遺跡の奥には

 遺跡に突入して三日目。この巨大建造物に侵入してからは二日目だな。

 昨日、守護者ガーディアンと思われる獣を倒してからしばらく休息し、時間的には夕方辺りに俺たちは少し奥へと移動を始めた。

 守護者の危険はあるが、この広間で過ごすよりはマシだろうとの考えからだ。


 守護者たちが現れた道を一時間ほど進んだ時だ。横に小道が現れて、シャリアが覗いて見た結果、小部屋が存在していた。


 最初エルはかなり怪しんだものの、ルルが体力消費を承知で魔法をいくつも放って罠の存在を確認した。

 これによって確認出来たのは魔法に反応する罠、衝撃によって反応する罠の存在。そして少し時間を置くと時間差反応の罠も確認できる。ここまで罠は少なかったが、万一があるからこの確認は怠れない。


 そこからさらにエルが慎重に数十分掛けて調査を行い、ようやくこの部屋の安全が確認されたのだ。


「お疲れ様」

「ううん、必要な事だもの。それに、もしかしたらここを拠点に探索が出来るかもしれないからね」

「そうね。ヤマト、終わった?」

「おう、布はこんな感じで良いのか?」


 俺は入口を塞ぐように杭を使って魔法袋に入れて持ってきていた大きな布をカーテンのように打ち付けていた。

 そこにルルが簡単な魔法を掛けて、申し訳程度だが隠蔽効果を付けた。暗がりだと魔物にも効果はあるはずだ。


 それからは携帯食料を齧りながら中央にランプを置いて皆思い思いの作業をしていた。さすがに少し休んだだけで大きく移動する気は無い。ただシャリアは気になることがあるようで少し先を見に行っている。


 ルルは寝袋に包まって早めに寝ているし、マナは鎧を少し弄っている。エルはポーチに入れている色々謎な物を整理しているようだ。

 俺はそんなに皆を眺めながら銃の調整と簡易整備だ。フィルは最初結構使ったし、ニュクス&パンドラも銃身内をちゃんと掃除する。


 さっきまで激しい戦闘をしていたとは思えないほどのどかな雰囲気だった。


 戦っていた時と今の落差、これを意識してしまうと気になってしまうのは人間の性か、麻痺してきているのかと考えてしまう。それとも当たり前過ぎて何も感じないだけか。人を殺すのも覚悟こそ決めてるが、慣れるとは思えない。……だが、それが正しいのかもな。


 眠気なのか、自分でも何考えてるかだんだん怪しくなってきたな。何も起きないうちに眠らせてもらおうか。幸い、マナはまだ起きてるしな……ぐぅ。





 数時間後、皆の仮眠と休息を終えて俺たちは再び遺跡の奥に進んでいた。

 相変わらず脇に時折小道が出る程度で何も起こらないことを嬉しくもどこか怪しく感じながら静かに進む。


 徐々に道幅が狭くなる以外は何も無く、だんだんこの先に何も無いのでは?という不安が湧き出始めた。ただこの道は人工物であるという理由で進んでいるに過ぎないのだから。


 だが、そんな時も耐えてしまえばひっくり返るものである。


「これは……」

「教会に似ているね、何故こんな所に」


 道を抜けた先にはあの守護者との戦闘と同じように広間が広がっていた。ただ違うのはそこは明らかに人工の彫像などが並んでいること。そして確実に何かを祈る場所であるということ。


「エル、罠は?」

「見た感じは無いよ。そもそもこんな所に罠を付けると思う?」

「無いな」


 地球の有名都市の大聖堂と言われても遜色ない程に立派な場所だった。ステンドグラスや宗教画などは劣化なのか見つからないが、石製の品はほとんどが形を残したまま放置されている。

 左右には石像が並び、美しく彫られた柱は今もこの聖堂を支え、石造りの長椅子は冷たいままそこにあった。石材はわからないが、高価なものなことは間違いないだろう。


「ヤマト、奥の祭壇みたいなもの、上に何か乗ってるわ」

「あれ取ったらここが崩壊するとかじゃ無いよな」

「なにそれ。私は守護者の方は勘弁したいわね」


 みんなもうクタクタなのだ。ここに居るのだって、折角ここまで来たんだし、という考えの元だ。落ち着いて考えれば一度帰還した方が良いはずなのだが、皆そんな考えはすっぽ抜けていたのである。


