西へ

「西に行って欲しい?」

「ああ。西の村からの要請でね、赤猛鳥ガルダの被害が頻繁していて、王都にまで回ってきたんだ」


 赤猛鳥、本によれば体長は五メール以上の猛禽類のような赤い見た目で性格は凶暴。しかし卵や産まれたばかりの雛から育てた場合は人に慣れ従魔となった例も存在する。雷虎のように広大な生息分布があり、個体差も様々である。


「依頼とあらばハンターだから行くが……この前みたいな雷虎は勘弁だぞ?それにこれは指名依頼とかじゃ無いだろう?」

「はははっ、あの報告は私も驚いた。君たちからの聴取でしか報告書が作れなかったが、君たちの言うようにあの個体は盲目だったな。そうでなければ君たちは死んでいただろう。……その通りでこれは指名依頼では無い。ただ、青タグやそれに近い者たちに話を回したりしていて、君たちは二組目だな。一組目には断られてしまった」

「なるほど。情報は?」

「目標である赤猛鳥の情報はそれなりにこちらに存在している。間違っても雷虎のような凶暴性は無い。亜種も存在するのが赤猛鳥だが、その情報は来ていない。少なくともまともな依頼だとそこは保証しよう」

「保証ねえ。ま、信用するしかないな。もうあんなのは嫌なんでね」

「そうしてくれ」



 と、こんな会話をしたのがついさっき。

 射撃場作って飯作りながら後ろからトテトテ着いてきていたモルガナたちを撫でていたらいきなりギルドからの使者が。

 カルナに料理を任せ俺はギルドまで来てギルド長と面会してされたのが今の話だ。


「でも赤猛鳥か。多分見るのは初めてだ。どんな敵だ?」

「そうだね、言ってしまえば巨大な鳥だ。羽ばたきは強力で爪は鋭く、動きも素早い。それに空を飛んでいるから剣も当たらない。そんな敵だね」

「うわあ……戦いたくねえ」

「だから最適解は卵を盗んで地面に埋めるんだ。そうすると赤猛鳥は地面に降りて卵を掘り返そうとするんだ。あ、そういえば赤猛鳥の習性を利用した討伐の方法もあったね」

「習性?」

「他の魔物の卵を奪おうとするらしい。盗んだ卵を見つけられるのもその習性に近いものとされているそうだ」

「なるほどね。参考にする」

「それじゃあ受けてもらえるかい?」

「報酬は?」

「大金貨五枚は確実だろう」

「うーん、まあ良いか。赤猛鳥は赤から青タグ程度だし妥当かな?」

「亜種となればその限りでは無いが……まあその程度だろう。いつ出発してもらえる?」

「そうだな……まあ装備の調整とか含めて一週間以内には出発する」

「そうか。なら先んじてハンターが向かうと伝えておこう。その方が手続きなどもやりやすいだろう」

「よろしく頼む」


 今度は西か。ハントさんも明日くらいに戻ってくるって言うし預けておこうか。ハントさんによると一年は依頼とかに連れていかない方が良いみたいだからあと少しだな。


 モルガナたちもだいぶ大きくなった。牙も生えてきたりとかな。大きさはそうだな、帰ってきたばかりの時はあまり大きくなってなかったんだ。そういうもんだろと思ってたのだけど、確かカルナが来たばかりの時いきなりデカくなった。まるで脱皮したみたいに。だから今の大きさは二メール程度。

 どこぞのトカゲみたいにデカい。


 さて、出発日はいつにしよう?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「よーし、忘れ物は無いかぁ?」

「私は大丈夫よ。ほとんど魔法袋の中だし」

「私も大丈夫です。フラムとクラーもありますから」

「お姉ちゃんたちと同じだよ。私も」

「よし、じゃあカルナは?」


 そう、今回の依頼にはカルナも付いてくることになっている。遠出するついでにカルナよ腕を見ようと思ったのと、試しに俺は近接銃術をやってみようと思ったからだ。遠距離攻撃が無くなるのは痛いからな。カルナが居てくれればそれも解消できる。


 あ、近接銃術ってのはその名の通り敵に接近してブレなど無視した確実に弾をぶち込むためのものだ。この前長尾熊にやっていたのもそれだな。言ってしまえばガン=カタなのだけど、これは型とか無いし、どこぞのグ○マトンでクラ○ックな人たちとは全く別物の銃も使う。それに膨大な銃撃戦の統計データから分析した立ち回りとかもない。

 ただ二丁拳銃ってとこだけ似ていて、素材の関係でちゃんとニュクスとパンドラで殴れるし雷虎の肉と鍛錬のおかげで今までよりは身体能力が向上しているから120%とはいかなくとも60%は向上していると願いたい。


