第6話
それから1年経ち、祖母の容態が急変したと母から聞いた。いつか来るとわかっていたその日だったが、青年はあの日の会話を思い出し、必死に涙をこらえた。
話に聞くところ、家族のことも分かっているかどうか微妙だと言う。青年は、生まれた時から無償の愛を注いでくれた祖母も、もはや自分の姿は分からないのではないのかと不安になった。
数日後、祖母に会いに行った。祖母は寝たきりで、あの日よりさらに一回り小さくなっていた。
祖母に耳元で声をかけてあげてと母に言われた。しかし、青年はなんと言えばいいのかすら分からず混乱しながらも手を握り、声をかけた。
はじめは眠っていたのか、うつろの表情だった。様子を見ながらもう一度耳元で会いに来たよというと、突然祖母が閉じていた目をゆっくりと開いて、言葉にならない声を出した。
目を開くことも、話す事もほとんどなかったと聞いていたので青年はとても驚いた。
祖母の目は明らかに青年だとわかっていたまなざしだった。
そして本能から祖母は自分に会いたいと思っていてくれたのだと。待っていてくれたのだと。
それからも祖母は、片時も目を離すことなく青年を力強く見つめ続けた。その姿に青年は涙を止められず、またしても嗚咽した。
そして、「心配ないよ」と耳元でささやいた。
祖母は分かったよと言いたげに、僕の方を決して目をそらさずに見つめ続けた。その姿をみて、青年は涙が止められずにいた。
数十分経ち、祖母は全力を振り絞って疲れたのか眠ってしまった。それからも青年は優しく手を握り続け、寝顔を見つめていた。
完全に眠りについたところで、帰路についた。青年は気持ちのやり場も分からず、一緒によく行ったスーパーへ行きお茶を買った。
電車に乗り、辛い気持ちを必死にごまかそうと買ったお茶を飲み続けた。その日はなかなか寝付けなかった。
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