Episodio 07 「襲撃者への尋問」
「ジャコポ、用件なら早く済ませて下さい。 僕はもう出ますよ」
時計の針を確認し、ミケ―レはエスプレッソを飲み干してスクール用の鞄を背負う。
こうしてみれば彼は年相応の子供に見えて、ジャコポは腹の奥で「まだガキじゃねえか」と嘲り笑うのであった。
レオンもそうだが、このミケ―レというガキもジャコポは気に入らなかった。
たった17才だというのに、スピラーレに及ぼす影響力は強いということしか判明しておらず、いくつの時に組織に加入したのか、その役職すら知られていない。
とても頭の切れる奴ということは理解しているので、ジャコポはレオンにばかり目をかけるミケ―レに怒りを覚えつつも表面上はミケ―レに忠実に働いているのである。
「どうやら、パッパガッロの奴らも動きだしたようです。 どこからかうるわしの純白会の情報が漏れているようです」
パッパガッロというのは、ミケ―レたちスピラーレの組織と敵対しているギャング組織であった。
麻薬、人身売買、殺人など様々な悪行に手を染めており金さえ積めばなんでもする彼らに対し、誇りを重んじて仕事をするスピラーレとは水と油の関係であった。
外から見れば同じ凶悪なギャング組織であるが、彼らにもプライドという物があるのだ、金でなんでもする彼らと同じにすることをボスは何より嫌っている。
ミケ―レは大きくため息をついて、こめかみをおさえた。
「これはもう僕が何を言ってもボスは聞かないでしょうね、パッパガッロがマドンナリリーを手に入れる前になんとしても奪い取れというでしょう」
「承知しました、では、俺は引き続きパッパガッロを見張りつつうるわしの純白会を調べます」
ジャコポは会釈をした後、部屋をでる寸前にもレオンに睨みを効かせてから出て行った。
相変わらず目の敵にされているレオンはジャコポが部屋を後にしたあと、やれやれと苦笑いを零してしまった。
「相変わらず恨まれているみたいですね」
「あそこまで露骨だと警戒しやすいから助かるぜ」
本当に恐ろしいのは全く腹の底を見せず、寝首をかきにくるような奴だとレオンは思っている。
「シュンはどうですか」
「あの野郎か? まァ、ギャングとしてはまだまだ甘ちゃんだが・・・・・・ポアロの死体を見てもゲロしねェし、なんだかんだ肝は据わってやがる」
「そうですか・・・・・・例のあれは僕の机の引き出しに書類が入れてありますので、では」
ミケ―レが何も言わないということは、まだシュンは現状維持ということらしい。
学校へ行ったミケ―レの机の引き出しから茶封筒を見つけ、書類に目を通していく。
それはミケ―レに頼んでいたシュンにまつわる調査表であった。
父は日本人、母がシチリア人だが母はシュンを産んですぐに行方を眩ませている。
今はどうやら国外に逃亡しているらしくイタリアにはいないようであった。
随分しでかしたらしく、結婚詐欺師として警察から追いかけられている。
対して父親の方は最期までイタリアに住んでいたらしいが、育児放棄で警察から自宅捜査が行なわれた形跡があった。
どうやらシュンは母が逃亡し、父親に育児放棄された末日本の親戚に預けられたらしい。
日本での生活は不明であったが、ここまで分かればレオンとしては十分であった。
(これで裏付けはとれた)
レオンは書類を丁寧に封筒に戻すと、引き出しの奥へとしまい込んだ。
1時間後ようやく戻ってきたシュンを怒鳴りつけた後、レオンとシュンは警察病院にいるうるわしの純白会――もとい先日車で追いかけてきたあげく、派手に事故をおこし逮捕されて新聞のトップを飾ったルーカ・エスポシートの面会に来ていた。
レオンはどうやら警察にも顔が利くらしく、びくびく怯えるシュンの前を堂々とポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
