第十四章…「魔が作るモノ。【中】」
水風船が弾けるような音、中に入っていた水が地面にまき散らされる音…。
音だけ聞けばそんな感じだけど、目の前で起きたソレはまさに放送禁止のような絵面だ。
所々肥大化した体、その一番ひどかった左半身が弾け飛び、悪魔はその体を地面に倒す。
血のような液体が地面を汚し、同時に鉄板にかけられた水のように、その地面から蒸発していく。
蒸気のように変化していくその血のような何かは、多分魔力か何かだ。
大量に血をぶちまけたような絵面になってはいるが、私自身はそこに気持ち悪さを感じない。
『フェリ君、今の内ぃ~』
---[01]---
「ええ」
エルンが悪魔に、どういう事をしてこうなったのか…、それとも相手がただ自滅しただけなのか、私にはわからないけど、エルンがそう言うのなら、警戒し過ぎずいける。
左手で切られた横腹を押さえながら、私は悪魔の方へと向かう。
悪魔は自分の所まで来た私を見上げ、威嚇するように牙をむき出しにした。
しかしそこには何の脅威も感じない。
右手の剣を逆手に持って、それを相手の背中へと振り下ろす。
とにかく全力で…。
さっきまで剣の刃は通らなかったけど、その切っ先を力一杯振り下ろしたら、そんな思いで降ろされた鋭利な剣の先は、その肉の深くへと突き進む。
刺さった。
---[02]---
いや、ただ刺さった訳ではない、さっきまでの硬さが嘘のように、まるで泥の中に剣を突き刺すかの如く、切っ先が通って行った。
その瞬間、悪魔の体から、再び液体が噴き出す。
「…ッ!?」
思わず剣を抜き後退りすると、今度はそのボロボロの体からは、考えられない程の甲高い奇声を叫び上げる。
『くぁwせdrftg~~~~ッ!!!』
耳を塞ぎそうになる程に響くその声、うるさい以外に体への影響はないが、胸騒ぎを覚えた。
悪魔が静かになる。
とうとう事切れたか…そう思ったが、今度は別の場所から、ただ事ではない音が響いた。
---[03]---
軍の施設…建物の方から悲鳴と共に、モノの壊れる音が耳に届く。
建物の入り口付近が壊れ、瞬く間に最短で一直線に私の方へと突っ込んでくる何か。
ガンッ!
思わず剣を盾にした時、剣を中心に襲い掛かる衝撃と鈍い音。
『…~~~~…』
瞬間見えたのは、フラウな顔、何かにすがるような顔、負のどん底にいるような顔…。
その時、彼女の口から出た言葉は、確かに私の耳に届いた。
衝撃の強さも相まって、私の体は後ろへと吹き飛ばされる。
まただ。
---[04]---
あの時…、彼女に襲われた時のような感触…。
違う事があるとすれば、その力、普通の人間の力ではない、明らかに魔力を用いた肉体強化が成された一撃だった。
最初に襲われた時とは桁違いな一撃だ。
操られているにしたって、1回目とは様子が違う。
その違いに身構え、剣を構えるが、こちらを見ていた彼女の体は、別の方向へと向けられる。
動いた彼女の先にあるのは、動かなくなった悪魔の体。
ヤバい。
そう直感し、彼女を追いかけようとするが、その動きは速かった。
普通の人を追いかけるだけなら、魔力で強化された肉体が追い付けないはずがない。
---[05]---
しかし、相手もまた魔力で強化されている状態、追いつけない、そう悟った時には彼女は悪魔の体を拾い上げ、標的をまた別のモノへと変える。
「エルンッ!」
彼女の顔が向いた方向、見た先、そこにはエルンがいる。
彼女…いや悪魔が、敵対する存在、私が容易に倒せないのなら、それができる相手へ優先順位を変えるのは別におかしな事じゃない。