「うん。大丈夫。火筒の調整も問題ない」

「よし、それじゃあ向かうとしよう。目的地は西のトール村。二週間も掛からず着くみたいだから順当に行けばモルガナ達とも早く会えるな」

「そうね。ハントさんも『この訓練が終われば一先ず一人前って言えるかな』って言ってたし」

「何年で大人なのか知らないけど、そこまで短いなんてことはないだろう。まあ幼体としての一人前、か」


 二メール大の羽のあるトカゲみたいな見た目の魔物がまだまだ成長すると考えるとちょっと楽しみだけど、一人前になると言われると何か感慨深いものがある。

 この一年、餌とかも悩んだりして育ててきたけどようやくなんだ。あ、まだ空は飛べない。


「ま、早いとこ終わらせて帰るぞ!」

「まだ出発もしてないんだけどね」


 そんな感じで笑いながらも俺たちは西へ向けて馬車に揺られるのだった。




 ……と数日、揺られ続けた結果遭遇したのが、


「クエエェェェッ!」


「ちっ、動きが早い!ルル、二秒でいい!拘束頼む!」

「分かったわ!本当に二秒しか出来ないけどね!」こちらよりだいたい十メールから二十メールほど上を飛行し、こちらを煽るように鳴いている鳥が一羽。


「……よし、ヤマト!今!」

「よっしゃ!落ちろクソ鳥!」


 俺は天に向けてライフルをぶっぱなす。ドーラでは無くて今だ名無しのライフルだ。


「クエエェェッ!?」


「命中」


 銃口より白煙を流しながら俺は片翼を撃ち抜かれたクソ鳥が落ちていく様子を眺める。


 いきなり襲ってきたやつだったが、赤猛鳥じゃない。

 通称盗鳥スティーラーだったか。正式な名前もそんな感じだったはず。基本空高くを飛んで獲物を見つけると急降下し、その足の爪で獲物を掴んで空に逃げる。ただ、その獲物の狙い方がトンビそのものなのが面白い。

 今だって、狙っていたのはマナの持っていたパンなわけだし。まあそこから盗鳥って名前が付いたみたいだけど。

 ま、こんな状況になっているのはマナがちょっと怪我したからなんだが。


「よーし、どこに落ちた……っと。あ、」


 バサバサバサッと羽を羽ばたかせてなんとか空に逃げようとする盗鳥。

 

「こんのクソ鳥!逃げんなゴラァ!!」


 ライフルを放り出し、連射の聞くニュクスとパンドラを撃ちまくる。

 何発かは当たったようだが、落とすまでには至らない。それなりに相手も強いようだ。


「クソ鳥め。こいつはそう簡単にゃ使いたくないんだがな」


 俺はニュクスとパンドラを仕舞い、腰からルーナを引き抜き、タスキのように提げた弾帯から一発弾を装填する。

 今も離れて行っているから当たるかどうかは心配だけど、当たれば確実に落とせる。


「食らえ!」


 散弾よりも少しキツめな反動が来る。が、その効果は折り紙付き。ちゃんと命中し、クソ鳥は落とした。さすがスキル。それなりの命中補正はあるようだ。すっかり忘れててすんません〈射撃〉スキル。


「あとは任せてお兄ちゃん」

「頼んだ」


 盗鳥はマナに任せて俺は馬車に戻る。何か盗られた訳じゃないからあとはマナが戻ってくるまで待てばいい。

 すると、馬車で見張りをしていたカルナから声がかけられる。


「師匠、今の弾は何?」

「ああこれだ」


 俺は弾帯からさっきと同じ弾を取り出し、カルナに渡す。


「これは……この前の散弾と形は似ているけど?」

「ルーナでもハティでも撃てるようにしてあるからな。特殊弾頭第一号、長距離滑腔弾。名前はまだない」

「師匠、名無しなの多くない?」

「そうか?名無しなのはこいつと……あとライフルと剣くらいか。今では名前ある方が多いけど」

「付けないの?」

「うーんなんか付けちゃダメなようなそんな気が」

「じゃあ私が付ける」

「ちょ……まあいいか。考えといてくれ」

「ううん、今決める。……そうだね」


 それにしてもこいつらの名前ねえ……考えたことも無かったな。そうそうこいつらを無くすとは思えないけどそれでも万一の時に心が痛む……なんて理由でいいか?正直なとこすっかり忘れてたんだよな。


「きめた。剣がグレア、ライフルがフィール。これでどう?」

「フィールとグレアか。……ってこれ単にもじっただけじゃないか」

「これも立派な名前。無いよりはいい」

「それもそうか。まあカルナには名付けはさせないでおこうってのが分かったしいいか」


 赤煉龍フィルグレアの武具の銘がフィールとグレアか。ほんとそのままだな。

 でもこれで全ての武器に銘が付き、箔がついたとも言えるな。グレア、フィール、ルーナ、ハティ、ニュクス、パンドラ、トライアー、ドーラ。一貫性が無いが、そこもまた良いだろう。


