Episodio 24 「アジトを出て」

 余計なことを口走りそうなシュンは出来るだけ口を挟まないようにして、レオンがギャングであることを巧妙に伏せて事情を話すとアンジェリカは完全に納得してくれた様子ではなかったが、大体の事情は理解してくれた。


「ふうん? まああなたちにも色々事情があるのは分かったわ、でもこれ以上は危険よ、市民を巻き込むわけにはいかないわ」


「アメリカから来たお嬢さんよりも俺たちの方がなんとなく、は分かってんだよ。 警察はどこまで奴らの尻尾掴んでんだ?」


「機密事項よ、市民には話せないわ」


「じゃあ俺たちの情報も話せねえな」


 レオンは煙草を吸いはじめ、煙をくゆらせる。

 アンジェリカは何か言いたそうにしたが、ぐっとこらえて唇を噛む。

 

「とにかく一旦戻ろう、悠莉が心配だ」


「そうだな、今日はもう奴らが動かねえと思うがあの家にはもういられねえな」


 レオンは煙草をくわえたまま車に戻り、シュンも後に続こうとするとアンジェリカに腕を捕まえられる。

 まだ何かあるのだろうか、と振り返ると


「念のため・・・・・・、あなたの番号教えて。 もし奴らがあなた達を狙ってたら危険だからね、危なくなったら電話してちょうだい」




 レオンの家に着いた時、時刻は既に深夜3時を過ぎていた。

 もしかしたらもう寝てるかもしれない、と話していたがアパートのレオンの部屋から灯りが零れていた。

 もしや、と思い急いで駆け上がり鍵を開けるとそこにいたのは悠莉と楽しそうに話しているシェリーだった。


「シェリー!? なんでここに・・・・・・」


 何も気づいていない悠莉は少し眠そうな目つきでレオンの元に歩み寄り、ハグを交わしている。

 思わぬ人物の登場に、レオンもどうしたらいいのか分からないのかシェリーから隠すように悠莉を抱きしめる。


「そこまで警戒しなくていいじゃない、奴らがその子を狙ってるのは分かってるんでしょう? 念のため見守ってたのよ」


「お前、うるわしの純白会の信者じゃねえのか」


 えっ、と驚いている悠莉をよそにシェリーは不敵に笑う。

 思い起こせば、シュンに昼の儀式のことを漏らしたりとかなり自由に行動しているように見受けられる。

 いったい彼女は何者なのか。


「リナルド、シェリーさんは友だちなの。 さっきまで淳お兄ちゃんのことも凄く話してくれてたし」


「えっ、僕!?」


 今度はシュンが驚く番であった。

 シュンとの出会いからデートに遅刻してしまった話までしてくれたの、と言われれば毒気も抜かれてしまいレオンも苦笑いして悠莉の頭を撫でる。


「どうやら、手下ってわけでもなさそうだな」


「疑いは晴れた? なら早くここから離れた方がいいわ。 今夜はアジトを襲撃されて後手にまわってるけど、その子は最優先事項で狙われてる。 どこかに隠れた方がいいわ」


 そう言い残し、シュンとレオンの横を過ぎ去ろうとしたシェリーを悠莉が呼び止めた。

 

「あのっ、シェリーさんも一緒に行きませんか」


 レオンの腕をすり抜けて、シェリーの手を取る。

 思いがけない提案にシェリーは目をまるくした。


「迷惑だったらごめんなさい! でも、同性の人がいてくれると、安心できるというか・・・・・・あ、リナルドがいてくれるのも安心するんですけど、でも!」


「そうね・・・・・・女同士でしか出来ない話もあるものね」


「そう、そうです! まさにそれ!」


 でも、とシェリーは優しく悠莉の手をほどいた。


「今はできないわ・・・・・・、これ以上奴らから離れたら怪しまれるからまた時間をみて会いに行くわ」


「本当ですか?」


「ええ、約束よ」


 いつの間にか姉妹のように仲良くなっていたシェリーと別れ、悠莉はレオンの車に乗りその場を後にした。

 姿が見えなくなるまで手を振っていた悠莉が、その後ぽつりとこう呟いた。


「シェリーさん、大丈夫かな・・・・・・」


 自身が狙われていて1番危険なことを棚に上げて他人の心配をする相変わらずな恋人を、レオンは優しい声で「大丈夫だろうよ」と言ってあげるのだった。

 そしてレオンが車を走らせた先は豪勢な館であった。

 フィレンツェの郊外にある閑静な町の通りで、インターホンの暗証番号を勝手知ったる様子で入力し、玄関に向かうとレオンの到着を見計らっていたのか扉が内側から扉が開かれる。


「こんな夜遅くに何です?」


「ミケ―レ? え、ここミケ―レの家? でかっ」


 どうやらこのミケ―レの家で悠莉を預かってもらおうという考えらしい。

 夜遅くにすみません、と申し訳なさそうに悠莉が頭を下げる。

 車の中で船を漕いでいたので、眠気のピークに達しているのか話し方が拙くなってしまっている。


「まずは訳を聞きましょうか、ユーリさんは客室のベッドを使って下さい」


「でも、わたし1人で先に寝ちゃうのは・・・・・・」


「女性がこんな夜遅くまで起きているのは関心しません、どうぞお気遣いなく」


 悠莉は自分には聞かせられない話をするのだと察して、ミケ―レの手慣れたレディファーストのエスコートで客室に案内してもらい、ようやく眠りにつくことが出来るのだった。

 戻ってきたミケ―レはこんな深夜3時を回った時間にわざわざ来たということは、それなりの理由があるんでしょうね、といつになく機嫌が悪そうであった。

 シュンは居眠りをしようとするレオンをたたき起こしながら、アジトで聞いたこと発見した物を説明する。


「もしかしたら、アジトは僕たちのようにイタリア各地に点在しているのかもしれませんね。 次の儀式も、もし僕たちをおびき寄せるための罠だとしたら少し考えなければいけませんね」


「警察が何人かうるわしの純白会の信者を逮捕してたし、万が一ルーカの時みたいに口封じで殺される前に情報が聞き出せたらいいんだけど」


 悠莉が狙われているということもあり、対策に難航していると眠たい中無理矢理起こされているからか、疲労が溜まっているからか虫の居所が悪い様子でこう言った。


「あいつの所に行きゃあすむ話だろ」


「あいつって?」


「ユーリの情報をうるわしの純白会に売った奴にだよ」

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