膝を付き、何かの準備をしていたエルンは、何かを決して立ち上がる。
新しくパロトーネを2つ取り出し、左手で持ったそれを、向かってくる彼女へ向けて放った。
自身と彼女の間に落ちたソレは、一瞬青い光を放ち、同時に彼女へ向かって2本の氷の柱を突き出す。
---[06]---
そこに容赦など微塵もない。
エルンの顔にいつもの調子の良い雰囲気はなかった。
彼女は、私に攻撃してきた時のように、襲い掛かる氷柱に向かって、片手で悪魔を持ち空いた手で拳を振るう。
1本の氷柱は彼女の右横腹を抉る様に打ち飛ばし、もう1本の氷柱は振るわれた拳を砕き、その腕は嫌な音と共に変形していった。
止めた…、そう思えたのも束の間、何かに気付いたエルンは、体を横に捻り、彼女の方に自身の左腕が来るように状態に変え、左手をまるで盾にでもするかのように顔の方へと動かす。
血しぶきが上がった。
エルンの左手は何か鋭利なモノで切られたかのように、数本の切り傷を作る。
---[07]---
その瞬間、エルンの前に、透明と言う名の色が剥がれて出てくる悪魔の姿。
思わず彼女の方へと視線を向けると、その手に持たれていた悪魔の姿は無くなっていた。
「…ッ!」
彼女を止めようと動いていた私は、標的を変え、エルンを襲った後に地面へ倒れる悪魔の方へと向く。
地面を強く蹴り、残った距離を一気に縮めた私は、剣を力一杯振り下ろすが、悪魔の体を斬る事無く地面を抉る。
悪魔の体が動いた、自力ではない、彼女に足を掴まれ、引き寄せられた。
さっきの悪魔の体に剣が刺さった感触から、最初程の硬さはないと踏んだ、今度こそ仕留めてやると力が入り、次の行動への鈍さ…隙を作る。
---[08]---
剣は空しく地面を斬り、相手はこちらへ攻撃の体勢を取った。
一撃目の時とは違う、フラウの目に感情は籠っていない。
獲物を狙う獣のソレでもなく、赤い眼は、ただ静かにこちらを見ていた。
ドンッと重い音が、体全身に響く。
彼女の足が腹部にめり込み、その圧迫感が不快感を呼び、吐き気を呼び、そして痛みを呼んだ。
「フェリ君ッ」
蹴り飛ばされた私を、エルンが支えに入って受け止める。
「大丈夫かい?」
「ゲホッ…、大丈夫」
実際は大丈夫じゃないと言いたい所ではあるけど…。
『アアああアアああァぁァぁ…』
---[09]---
自分を蹴り飛ばした彼女の方へと視線を向ける。
不快感すら覚える悪魔の声、そして、その目に映る光景にも不快感を覚えた。
悪魔の体を、自身の右半身に押し付ける彼女。
そして、そこから起こった事に、私は目を疑った。
それはまるで、別々のアイスが溶けて混ざり合っていくかのように、色の違う絵の具が同じ器に入れられて混ざっていくように、彼女と悪魔、両者の接触面が文字通り混ざり合っていく。
なんだ?
なんだアレは?
いや、何が起きているのか、それは理解できるが、実際にそれを目の当たりにすると、理解できないというより、受け入れがたい感情が強くなる。
---[10]---
最終的にソレは、悪魔の無くなった部分を補う様に、彼女の体が吸収されていくような形で落ち着いて行く。
まるで二顔ってか?
いや、実際頭は2つあるんだけど、ああいうまともなデザインではない。
骨と皮だった悪魔の体部分は、その状態を補強するように筋肉が付き、失った左半身を彼女の体が補い、砕かれた左腕は再生、余った彼女の体の部位は消える事無く左半身に残り続け、悪魔の頭の横には、力無く項垂れながらこちらを見る赤い眼を光らせる彼女の頭が垂れる。
その体は、最初の時よりも一回り大きくなっていた。
二顔というより、ある意味男爵か?
