Episodio 02 「部屋に残された物」
「あん、レオン・・・・・・もう、だめえ」
「だめじゃないだろ?」
「んっ、いじわるぅ」
「レオン、焦らさないで・・・・・・あたし、もうもう」
「欲しがるな、後でたっぷりかわいがってやる」
「はやくぅ、ワタシもレオンが欲しいよぅ」
カーテンで仕切られたホテルの一室で、1人の男に数名の女が群がっていた。
濃厚な男と女の匂いに支配された空間は、ただひたすら快楽と悦楽に満ちている。
「でも、あんなことでレオンに遊んでもらえるなら、儲けものよね」
「へえ? あんなことって?」
「ポアロって人のこと。 聞いてたじゃない、あいつの居場所を知らないかって」
「確かに助かったぜ。これで仕事がはかどるってもんだが・・・・・・フン、随分余裕じゃねえか」
「アアッ、激しい! ダメ、レオン!!」
女は絶頂の声を上げ、くたりとベッドに倒れていく。
「さて、次の相手は誰だ?」
レオンの壮絶なまでの色気に当てられた女達は、こぞってレオンに手を伸ばすのであった。
(しかし、分からねえな。 ポアロの奴・・・・・・あのメッセージはなんなんだ)
レオンを取り囲んでいた女達は皆ベッドで気を失うと、空気の入れ換えと煙草を吸うために窓を開けた。
腰にタオルをかけただけの姿だが、シエスタの時間だ。 外を歩く人もまばらで、誰もホテルの一室なぞ見上げる者もいない。
レオンの頭の中は女達から聞き出した情報を思い出しながら、幾つもの考察と推測をたてていた。
(あいつは確かに物足りないところはあったが、だからこそスパイとバレにくかったし本人もそのことだけは自信を持ってた。 何があってスパイとバレたんだ?)
近頃怪しい動きをしていたカルト団体にスパイとして送り込まれたのがポアロだった。
ポアロは今までにも危険な組織にスパイとして潜り込み、その腕は間違いなく一流だった。
そのポアロが追い詰められ、レオンにあのようなメッセージを残すような事態とは何が起きたというのだろうか。
「そういえば・・・・・・」
「ん?」
気を取り戻したのか、ベッドで横たわっていた女が虚ろな瞳でレオンにあることを話し始めた。
「この間、怪しげな人がアタシの勤めてるレストランテを貸し切って何か話してたの。 おかしな内容だったわ、確か・・・・・・シエナのマッツィーニ通りに必ず来い、そうすればあなたは正式に穢れを払い、誠なる慈悲に包まれる、だったかしら」
(シエナのマッツィーニ通り?)
教会で洗礼ならまだ分かるけど、そんな道ばたで何するつもりなのかしらと女はくすくすと笑う。
レオンはそんな女には目もくれず、シエナのマッツィーニ通りを思い起こす。
マッツィーニ通りは中心部からは少し離れており、観光名所になりそうなものは特に思い当たらないような普通の住宅街の通りだったはずだが、とそこまで考えたがそこで諦めた。
今の状態では情報が足りなすぎる、もっと情報が必要だった。
レオンは口角を上げて煙草の火を消し、話してくれた女に口づけを落とした。
「良い子だ、おかげで奴らの目的が分かったぜ。 また頼む」
「・・・・・・ねえ、レオン」
「あぁ? どうした」
「ユーリって、誰?」
「電話してからもう3時間も経ってるんですけど」
「仕方ねえだろ、こっちにも色々つきあいってモンがあんだよ」
(付き合いっていうか、女の子と遊んでただけじゃ・・・・・・)
シュンがレオンに電話をかけてから3時間、ようやく来てくれたレオンに恨み言を言いつつも見知った相手が傍にいることにようやく肩の力が抜けた。
レオンは見慣れているせいか、シュンのように動揺することなくポアロの遺体を探り始めた。
「お前は部屋の中を調べろ、くれぐれも証拠になるようなもんには気をつけて触れよ」
「わかりました」
シュンはまず机の上と引き出しを探してみた。
机の上には特に何の変哲もないアルバムや、最近イタリアで流行っている小説などが並んでいた。
(片付けをしていると、ついアルバムとか見入って進まなくなるんだよな・・・・・・)
ふいにシュンはアルバムを手に取り、開いてみるとそこには幼少期の写真などではなくつい最近撮られたのであろう写真が収まっている。
ポアロの隣には、黒髪の美しい女性が微笑んでいた。
(・・・・・・シェリー?)
シュンは一瞬呆気にとられたが、レオンがポアロの遺体に目を向けているのを盗み見るとアルバムから写真を一枚引き抜きポケットに忍ばせた。
(どうしてシェリーとポアロが・・・・・・)
探している人物とは違うが思わぬ人物の登場に、目を見開いた。
もしかしたら、もっと彼女に関する情報があるかもしれないとシュンは引き出しのも探ってみたが特に手がかりになりそうなものは見当たらなかった。
「どうだ、何か見つかったか」
「・・・・・・写真が見つかって、隣の女性は誰かなって」
「どれ、見せてみろ」
シュンは自分が引き抜いたページは見せないようにして、レオンにアルバムを見せるとレオンは「妹ではなさそうだな、念のため覚えておくか」と写真を引き抜き再び部屋の中を物色し始めた。
特に何の追求もされなかったことにほっと、胸をなでおろす。
シュンは後ろめたいことをしたわけじゃない、と自分に言い聞かせながら気分を変えようと、あるいは誤魔化そうと話題を切り替えた。
「ポアロは一体、誰に殺されたんだろう」
「うるわしの純白会」
「え?」
「1年ほど前から姿を現したカルト団体だ、ポアロはそこにスパイとして潜り込んでた。 だが、正体がバレてってくちだろうなァ」
シュンはあえて視界に映らないようにしていたポアロの顔をみて、勇気を振り絞り目を閉じさせてやった。
そして心の中でそっと、祈りを捧げた。
レオンはそれを横目で見ながら、手帳を開いた。
「おい、シュン。 こっちに来てみろ」
促されて横から手帳を覗くと、日々丁寧に誰とどこで会うのかが詳細にメモされていたが、余白の部分に赤字で言葉が走り書きされていた。
急いで書き記したのか、だいぶ文字が乱れていてところどころ読めない。
「メディチ家礼拝堂は辛うじて分かったが、こりゃあなんて読むんだ? 人・・・・・・? くそっ、あの野郎書いても読めなかったら意味ねえだろうがッ」
「レオンよく読めたね・・・・・・僕なんか象形文字にしか見えないんだけど」
2人はあれやこれやとなんとか言葉を当てはめようとしたが、10分頭を悩ませたのちに諦めた。
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