小休止

「マナ、シャリア!離れなさい!」


 ルルとエルが杖と短剣、各々の武器をかざして魔法の発動を行う。

 杖の魔石や短剣の先端に光が浮かび、魔法の準備が完了したことがわかる。


 杖から伸びる眩しいくらいの光の柱と短剣より発射された幾枚もの不可視の刃。

 二人の魔法は動きの鈍くなった魔物に対して見事命中、外れる理由など無かった。

 本来なら討伐を確認してから移動だが、ここは即撤退だ。俺はすぐさまE・A.Aドーラを畳み、箱を抱えてダッシュする傍らその間にルルが撤退を指示して皆で入ってきた通路へと逃げ込む。


 途中転びかけながら何とか通路に収まると俺たちは疲労混じりの中、血をダラダラと流し続ける魔物を注視する。

 格上殺しジャイアントキリングを完遂するには失血死は必須と考えて、粘土爆弾とは別にE・A.Aドーラの射撃で大穴を空けた。そしてマナとシャリアの二人で魔物を動かして体液を放出させた。トドメにルルとエルの二人による魔法。

 一方的な戦闘だったが、威力のみ見るなら苦戦したあの雷虎でも討伐出来るほどだろう。


 岩のようにじっとした状態で動かないあの魔物は微動だにせず、次第に岩どうしが擦れるような音と共にゆっくりとその身体を横へ倒す。


 ズズン……


 もはや岩と化した魔物に俺たちはの感想は喜びの声よりも緊張が解けた時の長い息であった。

 皆床に座り込んで安堵の息を漏らす。

 この数日暗い中ルルの光魔法頼みで探索し続けて皆疲れているのである。

 隣の国にあるという迷宮とかに行ったのなら探索や戦闘も似たようなものなのだろうが、今の俺たちの体力ではこれくらいが精一杯なのだ。先日の大量の守護者ガーディアンとの戦闘での疲労が抜けきらない中での今回の戦闘だ。そりゃあ疲れるだろうというわけである。




 さて、ここからは早かった。

 一応もう一発分E・A.Aドーラで撃っておき、あの魔物の解体などもせずにすぐその場を後にしたのだ。それからは来た道を戻り、休憩をした小部屋などで仮眠を取って俺たちは外への道を辿った。

 疲労故にあまり鮮明には覚えていないが、街のような遺跡まで戻った時には身体中から力が抜けたことはハッキリと覚えている。ここまで来れば安心という事実と生還まではあと少しということが現実味を帯びてきたからだ。


 フラフラになりながらようやく脱出した遺跡内の建物。抜けられたのは運が良かったに過ぎないだろう。だがそんなことは彼らにとってどうでもよく、熟睡の文字しか頭には無かった。

 そして侵入していた建物の脇に残してあったテントに戻った直後、俺たちはハンターとしては有るまじきぶっ倒れからの爆睡という身体からの信号こと生理現象に敗北した人の見本例みたいな感じで意識を落とすのだった。




「……うぅ、今、何時だ……?」


 はて、ここは?確か遺跡を抜けてぶっ倒れるように寝たのは覚えてるんだが。……ああ、テントの中だ。

 そうだったな。あの岩の魔物を倒してから俺たちはとりあえず来た道を戻ることだけに注力していた。幸いな事に守護者は一体も出てこないで休憩を取った小部屋や今も大量の守護者の死体が残る広間を抜けてこの建物の外まで戻ってくることが出来た。あまり外を確認せずにテントに入って寝てしまったから、内心めっちゃ安心している。魔物とかは確認出来なかったが、この街のような空間にも潜んでいる可能性はあるからな。


 熟睡したからかやけにクリアな思考と共にふと右を見るとそこには小さく寝息を立てるルルの姿が。ローブを着たままだし杖が彼女の脇にあるから寝てから一度も起きていないのだろう。

 思えばこの遺跡では彼女の魔法に頼りきりだ。基本的に明るさが足りないから光魔法で灯りを確保して貰っていたのだ。探索や戦闘には助かったが、ルルにとっては常に魔力を消費し、体力も削られていく戦闘よりもキツいものだったろう。

 

 俺は自分がくるまっていた毛布を彼女に掛けてモゾモゾとテントから出ようと移動する。が、暗くて周りが見えないから彼女を踏んだりしないようにゆっくりと歩くしかない。

 テントから出ると、既にエルは起きていたようで焚き火が点いていた。


「おはよう、早いわね」

「エルもだな」

「ええ、慣れた習慣は怖いわね。あれだけ疲れてるのに普段どおりの時間に起きてしまう」

「俺も全く同じだよ。身体は全然疲れてるのにな」


 感覚的には朝の六時。従者時代からの習慣で、嫌でもこの時間に目が覚めてしまう。


「みんなは寝てるか。ま、起きたら出発くらいでいいかな?」

「そうね、また長いもの。外に出たら数日はのんびりしたいわね。はい、お茶よ。簡単だけど」

「ありがとな。そうだな……しばらくハンター業は休止でいい気がするよ」


 エルが差し出してくれたお茶を啜りながら俺たちは焚き火を囲む。

 遺跡の中ながらのんびりとした時間が流れ、お茶が冷める頃には皆も起きてきたのだった。

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