Episodio 11 「裏切り」
翌日、指定された場所にシュンはレオンと共に待機していた。
サン・フランチェスコ教会は何故か閉館しており人の気配が全くせず、ジャコポやシェリーの言っていた儀式はどうやら本当に執り行われそうな雰囲気が流れている。
腕時計を確認すると、もうまもなく12時を迎えようとしていた。
思わず息を潜めてしまうような緊迫感の中墓のある建物の外から様子を窺っていると、とうとううるわしの純白会は姿を現した。
白いローブに身を包んだ6人ほどの信者が、その腕に百合の花を抱いていた。
信者は建物の中に入っていき、レオンとシュンは気づかれないように建物に近づいて中の様子を窺う。
信者たちは円になり、なにやらぶつぶつと唱えていた。
あまりにか細い声で囁くように話しているので、何を言っているのか全く聞き取れずなんとか耳を澄まそうとして、ふとシュンの脳裏に疑問が思い浮かんだ。
(生け贄が――いない)
まさか、とレオンに伝えようと声を発するより先にシュンの背後から鉄の棒がレオンに襲いかかった。
「レオン!?」
「はは! ざまあみやがれってんだ!」
「お前っ、ジャコポ! 一体何をっ、こんなことしてる場合じゃ」
シュンは意識を失い、その場に倒れ込んだレオンを庇うようにしてジャコポに問いかけるが、シュン自信も驚きと戸惑いで興奮してしまった上、言いたいことが山のようにあるため上手く言葉がまとまらなかった。
そんなシュンをせせら笑い、ジャコポは鉄の棒を肩に乗せて悪びれる様子もなく真相を話し始めた。
「俺も最初は真面目にうるわしの純白会について調べてたんだぜぇ? でもよぉ、この機会にレオンにひと泡吹かせられるって言われちゃあ・・・・・・なあ?」
「よくやった、ジャコポ」
「・・・・・・あなたがうるわしの純白会の仲間ですか」
ジャコポの後ろから現れた男は首を左右に振った。
「よく覚えとけ、おもらし野郎。 俺はパッパガッロのバルトロメオだ。 そこのレオンには借りがあるからなあ、後でオレ様がたっぷりお返ししてやる」
「おいおい、俺の分も置いててくれよ」
どうやらジャコポはパッパガッロに寝返っていたらしい。
悪巧みが成功し高笑いする2人に、シュンは弱みをみせまいと懸命に言い返した。
「そんなに大声だして、うるわしの純白会に気づかれたんじゃないのか。 こんなことしているうちに儀式が終わってしまうよ?」
「いいや、終われねえよ。 なにせ、今からがメインディッシュだからよお」
バルトロメオとジャコポは2人がかりでシュンの動きを封じ、こともあろうか儀式の最中のダンテの墓の前へと連れ出されたのである。
「おい、約束の品だ! ありがたく受け取れ!!」
シュンは混乱したまま信者たちの真ん中に放り出された。
バルトロメオとジャコポはニタニタと下碑た笑みを浮かべ、信者たちに囲まれたシュンを見ている。
パッパガッロとうるわしの純白会は協力関係なのか?
いったいいつの間にジャコポはスピラーレを裏切っていたのか、疑問はつきないが確かなのは、どうやらシュン自身が生け贄になってしまったということである。
(どうする、逃げるにしても入り口はあの2人が立ってる。 それに、気絶したレオンは放っておくわけにはいかない)
シュンを取り囲む信者たちは武器を持っている様子はなく、百合の花を手に抱いてなにやらぶつぶつと言ったままである。
がしかし、そこで様子が変わった。
1人の信者がシュンの前に立ち、今までとは打って変わり大声を上げた。
「春に会う花百合、夢路よりさめて、かぎりなき生命に咲きいずる姿よ。 ささやきぬ昔よりいでましし昔よ。 我らが祈りをお聞き届けください」
するとそれまで大人しくしていた信者がシュンを取り押さえようと襲いかかって来た。
「ストップ! 待って待って! これだよ!」
シュンは咄嗟にうるわしの純白会のボタンを掲げると、信者たちの動きがピタリと止まった。
なんとかハッタリを通せば逃げられるかもしれない、とシュンはものすごいスピードでどう言えばやり過ごせるかいくつもパターンを構築していく。
「真の我らが同士というならば、穢れなき体という証拠を見せよ」
「・・・・・・え」
(聞いてないぞ、そんなこと! このボタンが仲間の印じゃなかったの!?)
