銃と火筒と

 タンタンタンッ


 軽く弾けるような音が連発する。

 同時に剣を振るうような音に何か焦げたような匂い。


「十、十一、十二……」


 右手の銃を連射する度にカウントし、左手でも数えなければならない。

 わざと前転し、自身の動きを細かく確認していく。


「八、九……」


 タンタンッとカウントと重ねて発砲が為される。今度は左手。ごっちゃにならないよう気をつけねばならない。

 簡単なようで難しいのだ。


 さて、今俺たちが何をしているのかを説明すると、討伐依頼だ。ハンター業復帰の第一戦目は懐かしの長尾熊テールベア。この前みたいに街道近くに出てきた訳ではなく、森の中で確認された個体の討伐もしくは撃退の依頼となる。初戦には丁度いいだろう。俺以外のマナとシャリアの武具の初陣にもな。


 俺が今両手に握っているニュクスとパンドラのように、二人の武具も新調されている。いや、シャリアの場合改良か?まあいい。とにかくルル以外の武具は一新されたと考えていい。


「お兄ちゃん、これ凄いよ!!」


 マナが振るうのは一対のショートソード。見た目はグラディウスで雷虎の素材が用いられ、刃は金属と骨の複合品である。

 前にフレアとフリーゼの二人から持ちかけられた「属性武具思想」の試作品との面もあり、その二人曰く「まだまだ未完成」との事。

 なので、彼女の剣は対象物を切り裂けば雷系の魔法攻撃に近い効果を与えることが出来る。

 銘はまだ無く、彼女は「今まで付けたことがない」そうだ。


「私のもです。これ……本当に凄い!」


 シャリアも嬉しそうで何より。珍しく普段の口調も崩れて、はしゃいでいる。かわいい。

 彼女の扱う短剣も、見た目だけでは短剣とわからないものに進化していた。

 見た目から順にいこう。まず幅十セール、長さ五十セール、厚さ二、三セールほどの黒い長方形の箱を想像して欲しい。

 その箱の端に十五セール程の長さの持ち手があるが、飛び出ている訳では無い。ナックルガードごと本体に埋まり、言わば大きな刃の中に直接持ち手を作ったような。

 刃だが、厚みは最大一セールほど。長さは本体と同じ五十セール。だが、形状がL字となっているから実際はもう少し長い。

 そしてこの短剣の特徴として刺突が難しいことにある。角の部分使えば出来ないこともないが、深々とは突き刺せない。

 なので姉妹によって刃の短い側の一部、峰側からだいたい三、四セールほどの部分を少し弄ったそうな。

 そしてシャリアの握る柄に付けられたボタンでその部分が回転し、今までシャリアが使っていた短剣が姿を見せる機構が組み込まれている。どういう理屈かはさっぱり分からない。ただしこれで刺突が可能となる。

 この短剣は見た目箱で刃が付けられては居るが実は鞘でもあるというわけである。


 銘は短剣に付与された属性から〈フラム〉と〈クラー〉となった。俺が命名したのだけど。だって彼女の頼みだったし。いい名前付けるしか無いだろう?



「十、十一、十二!」


 カウントを十二まで終えると、俺は両手に持ったニュクスとパンドラのグリップにあるちょっとした窪みを薬指で二度タップする。


 双銃は一瞬だけ弱い光を放ち、俺はそのまま長尾熊に向けて発砲する。


 何をしたかといえば、これはリロードだ。

 この前ベンさんから聞いた基点短転移の魔法を利用した片手でできるリロードとなる。


 ニュクスとパンドラは12+1の計十三発が装填されている。

 薬室内に常に一発を残しておけば、この銃のリロードはマガジンを変えるだけで完了し、コッキングの必要は無い。


 近代拳銃というのは反動で装填とコッキングを行うことは有名だが、リロードに関してはマガジンを交換しすぐ撃ってる印象があるはずた。ドラマなんかでな。でもあれは元から薬室に一発入っているから出来る技だ。ジョン・○ィックもそれは変わらない。


