鍛錬
「やっぱ本職は違うな……」
カルナを家に泊め、色々と質問攻めにした翌日。
俺はカルナの射撃を見て自分との差になんか泣きたくなる。
「山じゃ視界が悪くても当てることが必須。この程度は楽以下」
「そうだよなあ……」
地球出身で射撃場で銃を齧った程度の俺と生まれた時から狩人として生きてきたんだもんな。そりゃ年季からして違う。
いかに俺が鍛錬して銃の腕を磨いたり、双銃を扱えるようになったとはいえ、日常から狩りをして生きてるような人間では無かった。と言うよりも数年前までは世間一般的に温室育ちと言われてもおかしくないような生活をしていたからな。
ほんと、彼女の腕には憧れる。
「それに、父さんも私には才能があると言っていた。こんな環境じゃ村の皆も当てるのは当然だけど、さすがに吹雪いているなかで命中させるのは困難でも師匠は違う。連続した射撃が出来ている」
「まあな……え、師匠?」
「私よりも射撃では上をいっている。だから師匠」
「いやそれは……」
何をどう勘違いしたら俺が師匠になるのか。多分彼女も俺と同じ〈射撃〉のスキルを有しているだろう。そして幼い頃からの練度。俺には追いつけないほどのその差。
「私は確かに射撃は得意。それは分かっている。でも師匠みたいに小さな的に当てることは出来ない」
「小さな的?」
「私たちの仕事は山で鹿や猪を狩ること。距離が離れれば当然的は小さくなるけど、元々大きな的。でも師匠がずっと相手にしているのは近距離でも小さな的。多分私では当てることは出来ない」
「うーん、それは武器の特性にも関係あると思うんだがな」
俺はライフル、拳銃、ショットガンを主に使っている。まあ大火力と言うよりはチクチク削っていく方に傾いていると思う。
でもカルナの火筒は装薬量も相まって馬鹿みたいな火力が出る。
戦艦の主砲なんかに近い弾と火薬が別になっている発射方式。弾はライフル弾と同じ流線型、火薬はショットガンの弾みたいな入れ物に入っている。口径は同じで、長さは一、二セール程度。相当多く入っていてその分威力も高い。
「まあ呼び方は自由にしてくれって言った手前何を言わんさ」
「うん。じゃあ遠慮なく」
でも師匠ねえ……
今まで師匠と呼ぶ側だっただけあって謎の感慨がある。まあカルナの場合何かを教えるというわけじゃ無いから本当に師匠なのか怪しいけど。
双銃と大筒じゃあ射撃の方法から違うから俺は全くの未経験だ。カルナがどんな風に扱って立ち回るのかをいつか見せてもらおうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よし、射撃場を作ろうか」
「師匠?」
射撃場。文字通り射撃するための空間だ。俺やカルナの鍛錬にも使えるし、ルルの魔法の訓練にもなる。
どうせ土地は余ってるんだ。ルルの魔法を使って作るとしよう。
「ところで師匠、あの従魔たちは?」
「ああモルガナたちか。あいつらなら大丈夫だろ。射撃場と言っても長さがあるだけで幅は取らないし」
「そうじゃなくて。従魔なんて居た?」
「あれ紹介してなかったか。あれは俺たち四人の従魔だな。一番右に居るのがモルガナ。俺のだな。その隣がミト。ルルの従魔だ。その隣がシャリアのリル、そしてマナのルドだ。南のサルム大陸の魔物で、この大陸じゃ珍しいな。竜騎士っていうこいつらを駆る騎士もいるらしい」
「それじゃあ師匠はその竜騎士?」
「まさか。そんな御大層なものじゃないよ。偶然卵が手に入って、育てかたを教えて貰いながら育てているに過ぎない。従魔の登録はしたから魔物の相棒っちゃ相棒とも呼べるけど」
ハンターの中には従魔と呼ばれる魔物のパートナーを連れた者も存在する。数は多くないがな。で、ギルドはその魔物を連れるには登録制度を導入している。