と心の中でレオンに叫ぶが、どうしようもない。
考えていたパターンがガラガラと崩壊していくのを感じていると、黙ってしまったシュンに追い打ちをかけるように再び信者たちが襲いかかって来た。
「ならば、無理にでも確かめるまで」
「ちょ、ちょ、わっつ!? わっーーーつ!?」
何故か信者たちはしきりにシュンの下半身目掛けて手を伸ばしてくる。
シュンは前屈みになって、なんとか手を振り払うが多勢に無勢。
シュンの制止する手を避け、誰かがベルトを掴んだのに気づきシュンは今までにないぐらい大声を張り上げた。
「ヘルプミィィイイイイイイ!!」
「おら、どけ、変態ども。 おままごとごっこは終わりだ」
聞き慣れた声にシュンはこれ以上ないほど、安堵し信者たちは動きを止めて振り返った。
するとそこには地に伏せたバルトロメオとジャコポ、そしてレオンが立っていた。
「レオンっ、無事!?」
「人の心配してる場合か、ちっとは自分の貞操の心配しろ」
レオンはまだ殴られた部分が痛むのか、頭を抑えつつも不敵な笑みを浮かべリーダー格らしい信者に歩み寄る。
「さて、うるわしの純白会さんよォ。 ワケを話してもらおうか?」
「・・・・・・我らは敵対するつもりはない。 こうなった場合の生け贄も用意してある」
なにやらリーダーの信者が合図をだすと、シュンを取り囲んでいた信者たちが離れていきレオンの足下で倒れているジャコポを引きずり出した。
その隙にシュンはレオンの元に駆け寄る。
「ちっ、フェデリコの野郎には聞きたいことが山ほどあったが仕方ねえな」
「何、どういうこと」
シュンはレオンから儀式の方に視線を移動させると、信者達がジャコポの四肢を押さえ顔には白い布地が被せられた。
「ささやきぬ昔よりいでましし昔よ。春に会う花百合、夢路(ゆめじ)よりさめて、かぎりなき生命(いのち)に 咲きいずる姿よ!」
信者が先程までのか細い声から一変、喉が破れそうな大声で叫ぶ。
(あれ、これ・・・・・・どこかで聞いたような)
そして残りの1人が、リーダーの信者から丁寧にガラスの籠に仕舞われた百合の花を受け取りジャコポの心臓の上に置き――ナイフで突いた。
くぐもったジャコポの悲鳴が漏れ、ナイフを抜くと、その傷口に百合を突き刺した。
「なにが純白だ、血の色じゃねえか」
レオンの言うことはどもっとも、白百合ジャコポの血を――吸収していた。
次々とあふれでる血液は服に広がらず、床に流れず、白百合が吸収しているとしか思えないほど尋常ではない光景が広がっていた。
「どういうことだ・・・・・・まさか、おい」
「あれが、マドンナリリー・・・・・・?」
ただ皮肉で言っただけだったはずのレオンの言葉だったが、この世のものとは思えない出来事を目の当たりにした2人は、ただ貪欲に血を啜る百合の花を呆然と眺めることしかできなかった。
いつしか真白の花弁は真っ赤に染まっている。
「生と死を操る花・・・・・・それがマドンナリリーです」
「なるほど、それがマドンナリリーか」
シュンは驚いて振り返ると、そこには新たなる乱入者、武装した5人ほどの男が立っていた。
「悪いが、マドンナリリーは我ら南北イタリア独立軍がもらい受ける」
次からの儀式は荒れるわよ、というシェリーの忠告が脳内を木霊した。
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