第十二章…「その怪物の正体は。」


『君、腕鈍ったねぇ』

『その件に関しては、人の事を言えないと思いますが』

『まぁ~、長い事戦いから離れた生活をしていたから仕方ないさ』

『なら…、私の腕の鈍りも致し方ない事…です』

『・・・はぁ…。何年振り?』

『孤児院を建てる前、36年と半年…と言った所でしょうか』

『そりゃ~お互い腕も鈍る訳だ。いや…、今回の失敗の責任の大半は私にある。怒りに焦り、混乱。全部自分の手を鈍らせるモノだ。それを捨てきれなかった。君の…トフラさんの眼は、ちゃんとアイツを捉えてたよ。きっとそうだ。すまない、トフラさんのせいにして。全部私の責任だ…私の…。トフラさんの眼が鈍るはずがない』

『あらあら、エルさんから弱音を聞くなんて。本当に昔に戻った気分ですね』

『茶化さないでくれ。今は大事な時なんだから』


---[01]---


『ふふ。ええ、そうね』

『じゃあそろそろ、相も変わらずな眠り姫に、起きてもらわないといけないかねぇ』

 真っ暗な視界の中で、近くから聞こえてくる話声だけが、私の意識を刺激してくる。

 違和感の残るその話の内容に引っ掛かりを覚えた。

 目を開く事ができず、体を動かす事ができず、指の1本すら動かす事ができない。

 まるで、体は眠りについているのに、意識だけが覚醒しているかのようだ。

『でも。起こすと言っても、どうするのですか?』

『簡単な話だね。アイツにやられた事は、その効果をほとんど失い始めている頃合いだ。というか君だって、その辺の事には気付いているだろ? 見えているはずだ』

『そうですけど、その辺の事を本人が分かっていないと、驚いてしまいますから』


---[02]---


『言いたい事はわからんでもないけどねぇ。こればっかりは、私達がやると決めた以上、フェリ君には拒否権は無いし。というか拒否しようにも動けないから、勝手にやるだけなのさ。今なら動けないのをいい事にフェリ君にいたずらし放題…』

『エルさん』

『冗談、冗談。身動き取れずになんの反応も示してくれない相手を弄ったって、何の面白みもないから、やれと言われたってこっちから願い下げだよ』

 声の主が言う様に、本当に身動きが取れない状態だからこそ、その聞こえてくる内容が、とにかく私の不安を煽ってくるんだが…。

 というか不安だ。

 私の…フェリスの体は本当に何もされていないのか?

 されていたとしてもそれを確認する術が、今の私には無いし…。

『じゃあ、そろそろやるとしようかねぇ』


---[03]---


 少しの間の後、額に何か冷たい長細いモノが置かれ、それを覆い被せるように暖かな手が置かれる。

 冷たかった細長い何かが段々と熱を帯び、手と同じ温度になった所で、それを中心に額全体が、ドンドンと熱くなっていく。

『起きなさい、眠り姫』

 熱さが我慢できなくなるぐらいまで高まった時、それを見計らったかのような声の後、パンッ!という音と共に、軽い衝撃が額を中心に全身を駆け巡った。

 同時に、その衝撃から体を反射的に守ろうとしてか、仰向けに寝ていたらしい私の体は、まさに跳び上がる様に、その上半身を起こす。

「・・・」

 徐々に熱さと痛みを覚え始める私の額。

 頂点に達したソレは、なかなかに強烈で、私は額を押さえて悶える事になる。


---[04]---


「寝る子は育つというけど、フェリ君の身長はそうやって育まれたモノなのかな?」

「何をふざけた事を言っているのですか? まずはリータさんの体調の確認を」

「わかってるわかってる。といっても、今の動き的に問題もなさそうだし、魔力の流れも…」

「今はもう安定しています。いつものリータさんのそれと変わりありません」

「それはいい。じゃあ後はフェリ君次第だねぇ」

 段々と額のダメージが消えゆく中で、チラリと横目に見えるその顔。

 いつも通りのエルンの顔、私の事を診察している時と同じ顔…、その変わらなさが、何故か私の心を安心させた。

「フェリ君、大丈夫か?」

「え、ええ…」

 痛み以外に、徐々に意識を向けられるようになってくる。


---[05]---


 私がいる場所、それは…、孤児院の収入源の1つ、売るために花を育てている花園の中だった。

 建物の中を照らすのは、どういう仕組みかわからないいつもの光る石、窓から洩れ入る光は無く、その隙間から見える外の光景は、暗い暗い闇だ。

 その暗さが、覚醒し始めている意識を刺激して、意識の途切れる瞬間までの記憶を蘇らせる。

「フラウさんっ!?」

 彼女の様子がおかしかったのはわかってる、こちらへ危害を加えようとしてきた事もよくわかってる、でも、彼女をただただ救いたい…そんな気持ちだけが私を突き動かし、勢いよく立ち上がるが、体は私の意識とは裏腹に、力なくその場に倒れ込んだ。