その登録制度は例えば街単位で拠点を変える時なんかに必要で、書類が必要になるそうな。詳しくは忘れたけど依頼以外で従魔を連れて他の街に行く時には必要だとか。
またこの登録制度は従魔の保護も兼ねている。従魔の中には貴重なものもある。
が、従魔がそのハンターの出身地で手に入れたもので、ハンターの出身地ではありふれたものでも他の地域ではとても貴重だったりすることも有り得る。
そういった従魔を連れたハンターが現れたら、案外素早く情報は広まりすぐさま貴族など金のある連中が現れることとなる。「金はやるからそいつをよこせ」ってね。登録制度が存在しなかった数百年前はこれがまかり通ったようだが、今ではそんなことは無い。
ハンターにとって従魔は相棒で背中を預けることもある存在だ。それをたかだか金が多いだけの戦えもしない存在に渡すことのなんと無意味なことか。という事で登録制度、裏での本当の正式名称が『従魔の権力からの保護及び管理登録制度』となる。
ハンターギルドは対外的な発言力だけでも一国家を上回り、大国の貴族であっても侯爵程度までなら対等とも言えるほどだ。まあそもそもそれ以上の公爵や王族でハンターの従魔に手を出す馬鹿がそこまで居るとは思いたくは無いが。
まあそんなわけでこの大陸では貴重とも言える亜竜である彼らはハンターギルドによって保護されているからこんな風にオープンに育成出来ているのだ。
「従魔。私の住んでた場所では見なかった」
「そうなのか。確かに王都なら人も多いから見かけるけど、俺も育ったあたりではほとんど見かけなかったな」
「私も飼ってみたい」
「師匠は飼う……でいいのかな。よくわからんけど目標の一つにしておけばいいさ。さ、射撃場の製作だな。カルナ、ルルを呼んできてくれ」
「わかった」
さて、どんなデザインとかはどうでもいいんだ。長さをどれくらいにするかなんだよな。
幅は五メールで良いけど長さは五十メールにするか、それとも百メールにするか。
ライフルの射程とカルナの火筒の射程を考えるとやっぱり長い方が良いのか……
よし、こうしようそうしよう。
「師匠、連れてきた」
少しして、部屋着菅で杖だけ持って出てきたルルを連れたカルナが戻って来た。
「ヤマト、あなた師匠って呼ばせてるの?」
「呼ばせてるわけじゃ無いぞ。勝手に呼んでるだけだ」
「そうなの?それにしては……」
「それは一旦置いといて、だ。ルル、そうだな……ここからあそこに立ってる木の棒まで土属性魔法か木属性魔法で仕切りみたいの作れないか?両側に」
「出来なくは無いけど……それやったら今日一日動けなくなるんだけど」
「そこをなんとか!」
俺がルルに一生懸命頼むと、大抵聞き入れてくれる。あんまり多用はしないし、俺も彼女の頼みは基本聞き入れるから案外問題ない。コスいて手ではあるけど。
「はあ……わかったわ」
もしかしたら今日何かする予定だったのかもしれない。後で部屋に行ってできるだけそばに居てあげよう。
そう考えている間に高さ二メール弱程度の堤防みたいな形で左右の壁が完成する。
代わりに中央の部分が凹んでいるが……
「これは真ん中の土を左右に寄せたからね。もっと大量の土が別であればこんなに凹まなかったけど、まあ良いでしょう。で?まだもう一つ位あるんでしょう?」
「まあな。でも簡単だ。この左右の盛土の終点……あそこにも同じように盛土をやってくれ。この前と同じ感じの」
「人使いが荒いというかなんというか。そこは何もないよって言うところでしょうに」
ブツクサ言いつつもやってくれるあたり彼女は優しい。後で特性のお菓子を作って持っていこう。
「はい、これで終わり。私は疲れたから戻るわね」
「ありがとな。後で美味いもん作る」
「うん。助かった」
「そう。なら後は任せるわ。あと期待しとく」
「はいよ」
魔力を一気に使ったからか少しふらつき気味のルルを見送り、俺とカルナは射撃場製作の最後の段階に入る。
