携帯を見るとアガサから連絡が入っていた。
『酷い目にあったー ムカッ!
車凹んだし、五時間位小屋に閉じこめられて、部下に助けてもらわなきゃ小屋ん中で凍死するか、飢え死にするとこだったわよー!
で、冬哉、アパートに戻ってきてるから。鍵かけて出てこないわ。
事情は部下から聞いたけど、紫ちゃん大丈夫だったの?
連絡ちょうだいね。はーと』
そう書いてあった。
(自分のアパートに帰ってたか……)
ほっとする。
居どころがわからないよりましである。
折り返しアガサに、如月が変な気を起こさないように見張っておくように頼む。
すぐに、「オッケー、車ん中で寂しいクリスマス過ごしてやるわよ、覚えておきなさい」と返ってくる。
「すまん」
若店長は携帯に向かって頭を下げる。明日には如月に会いに行って、ぶん殴ってやりたい思いで一杯だった。
そういえば………、
今日は如月のいつもの一本のバラの事さえ忘れているな……と、たった今気付く。今日は仕方ないにしても、明日からは………、今迄通りに、普通の顔をしてバラを取りには来れないだろうと思えた。
(どうしたものか……)
そんな事を考えながらリビングに行くと紫はぐっすりと眠ったままだった。
(疲れたね。ありがとう………、少し、おやすみ)
若店長は紫の頭を軽く撫でると、とりあえず晩飯にする事にした。今日は昼飯を食べていないままだった。
紫とは、しばらく会えない日が続くかもしれないとそう覚悟していた。
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