Cosa puoi fare

「もーっ、リナルドったらまた靴下裏返しのまんまで洗濯機に入れてる!」


 芸術の都フィレンツェの昼下がり、洗濯物を干していた悠莉は男物の靴下を手にため息をついた。

 何度言ってもあの男は靴下を裏返したままで洗濯機に放り込むのだ。

 なんなら、ズボンやシャツもひっくり返ったままである。

 注意しても、怒った顔も可愛いとかなんとか適当にはぐらかされてしまうのが常である。

 悠莉は今日もそうして物干しを終え、夕食の買い出しに行こうと支度をしていると携帯にメッセージが届いているのに気がついた。

 メッセージを要約すると、今日は帰らないので夕食はいらないという内容であった。

 要約しないと、君の手料理が食べられないなんて地獄だだとか愛しいシニョリーナがどうたらこうたらと長々と綴られてある。

 悠莉はあっさり「わかった、お仕事気をつけてね」とだけ返信し、冷蔵庫を確認した。

 お酒のおつまみになりそうなものならあるので、買い出しに行く必要もそこまでないのだが、あまり外を出歩かないように言われている身で唯一許されているお買い物を取りやめると、本当に家から出る機会がなくなってしまう。

 ずっと家にこもりっぱなしというのも、気が滅入るし、何より寂しいものだ。

 家の主はここ最近家に帰ってくる時間も遅くなっているし、あるときは酷く憔悴した様子で帰ってきたときはどう慰めるべきか分からず、ただ寄り添うしかできない自分の無力さに情けなくなってしまった。

 本当ならば自分も助けになりたいが、あの事件の二の舞を心の奥、底から恐れている彼のことを考えれば言い出せるはずもない。


「よし、もしかしたら夜中にお腹減らして帰ってくるかも知れないし、何か作っておこう!」


 ならば、今の自分に出来ることを精一杯しよう、と悠莉はふんっと鼻息を荒くした。

 戸締まりをしっかり確認して外にでると、すっかり顔馴染みになった近所のマダム達が悠莉に声を掛けてくれたり、作りすぎたからとジャムを分けてくれる。

 Grzie! とハグとキスをするのも、すっかり慣れたものだ。

 悠莉はすっかり浮かれた様子で、近所のスーパーへと向かうのだった。







Cosa puoi fare――(私にできること)

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