「おいおい、フェリ君、あまり無茶をするモノじゃない。今の君は、起きる事は出来ていても、完全な自由を得ている訳じゃない」


---[06]---


「ちょっと言っている意味がよくわからないんだけど…」

 倒れた体をエルンの手を借りて起こし、結局その場に座り込む形で落ち着く。

「魔力とは、生の力。私達は、その力に大きく依存した体をしているんだよねぇ」

「だから何?」

 魔力が大事なのは、今更聞かされなくてもわかっているつもりだ。

 食事の量が現実的に馬鹿みたいに少なくても、なんの不健康さもなく生活できるのも、超人的な力を人の身で出せるのも、全部魔力のおかげ。

 万能と言ってもいい力そのものだ。

「逆に、魔力に依存しているとも言えるのさぁ。長寿である事もそう、怪我の治癒の速さもそう。魔力は身体に大きく影響を及ぼすモノだ。それらを体が自然と制御するか、自分自身で操るかする事で私達は普通の生活をおくっているけど、逆に何かしらの意図を持って、体の魔力の流れをグチャグチャにされたら…、どうなると思う?」


---[07]---


 それは…。

「さっきまでの君は、体の魔力を操る部分を、無理やり止められて、疑似的な睡眠状態にされてしまっていたのさ」

「要は、無理やり眠らされたって事だろ?」

「簡単に言えばねぇ」

「じゃあ、立とうとして転んだのは何? 今の私は起きていると思うけど」

「それは全身が起きていないのさ。睡眠状態にされた君を無理矢理起こす為にまず頭を通常の状態に戻した。頭の方が正常な状態になっているなら、それ以外の箇所も正常なモノに戻っていく。すぐにではなく徐々に、頭に近い所から…ねぇ。全身をすぐに正常に戻す事も出来なくはないけど、外的要因で無理矢理体を弄るのは良くも悪くも影響が大きい。だから、もう少しだけ安静にねぇ。そんな時間はかからないから、我慢だよ、我慢」


---[08]---


「そう…」

 さっきは焦りもあって、細かい所まで意識が言っていなかったけど、冷静になってみると、確かに体の至る所が怠いし、思う様に動かせない。

 手とか普通に動かしていたけど、何とか動かせる指と握力の無さが、エルンの言葉の説得力を増させていった。

「フラウさんは?」

 でもこれは、ちゃんと確認しなければいけない事だ。

「私と対峙してた女性…」

「その辺は問題ない、無事だよ」

 そう言って、エルンは壁の方へ視線を向け、そこにもたれ掛かる様に寝かされている女性を指差す。

 そこには、何も変な所の無い、静かに寝息を立てるフラウの姿があった。


---[09]---


「・・・、よかった」

 安堵の吐息が漏れる。

 ただでさえ体に力が入らないのに、そこからさらに脱力して、もういっそ寝転がる勢いだ。

「フラウさんは大丈夫?」

 こちらへ危害を加える存在としてではなく、守るべき対象として身を案じしてしまう。

「まぁ外的な負傷とかはないねぇ。君みたいに眠りにつかされている訳でもない。アイツとの繋がりを無理矢理切ったから、一時的に意識を失っているだけだよ」

「よかった…、本当に」

「という訳でだ、フェリ君。君が体の調子を整えるまで、もう少しだけ時間があるから、その間に話をしよう。情報の共有と言うやつだ。構わないかい?」


---[10]---


「え、ええ。もちろん」

 正気を失ったとしか思えないフラウとの戦闘、それに至った理由と言うか、原因と言うか、見当がついているようではっきりしない事、戦闘をしたという事実だけを見れば、理由はどうであれ、私自身責められてもおかしくは無いのだけど、エルン達から来る言葉にその色は全くない。

 責められる事、怒られる事を警戒しつつ、ここまでの経緯を説明していく。

 と言っても、この世界での出来事だけだ。

 ヴァージットの中身、利永との接触はその説明というか、報告の中には混ぜない。

 殺人現場に、自分だけ記憶を持つ状態、ヴァージットとの接触からの怪物の出現、ヴァージットとの協力関係に調査、調査後のフラウとの会話、唐突に豹変し戦闘になった事、そして再び現れたアレ…。

