閑話 ルルの日記帳

残火の月 十三日


 ギルドから赤タグのハンターに回された赤猛鳥ガルダの討伐依頼を受け、私たちは一週間前に王都を出発した。


 途中、ゴブリンや盗鳥スティーラーに狼系の魔物に襲われたりもしたけれど今のところ道程は順調。


 立ち寄った宿場町で、依頼に関しての話も聞けた。被害にあってもいるようで依頼の為にお金もだしたみたい。子供が攫われたんだって。

 どうやら赤猛鳥は卵と間違えて幼い子供も攫うようね。まあどうなるかはお察しの通り。赤猛鳥か、その赤猛鳥の子の餌よね。


 聞けた限りだとそれなりに大きいみたい。成熟しているとも言っていたわ。そのくらい大きな赤猛鳥だと海を越えることもあるみたいで、もしも別の大陸からの赤猛鳥だと凶暴さの度合いが違うとも。

 なんでここまで詳しいかと言うと、教えてくれたお爺さんが昔ハンターをしていて、海を越えて来た大きな赤猛鳥と戦ったからみたい。お爺さんは数日かけて討伐したって言ってたわ。

 私たちの相手はそんな相手じゃないといいのだけど。


 雷虎と戦ってから私も魔法の訓練は続けてきた。でも使えるのは中級魔法まで。上級魔法は一度も発動までいけたことがない。あの時発動させることが出来た〈天涙ウォラヌス・ダクリュオン〉は上級魔法に分類されるけど、あれだって不完全。だからこそ雷虎にトドメはさせなかったし、何より効果範囲はあんなに狭くないはず。

 たった一人の魔法士が行使して街一つを滅ぼし、国家そのものにまで大きな影響を与えたと伝えられる魔法だもの。誇張があったとしても、上級魔法に相応しい威力があるはず。


 でもあの時は魔砲と合わせても殺せなかった。つまり私の実力不足。鍛錬が足りていなかったとは言えないけど、戦うにしては時期が早すぎたとも言える。考えれば考えるほど嫌になる部分があるわね。



 それはそうと、カルナのこと。北の方の村の出身って言ってわね。

 北の方は行ったことがないけれど、寒い土地だからこっちでは食べられない物も多いと聞いたわ。今度教えてもらおうかしら。

 

 でもなんか最近カルナがヤマトに近い気がするの。同じ武器なのもあるはず。でも近くない?師匠って呼んでるし。名前で呼んでないだけ良いけど、もし呼び出したらどうしてくれようかしら。


 彼女にも彼女なりの考え方とかあるから本当にはしないけれど。それでもヤマトもヤマトよ。教えるなら教えるなりにちゃんとやりなさいよ。剣術だって身体の動かし方を知らなきゃどうにもならないのにヤマトは言葉だけで構えを教えようとして。ちゃんと彼女の体を触って教えてあげなさいよ。それくらいなら許してあげるわ。そもそも師匠って言われてるのに師匠らしいこと何もしてないじゃない。


 馬車で移動する間に少しだけそれっぽいことしてるのは見かけたけど、明らかにものは教えてないわねあれ。はっきりしてほしいものね。


 そうそう、次の街まであと少しで、そこで赤猛鳥の討伐に出かけるのだけど、さっき一ついい情報が入ったの。


 どうやら私たちよりも先に地元の青年たちが勝手に討伐に向かって七人中五人死んだのだけど、残った二人が持ち帰った情報によれば、罠のエサに引っかかったとのことよ。毒餌が効き始めているのも確認したとか。

 かなり強力なものだから赤猛鳥もかなり弱っていて、死んでいるかも。

 だから私たちの仕事は死んでいるかどうかの確認程度の楽な仕事になるかも。


 これがいい知らせね。死んだ若者たちは気の毒だけど、勇気と無謀は違うのよ。

 黒龍相手に無謀にならないよう私たちも一つずつ準備を始めている。


 目標は五年後。ちょうど二十歳を過ぎた頃に私たちは挑もうと考えているわ。それまで、どれだけ強化出来るか。あとは時間との勝負よ。


 せめて、上級魔法を当たり前に使えるまでにはならないと。


 ヤマト、私がんばるから。

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