第8話 どんなお客様?
「いったいどういうつもりかしらね、新田さん。二日も続けてだなんて……」
「見たまんまだと思いますけど」
と紫。
「好きな人に花束を届けているんです。誰かに二人の関係がばれないように『画家の花屋』を通してバラに想いを込めて贈られているんです」
「二日も? 続けて?」
「すっごく好きだから、だと思います」
「あらあら。紫ちゃんの言い方可愛いわね」
百合がコロコロと笑う。
「だって……」
紫の頬がみるまに赤くなる。
「紫ちゃんはまだまだ子供ね。
新田さんの左手、くすり指見た? 結婚指輪してたでしょ。完全に不倫確定だわ」
「そんな酷い事する人にはみえないんですけど」
「バレたら奥様相当ショックを受けるわね。まさか不倫相手が超のつく美少年だったなんて。女としてのプライド、ズタズタよね」
「女性以上に綺麗でしたよね、如月さん。でも、まだお二人の関係が不倫なのかは決まったわけ……」
「声、外まで聞こえてますよ」
「きゃあ、店長っ」
配達から帰ってきた若店長が店先から入ってくる。
「なんなんですか? 卑猥な単語が聞こえたんですが。お客様のプライバシーに一介の花屋が口をつっこんじゃダメですよ、母さんも紫ちゃんも」
若店長がはっきりとした口調で厳しく叱ってくる。紫はしゅんとちぢこまる。
「まあ、いっばしの事言うようになって」
母の百合はけろっとしている。
「お客様あっての花屋ですからね。信用第一、陰口なんて誰がきいてるかわからないんですから口は慎んで下さいよ。
ところで、さっき出て行ったお客様がどうかしたんですか?」
「聞いてたんじゃないのかい?」
「最後あたりだけですよ。母さんがお客様を外まで見送るなんてないなぁと思って、外で見てたんですよ。で、そのまま表から入ってきたら二人が仕事さぼってるし……ですね」
「あー、母さん仏壇に手ぇ合わしてくるよ。あの人の後ろ姿見てたら、死んだ父さん想いだしちゃったよ」
そう言って百合はそそくさと店の奥へ行く。バタバタと渡り廊下を走っていく音と、
「ごめーん、ごめんよ、父さーん」
遠去かっていく百合の声。息子にごたごた言われたくないために逃げたとしか思えなかった。
「変な人だろ——」
「えっ、全然そんなことないですよ。礼儀正しくて男前で、目元が優しげで」
「あー、僕、母さんのことを言ったんだけど」
若店長と紫の会話も変にかみ合わない。こんな事がよくある二人だった。
若店長はすでにラッピング済みの一本の赤いバラを見つめてから言った。
「で、どんなお客様なわけ?」
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