 ここまでの話をする中、エルンもトフラも、私がそれを話しきるまで、一切の口出しをせず、ただただ静かに聞き続けた。


---[11]---


「それで、何とかあの怪物をどうにかしようとしたけど、結果は御覧の通り、そんな時にエルン達が来た」

 私が話を終えてから、僅かな間を置いて、エルンはうんうんと頷いて見せた。

「なかなかにフェリ君は頑張ったらしいねぇ。よくやったよ」

 そう言って、彼女は子供を褒めるように、私の頭を撫でる。

 とてつもなく恥ずかしい…。

「普段と雰囲気が違ってて、正直気持ち悪いわね」

「ひどいなぁ。頑張った子を褒めるのは当然の事だと思うけど?」

「柄じゃないって事よ。そんな事より、アレは何なの、あの怪物は? 何か、アレにされた事がどういうモノなのか知っているみたいじゃない。あの怪物が何なのか、知っているの?」

 私の問いかけにエルンは視線を落とし、何かを考えるように地面を見続けた後、トフラに視線を向け、彼女が頷くのを確信すると、はぁ~…とため息をつく。


---[12]---


「私には言えない事かしら?」

「いや、今のため息は君に対してのモノじゃない。またあの問題と対峙する事になった事に対しての、不安から来るものだよ」

「柄じゃないわね」

「・・・、真面目な話だよ?」

「ごめん、そんなつもりじゃなくて、いつもと雰囲気が違うものだから、調子が狂うというか…」

「まぁいいけどねぇ」

 小さなため息を吐くと、エルンが私の正面に座り、トフラもそれに合わせるように腰を下ろす。

 2人の雰囲気の変化に生唾を飲み込み、自分も意識を改めて、口を開いた。

「・・・、それで? あいつは何? また…って事は、前にもアレは何かしてきたの?」


---[13]---


「アイツは「悪魔」だ」

「あくま…?」

 悪魔ってあの悪魔か?

 ホラー映画で主人公達を襲うやつとか、人に取り付いて悪さするとか、あの悪魔?

「フェリ君としては、思う所があると思うけど、たぶん違うよぉ」

「え?」

「悪魔の本来の名称は「魔の者」。魔力によってその存在を確立している者達だ」

「なるほど」

「ではなんでその呼び方ではなく、悪魔…なんて呼び方をしているかと言えば、すんごく単純というか安直な理由、悪を成す魔の者…そこから悪魔って呼ばれてる」

「本当に分かりやすい名付け方ね」

「わかりやすさは重要だからね。まぁ名付け方の事は置いといて、重要なのは、魔の者である存在が、悪魔なんて呼ばれるようになっている理由だ」


---[14]---


「悪さするから悪魔なのはいいとして、具体的にどんななのかしら?」

「基本的に魔の者は自我を持たない。ただ存在するだけの存在なんだよねぇ。それが自我を持ち、自分の利益のために動き始める連中、その大半が悪魔って呼ばれてる。魔の者の生命線は魔力、私達みたいに空腹感を満たす事を目的とした、気を紛らわせるための食事すらとらない。純粋に魔力だけを求め続ける者。そもそも魔の者とは、私達人間が死んだ後、機能を停止するはずの魔力機関のなれ果てが元になっていてね…」

 魔力機関…なんか久しぶりに聞いた気がしないでもないが…。

 多分、最近普通に聞いているとは思うけど、そう思える程、聞かないモノだし、そもそも意識しない。

 魔力を扱う上で、とても重要なモノではあるけど、生活の中に深く深く根付いて、当たり前のモノになってしまっているからこそ、魔力機関と言う単語自体聞く事は無いのだ。


---[15]---


「なれ果てって何? 魔力機関が人の体を形成する組織の1つなら、人が死んだ段階で魔力機関も停止するんじゃないの?」

 人が死んだ時、当たり前のように心臓が止まり、血が止まる様に、魔力機関が体の一部であるというのなら、死をもってそれら全てが停止するはずだ。

「言いたい事はわかるけどねぇ。でもさ、こうも言ったはずだよ。魔力とは生の力だって」

「確かに言ってたけど…」

「説明としては難しい所なんだけどねぇ。魔力が、魔力機関の形を受け継ぐって言う言い方が分かりやすいかなぁ。魔の者のほとんどがそういう形でねぇ。魔力機関は言うなればその人の個性だ。世界を隅々まで探しても、全く同じ魔力機関は存在しない。ううむ…そうだなぁ…。例えると、魔力機関がその人を型だとして、魔の者は、その魔力機関の型を使用して模られた存在だ。わかるかい?」


