第20話
第二十話
「あー、やっぱ優哉だ! やっほほーい♪」
「ほわあああぁぁぁぁっ!?」
びっくりしたああぁぁ!
誰だいきなり!? ……って、日焼けした肌が眩しい遙香じゃんかっ!
「どったの、そんな大げさな」
「どうもこうも、なんで遙香がここにいんだよ!」
「なんでって、あたしだってこういう本屋さんぐらいくるし」
ま、マジで!? まったくの予想外だ……普通の書店ならいざ知らず、こういうコテコテのオタク向けな書店に来るようなキャラじゃないだろ、遙香は!
「てか、優哉もよくここ買い物にくんの? あたし、わりとよくきてるんだけど……会ったことなかったよね」
オウ、シット! なんてこった! 意外とご用達でもあったか! でもなんでだ?
だがまあ、慌てることはない。なぜなら、すぐそこで出会ったばかりの遙香には、俺がなんのマンガを買ったかはバレてないはずだ。サンドイッチ作戦は完璧だったしな。
「そっかそっか。んじゃあ、俺は電車あるからこの辺で。また明日な!」
とっとと逃げ帰ろうとしたのだが、ガシッと腕を掴まれてしまう。
「もう帰っちゃうの? せっかくだしちょっとダベんの付き合ってよー」
「そ、そうしたいのは山々だけど、今日は早めに家帰りたいんだって!」
「ぶー……まあでも、さすがに自分の部屋じゃないと恥ずかしくって読めないよね、『屋台大好き江野川さん』は」
「そうだ、この絵はさすがに自分の部屋でじっくりゆっくり読みたいタイプで……は?」
待て。いま遙香のやつ、なんて言った?
ジワリと嫌な汗が滲んできた。正直、振り返るのも怖い。
だがこの手を離してもらうには振り返るしかないんじゃないか? っていう無言の圧力を感じ、俺は恐る恐る振り返った。
遙香は、俺の買ったのと同じ作品をこれ見よがしに掲げ、
「優哉も、こういうちょいエロなマンガ、読むんだね」
オオオォォ、マアァァイッ、ガアアアァァ!!
ばっちり見られてたあああああぁぁぁぁぁ!!
もう遙香のニンマリ顔がすべてを物語ってるよ! これ絶対見られてるじゃん!
買うところ……いや、棚から手に取るところまで、下手したら買おうかどうか棚の前で迷ってるところから、絶対絶対絶対見られてる!
「結構えっちぃ感じに寄せた表紙だから、どんな人が買うのかなって気になってずっと棚の影から張ってたんだけど……そっかそっかぁ」
なんだよ、その含んだような言い方と笑顔は! めちゃくちゃ恥ずかしいだろ!
いや、恥ずかしいじゃない。もっとこう……あらゆる物事がすべて崩れ去ったような、奈落の底へ突き落とされているような、そんな途方もない絶望感が俺を襲っている!
うあああぁぁぁっ! ここに来て小野瀬優哉、人生最大のミスを犯したああぁぁ!!
せっかくこれまで、計算打算を駆使して外面を取り繕ってきたのに!
オタクを隠してきたのが全部バレちまったああぁぁぁッ!!
高校デビューを経て盤石にしてきた俺のイメージが総崩れだ……。
しかも、よりにもよって遙香に見られるなんて……。
こいつ、そこそこクラスのみんなと仲いいし、噂なんてすぐ広まっちゃうだろ……。
ああ……オワタ。
「……ーい、優哉ー? もしもーし」
ってか、それ以上にショックなのはだ。
遙香とは友達以上恋人未満的ないい感じの仲で、さらには俺に好意すら抱いてくれている。なんなら俺だって、好きとはいかないまでも心地よい関係に幸せを感じていた。
それを、こんな痛恨のミスひとつですべて台無しにしちゃったことのほうが、なによりも悲しくて死にそうだ……。
「なーに落ち込んでんの。もしかして、あたしに見られたのがそんなにショックなの?」
なのに遙香は何事もなかったかのように接してくる。
それが余計、傷に塩を塗られているように染みるんだ……。
「そりゃそうだって……。見られたくないところを見られたんだから、ショック受けるに決まってるだろ。引かれるってわかってたしさ」
「ええぇ? なんかそう言われるほうがショックだよぉ……」
「へっ……なんで遙香がショックを受けるんだか。こちとら隠してたオタクっぷりが、よりにもよってこんな形でバレたんだ。穴があったら入りたい……」
「なにそれー。それじゃまるで『江野川さん』が、そういうオタク向けで人に勧めたくない恥ずかしいマンガみたいになるじゃん。ちょっと表紙がエロいだけなのにー」
「うぐ……た、確かに語弊があったというか、言い方が悪かったから謝るよ。ごめん。けど、まだグラドルの写真集買ってるほうが健全な男子高校生っぽくて理解でき……って遙香、このマンガ知ってんのか?」
遙香がそこでムッとなるほど内容を知っている様子なのは、かなり意外だった。
すると、遙香はキョトンと首を傾げ、とんでもないことを暴露した。
「いや、知ってるもなにも――――『久遠寺景』って、あたしだし」
「…………………………はぇっ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます