盗賊の塒

 その場所は王都より案外近く数時間もすれば到着するような場所だった。しかし辺りは木々に覆われ身を潜ませるにはこれ程良い場所は無いだろう。いくら王都へ続く街道が通るとはいえ目が全てに届く訳でもない。やりようはいくらでもあるだろう。そしてその場にはそのいくらでもあるやり方によって殺されたであろう死体や破壊された何台かの馬車がチラホラ。抵抗したから殺されたのか……それとも別の理由か。ちゃんと調べねばわからないが、死体の様子とこの場から馬車に積まれていたであろう積荷がほとんど消えていることから既に去ってから時間は経っているようだ。

 散って調べるとやはり血は既に固まり死体は冷えている。医学の専門では無いからわからないが、少なくとも数時間は経っている、まあそれは当然だろうな。

 調べていくと何があったか多少分かった。この場にある死体、そのほとんどが男性であることだ。女性のものもあるにはあるが、老女だったのだ。何を目的としたのかは予想がつくが、やはり嫌な気分だ。

 食料は文字通り根こそぎ奪い取られ、金目の物はもちろん、売れると思われたものも持っていかれたのだろう。何やら運んだ形跡がある。いや、これは馬車の車輪跡だ。荷物を運ぶためにわざわざ馬車を使ったらしい。

 襲った当時は雨が降ったのだろう。既に陽が照り乾燥しているが轍が残り後をつける事は可能そうだ。街道から外れ、木の茂る森の奥へと続くそれは罠かと疑える程にくっきりとしていた。素直に辿っても良いが、轍の真上を行くのは危険だ。少し離れたところを追うとする。


 森の奥へとしばらく進むと次第に人が通っていたであろう道が現れた。馬車が通れるだけのスペースが確保されていて、それが綺麗にまっすぐ伸びている。先は木々によって見えないが、この先に賊が居ることは確かだろう。

 さらに奥へと進みしばらく。警戒を解くことなく茂みに隠れて唐突に直径数十メールほどの現れた広場を覗く。そこには小さな丘があり、地下へと続く穴が見える。人一人通れるかどうかといったところだが入口には二人の見張り、そして簡易的な櫓も作られていた。入口穴を守るような防壁や堀等はなく、ぽっかりと開いているのがここから見える。見張りの賊もやる気がなく、盗んだ酒らしきものを飲んでいるのが見える。ただ、櫓にいるやつだけは弓を手に持ち周囲を見回している。真面目に働いているがそれは危険だ。

 さらによく見回すと、丘に隠れて見えなかったが、ここから丘を挟んで反対側の茂みに馬車が隠されているのが見える。枝葉やロープで巧妙に隠されているが、車輪は見えていた。どうやらここが商隊を襲った賊の塒で間違いないだろう。

 仕掛けるのは簡単だ。遠距離攻撃が可能なのがこの場には二人いる。同時に片付けることは容易い。どうするか。答えは簡単だ。

 隣のエルと目配せし手持ち武具の数が多い俺が見張りの二人を、櫓を彼女が受け持つ。すぐに行動を開始し、最も狙いやすく最も距離が近い位置へ茂みを出て木々に隠れながら移動する。

 使うのはニュクス&パンドラ。弾速を高めて即殺する。消音魔法を使用しても少しは音が出るのが難点だが、サプレッサーでも音はする。しかし、場所は森のど真ん中。木々の葉擦れでその程度は消される。位置につき、互いの姿は見えないが同時に矢弾が放たれる。偶然か、風が吹いて木々を揺らし音を完全に消す。そしてまずは二発の弾が音を超えて見張りの額を食い破る。次いで風に僅かに流されるも速度のままに直進し櫓の見張りを同じく貫く。こうして静かに賊の三人が死亡した。

 入口周辺の安全がある程度確保出来たため侵入の用意を始める。賊しかいないとわかっているのであれば煙で燻すなどやるのだが大切な妹分が中にいる可能性がある。煙は却下となった。


「よし、行こうか」

「ええ、でも少し待って。ほら向こう。多分隣町の兵士よ」


 背後のルルが指さした先を見ればそこには数十名程度の兵士と数人の騎士が。王都の者では無さそうだ。襲撃を受けたことを聞いて出てきたか。彼らはこちらに気づき、代表者の騎士が近づいてきた。兜を外し、髭面のナイスミドルが現れる。


「貴殿らがこの見張りを殺したのか?」

「ああ。そっちは?王都の騎士じゃないってのはわかるが」

「申し遅れた。我々はバルト街駐屯の騎士及び兵士団だ。この度は盗賊襲撃の事を聞き救助と討伐に参ったのだ」

「なるほどなるほど。こっちも似たようなもんだ。ま、妹分が中に囚われてる可能性あるから来たってのもある。でも戦力が増えて嬉しいよ」

「うむ、共同戦線と行こう。して、どのように動く?」

「俺たちは少人数での連携を前提としている。だから先に一気に奥まで行って囚われてる人々の確認をする。俺たちが突入してすぐにそちらも突入してできるだけ入口周辺に賊を集めてもらいたい」