 それはこのニュクスとパンドラも変わらないから、欠陥品とされていた基点短転移も拳銃に使われたらリロードの為に大活躍出来るのだ。

 製作された大量のマガジンに焼印みたいな感じで魔法陣を刻みまくった数日前が懐かしい。


 でも薬指でタップするだけでリロード出来るようになったのだからあの苦労は報われている。

 だからあとは身体にこの動作を染み込ませるのみだ。



 ……と、そうこうしているうちに長尾熊の討伐は終わっていた。

 前と半年以上経っているのだから実力も上がっているのは当然なのだけど、それでもこの半年間の鍛錬のやり直しは有効だったようだ。

 前みたいに俺はチクチク遠くからやる事も無くなったし、マナの攻撃が上手く通らなかったりシャリアも致命傷になる可能性の高い攻撃を叩き込めている。

 実際今までルルの出番が無いのだ。


「ふぅー、まさかここまで安定するとはな」


 俺はニュクスとパンドラを太もものホルスターに収納しながら討伐した長尾熊に近づく。

 長尾熊には所々小さな穴や斬りつけた跡、大きく抉れたような跡が残る。俺のニュクスとパンドラ、マナやシャリア、そして抉った傷はハティによるものだ。


「お兄ちゃんお疲れ様。もう片手で扱えるようになったの?」

「おう、片手で扱えるよう訓練もしたけど思ったよりも短く済んだな。これもルルの魔法のおかげだ」

「軽量化だっけ?」

「それもあるな。このニュクスとパンドラだけじゃないが、〈軽量化〉と〈耐音〉は程度は違えど全ての銃に付けられているな」


 他にも、〈加速〉はハティとルーナ以外の銃に。反動を軽くする〈耐衝撃〉はニュクスとパンドラ以外の銃に。


 〈軽量化〉、〈耐音〉、〈加速〉、〈耐衝撃〉が俺の持つ銃に魔法陣を用いて搭載した魔法だ。

 軽量化はバードダル大森海の調査拠点にいた時に遭遇した自称勇者(笑)が剣に付与していた魔法だ。文字通り軽量化される。

 耐音は効果としては耐衝撃と似ていて、本質は同じだ。音と衝撃は同じであると言うことが大事だったのだ。どちらも振動を軽減する魔法だから耐音はあまり使われないが、耐衝撃はハンターの盾などに付与されることが多い。


 そして加速、これが俺の持つ銃の肝となる。

 元々は単純に弾の加速のために搭載した魔法なのだが、色々調べてみると面白いことがわかった。加速魔法の裏技とも言えるものだが、この加速魔法はするのだ。

 だから弓矢ではパッと見の効果はわかりにくいが、それが銃となると面白いことになる。


 まず、拳銃弾の弾速はだいたい900km/h。そして加速魔法の効果で弾速は恐らく倍。単純計算で1800km/h。

 たった一つの付与魔法でこの世界最速の武具に到達してしまうのだ。


 ……と言うわけで俺はニュクスとパンドラには加速魔法を三重で、搭載してみた。さらにトライアーには一つ、ドーラにも三重で搭載してみた。


「お兄ちゃん、馬鹿なの?」

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。速いのはいい事だぞ?」


 確かに俺もレールガンを軽く超えた速度はどうかと思うが、そんなの撃つ機会なんてあるはずない。ま、ロマン程度で良いだろう。


 とは言っても、これはレールガンでは無い。電気は使ってないからね。どちらかと言えばガウスキャノン、俗称コイルガンに近い。

 コイルガンの理論としては筒に複数のコイルを形作ることで、その電磁力を使って弾き飛ばすと言うのが正しいだろう。

 ただ、俺はコイルは作り方を知っていてもコイルガンは作れない。あれはシンプルだがプログラミングが必要だからこの世界では作れない。


 ただしこの世界には魔法が、〈加速魔法〉が存在する。魔法陣を銃の内部に設置し、そこから導線を伸ばすように銃身まで引く。数十セールごとに円を描くように銃身に刻むことで、その円の中を通った弾丸が加速される仕組みだ。