 俺たちは陣形を崩さずゆっくりと石製の長椅子の間を抜けて、石像が支えるようになっている祭壇の前に立った。


 その上には一冊の本が置かれていた。埃をかぶっているが、まだ綺麗な革の装丁が成された価値のありそうな本だ。こんなところに無ければ。


「罠かどうか……」

「私は違うと思うよ。だって本の周りにも砂とか埃が積もってるもの」


 確かにそうか。見れば祭壇の上に随分と長い間放置されていたようだ。劣化こそ見られないがここは古代文明の遺跡。何かしら劣化を防ぐ方法があってもおかしくは無い。


「みんな、取るわよ」


 皆武器を取って、何が起きても良いようにした後にルルが代表としてその本を取った。

 サラリと本の表面から砂や埃がこぼれ落ち、地面に付くかどうかという瞬間。


 パラパラ……


 天井から小石だろうか、僅かな振動と共に降ってくるものがあった。

 次第に振動は強くなり、緊張感が高まる。


 そうして、何かがズレるような音と共にそれは落ちてきた。


 ゴツゴツとした岩のような物を纏い、歪な形状をしたナニカ。

 人の鳴き声の様な呻き声を上げてゆっくりと動いていく。

 次第に起き上がった五メールはあるそれには目があり、こちらをしっかりと捉えていた。


 ゾワッと背筋に悪寒が走ると同時に俺は準備していた粘土爆弾を奴の足元に投げ、魔道具に指定した通り即座に起爆、それがこの戦闘の合図となり、俺たちは奴を囲むように散開する。


 この場の全員「こいつはヤバい」と理解していた。それ故に皆が自らの出せる最大級の攻撃を繰り出そうとしていた。


 ルルが詠唱を始め、シャリアが守る。エルは詠唱と同時に何やら薬品の準備を始めて、合わせるようにマナが〈ギルト〉の発動を終えた。俺?俺は……


 ───ガシャコン


 最大火力ことE・A.Aドーラを引っ張り出していた。


 着地と爆弾の影響で奴はまだ動けないようだ。ならば!

 箱をワンタッチで展開、折りたたまれた本体も伸長し、塔のような銃が姿を現す。

 それを横倒しにして奴の方へ向ける。

 そのまま薬室に巨大な専用弾を装填し、ルルたちとエルたちの間を貫くように角度を調整、伏射姿勢で狙いを定める。

 デカすぎてどこ狙っても当たりそうだ。

 魔法陣で仕込まれた加速魔法を起動させた後、耳あてをして発射の準備を終える。


「とりあえず……食らっとけ!」


 ドゴンッ!!


 引き金を引くと同時に大砲じみた発射音が聖堂の中に響き渡り、龍の火炎のようなマズルフラッシュで照らされたそれに鋼鉄の弾丸が突き刺さる!

 弾かれる、などという可能性は微塵もなく、火薬の爆発力による物理の神様の一撃は加速魔法による魔法の神様の手によって速度が上乗せされて、岩石のようにいかにも硬そうな奴の甲殻をいとも簡単に穿ち、砕き、貫いたのだ!

 それは、E・A.Aドーラからやつを貫いた先まで一本のオレンジ色の線が薄らと伸び、まるで槍の一撃のようであった。


 血が吹き出す。


 たった二つの穴からおびただしい量の血が吹き出すのだ。それは奴が生き物であることを示し、また戦闘の切り口となるものだった。


「こいつにまともな傷を付けるのは難しい!エルとルルは俺が付けた傷に攻撃を!後はみんなでこいつを動かしまわれ!」

「どうしてよ!」

「失血死を狙う!いかにこんなところにいる変な奴でも血がなくなりゃ死ぬはずだ!動きとかは任せる!」


 失血死というのは格上殺しジャイアントキリングには必須だと俺は考えている。龍の時は頭が近かったから耳などから脳に直接攻撃出来ねえかとやった爆発だったが、それが出来ないのなら狙うべきは失血死だ。変な自己再生とか持ってないのならそれでなんとかなる!


 ルルの叫びに返した俺の指示通りに皆動き出し、シャリアとマナは自然と連携して翻弄するのではなく、単調な動きで逃げ回ることで奴が動くのを狙う。

 魔物と言えど体液は動く。それを流出させ切ったら俺たちの勝利だ。


 セコいとかは受け付けない。これぞ知恵だからだ。


 奴は岩石のような甲殻に覆われていて動きがあまり俊敏では無い。その分時間は掛かるが、それは俺や魔法二人組にとってありがたい事なのだ。

 まず動きが遅ければE・A.Aドーラによる狙撃が楽になる。この銃はデカい分一発撃つごとに時間が必要だ。連射が効かないため使い所が限られる銃だが、相手が遅いのならそれは関係無くなる。格好の的になるのだ。

 また魔法二人組は詠唱という形で時間が必要だ。詠唱に時間を掛けられるのならより精度は高く、強力な魔法が放てる。


 つまり……カモだ。

 よくわからん敵だが、俺たちとは絶望的に愛称が悪すぎたのだった。

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