連続戦

 くそっ、何体出てきやがる!散弾は装填し直す暇は無いし、通常弾もキリがないからもう銃での戦闘は止めて剣に切り替えている。

 耳のでかい狼みたいな見た目の守護者ガーディアンは奥の道から続々と途切れることなく溢れてくる。


 銃を使っていては感じなかった生々しい肉を切る感覚が手に伝わってくる……

 俺が何故剣を使えるのかって?そもそもルルとシャリア以外に経歴を教えていなかったり、剣の鍛錬していたことを忘れているからだな。

 従者としてルルに仕えるために修行を重ねていた俺は銃はもちろん、剣に槍、鉈にエストックとマイナーな物まで使えたりする。剣と鉈以外は一般兵士レベルでしか無いけど。


 グレアと銘打たれた赤い剣はヒュッと風を切りその刃に鮮血を浮かばせる。同時に左手に持ったパンドラが火を噴き剣で斬れなかった守護者ガーディアンを穿っていく。


 足を引いて身体の向きを変えながら剣を振り、目の前の三体を同時に薙ぎ払う。振り切った隙を埋めるように引き金を引いて俺に近づけないように立ち回る。


 飛びかかってきた守護者はよく見ると毛のない皮膚を持っていて、猫のスフィンクスと呼ばれている種に似ている。目の小ささと耳の大きさの不釣り合いも相まって気味悪い。

 

 戦闘も元は五人で固まってそれぞれカバーし合いながら立ち回っていたけど、数に押されてバラけてしまった。姿も見えているからその点は安心なのだけど……もうかれこれ十分以上、元から少々疲労していたルルのためにも早いとこ蹴りをつけたい。だけどこの状況をどうにか出来る手段が無い。


 銃には魔法陣って方法である意味付与エンチャントが出来ているが、剣にはそういったものは一切ない。シャリアやマナの使う属性武具の試作品にでも提供していたら少しは変わったのだろうか……現に二人の武器はこの状況でも大暴れのようで、かなりの数を倒しているように見える。


 目の前の守護者を袈裟斬りに叩き落として同時に真横に向け三連射、逆袈裟でもう一体をかち上げつつマガジンの再装填と銃身による殴りを加え前ががら空きの隙に突っ込んでくるやつにはヤクザキックを叩き込む。そのまま前へ踏み込み前へ切り払い、さらに頭部命中を二体追加したところで背後に近づいた奴へ向けて大きく回し蹴りを食らわせる。

 このおかげで周囲に大きなスペースが出来た。知能が多少なりともあるというのは当たりのようでジリジリとしか近づいて来なくなった。

 わざわざ待つことは無いので突っ込み、不意打ちの如く迫り剣を両手で持って一気に四、五体を斬り飛ばす。もっとリーチをと思わなくもないが、今の俺の身長などではこの大きさが精一杯だろう。筋力は十分以上あるのだけど。


「ふううううぅぅぅぅ………」


 一息つき、そのまま振り返る。

 守護者たちにはどのように映っているのかはわからないが、自身らの返り血で真っ赤に染まった俺が映っていることだろう。


 一歩踏み出すと一歩下がる。奴らにも恐怖心というのはあるらしい。普段とは違うかなり大雑把な戦闘をしたがこれはこれで楽しいな。


 それにまだまだ終わらないと思っていたがそうでもなく、終わりはあるらしい。はあ、少し残念。

 シャリア達ももう少しで終わりそうだし、俺も早いとこ片付けるか。


 俺は師匠であるバナークさん直伝の一気に姿勢を低くする踏み込みで守護者の目の前に移動し、容赦なく首を刎ねる。そのまま敵の塊に突っ込んで首を刎ねた時の勢いのまま一回転して勢いと切れ味のままに振り回して吹き飛ばす。

 細く息を吐き、僅かに休むとそのまま銃の乱射で数体を一気に倒す。


 そして剣を逆手に持って脇の下を通すように真後ろに突き出す。

 靴に体液が掛かる感覚と共に俺の戦いは終了した。



「やっと……終わった……」


 俺が最後の一体を倒すと同時にルルたちの周りで残っていた守護者をマナが倒して、この広間での戦闘は終了、皆で広間の隅に集まり、ほんの僅かな休息を取っていた。


「みんなで百は倒した?」

「そうね、数える余裕無かったけど。魔力も相当消費したわ……寝れるなら寝たいわね」

「俺も何体倒したかは覚えてないな。でもそれくらいかもな」


 広間の真ん中の方を見ると、そこには息絶えた肉塊の山。血の匂いが充満しているから早いとこ移動したいけど、みんな移動するだけの気力も無い。

 俺もあれだけ派手に戦ったのは久しぶりだ。そもそもここ最近は銃での戦闘ばかりだったから剣を使うことが少なくなっていた。でも快感じゃないけど、剣での戦闘も久しぶりにやると楽しい。修行時代を思い出せる。


「エル、これからどうするの?」

「私も悩んでるわ。戻るにしてもかなり時間掛かるわ。安全を考えるなら戻るのが一番なんだろうけど……」

「けど?」

「もし、テントの方までこの守護者が居るとしたら?ただこちらに降りてこないだけで向こうにもたくさん居るかもしれない」

「それは……」

「遺跡というのは本当になんでも起こるわ。だけどこれは私も予想外、ごめんなさい」

「良いわよ別に。予想できるものじゃ無いもの」

「だから今日はここから少し進むか、ここで野営しようと思うの。ねえルルって岩に穴を開けたらそれを整えるくらいのことは出来る?」

「それくらいならできるわよ」

「なら、ヤマト。出番よ」

「え、俺?」


 俺なんか出来るか?この状況で。


「あの遺物を入手した時の爆発……まだ起こせるでしょう?それで壁に穴を空けて欲しいの」


 なるほど、出来ないことはないが……


「出来なくはないけど、かなり時間掛かるぞ」

「そう……」

「でも、ルルが壁に奥まで細い穴を作ってくれれば何とかできるぞ」

「そうなの?」

「ああ、ルル頼めるか?」

「任せて」


 それからは早かった。

 ルルの魔法で壁の一部に奥行三メールくらいの細い穴を作ってもらい、彼女の杖の先端で粘土爆弾を奥に押し込んでいく。

 そのまま魔道具式の信管も押し込んで少し離れて起爆する。

 もちろん耳塞いで口を開けてな。そうしないと色々飛び出ちゃうから。


 崩れた壁を見て一瞬げんなりしかけるけど、ルルの魔法で退かされたり、エルの魔法で整えられたりして、崩してから一時間くらいで五人が寝れるくらいのスペースは作ることが出来た。


「みんなお疲れ様。普段よりはだいぶ早いけど、今日は今のうちに休んで起きましょう」

「そうね、悪いけど先に休ませてもらうわ」

「じゃあ俺は最初に不寝番やっとく」


 皆が寝袋を敷き始める中俺は穴の入口に座って銃の整備キットを広げる。


「ヤマト、お願いね」

「おう、任せとけ」


 疲れちゃいるが、みんなの方がよっぽど疲れてるだろうからな。これくらいは俺がやらなきゃ。


 そんな気持ちで四時間ほど俺は不寝番を務めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る