「お兄ちゃーん、見つけたよ!トドメは刺しちゃったけどいいよね?」

「おーう全然いいぞ。でもちょっと見せて欲しいな」

「はーい、じゃあ持ってくね」

「頼んだ!」


 盗鳥め。試験的に長距離滑腔弾を使ってみたけど上手く当たってなにより。ライフリングがショットガンじゃ刻めないから弾頭側にちょっと細工して飛ぶ時に回転するようにしてみたんだけど調整が難しくてな。とりあえずそれなりに綺麗な溝が刻めた弾を数発持ってきてたんだが……


「うん、この程度の溝でもいけそうだな」


 マナが持ってきた盗鳥の死骸の傷を見て俺はそう判断する。

 ライフルよりも大きく空いたその傷は翼の付け根に当たり、もう少し距離が近かったら翼をもぎ取れてたかもしれないな。


「口径は上げられないからあとは装薬か弾の内部構造か……」


 スラッグ弾みたいなものはその大きさから中にものを仕込めるスペースがある。

 中に例えば爆薬を仕込んで、先端に燃石なんかを貼り付けて発射すれば着弾した時爆発させることが出来る。


「よし、解体するか?」

「どうしようか、あそこでずっと狙ってる魔物もいる訳だし」


 マナが指さした方向、確か狼みたいなのが数匹隠れているな。本当ならダメだが、俺達も余計な荷物は増やしたくないし。あげても良いだろう。


 数枚羽を毟り取ると、残りをその狼達がいるあたりに放り投げる。おうおうよく食らいついてる。よし、この間に離れるとしよう。


「ヤマトさんお疲れ様です。すみません、私たちほとんど何も出来なくて」

「ありがとよ。大丈夫さ、相手は空飛んでたんだ。空飛んでる相手なら俺たちの領分だからな」

「じゃあここから出てきた魔物で地面に居るものはみんな私たちで相手しますから!ヤマトさんたちは見ててください!」

「お、そうか?なら助かる。でも、危なかったら俺たちも加わるからな?」

「それはもちろんです!」


 盗鳥みたいな空飛ぶ相手にはシャリアたちはめっぽう弱いからな。しょうがないんだが。だから地球にいた頃はよくやっていたゲームなんかで対空人員を揃えないのはなんだかなあと今になって思ってしまう。


 今いる草原地帯なんかでは地上から襲ってくるもの魔物よりも空から襲いかかられる方が恐ろしいのだから。というか、場所によっては地上より空からの魔物に護衛の全てを割かないと生きていられない程の場所もあるそうだ。それほどまでに空の魔物は危険なのである。


 それに対抗出来るのが弓、魔法、そして銃だ。もちろんこの中で最も威力が高いのは銃……では無い。俺の銃にも搭載されている加速魔法、あれを付けて強弓で矢を放つと、確実に時速数百キールは出る。

 と、ここまでだと圧倒的に銃の方が有利だが弓なら矢そのものに魔法なりを纏わせられるのだ。弾丸だと小さすぎてとても簡易的な魔法程度しか刻めないから。

 俺たちが使う魔法は言語魔法と刻印による魔法陣の二種。特に俺の場合魔法陣しか使えない。弓みたいに文字を刻めるスペースが大量にあればいいんだがな。弾丸だと無理だ。せいぜいドーラの弾ならいけるかな?ってくらい。


「文字を小さくしようにもねえ……」

「ヤマト、どうしたの?」

「ん?やっぱ飛び道具そのものに魔法を纏わせるなら弓の方が有利だなって」

「あー、確かにそうね。でもヤマトは魔法陣を前提で考えてるけど、普通は私みたいな魔法士か射手本人が魔法を掛けるのよ?」

「でも早すぎて掛けられないだろ?」

「それはあるわね。普通の弓矢程度の速さならもしかしたら何とかなるかもだけど。ヤマトの弾は無理ね」

「そうか。まだ悩むしかないな」

「でもどうして?今でも十分な気もするけど」

「いやな、やっぱり足りるかわからない。相手も飛ぶ。当然さっきの盗鳥以上に。もしかしたら飛びながら強力な何かをしてくるかもしれない。避けるじゃなく、妨害の為にな」

「つまり……怯ませるってこと?」

「そうだ。この前の雷虎では出来なかったが、例えば雷虎にドーラの弾を撃ち込んだらどうだ?多少は怖気付くかもしれない。相手が相手だから期待は出来ないが……それでも用意はしておきたい」

「そう……なら私もなにか出来ないか考えてみるわ。私も、用意はしなきゃ」


 奴に勝つためには何でもしよう。だが、トドメを指すのは俺たちの手で、だ。

 それだけは譲らない。



 俺たちは、決して。



    ★☆


現在、予告と称して新作〈対異能力特戦機隊 ミグラント〉の第1話を投稿してあります!

SFな異能VS戦闘機を書いていく予定なので興味があればどうぞ!

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