守護者
「揺れ……」
なんだ?地震とは違う……
なんというか……地割れ?
ブルブルと震えるような細かな振動。だが細かな揺れにはそれぞれ大きさがあるというか、大勢が走っている体育館の中に座っている感覚というか。
ただ、なんかヤベえ物が来るってのは間違い無いっ!
俺は即座に閃光弾と爆薬の塊ことダイナマイトから進化した手榴弾を取り出す。そのままそれぞれに付いた金具を腰のベルトに引っ掛ける。腰に違和感が出来るが気にする場合では無い。
ルルが土魔法で砂を動かし壁もどきを作る。エルが弓を構えて矢を広間の中央に突き刺さるように一本だけ放つ。マナは剣を引き抜き、〈
立ち上がってもはっきりと感じるほどに揺れは大きくなり、地鳴りのような音すら聞こえてくる。
ルルの頬には汗が垂れ、壁を維持できる時間はそこまで無いと思っていいだろう。エルは続けて数本を放ち、同じく地面に突き刺さる。
そこから数十秒か数分か、俺の頬にも汗が垂れ、どこか内心焦ってきていることに気が付く。手は汗ばみ、思わず銃を撃とうとしてしまった時だ。
ズズンッ……
なんだと考える間もなく気が付く。
ついさっきまで続いていた振動と音が止まっていることに。
どういうわけかあの何か擦れるような音で振動の元は動きを止めたらしい。
「エル、罠で振動を生み出すものは?」
「知る限りではそうそう無いわ。発動するために一々あんな音とか振動出してたら侵入者も殺せないわ。罠は隠蔽が大事だもの。だけど……こんな話を聞いたことがあるわ。巨大な遺跡の中枢、特に何らかの機密があるとされる部分には警備衛兵のように配備される謎の存在……
「守護者か。名前はまんまだが、ほんとにいるなら恐ろしい。だけど……これだけデカい建物だ。可能性はあるな」
良くある物語だと遺跡にはガーディアン的な敵がうじゃうじゃ居るが、人の住まう遺跡にそんなのが居るのは如何なものかと常々思っていた。が、それが機密を有した建物なら別だ。年月の劣化と風化で砂と石ばかりだが、時折砂の中にキラキラしたものが見える。磁石を突っ込んだらきっと砂鉄とは別の鉄が出てくるだろう。
元がどんな施設かはわからないが、ここは石化した古代文明の研究施設なのかもしれない。
だとすると……進むべきなのか?この広間に入って囲まれたら厄介だ。また、進んで道に入り後方から攻められたらこちらの戦力的に不味い。
上がさっきの振動でどうなっているかはわからないが、安全のためには……
俺がその事を伝えようとした時だ。シャリアが緊張のままシンとしていた空間を切り裂くように大声を出す。
「……っ!?き、来ますっ!」
何かを探るようにピクピクと細かく彼女の耳が動く。普段ならば可愛らしいものだが、今だと頼りになるものだ。というかそれしか情報源が無い。
その直後だった。
ズゾゾゾゾと這うような動きで広間にある道から出てきた物体。砂煙を僅かに巻き上げながらこちらへと進んでくる顔も無い人間の腕や足を全身に付けた醜悪な怪物。
「ヒッ!?」
エルが悲鳴あげるのも無理は無い。
それは見てるだけでSAN値削られそうな赤茶けた錆色の肉塊。それが三体。ショゴスもびっくりだ。
まあ何を言う前にとりあえずドパン。
「体液は確認出来ない?飲み込まれたか?」
フィルから放たれた弾丸は確かに命中した。僅かに肉片を飛び散らせてそのまま血液なり出てくるもんかと思っていたけど……
「再生修復とは違うな。あの肉全部思いのままか。傷を塞ぐもどうするも」
つまりめちゃくちゃ厄介。だって考えても見てくれ。いくら撃っても斬っても傷は塞がる、切り落としてもそっから増殖の可能性あり。手榴弾でドカンも下手したら詰み。粘土爆弾も同様に。
かといって燃やそうにも見た目錆びた生肉で湿っぽいから燃えるかどうか。そもそも火属性の魔法使えるのシャリアだけだし、彼女も知識こそあるが、そこまで高等なものは扱えない。というか火を起こす以外で使っているのを見た事ない。エルも……
「ヤマトの考えてる事はわかるけど、私も火属性の魔法は苦手よ。エルフという種族的なものか、火属性魔法が得意な人は少ないの。それは私の幻影魔法も同じなの。どうしてはわからないけど」
だそうだ。
凍らせても時間が掛かるし、そもそもあの肉塊たちはこちらへと確実に進んできている。ルルの本領は水属性魔法。この乾燥した状況だとまともに発動出来るか。
とするとあと取れる手段は……
俺はフィルを背に回してトライアーを抜き、弾を一発外す。そしてポーチから取り出した弾頭がガラスの弾を込める。中には液体が入っている。
そしてハンマーを起こしてそのまま中央の肉塊に向け、とりあえず発砲。すぐに命中し、飛び散るのは肉片……では無く砂。何故なら狙ったのは中央の肉塊方面。正確にはその足元。砂はあるが、床の石が露出していた部分だ。
そこまで離れている訳でもないから発砲音に何かがガラスが弾ける音が混ざる。
目の前で弾丸が弾けた肉塊は少し進んでその場に留まり、微動だにせず、ほかの二体はまだ時間がある。
そのまま続けて発砲し、二体ともその場に留めて様子を見る。
プルプル震えながらもそこから動かず、その間に俺たちは少しだけ後退し、ルルが出口部分に壁を作る。
「ヤマト、何をしたの?」
「試作弾頭・強酸弾だ。あの三発で使い切っちまったが、効果がありそうなのがあれしか思いつかなかった……詳しくはエルに聞いてくれ」
「……わかったわ、じゃあ説明するけど、あれの中にはそのまま強酸が入っているわ。私の私物ね。ガラスは溶けないから保存に適しているの。ヤマトはそれを武器に転用出来ないかと言ってて」
「俺はそれを弾丸に加工して着弾と同時に強酸をばらまいて、敵は酸で苦しむって算段だ。あの肉塊に効果があるかわからなかったけど見る限りだと正解らしい」
ただ……さっきの揺れが遺跡そのものじゃなくて別のものによる振動だとしたら、確実にこいつらによるものじゃない。
細い煙を上げ、身悶える肉塊。金属を溶かす強酸が所詮有機物を溶かせないと思ったか。
体内に血液のような液体があるかわからなかったから血液を経由する必要のある毒物は使えなかった。だけど、今後強酸が有効な敵来たらどうしようかね。
まあ、そうは言ってらんなそうだけど。
フィルを構えてもう一度奥に空く道へと発砲。距離があるから当たったかは見えないが、牽制程度にはなったか?
