第7話 確認

「こんにちは、お嬢さん。昨日はどうでしたか?」


昨日と同じ夕方五時頃。

新田裕介が再び『画家の花屋』に現れた。昨日の受け渡しがしっかり出来たか確認しにきたようだ。

紫も百合も、もしかして今日も来店するのではないかと新田を心待ちにしていただけに満面の笑みで彼を迎える。


「いらっしゃいませ。

昨日は御来店ありがとうございました。ご要望通り、如月冬哉様にお渡ししましたので……」


百合が愛想の良い笑顔で対応する。年を重ねても美人で、優しげな目元がほころんでいる。


「この店の奥様ですか、初めまして。新田裕介と申します。昨日はお世話になりました」


新田は折り目正しく頭を下げる。とても好印象を与える人だ。

頭を上げると新田は嬉しそうに微笑んでいた。笑うと目尻に魅力的なシワが寄る。


「それでは………」


新田はにっこり笑って言った。


「今日もまたお願いいたします」


「えっ?」


紫と百合は驚いて顔を見合わす。

新田はそう言うとバラが入っている保冷の効いたショーケースの方へ行く。

紫と百合は新田の後ろ姿を見つめ、再び顔を見合わせる。


(今日もなの?)


(どういうこと?)


「これが、いいかな」


新田は昨日と全く同じように赤いバラを一本だけ選んでレジカウンターに持ってきた。


(既視感———、昨日と全く同じ。繰り返し? 何なの?)


紫は戸惑いながらも透明なセロファンに赤いバラを包む。百合がその間に会計をすませた。


「すいませんね、今日も」


変な客だと思われていると判ったのだろう。新田が頭を下げて謝ってくる。


「お店を受け渡し場所に使わせてもらって。お二人には手間をかけさせて申し訳ない」


「いいえ、気になさらないで下さい。ご贔屓にして下さるお客様あっての商売です。何なりとおっしゃって下さいね」


百合は本気でそう思って言った。


「ありがとう。そう言ってもらえると助かります。

如月はあまり愛想のない子でイヤな感じを受けたかと思いますが、人見知りの激しい子なので許してやって下さい。慣れれば少しは話すようにもなると思うのですが」


「いいえ、私どもはそんな風には思っておりませんよ。

礼儀正しい方とお見受けしました。それに、本当に綺麗な方でビックリしてしまいました」


「いや、まあ、そこそこには………」


新田は曖昧に笑ってごまかす。

あの如月冬哉を見たあとでは、この二人が同性の恋人同士であることは明白な事実だった。それほどまでに如月冬哉は女性はもちろんだが、ある種の男性を惹きつける雰囲気を、色気をだしていた。


「それじゃあ、また如月に渡して下さい。六時には絶対に来るようにと言ってあるので」


「はい、承りました」


紫はニコッと笑ってから軽く一礼する。


「ありがとう、よろしく頼むよ」


そう言うと新田は店を後にした。百合が駅の方へと歩いて行く新田を見送りに出て行く。

昨日と同じようにレジ横の小さなバケツには一本のバラが置かれる事になった。

紫はそのバラをじっと見つめてしまう。


愛してる。


バラの花言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。

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