第7話
第二章 俺的高校デビューのすゝめ
第七話
人生なにが起こるかわかったもんじゃない、なんてよく耳にはするけど、まさか知らない間に俺に彼女ができていたなんてな。
なるほど、世のイケメン共に起こりがちな「お前、最近彼女と別れたはずだよね。え、なんでもう次の彼女いんの? 早っ!」現象は、これがカラクリだな? 『彼女』って存在が自然発生するから別れても別れても途切れないんだ。
うわー、チャラい。チャラすぎて別れた感傷もすぐチャラにできますよって?
やかましいわ! ノリツッコミ寂しすぎるわ!
違う、俺はそんな話がしたいんじゃない。
俺の今の素直な気持ちはこうだ。
「あの、ごめん望海……。俺と望海って付き合ってた、のか? ずっと?」
「……がーん」
擬音語を口で表現すんのか。
でも表情が全然『がーん』って感じじゃないから、気持ちは確かに伝わった。
「ショック……。ショックすぎて手元が狂いそう」
「ちょ、それは勘弁してくれ!」
手をわきわきと動かす望海。見ているだけで身の毛もよだつくすぐったさだ。
ってか俺の弱点を知っているってことは、この子は幼馴染みの望海で間違いない。
けど俺と望海の間に交際歴はない。そんな約束も交わした記憶はない……はず。
「マジでわかんないんだ。忘れてるだけかもしれないし、それだったらごめん」
正直に話すと、望海は落ち込んだようなため息をついた。
「本当に、覚えてない? 六年前のこと」
六年前……俺がちょうど小学四年生の頃だ。
必死に記憶をひねり出そうとするけど、もはや漠然とし過ぎてるんだよな……。
すると望海は、うんうん唸っている俺にしびれを切らしたのかもしれない。
「それなら、私が思い出させてあげる」
望海は羽織っていたジャージのファスナーを下ろし、学校指定の体操着姿になる。
そしてシャツの裾を掴んでおもむろにたくし上げてえええぇぇぇえっ!?
「待て待て待てえ! なんでそこで脱ぐ!?」
マジで意味がわからん! でも、わからんなりにここから先はマズいと直感は働いた!
これ以上シャツの裾が上がらないよう、俺は掴んで押さえた。まあタイミングが遅かったせいで、本来は見えちゃいけない部分がすべてオープンになっちゃってるけども。
細く緩やかな曲線を描くくびれ、チョコンとくぼんだつぶらなおへそ、そしてフリル付きの水色のブラに納まった、こんもりサイズの胸。ほどよいお椀形で、Dぐらいは余裕でありそうだ。しかも肌全体がシルクのようにしっとりとした美白……。
やばい、エッチくてドキドキが止まらない。
「んー、むー、ふー」
フガフガと妙な声が聞こえてハッと視線を上げる。まくし上げたシャツに隠れた部分でなにかがもがいていた。いや、なにかじゃないよ。望海の頭だよ。
「わ、悪い! いま放すから! てかお前もいきなり脱ぐなよ……」
シャツを下ろしながら、もうちょっとだけきれいな素肌を拝んでおこうというスケベ心で視線を下げた俺。さっきは見落としていたが、胸元に小さなネックレスが揺れていた。
「優ちゃんに思い出してもらうには、これしか手段、なかったから」
つまり体で思い出させようとした、ってこと?
そこまで進んでた関係なのか、俺たちは。最近の小学生って早いな……記憶にないけど。
って思ったら、望海は襟に手を突っ込み、首にかけているネックレスを取り出した。
「このネックレス見せれば、きっと思い出してくれると思って」
「脱ぐ意味なかったよね? 今のやり取り必要なかったよねぇ!?」
「でも一糸纏わない姿もセットにすれば、より思い出せるかなって」
「そんなん目をそらすに決まってるだろ! ネックレスどころじゃないって」
「なにを恥ずかしがってるの? 一緒にお風呂入った仲なのに」
「それこそ何年前の話だよ……。お互いもう高校生で、さすがにその……マズいだろ」
望海はかなり女の子らしく成長していた。さっきから心臓がドキドキしっぱなしだ。
すると望海は、なぜか押し黙ってしまった。微かに頬とか耳が赤らんでいる気がする。
「優ちゃん、ズルい……」
ボソッと一言だけ発すると、望海は馬乗りしていた俺の膝の上から降りた。さらにそこから二歩ほど下がる。なんだなんだ? 急にしおらしく俯いて、手までモジモジと……。
まあいいや。えっと……ネックレスを見たら思い出すだって?
俺は望海の持っているネックレスを改めて凝視する。
チェーンを通した銀色の指輪だ。よく見たら端々で塗装が剥がれてて、プラスチック素材が丸見え。しかもだいぶ色あせている。オモチャなのは一目瞭然だ。
そこでようやく、俺はハッとなる。
「それ、誕生日に俺があげたやつか?」
弾かれたように顔を上げた望海。そしてコクコクと小刻みに頷いた。
昔、一緒に行ったお祭りの売店で紐クジを引いたら、それが当たったんだ。
本当は携帯ゲーム機を当てたかったけど何回やっても残念賞で、ネックレスなんて男が持っててもからかわれるだけと思い、ちょうど誕生日だった望海にプレゼントした。
「……そうだ、思い出してきた」
人間の記憶ってのは不思議なもんだ。些細な記憶がメインの記憶に紐付けされていて、ひとつを思い出すと芋ずる式に蘇ってきた。
「んで、祭りでそれをあげた次の日の学校で、俺、望海から話があるって呼び出されたんだ。小学校の西校舎一階の階段裏に……うっわ、懐かしい!」
思わず身を震わせる。嬉しさと気恥ずかしさが同時に全身を駆け巡った。
「そうだよ。私、優ちゃんのこと呼び出して、それで、それで……」
ギュッとネックレスを握る望海。
大丈夫。安心しろ望海。ここまできたら、もう全部思い出せたって。
「それで望海、こう言ったんだよな? 『ネックレスをくれたお礼に、私の一番を優ちゃんにあげる』って」
望海は首がもげるんじゃないかってぐらい、何度も何度も頷いた。
俺が思い出したこと、よっぽど嬉しいんだろうな。
「いやー、思い出せてスッキリした! そんで、俺も確か『嬉しい!』とかって答えたんだっけな。懐かしいなぁ、あれもう小学生のときだったっけ……」
「そう。『嬉しい、俺もほしい』って優ちゃん、答えてくれた」
「そうだそうだ。うんうん、全部思い出したよ…………」
「…………」
……待 て よ ?
いま俺、ものすっごく重大な事実をどスルーしてなかった?
「……な、なあ望海? あのとき、お前が言った『私の一番』ってさ……。俺、もらってたっけか? てか、そもそもそれは物だったっけ?」
「ものはもの……だけど多分、字が違うほう。しかも、私、もうあげてる」
「あー、だよね、やっぱ。うん。そうだと思った。てか、今ならそうだってすぐ理解できたわ。なるほどね、そういうことか……はいはいはい」
変な汗が全身から吹き出てきた。
「…………………………俺、あの日、望海に告られてたんだね」
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