グルルルル……
俺は肉塊に気を取られてたが、シャリアが「来る」と言っていたのはこっちだったようだ。
肉塊が出てきた場所からこちらを見定めるようにゆっくりと歩いてきた灰色の狼大の謎の獣。目らしきものはあるが、小さいように見える。代わりに耳が大きく、顔の大きさと耳の大きさが釣り合っていない。
体色はともかく、この暗い遺跡で活動するには視覚よりも聴覚の方が有利だろう。あれがエルの言う守護者なのか?だとすれば軍の兵士たちはこれにやられたのか。毒はどこなのか。気になることは多いが一先ずこいつらをやらないとなんも出来ないな。
「数が多いわね……どうする?」
「どうするも何も、やるしかないだろ。いつまでも追ってきそうだ」
俺はルルが壁を作るのに合わせて威嚇目的で先頭の奴の足元に発砲する。
さあ、どう出る?
「グガアッ!」
狼のような守護者はこちらに飛びかかってくる。壁に阻まれそうになるが、なんと仲間を踏み台にして飛び上がる。シャリアが迎撃しようと自慢の脚力でもって壁の上に躍り出る。そしてそのまま切りふせられた。
俺たちから見て壁の向こう側には今のような守護者がさっき見えただけでも十数頭。もしかしたらまだ増えているかもしれない。
全体で協力しながら群れて行動することが前提の社会構成を持っているのか、それとも支配しているリーダー的なものがいるのか。
さっき壁を越えようとした個体は仲間を踏み台にした。まるで体操競技のように滑らかな跳躍だった。それだけなら完全な協力体制とそれなりの知能があることになる。
シャリアは壁の向こう側には着地せず、こちら側へ戻ってくる。一瞬だけ向こう側を確認したシャリアによると守護者の数は二十体近く。
相手の戦闘能力がわからない以上突っ込むことは避けたいが……仕方ない。
俺は腰のベルトから閃光手榴弾を外し、ピンを抜く。ルルに少しだけ壁を低くしてもらい、向こうに放る。
カッ!!
直後、壁の隙間からこちらに抜けてくる暴力的な閃光。
目をつぶっていても瞼を貫くその閃光はこの遺跡内部の暗闇を蹂躙した。
閃光はほんの数瞬で終わり、また元の明るさが戻ってくる。……が、これは俺たちにとって好都合だ。
「ルルッ!」
すぐさま壁を崩し、各々の武具を振るって閃光により動きが緩慢な守護者を殺していく。
発砲音と剣戟音、そして僅かな唸り声。この場にはそれしか無かった。
ルルが杖を振り回して魔法でバラバラにし、マナの〈刻〉と剣は恐ろしい相乗効果を生み出し肉塊を生み出し、エルの放つ矢は串刺しにし、シャリアの双剣は彼女の速度に見合った鋭さにて駆ける度に致命傷を増やしていく。そして俺はフィルに弾をぶち込みながら頭を撃ち抜いてゆく。
ドンパンザクザクドカンドカン
たった二十体のノロマな敵はもはや俺たちの敵ではなかった。ただ倒す度にこの場の全員の中にはどこか何とも言えぬ不信感が募り始めていたのだった。
★★★★★★★★★
あけましておめでとうございます。
しばらく休止していましたが、またのんびり更新をしていきます。
目安は週に1回くらいです。
新しい小説を思いついたらすぐにある程度書き進める性分なのでその時は更新は曖昧になります。
【魔銃使いとお嬢様】
【Wake Up from ColdSleep! 〜元特殊商人、絶景目指していざゆかん〜】
これら連載中シリーズもよろしくお願いします!
今書いてるのは生物系SFだったり……
書くの楽しすぎるんです
公開は何時になるのか分かりませんが、しっかりと書いていきます。
これからもよろしくお願いします
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