向こうはまだ人間らしい見た目、こちらは完全に化け物だが。
---[11]---
その変貌ぶりに思う所は多々あれど、とにかくわかる事は良い状況ではなくなったという事だ。
「これはまた…想定外だなぁ~」
後ろから聞こえるエルンの声が、さらなる不安を煽る。
「そういう事は思っても言わないで欲しいわね」
「でも、言わなかったら言わなかったで、何か策があるのかもって、いらぬ期待を持たせちゃうじゃないか」
「・・・それはつまり、策が無いって事?」
「やれる事は全力でやってみるけどねぇ~、どうなるかは保証できなくなったかなぁ~」
「策が無いって事か…」
「そのとぉ~り」
---[12]---
まぁ正確には、策が無いというより、通用するかわからなくなったと…。
「どういう理屈でああなったのかはわからないけど、私がやる事は変わらないでしょ?」
私の言葉に、エルンはニッと笑みを浮かべる。
ブループの時と同じ、自分が今できる事を全力でやるだけ。
私には戦う力があるのだから、悪魔がこの世界を…この夢の世界を支配する存在だとしても、私自身が反旗を翻しているのに消されないというのなら…、この剣が悪魔に届くというのなら…、抗うだけだ。
支配者がいなくなった時、この世界がどうなるのかわからない。
消えるのか?
それとも残る?
---[13]---
どちらにしても、あの悪魔が幸福をもたらす存在とは思えない。
ヴァージットの奥さん、目の前のフラウのように、自分の家族も同じ目に…、悪魔の人形にされるのを俺は許せない、許せるはずがない。
この世界があり続ける限り、その未来が残り続けるというのなら…、壊す…。
この「夢」が…、「悪夢」に変わる前に、壊してやる…。
エルンに預けてしまっていた体を起こす。
腹部への痛みのほとんどは消え、多少の違和感が残っているが問題ない。
しかし、立ち上がろうと足に力を入れるが、その立つ直前、足の力が抜ける。
「…ッ!?」
さっき、剣が手からこぼれた時と同じ感覚。
咄嗟に剣を支えに地面に立てたおかげで、倒れる事は無かったけど、私は力なく膝を付いた。
---[14]---
悪魔はまだ混ざり合っている最中、こちらに向かって動き始めてはいない。
自分の状態を気にして、エルンが声を掛けてくるが、それを私はそれを制止した。
「・・・」
息は切れてない、体への疲労感は、ここまでの戦闘相応のモノしか溜まっていない。
体が動かせなくなるほどの疲れは無いはずなのに…。
ギロリッ
悪魔と視線が交差する。
それは言うなればゴング、始まりの鐘…だったのかもしれない。
悪魔は右手を振り飾り、動く体勢を取る。
「…クソッ!」
立ち上がろうとしているのに力の入らない体。
悪魔が動く。
---[15]---
小さな地響きにも似た、迫る恐怖の音を鳴らす。
「動けっ!」
力の入らない足へと、痛みなど度返しで、力一杯拳をめり込ませる。
まるで掛かりの悪いエンジンのように、その瞬間一気に足に力が入った。
せき止められていた水が、一気に放水されるように、何とか力を入れようとしていた足はその力を爆発させる。
半ばタックルするかのように前のめりに前に出て、繰り出される悪魔の拳に対して、全力で剣を振り抜く。
剣と拳のぶつかり。
まるで野球のピッチャーが全力で投げた球のような状態の鉄球を斬っているような、そんな感触。
---[16]---
手は衝撃と共に骨へ振動を伝え、激痛を響かせた。
全力でぶつかっていった状態だったのに、体はその力に負けて後ろへとのけぞる。
「…クッ!?」
一歩二歩、体勢を崩すまいと、倒れそうになる体を庇って後ろへと、情けなくふら付く。
負けない、フラウの今の姿が、家族の姿を重なる。
ふら付きながら踏ん張って、一撃一撃、全力で相手に向かって剣を振るっていった。
剣と拳、両者の攻撃がぶつかれば、力負けした私の体はのけぞり、それでも負けじと剣を振っていく。
悪魔自身の拳から繰り出される攻撃はとても重い、でも、彼女の方の手から出されるのは、力は確かにあるが、さっきの突撃攻撃同等かそれ以下、その体相応の力しか出ていない。