「了解した。ではその通りに」 

「ああ、途中から後ろからも削っていく。よろしく頼む」


 作戦会議は滞りなく終わり、すぐさま突入となる。武装確認は済んでいる。見張りが倒されたことが感づかれない内に開始する。

 音もなく侵入し五人はシャリアを先頭にルルを中心とした楔形の陣形を取って進む。声が聞こえるがまだ気づいていない様子。賊が集まって居そうな部屋は無視して最奥へと進み続ける。すると後方から何かが弾けるような音。侵入前に兵士たちに渡していた簡易爆竹だろう。音に驚き飛び出る賊を待ち構えるのは陣形を整えた完全武装の兵士たちだ。そうそう負けるはずは無いだろう。その隙に最奥まで進む。なぜ最奥と読んだかというと大抵戦利品は奥へと仕舞いこむものだ。特に女ならば。

 不思議なことに塒と言うには道が単調だ。一直線に伸びる道の左右に部屋が作られ分かれ道などない。よく見れば風化仕掛けているが人工物を再利用したようで元は遺跡のようだ。途中食料庫らしき部屋を通り過ぎたが偶然中にいた賊に気づかれてしまった。仕方なく殺したが、そもそもこいつらは賊であると考え気にしない。後方の戦闘音が遠ざかり、次第に静けさが包み込む。道は単調だがやけに長い。時折開いている扉があり、中を覗くと井戸であったり武器庫であったりと使われてはいるようだが……するとどこからか声が聞こえた。シャリアが顔を顰めたことで察しはついたが。聞こえるのは嬌声。しかし、艶めかしさよりも惨さが勝ってしまうもの。しかし幸いか、聞いたことのある声ではない。声のする方へ進むと近くの僅かに開いた扉から聞こえてくる。見える限りでは中に三人。余裕だろう。顔を見合せ、俺が扉を蹴破り、マナとシャリアが突入、即座に二人を射殺しマナが扉に隠れていた二人の首を撥ね残る一人をシャリアが殺る。その間犯されていた女性一人をルルたちが介抱する。戦闘は一瞬でありイチモツぶら下げた無防備な賊は何も出来ずに死んだのだった。


「あなた、大丈夫?傷は治したわ。エル、布をもう少しちょうだい」

「……はい、どうぞ」

「ありがとう」

「……あな、たがたは」

「私はルル。あなた達を助けに来たハンターよ。既に入口辺りでは兵士も戦っているわ」

「よか……った……」

「動かないで。外傷は治したけど中がどうなっているかわからないわ」


 見れば女性は全身が痣だらけだ。状況が完全なレイプだが、この屑共は女性を犯すだけでなく痛めつけて達するタイプだったようだ全く胸糞悪い。


「ここ……からまっ……すぐ、右、四つめ……の扉の、奥、そこが……牢屋、です。十人……は居ま、す」

「右の四つ目の扉ね。わかったわ。ヤマト、私はこの人を手当するわ。だから囚われてる人の救出は任せる。エル、見張りをお願い」

「任せろ」

「ええ」


 手当をする二人と別れ、教えてもらったように四つめの扉へと向かう。確かにどこか雰囲気が違い他の扉と比べて大きい。扉に耳を当てると人の声はしない。人の気配もしないが、あの状態の人の証言だ。嘘をつく余裕など無いだろうし信じれるだろう。そう思い扉をそっと開けると、奥へと道が続いている。少し先には牢屋らしきものも見える。なるほど、やはり正解だったらしい。コツコツと音を立て進むと牢屋の中で何か動く影が。シャリアの持つ灯りに照らしてもらうとそれは牢の隅で膝を抱えて縮こまっている人だった。声を掛けようとするも明らかに怯えている。人に怯えているのか、男に怯えているのかはわからないが、これでは話しようが……


「安心して。助けに来たわ。怯えるのは勝手だけど、助けて欲しければ言うこと聞きなさい。この牢にはあなただけ?」

「は、はい……」

「そう、牢屋は続いてるみたいだし他のところにもいるの?」

「います」

「わかったわ」


 マナは実はしっかりしていると知っていたが、こうして見ると若干乱暴だな。でも効果的でもある。その牢を通り過ぎ隣の牢へと歩いていく間に先へは今のを含めて五つの牢があるようだ。隣の牢には三人がいる。さっきの一人だけだったのは先に手当した女性がいた牢だったのだろうか。隣の牢に居た人はどうやら親子のようだ。シャリアの灯りが先に行っているせいで暗く顔はよく見えないが会話が聞こえていたらしい。既に立ち上がっている。ただ、服装がボロボロで痛々しい。今の俺にはあまり見ない事しか出来ない。そんな時だった。


「師匠……?」

「カルナ?」


 牢の中で蹲る彼女を見つけたのは。

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