Episodio 25 「教主の正体」

 男はこれまでになくイラついていた。

 どこで嗅ぎつかれたのか、隠れ家に警察の捜査が入ってしまった。

 そして最後の希望であるあの女を匿っていた男の家に忍び込んだが、既に逃げられた後で空っぽだったのである。

 無駄足を踏んでしまった男は、警察の目をかいくぐり帰路につき、明け方になってようやく家に辿り着いた。

 疲れはピークに達して今にも眠ってしまいたい気分だったが、そんなことをしている場合ではないと自宅に残っている重要な証拠品や書類を鞄に詰め込んでいた。


「随分お疲れみたいだな」


「なっ、お前は・・・・・・レオン!」


「とシュンです、お久しぶりですね」


 疲れのあまり気配に鈍感になっていたのかいつの間にか、研究室にレオンとその連れであるシュンが侵入していた。


「ずっと思ってたんだ、マドンナリリーの力の使い方をどうやってうるわしの純白会が知ったのか」


「・・・・・・何を言っているのかさっぱり分からないよ。 僕がうるわしの純白会にマドンナリリーの使い方を教えたっていうのかい??」


「推測での使い方を、ですね。 俺がここにユーリを運んであんたに診てもらった時、気づいたんだろ? あれだけの致命傷を受けて、生きてるのはおかしいって。 それでマドンナリリーの力を確信した、そうだろ? フェデリコ」


 フェデリコはぐっ、と唇を噛んだ。

 やはりレオンは最初から自分を疑っていたのだ、そしてあのユーリという女のことを話しているのを目撃し確証に至ったのであろう。


「シエナのマッツィーニ通り・・・・・・、ポアロが残した言葉、これもあんたを指したメッセージだった。 お前は最初マドンナリリーの力を試すため、儀式と称しながら実験をここでしてた。 ポアロを殺したのもお前だな?」


 ここまでわかれば、以前フェデリコの家に来た時に受けた襲撃も、フェデリコの命を受けて信者たちが控えていたのだろうと想像がつく。


「レオン・・・・・・君の頭の回転の速さには恐れ入るよ。 でも、1つ違うことがあるなあ、ポアロは僕が殺したんじゃない。 自ら死んだのさ、うるわしの純白会の洗礼を拒否したからね!!」


 ほら、みてごらん。 と、フェデリコは研究室のカーテンで仕切っていた自慢のコレクションを見せびらかした。

 そこでレオンとシュンの視界に飛び込んできたのは、無数のホルマリン漬けにされた男性器であった。

 壁一面に飾られた男性器に苦虫を噛んだような顔をするレオンと顔面蒼白にするシュンに対し、フェデリコはその内の1つ瓶を手にとってすりすりと頬づりをしてうっとりとしている。


「うるわしの純白会の洗礼で、切り離した息子たちさ。 奴らは穢れを何より嫌うからね、まるで性欲を精神異常ととらえた中世のキリシタンのように!」


 だから昼の儀式の時に仲間かどうか確認するために、下半身を触ろうとしたのか・・・・・・とんでもない変態集団だ、とシュンは身震いをした。

 つまり、ポアロはこの洗礼が嫌だったがスパイとしてここで逃げるわけにはいかないという責務に駆られ、悩んだ末に自殺をしたということになる。


「どうして悠莉のことをうるわしの純白会に漏らしたの」


「ん? 僕はその時既にうるわしの純白会の信者だったのさ、マドンナリリーのこととあれば情報を共有するのは当たり前だろう?」


「どうして、うるわしの純白会なんかに・・・・・・」


「冗談言うなよ、この息子たちを集める為に決まってるだろう!? 教主ともなれば、洗礼と称して手術後そのまま息子たちを回収できるからね! もっと、もっと信者を増やして洗礼を施さないと・・・・・・ふひっ、ふひゃひゃひゃひゃ」


 瓶を舐めながら狂ったように笑い声を上げるフェデリコに、シュンは言葉を失った。

 できるだけ、殺しはしたくなかった。

 だがしかし、この男は自分の欲望の為にここまで被害者をだしたうるわしの純白会を設立し、まだその被害を増やそうとしている。

 この男のせいで、悠莉は死んでしまったといっても過言ではない。

 シュンは震える手で、銃口をフェデリコに向けようとするとそれを制止する手が伸びた。


「このゲス野郎が。 地獄に落ちるより酷い目にあわなきゃわからねえようだな」


 レオンは拳銃を構え、淡々とフェデリコのコレクションを撃ち抜いていく。

 フェデリコは血相を変えて、断末魔をあげた。


「うわあああ! なんてことをするんだッ! コレクションが、僕のコレクションがあ~~~~!!」


 地面に無残に落ちて砕けてるコレクションを必死でかき集めるフェデリコにシュンは吐き気を催した。


「いいかッ! シュン、俺たちスピラーレは麻薬はやらねえ、何故か分かるか? 麻薬っていうのはすげえ依存症だな、欲しくて欲しくてたまらねえって廃人になる。 麻薬に魅入られた奴は、その魅力に絶対抗えねえ! だから、俺たちはそれをに使うのさ」


 相手を麻薬中毒の状態にさせて禁断症状が出始めた時に麻薬をちらつかせて情報を得る、それがスピラーレのやり方だ。

 時間は少々かかるが、確実に情報を掴みたい時に有効な手段である。

 注意をしなければならないのが、中毒の重度度合いだ。

 あまり重度になると狂って話が通じないためである。

 レオンはそう説明しながら床に這いつくばるフェデリコを縛り上げ、口に無理矢理麻薬を突っ込むとトイレの中に閉じ込めた。


「すぐに殺しちゃあ意味がねえ、奴にはたっぷりと地獄を見てもらう」


 悠莉を危険にさらした人間はレオン直々に手をくだす。

 スピラーレが持っている各地の隠れ家の中には拷問専用の部屋がある所が存在する。

 いくらシュンともいえど、最後は豚の餌にされてしまうであろうフェデリコに同情の余地はこれっぽちも湧かなかった。


「片っ端からこいつの家を探すぞ」


 

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