「そうだな、的はこんくらいの大きさでいいか」
家の裏の納屋に置いてある木材から使えそうなものを持ち出し、組み合わせてみる。ここには薪になりそうな木材が多いが、そこには板とかもあり、普通に使える大きさのものもある。
「猪よりも小さな的。普段の距離で確実にこれくらい壊せないと師匠には勝てない」
「勝つ必要ないんだけどなぁ」
カルナはああ言ってるけど多分普通に当てられると思うんだよな。的が小さくなった程度で彼女が外すようになるとは思えない。外す要素があるとすれば火筒によるものか。滑腔砲みたいな形式だから多少ブレが出るのは仕方ないだろう。それはライフリングがあってもどうしても発生するものだから弾のブレはもはや運の域になってしまう。
それすらも無くして当てようなんてのは不可能だ。如何にスキルの恩恵が有ろうと、不可能と言える。
「師匠?」
「一つだけ、師匠らしいことを言おうか。カルナ、今後お前の研鑽の時間をこの分野に割く必要が無いように教えとく。如何にスキルが有ろうと、どんなに腕を磨こうと、どれだけ良い眼を持とうと、百発撃って百発当たるなんてことは絶対に有り得ない。もちろん俺はそれを補助する器具なんかを知っているし、俺も銃にそれを設置すれば数キール先の的だって当てることは出来るかもしれない。が、それはかもしれないに過ぎない。風や温度、色んなことが組み合わさって弾は外れる。だからカルナ、的を狙うのは良い事だ。だがそれに拘るな。例えば足元に撃てば相手を牽制することだってできる。だから当たらないからと言って繰り返すな。色んな条件が存在する。むしろ掠ればいい方だと構えとけ」
「そうなの?でも師匠はよく当ててるはず」
「それは近くで撃ってるからな。百メール先と十メール先、どっちが当てやすい?」
「絶対十メール」
「そうだな。まあ極端な例だったが、俺たちハンターが相手にするのは人間大からそれ以上の怪物まで。怪物みたいにデカい相手なら百メール離れてても当たる……なんて言いたいかわかるか?」
「距離と獲物の大きさを誤るな。そういうこと?」
「その通り。カルナは今まで山の中で狩猟をしてきたんだろ?その時の距離と獲物の大きさのまま考えちゃ行けない。相手は魔物でなんなら向こうから勝手にくる。つまりただでさえデカい獲物が勝手に距離詰めて来るんだ。当てやすいのは当たり前だろう?」
「確かに」
「それに俺は銃を色々と使っているが、全て近距離で放っている。仮にブレても当たるようにな」
「なるほど。私の火筒も掠れば上等?」
「そうだな。カルナの火筒や俺の銃、総じて遠距離の利点は気づかれてなければ一方的に初撃が当てられる……可能性が高い。特に俺のドーラやカルナの火筒は威力が高い。命中でも掠りでも傷が付けられたのならばそれで俺たちの一手目は勝ちだ。よく後手に回れって言われるが、俺たちの武器は不意打ちを遠くから与えられるってことを頭に入れておけば戦いも変わっていく」
「わかった」
そんなことを話しつつも的を作っていき、奥の盛土に並べていく。
だいたい十くらい並べると、時間はもう昼を過ぎていた。
「ふぅー、今日はここまでだな言ったん中に戻って飯食おう」
「うん。お腹空いた」
「よし、美味いもん作ってやる」
ルルのためにも菓子を作らなきゃいけないしな。さーて、何を作るかな。
そうして、家の中に戻っていく二人を小さな影たちが追いかけるのだった。
★☆
応募しているドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテストにて276位まで上がることが出来ました!
このようなコンテストでは一番の快挙です!
ありがとうございます!!
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