---[17]---
此処だ。
真正面からぶつかり合っていても、限定的とは言え力負けしている私に勝機はない。
振り下ろされる右の豪腕、さっきまでと同じように剣を振るう…と見せかけて避け、次に振るわれる左腕からの攻撃を、全力で防御に徹し、それを確実に受け止める。
止まった悪魔の拳を弾き、一歩前へ。
相手の右手が振りかざされるのには目もくれず、私は剣を振り抜く。
悪魔の半身、彼女の半身、その体の腹に目掛けて振り抜かれた剣は、その獲物を捕らえ、刃は襲い掛かった。
『…いや…』
耳に届く女性の声が私の心を揺さぶり、それでも、痛みを覚えそうな程に歯を食いしばり、踏み込んだ私は剣を振り切った。
---[18]---
赤い血しぶきが宙を舞う。
相手の胴を完全に断ち斬った訳じゃない、でも、その肉は完全に斬った。
薄皮一枚ではなく、確実に肉まで達した深い斬り傷だ。
悪魔の体は後ろへと飛ばされ、倒れはしなかったが完全に体勢を崩す。
そこを攻め時と見て、私は走り出すと同時に剣を持ち直し、その手に力を入れる。
相手の左側へと回り込むと、再び剣を振った。
「…ッ!」
その時に目が合ったフラウは、人間相応の痛みに苦しむ顔。
胸に何かが突き刺さったかのような痛みに似た何かを感じた。
赤い眼、そしてその異様な姿、フラウはもう人という括りから外れているのに…、この痛みは、割り切れていないからこそ感じる痛みか…。
---[19]---
迷いを打ち払う様に、振るった剣は、今の悪魔の左手を斬り落とした。
「キャアアァァーーッ!!」
耳を劈くような叫び。
正面から腹を斬った時とは違う、痛みを訴える本気の叫びだ。
フラウという女性との関係性なんて、ヴァージットとの繋がりがほとんどで、個人としての親密度など無いに等しいのに、その叫びは耳だけじゃなく、私の体に、腕に足に、胴体に絡みつく。
僅かな攻撃の遅れを呼び、優位を取っていたはずの状態は、相打ちの形へ。
次に振るった剣は、相手の左の横腹へ確実に届いたが、私を自分から離そうと振るわれた相手の右腕が私を襲う。
「クッ…」
---[20]---
攻撃を避けようと動かしたおかげで、攻撃はさっきよりも浅い。
自身の背中を襲う衝撃は痛みも強烈で、私はそれを防ぎきる事も叶わずに、前から地面へと叩きつけられた。
ズリズリと1メートルほど、体が地面へ擦りつけられる。
続けて、目に入ってきた光景に、痛みを堪えて跳ね上がる様に避けると、ドンッと自分が今倒れていた場所に鈍い音が響く。
悪魔の足から繰り出されたスタンプ攻撃は、地面にヒビを入れる。
彼女の…フラウの叫びに動きは鈍るが、それと同時にその体から出される攻撃は、ゾッとする程に強力だ。
フラウを気遣う様に鈍る体に、そんな余裕があるのなら、戦う事自体にその力をさいてくれ…と、苛立ちすら覚えた。
---[21]---
こちらが立ち上がる時、相手がこちらに追撃を仕掛ける。
相手の攻撃を避け、体勢を整えようとしたその瞬間の攻撃に防御は間に合うも、整えようとした体勢は大きく崩れた。
悪魔の豪腕を受け止めた剣は、衝撃を殺せずに後ろへと弾き飛ばされ、衝撃と剣を放すまいと持っていた手のおかげで、体は後ろへとのけ反る。
体が自由に動かない。
そんな隙を悪魔は当然見逃さず、その剛腕は伸び、私の首を掴む。
「ぐッ…」
首への圧迫感、今まで吸えていたはずの空気が吸えない息苦しさが襲い、そして体がグワッと動く。
視界が回転するというか、普通ではない動きを見せた。
---[22]---
マズい、その刹那、何が来るかはわからずとも、危険が迫る事の恐怖に、私は全身の魔力を上げて、体の防御へと回す。
その瞬間、空が見えたかと思えば、体が勢いよく振り下ろされた。
背中、肩甲骨付近を中心に、意味の分からない衝撃が襲う。
「ガハッ!?」
まるで地面に叩きつけられる水風船にでもなった気分だ。
体中のあらゆるものが、口を経由して外へと出て行くような感覚。
この時ばかりは、一日の食事が朝食だけな事を嬉しく思う。