「さて、ルーカ・エスポジートさんよォ、この間は随分世話になったなァ?」
「・・・・・・何のようだ」
ルーカ自身もあの事故で怪我を負ったらしく、額には包帯が巻かれ所々切り傷が出来ているのに加え、腕や足を骨折していた。
逃げている時は必死で気づかなかったが、新聞やニュースで見た限りかなり派手に突っ込んだらしく車のフロントガラスは粉々に割れて、運転席はぺしゃんこになってしまっていた。
家は空き屋だったのが不幸中の幸いである。
「どこから俺たちの後をつけていた」
「フン・・・・・・バカめ! あの辺りは既に我らうるわしの純白会の領域だ! 貴様らがそのきたねえ足で上がり込んできたんだ!」
「なるほどな、どうやらお前たちは俺たちの素知らぬところで勢力を広げてたっつうわけか」
「はっ、君主様気取りでいられるのも今のうちだ! マドンナリリーは既に我らの手中にある! 後は儀式を行なえば、イタリアだけじゃねえ、全世界の頂点にたてる! アメリカなんざ、屁でもねえ!」
レオンは懐から拳銃を取り出し、興奮するルーカの額に銃口を押し当てた。
悲鳴を上げたルーカにその拳銃の如き冷たく無機質に問いかける。
「儀式ってなんだ? 何をするつもりだ?」
「こ、こここんなモンで脅しても無駄だ!」
レオンは何も言わず、静かに安全レバーを外すとルーカは更に悲鳴を上げる。
目を見開き、怯えるルーカをシュンも固唾を飲んで見守っていた。
レオンはここがどんな場所であったも、撃つと思ったら撃つ男だ。
コンビニ強盗のように、脅すためだけに刃物をひけらかすチンピラとはワケが違うのである。
「分かったぁーっ! 答える! 答えるからッ! い、生け贄だ! 教主様が選び抜いた穢れに満ちた人間を生け贄にして、儀式を行なう!!」
レオンの凄みに当てられたルーカはまくし立てられるように話し始めた。
「もう既に『曙』は生け贄になった! 残るは『昼』と『夜』に『黄昏』の3人・・・・・・!」
「レオン! 曙に昼に夜、黄昏って!」
「ああッ、メディチ家礼拝堂の像か!」
ポアロが書き残したメディチ家礼拝堂とは儀式のことを指していたのだ! とシュンは生唾を飲み込んだ。
それと同時にこんなカルト集団に使われるあの芸術たちに同情してしまい、またもやミケランジェロの嘆きが聞こえるようであった。
「待て、曙はいつ生け贄になった、誰が犠牲になった!?」
「い、1年前だ! 1年前にマドンナリリーを見つけたときに居合わせた女が生け贄になった!」
刹那、銃声が室内に鳴り響いた。
ルーカは大きく体を震わせながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、レオンを凝視している。
「レオン・・・・・・」
「わりぃ、手が滑った」
レオンはわざと引き金を引いたのだと気がついた。
しかし、弾は抜いていたらしく銃声が鳴るだけにとどまった。
死が間近に迫ったルーカはそのまま白目をむいて、意識を失ってしまったのである。
「今なにか音がしましたか!?」
銃声を聞きつけた看護婦が部屋に駆けつけ、気絶しているルーカを見て慌てて容態を確認し始めた。
「ちょっと脅かしすぎたらしい」
「もう! 今事故の直後で心身共に弱っている患者さんにそんなことしないで! あ~あ、お漏らしまでしちゃってるじゃない! 早く出て行って下さいっ」
部屋から追い出されたシュンはうなだれているレオンになんと声を掛ければいいのか分からなかったが、先程のやりとりからしてただ単にレオンは仕事でこの事件を追っているのではないということに気づいてしまった。
レオンはここで尋ねて答えてくれるような性格ではないことは分かりきっているので、シュンはあえてそのことには触れず、
「・・・・・・いこっか」
と、レオンの肩を叩くに留めたのだった。
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