Gioia per essere in contatto con te ・ Ti amo, ma dispiacere per il ritardo
――その後、うるわしの純白会が起こした事件はアドルフォが消息不明・フェデリコ行方不明というオチで真相は闇の中に葬られた。
2人の教主によって活動していたうるわしの純白会のほとんどが逮捕、起訴され今は刑務所の中にいるという。
信者は全員男で、性器がないという特徴から世間からは気味悪がられ、その後信者たちがどのような人生を送ったかはシュンは知らない。
一時はニュースを騒がせていたうるわしの純白会も、政治家のスクープや人気俳優の電撃結婚で流され、うるわしの純白会が起こした奇妙な事件の数々はあの年に起きた事件、という特集でたまに見かけるくらいになり、ほとんどの人の記憶から消え去っていった。
スピラーレも落ち着きを取り戻し、以前のようにイタリア中を駆け巡ることもないという。
マッテオは相変わらずラヴェンナのレストランテで働き、ミケ―レが報告する資料に目を通すだけでほとんど運営はミケ―レに任せきりだった。
とんだ自由人であったが、何かあれば駆けつけられるようにマッテオの携帯電話の電話帳の一番上にレオンがくるように設定されてある。
ミケ―レはそんな出不精のボスの代わりに学業の傍ら、スピラーレのお金の管理や小競り合いの報告などを受けていた。
最近では町を歩いていると、デッサンのモデルになって欲しいと声を掛けられたり、無視をしたりと多忙を極めていた。
しかし、この事件を経てミケ―レも成長し、少し冷たい印象だったミケ―レは年相応に笑ったりすることが増えていた。
組織をまとめようと必死に年齢をカバーする為の背伸びをやめた彼は、いつかレオンを越える逸材になるかもしれない、とマッテオから言われ、言葉では素っ気ないことを言いつつも、どこか嬉しそうにしていた。
ポアロはスピラーレ内でひっそりとお葬式が挙げられた。
参列者は少なかったが、レオンは彼の墓に大きな花束を供えた。
彼のおかげで、シュンは生け贄になりそうだったところを救われたのだ。
彼の死は無駄などではない。
レオンとシュンに大けがを負わされたバルトロメオは退院したものの、2度も敵の組織の人間であるレオンに痛い目に合わされ、立つ瀬がなくなり、小指と引き替えに田舎へと引っ込んだ。
その後の消息は誰も知らないが、あれはあれで図太い男だからどこかで生きているに違いない――とレオンはぼやいた。
南北イタリア独立軍は、その後壊滅。
ボスのマルクスが病死し、後任の座を狙い派閥に別れて争い、自滅したのである。
北だ南だ、ローマ人だフィレンツェ人だシチリア人だの言いつつも、イタリアはイタリアのまま、変化することはなかった。
レオンとシュンはといえば――
「お前にしては随分甘い処遇だな」
「しばらくあなたには頭が上がりませんからね、でもこれで貸し借りなしですよ」
いつも3人がいた隠れ家にいるのは、ミケ―レとレオンの2人のみである。
レオンは長い足を組み、優雅に煙草をふかして、ニヤリと笑った。
「今頃はもうギリシャに到着してますかね・・・・・・」
「さあな」
能力見合わず、としてギリシャに左遷という名目でスピラーレから無傷で足を洗うことを許したミケ―レは窓の向こうの青空に白い線を引く飛行機を眺め呟いた。
(何もかも、これであいつが来る前に元通りだな)
悠莉が咲かせた白百合の奇跡は、何故か誰も知らない様子だった。
レオン以外の人間の記憶は、何故かマドンナリリーが流した血の津波が襲いかかるというものではなく、うるわしの純白会が町中に潜ませていた爆弾によるものとすり替わっていたのだ。
ただ、それは殺傷性の低いもので少量の睡眠薬が仕込まれていたという程度だった。
レオン達を追う為に目の前にある全てを突き飛ばしたうるわしの純白会がそんなことをするかと疑問に思ったが、何故かそういう風に世間一般では認知されていた。