---[16]---


「…わかる…と思う…」

「よろしいぃ、じゃあ次。模られると言っても、その大半は力不十分で魔の者になる事なく、ただの魔力となってその辺に散っていく。ギリギリ基準を満たして魔の者が生まれても、それはただの動く魔力体に過ぎない。重要なのは、さらにその次の段階にある魔の者。魔力機関は、魔力を扱う機関である事から、その人の生きてきた形が色濃く刻まれている。人の記憶と同じで、魔力機関にも記憶と同じようなモノが詰まっているんだ。そして、強い記憶、強い思いは、その形をより濃く、よりい大きく残している。記憶や思いが色濃く残った魔力機関から生まれた魔の者は、その色に引っ張られ、何かを慕い守ろうとしていたモノは、その感情に突き動かされ、何かを守る様に動く。何かを破壊する事を喜びとし、それを生きがいにしていたモノは、大小はあるけど、破壊の限りを尽くそうとする」

「その破壊の限りを尽くそうとする魔の者達が悪魔だって?」


---[17]---


「あくまで1つの基準だけどねぇ。もっとざっくりとした基準を言うなら、人に害を及ぼすモノを悪魔と呼ぶ事もある。その辺は各々の裁量次第だ」

 聞いてみて、確かに俺の知る悪魔という概念の存在とは、その形が大きく違うようだ。

「ざっくり言えば、魔力機関の優劣で魔の者の出来は左右される訳だけど、これはあくまで魔の者の産まれ方の1つ。余談だけど場合によっては、形作る所か、死んだその体自体を動かして誕生するモノもいる。・・・話を戻すよ。より質の良い魔力機関から生まれた魔の者は、その本人に近づくが故に自我を持つ事もある。その人の記憶、思考、自我、それら全てを持ち、「その人自体が魔の者として生まれ変わる」と言ってもいいモノから、そういった能力だけを有して、新たな自我を持つ誰か…として生まれる事もあるんだ」

「それがあの怪物…て事か?」


---[18]---


「そういう事」

「長い話で所々理解できてるか不安だけど、アイツがどういう存在なのかは何となくわかった…つもりだ」

 あくまでこの世界でどういう扱いをされているか…、それだけだけど。

「じゃあアイツの力にも、元になったモノがあるって事か」

「そうだねぇ。芸って言うのは、元をたどれば記憶だ。アイツの元になった魔力機関がその分野に秀でた才の人間のモノなら、可能性はある」

「・・・、さっきの話ぶりだと、エルン達は昔アレと会った事があるのか?」

「アイツとは初対面だよ」

「え、でも…」

「正確には、アレと同じ存在と因縁があるって話だねぇ。アレが昔対峙した奴と同じ悪魔であるはずが無いのさ。だって、その悪魔は、私達が倒しているから」


---[19]---


「倒したけど、また同じ悪魔が生まれたって事か?」

「そう言う事だねぇ。何処から湧いてくるんだか…」

 魔力機関は身体の一部なら、その体が無くなれば魔力機関も消える。

 同じ悪魔が現れたって事は、元になった魔力機関が健在って事になると思うけど…。

 そもそも、どの程度かわからないけど、モノの腐らないこの世界じゃ、いつまで経っても死体が無くならないという事もあり得るか。

 だがしかし、そういう設定と言うだけで、その悪魔なるモノがヴァージットに夢を贈った存在だというなら、きっとこの世界を作った存在という事で…、エルン達が倒したのが本当なら、その辺の登場人物にゲームマスターが倒されている事になるんだけど…。

