Episodio 23 「アジトの内部」

 扉を開けて横から迫ってきたうるわしの純白会の信者を撃ち、シュン達はアジトの中に侵入した。

 物陰に隠れながら発砲していると、1階に数名の信者が残り、あとの信者は2階のフロアへと移動していた。

 

「くそっ、逃げられるとまずいな」


「もう少しで私の仲間が来るって言ってるでしょ、それくらいの時間は稼ぎなさい」


「イタリアの警察ほど信用ならねえ物はねぇと思わないか?」


「プッ、言えてる」


「喋ってないであいつらやっつけてよ!」


 アンジェリカが少しずつ信者に近づき、物陰に隠れていた信者を撃つと残りの1人がアンジェリカを狙撃しようと動いた瞬間を狙って今度はレオンが撃ち抜いた。


「ナイス」


「あったりめえだ、これくらい」


 どうやら2人の相性は良いらしい。

 シュンは1人でハラハラさせられてため息をつくと、2人の後ろを着いて上へ上がっていった。

 この建物は3階ほどあり、一階がバール二階以降が事務所となっている。

 それほど広くもないので、隠れられる場所もそれほどないはずと踏み、3人は2階の扉を開き、銃を構えた。

 するとそこに信者の姿はなく、散らかった部屋になにやらメモが貼られたり、色々と書き込まれたホワイトボートが鎮座している。


「私は先に上を見てくるわ、レオン、あなたも一緒に来て」


「美人の言うことは無下にはできねえな」


「わかった、2人も気をつけて。 僕はこの部屋を探してみる」


 アンジェリカとレオンは銃を構えながら、上のフロアに上がっていく。

 2人も銃の腕前は一級品だ、シュンはあまり心配することなくこの部屋のめぼしいものを探すことに集中する。

 警察が来て、押収される前に何か手がかりはないかと机の引き出しを見てみると一冊の日誌が入っていた。


 ――〇月✕日

 マドンナリリーの歴史を辿り、ようやく手にすることが出来たが、まさか観光客が入り込むのは想定外だった。

 虫の息だった信者が最後の力を振り絞り、私に教えてくれた。

 しかし、思わず殺してしまったなんて周りに示しがつかない。

 これを儀式とし、以降マドンナリリーにどれほどの力が秘められているのか実験することとする。


 ――〇月△日

 おかしい、マドンナリリーは生と死を司るのではないのか?

 どれだけ試しても人は死んでいくばかりだ。


 ――▢月〇日

 あいつが面白いことを教えてくれた。

 なんとあの日殺してしまったはずの観光客が生きているのだという。

 あれだけの致命傷を受けて生きているということは、マドンナリリーが彼女に生の審判を下したに違いない。


 ――△月×日

 どれだけ探しても、彼女が見つからない。

 唯一の成功例である彼女を逃すわけにはいかない。

 必ず見つけ出し、どうすれば成功するのか徹底的に調べる必要がある。


「これは、まさか教主の日記・・・・・・?」


 シュンはもっと何か証拠はないかと本棚を探ると、顔写真付の資料が目についた。

 顔写真、名前に次いで生い立ちのようなものが記されている。

 その共通点に気づき、シュンは敵ながら関心してしまった。


(この人たち、みんな親から虐待されたり、いなかったり家庭環境が悪い人たちばかりだ・・・・・・。 たぶん、母親という存在に憧れを抱いている人たちをうるわしの純白会は信者として引き込んでるんだ)


 シュンもそのうちの1人である。

 もしかしたら自分も日本で引き取られず、イタリアであのまま育っていたらこのカルト教団の勧誘に応じてしまっていたかもしれない、と思うと先程シュンたちに銃口を向けてきた信者たちが哀れに思えた。

 それから資料を元の場所に戻し、シュンはホワイトボードへと視線を移動させる。


「これ、もしかして儀式のこと?」


 ホワイトボードには地図が貼られており、上から赤ペンで線やら丸印やらが書き込まれている。

 曙の儀式があったメディチ家礼拝堂、昼の儀式があったダンテの墓、そしてウフィツィ美術館やバチカン、サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ大聖堂、サン・ピエトロ大聖堂など何の繋がりがあるのかさっぱり不明の建物や地域にも印が入っている。

 次の儀式の場所を表わしているに違いない、と印のはいった箇所をなぞり、辿るが一向に手がかりが掴めない。


(落ち着け・・・・・・、今までの儀式を思い出すんだ。 奴らはルネサンスにそってこの儀式を行なってる。 曙はメディチ家だから、これはルネサンスが開花したのはメディチ家の支援あってのことだから、つまりルネサンスの黎明・・・・・・曙)


(そして、昼が神曲のダンテ。 神曲はルネサンス黎明期に作られた作品で、ダンテが地獄をまわる話。 だとすれば、次は黄昏と夜だからルネサンス絶頂から後期の作品が考えられる。 今まで見たのはメディチ家の彫刻と、ダンテの文学・・・・・・あとは絵画と政治か?)


 あともう少しで何か分かりそうな・・・・・・その時、


「動くな!」


「・・・・・・なんだ、警察か」


 アンジェリカの要請した警察の増援がやって来て、シュンの思考は打ち切りにされた。

 その後、教主こそ逃したものの10名ほどの信者を捕らえたレオンとアンジェリカも降りてきてアジトは警察が調査することとなった。

 あわば不審者で逮捕されそうになったが、アンジェリカの助けにより2人はそれ以上警察から何か言われることもなくやり過ごせたが、


「助けてあげたんだから、正直に話してもらうわよ?」


 FBIの手帳をかざしたアンジェリカからは逃れられないのであった。

 

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