だが、レオンはこれでいいと思い、何も言わなかった。
あの奇跡は、誰の目にも触れず、そっとレオンの心の中でしまい込むことに決めたのだ。
「じゃあ、俺はちょっくら外歩いてくるか」
「ナンパですか」
「馬鹿野郎、俺は妻帯者だぞ」
薬指に光る指輪が、太陽の光を反射してキラリと光った。
「ねえ、本当にいいの?」
イタリア空港はストライキにより飛行機が遅延どころか空港そのものが機能停止に陥ってしまい、シュンとシェリーは待合室で足止めを食らっていた。
運が悪いな、と幸先の悪さにげんなりしてしまうが、シェリーはまたそのこととは別のことを尋ねてきた。
「いいよ、ミケ―レがオッケーだしてくれたんだし」
「そういうことじゃなくて! ほ、本当に私なんかのためにギリシャに行っていいのかって」
そういう話をしているの、とシェリーはシュンの腕を掴んだ。
存外臆病で心配性らしい彼女に、シュンは安心させようと手を重ねる。
彼女の指が冷たいのか、それとも自身の手が熱いのか、頭の隅でそんなことを考える。
「うん。 シェリーの生まれ故郷に、僕も行ってみたいんだ」
その地に生まれ、幼少期を過ごしたという愛しい人の故郷へ行ってみたいと思うのは婚約者として当然なはずである。
しかし思った反応が得られなかったのか、シェリーはゆるゆると首を振る。
「そうじゃなくて・・・・・・、私、薬付けなのよ。 ホルモンバランスだって生理周期だって乱れてる。 子供が、できないかもしれないのよ」
シェリーはそういうことを心配しているらしい。
シュンには他の女性と結婚して、子宝に恵まれて生きる道があるのではないかと暗に話しているのだ。
ようやくシェリーが話したいことを理解したシュンは、静かに言い聞かせるようにシェリーに話した。
「僕は子供が絶対に欲しいわけじゃないよ。 それに、そういうものは結局どうなるか神様にだって分からないよ。 健康な人でも衝撃があって流産しちゃうこともあるかもしれないし、不健康な人が赤ちゃんを産むことだってあるかもしれない」
それに、とシュンは付け加える。
「僕は未だ見ぬ赤ちゃんよりも、君の方が大事だよ」
そう言うと、シェリーは観念したのかこくん、と頷いてシュンにもたれかかった。
最初ミケ―レにギリシャ行きを告げたときは指や腕の1本や2本失う覚悟だったが、まさかこうして五体満足でイタリアを出られるとは思わなかった。
シュンがスピラーレにいたのはわずかだから、そのうち早々に忘れ去られるだろうと見越してのことかもしれないが。
父と母に見放され、イタリアを出て日本で教育を受け、大学受験に失敗し、再びイタリアに来て、レオンに出会い、うるわしの純白会の奇妙な事件に関わり――シュンは婚約者を得て、今度はギリシャへと旅立つ。
こうして考えてみると、なかなか波瀾万丈な人生な気もするが、人生何が起きるか分からないものである。
きっと、あのマドンナリリーですら分からないであろう。
これから先の人生も色々あるかもしれない。
しかし、きっと大丈夫だという気がしてくる。
「そのうち、日本にも行きたいわ。 あなたが、育った場所・・・・・・育ての母という人にも会いたいし、悠莉のこと、伝えたいの」
「うん、そうだね」
喜びも悲しみも全て受け入れて、愛する人の傍にいよう。
Gioia per essere in contatto con te ・ Ti amo, ma dispiacere per il ritardo――
(あなたを愛する喜びあれば、あなたを愛する故の悲しみもある)
Ma Finché c'è vita, c'è speranza――
(されど生きている限り、望みはある)
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