「頭が痛くなってきた…」


---[20]---


 現実での事、この世界での事、現実での立場になって物事を置き換えていくのにも限界な程、短期間に色々と情報が増えてきたな。

 必要な物なのかどうなのか、そこは重要だけど…。

 はぁ…。

 混乱する…。

「その悪魔の生まれる魔力機関が、まだ悪魔を作り続けているってこのじゃないの? それを探すのは駄目なのか?」

 可能性があるのなら、その悪魔の痕跡を探す事が大事だ。

 どういう存在なのかはどうあれ、それを追うのは、私もするべきだろう。

「悪魔を作ってしまっている魔力機関を探すのは大事だけど、その場合、それは目的ではなく手段になる」

「どういう事?」


---[21]---


「魔力機関が健在でも、必ずしも魔の者が生まれる訳じゃないって事だよ」

「ん? でもさっき…」

「ごめんごめん、説明不足なだけ。まぁそう難しい話じゃない。魔力機関から魔の者が生まれるのに条件がある…ただそれだけ。さっき説明したのは、魔の者がどうやって生まれるのかだけど、これはその条件と言った所。それが無くて無条件に魔の者が生まれ続けてたら、もうこの世界は大混乱だっただろうねぇ。それこそ、オラグザームと戦争なんてしている場合じゃなくなる程に。まぁそれは置いておいて、その条件だけど、魔の者を生む魔力機関に、それを機能させる魔力が少しでも残っている事、それが条件だ」

「それだけ?」


---[22]---


「それだけだけど、重要だ。ただの魔力ではなく、魔力機関を動かす事のできる魔力…てところがね。魔力機関はその人の体の一部、ならそれを動かすのは、ただの…その辺にある魔力ではなくそれ相応の、その魔力に適応した魔力が必要になるって事。そこで一番魔の者を生む可能性のある状況の魔力機関が、その人が死に、体の機能が停止してその体から魔力が無くなるまでの時間、死んで体を制御するモノが無くなっているが、体に適した魔力が残っている状態。死んでから時間が経って体から魔力が抜け切った状態じゃ、燃料はあっても起爆剤が無いのさ」

 車で言うなら、ガソリンを持ってきても電気が無かったら動かない…みたいな…そんな所か。

「そして、再び同じ悪魔…魔の者が現れたという事は、私達が過去に倒した悪魔と同時期に生まれた悪魔なら、それはそいつを倒すだけで終わるけど、もし私達がその悪魔を倒した後、再び生まれた存在だとしたら、この悪魔を倒しても問題は解決しない」


---[23]---


「悪魔が生まれる魔力機関を見つける必要が出てくる訳ね」

「そうだ。稀な事ではあるけど、生きていながら魔力機関の制御が利かなくなり、生きたまま魔の者を作り出してしまう事例もある。その場合はその人をどうにかすればいい。一番最悪なのは…、「意図的にその悪魔が生み出されている」場合だ。悪魔を生み出す魔力機関を所有し、意図して悪魔を生み出している者がいる場合、魔力機関だけ見つけたとしても、問題が次の問題に移行するだけだからねぇ。とまぁ、これが君の相対した悪魔、魔の者という存在の説明だが…。まぁこれ自体はざっくりと覚えておいてくれればいいかな」

「ここまで長々と話を聞かせておいてそれか」

「はははっ。まぁこういう話は普段滅多にする事でもないしね。こういう機会に話をして、相手に教えると同時に自分もおさらいするのさ。だからついつい長話になっちゃった」


---[24]---


「・・・そう」

「・・・にしても、フェリ君は、何かと問題事につき纏われるというか、好かれるというか、そう言う所あるよね。ブループといい悪魔といい、私の所に来る前からこんなだったのかな~」

「さあね。それ以前の記憶はないから、私から言える事は無いわ」

「・・・。所で、フェリ君、体の調子はどうだい? 結構戻ってきてると思うけど」

「そう…ね」

 エルンに言われ、確かめるように体を動かしてみる。

 拳を握って開いてを繰り返し、少々怖いと思いつつゆっくりと立ち上がり、その地面を踏み締める感触を確かめたり…。

「確かに…、問題ないわ」


---[25]---


 まだ多少の怠さはあるけど、動く事に関しては支障が出ないレベルだろう。

「これからどうするの?」

 話を聞いてあの怪物が、この世界で悪魔と呼ばれる存在という事はわかった。

 ならこれからどうするのか。

 無策に悪魔をどうにかしようとすれば、また眠らされて終わり、隠れるにしても神出鬼没な悪魔の動きは警戒するにしても限界がある。

 だからこそ、何をするにも、エルン達の経験…知恵が必要不可欠だろう。

「まぁまぁ話は終わっていないから、体の調子が確認できたなら座りなよ」

「でも、どこから現れるかもわからない悪魔を相手にするのに、同じ場所で話を続けるのも…」

「どこから来るのかわからないなら、ここにいようが移動しようが変わらないって。とにかく座りなさい」


---[26]---


 今回はいつも以上に真剣な印象を受けるエルンだが、その色はさらに深く、こちらが何かを言おうとする雰囲気すらも消し去る。

 エルン達と向かい合う様に腰を下ろし、妙に緊張する場の空気に、思わず息を飲むのだった。


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