Episodio 33 「滅亡した世界」

 次にレオンが目を覚ますと、レオンは車の運転席であった。

 どうやら夢を見ていたらしい、目をこすり視界が鮮明になると車のフロントが真っ赤に染まっていることに気がついた。


(そうだ、確かマドンナリリーから逃げて、それで・・・・・・)


 後方の座席を確認すると、シュンとシェリーが寄り添うようにして眠っていた。

 レオンが声を掛けても起きる気配がなく、仕方なくレオンは車から降りてみると、真っ赤に染まった町並みが広がっていた。

 建物、人間、犬に虫に車、ありとあらゆるものがあの血の津波に飲まれたのだろう。

 時計も携帯も壊れており、いったいあれからどれだけ時間が過ぎたのか分からずレオンはとにかく歩き始めた。

 血のにおいはしないが帰って不気味で、異様な風景を更に際立たせていた。

 音を失った世界は、レオン以外に音を発する者は誰もいない。

 

――世界は滅亡してしまったのだろうか。


 レオン以外に誰も歩いている者がおらず、仕方なしにマドンナリリーがあるバチカンのシスティーナ礼拝堂に戻るとそこにアドルフォの姿はなく、大量に狂い咲いていたマドンナリリーもなかった。

 加えて、レオンはあることに気がついた。

 ここが血の津波の発端だったのにも関わらず、この空間は血の色1つない。

 ミケランジェロの最後の審判も、無傷のままである。


「まさか、あれが最後の審判だったのか?」


 あの血の津波が審判だとしたら、生き残ったのはレオンだけということになる。

 そんなバカな。

 レオンは法を犯し、罪を重ねたギャングだ。

 神様なんてこれぽっちも崇拝していないし、これが審判の結果だとすればとんだ笑いぐさである。

 唯一他の人間と違ったことで思いつくのは、悠莉が夢の中でレオンをこちらに戻してくれたということだろうか。


「俺の思いは届いている・・・・・・か」


 システィーナ礼拝堂に何もないと、心当たりがあるのは1つ。

 レオンはその足で、フィレンツェに戻っていった。

 車が動かないので、徒歩で変えるしかなく時々休みながら日付をまたぎ、フィレンツェに戻りレオンだけが知る秘密の場所にへと足をはこんだ。

 皺1つなかったスーツはうすら汚れ、裾は血で変色してしまっている。


「やっぱりな」


 そこは、悠莉が眠る場所だった。

 人気のなく、静かにフィレンツェを見下ろすこの丘はレオンのお気に入りの場所でここのことを知っているのはレオンと悠莉だけだ。

 レオンは悠莉の眠る場所に膝を降ろし、優しく語りかけた。


「お前は本当に凄い奴だな・・・・・・、誰にでもできることじゃねえよ」


 ――敵を愛し、迫害する者の為に祈りなさい。


 レオンは彼女が眠っている場所で一人ぽつんと咲いている白百合に、そっと口づけると、爽やかな風が吹き抜けた。

 風は白の花弁を引き連れて、フィレンツェからシエナ、ヴィネツィア、ローマ、ナポリと駆け抜けていく。

 白い花弁たちはまるで天の使いかのように、血の津波で色を失っていた町並みは何事もなかったかのように掃除をしていく。

 そして動きを止めていた人間の瞼が持ち上がり、犬は吠え、虫が飛んでいく。


 息を吹き返したフィレンツェをすがすがしい気持ちで眺める。

 彼女と過ごしたこの町を、レオンは一生守っていこうと誓うのだった。

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