再び体が持ち上げられ、そして振り下ろされる。
何度も何度も、その度にドンッドンッと鈍い音が全身を通じて耳へ、脳へと響く。
意識が…。
---[23]---
肉体強化で痛みはないが、一度や二度ならともかく、何度も受けるには強すぎる衝撃だ。
その時、飛びそうになる意識の中で、自身の肌を撫でる冷たい何かを感じる。
次の瞬間、かすかに見えていた悪魔の豪腕と頭へ、白い何かがぶつかるのが見えた。
同時に悪魔の体は叩き飛ばされ、私もそれに釣られるように飛ばされる。
幸いな事に悪魔の豪腕から、私の首は離れ、体は地面にぶつかるが、地面に叩きつけられていたであろう衝撃の後では、硬い地面も羽毛のクッションのように感じられなくもない。
「ゲホッ…ゴホッ…」
狭められていた空気の道が広がり、一気に入ってくる空気の量に、思わず咳き込んでしまう。
---[24]---
息苦しさの中、視線を上に動かせば、見えてくるのは、数本の白い氷柱だ。
エルンの攻撃…。
なんだかんだ、自分一人ではどうしようもない現状に、情けなさを感じつつも、立ち上がろうと試みる。
痛みは無くとも、体へとかかった負荷は本物か…、立ち上がろうとしても、体は右へ左へとフラフラと動いて、うまく立てない。
剣を杖代わりにしようとしても、悪魔の攻撃の時、手から離れ、地面が抉れた場所で、静かに横たわっている。
その時、視界の横で何かが動く。
悪魔…。
立ち上がった悪魔は、私に目を向けず、エルンのいる方へと走り出す。
---[25]---
「エル…」
助けに行かなければ、そんな考えばかりが先行して、体は追いつけずに膝を付く。
焦りがあった…。
だからこそ見えていなかった人影。
その女性がエルンの近くに来るまで、私は気づけなかった。
エルンは迫る悪魔に怯まず、余裕の籠った笑みを浮かべる。
振り下ろされる拳、しかしそれは獲物を捕らえず、吹き荒れる突風と共に弾き返され、そしてその巨体が私の横を飛んで行った。
「え…」
攻撃を防ぐならわかる、怯んだ隙に攻撃するのもわかる。
でも、あの巨体が吹き飛ぶほどの攻撃に関しては、理解を越えた。
---[26]---
「ようやく着きました。案外遠いものですね」
エルンと悪魔との間に割って入った人物、それはトフラだった。
「距離があるんじゃない。歩くのが遅いんだよ。まぁ仕方ないけどねぇ~」
「地面と言うのは見づらいですから、誰もいないとなると、慎重に歩かなければ転んでしまいます。なんにせよ、遅れてしまってごめんなさい」
「いやいや、良い時に来てくれたよぉ~」
「そうですか、良かった。・・・それにしても、相手は随分と様変わりしていますね。変わった魔力の流れを感じます」
「いや~、問題が発生してさぁ~。先が見えなくなってきた所なんだよ」
「・・・不快な魔力ですね。悲しみ、恐怖、苦しみ、・・・希望を失って抗う事すらしなくなった魔力の流れ…」
---[27]---
「彼女特有の存在が問題だねぇ~。新しい事例だ。胸糞悪い事この上ない」
「汚い言葉ですね。悪い感情が表に出てきていますよ」
「愚痴だって言いたくもなるさぁ~」
「・・・来ますね。エルさん、準備の方は?」
「あと少し」
「そう…」
「ウガああァァーーーっ!!」
立ち上がった悪魔の雄叫び、怒りが籠り、何かを発散するかのように発せられる大きな咆哮。
「なら、「彼」にも頑張ってもらいましょう。フェリスさんもいるので、それで時間稼ぎは十分」
---[28]---
「たぶんねぇ~」
「では」
ドンドンッと大きな足音を響かせて迫る悪魔に対して、エルンは再びパロトーネでできた剣を構える。
そして、この基地の訓練場にもう1人…。
「リータ君ッ!」
私の名を呼ぶ声。
悪魔とトフラの戦いが始まる時、私もそれに加わらなければと思った矢先に聞こえる、その男の声は、今までの弱々しかった声よりも、ほんの…ほんの少しだけ、強さが籠っていた。
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