 その円を複数設置でかなりの加速が見込める。ニュクスとパンドラならLv3まである内Lv1までしか使った事ないからなんとも言えないが。


「ねえヤマトぉ、私にも出番ちょうだいよ」

「はいはい今度な」


 俺はルルの言葉を適当に受け流すと、既に解体を始めていた二人の元へ向かい、剥いだ皮を運んだりと手伝うのだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「え?俺に探し人?」

「おう、だいたい昼前かそんくらいか。多分お前さんを探してるんだろう嬢ちゃんが一度来てな。宿取ってからまた来るって言ってたんだ。お前さんは夕方に戻るって伝えたから早けりゃ嬢ちゃんもそろそろ戻ってくるんじゃねえか?」

「なるほどね……なら待ってた方がいいな」


 こいつは王都のギルドで顔見知りの奴。常に酒場にいるのだけど、酒代くらいは稼いでいるそうな。


「飲ませてでも待たせとくって言っちまったからな。ほら飲め!」

「はいはい、お酒は適量にっと」


 そいつから渡されたカップに注がれた酒はカップの色のせいで何か分からない。それに匂いとかで判別できるほど俺は酒は飲んでない。

 元々苦手だし、この世界で改善されてるとはいえ嗜む程度。どれが果実酒でどれが蜂蜜酒かわかるくらいだ。それに酒に対して新たにダメな部分も見えたし……


「ぶはっ!な、なんだこれ!くっそ辛い!」

「お、最初からそれからいくか」

「最初からってお前が入れたんだろうが」

「まあな!そいつは南方産の火酒だ!」

「あー……決めた。火酒はもう飲まねえ。つーか辛い酒なんて飲むもんか」


 二度と飲むか。蜂蜜酒で十分だ。


 うっぷ、やべぇ……


「お、おいヤマト?」


「あーそういえばヤマトってお酒に弱かったわね……」

「お姉ちゃん、そうなの?」

「確か……果実酒を少し飲んだだけでも酔ってダメだったわね」

「向いてないんだね」


 マナよ……さすがにそれは傷つくぞ……

 うっぷ……



 しばらくして、


「お、さっきの嬢ちゃんじゃねえか!探し人は来てるぜ!おいヤマト、この嬢ちゃんだ」


 ん?来たのか?

 あー頭痛え。酒にほんとに弱いんだな俺。


「あー……この野郎から話は聞いてる……ちょっと待ってくれ……ルル、水」


 これでルルも水をくれるだろう。


「はいはい、ヤマトも乗せられて飲みすぎよ。全く、人が来るのわかってたんだから……ほら」


 バシャンッ!


 そうそうこれこれ。これでいいんだよ。


 あーさっぱり。

 ……ほうほう、カルナと言うんだな。年齢はマナと変わらんくらいか。色白の茶目茶髪のボブで珍しい色ではある。将来的にはかなりの美人さんになりそうだ。


 うんうん、そうだな。宴会になればいつも通りだな。


 ほう、それを見て欲しいと。どれどれ……?


「これはまた……大筒か?」

「オオヅツ?ううん。それは火筒」

「火筒……ね」


 布を取り払い、その中から出てきたのは鉄と木で形作られただ。だが地面に置いて使うようなものでは無い。人が持ち歩くための砲であり、かつて地球では大筒と呼ばれていたものに酷似している。


 俺は引き金や装填機構などを弄りながら彼女にいくつか質問をするが、唯一答えられなかったものがあった。それは、


「これを、どこで手に入れた?」


 すると、彼女は首を振り口を噤んだ。


「不明、と捉えていいか?」

「違う。でも……」

「でも?」

「わかった。言う」

「無理する必要は無いが?」

「本当は明らかにしてはいけない。でも、これも自分のため」

「はぁー……別にいいんだよ。何となくどっから流れてきたかは想像つくし」

「だから……え?」

「装填機構の形状とパーツの形状から何となく後期の物と想像つく」

「それは……知っているの?」

「まあな。初期型でもないし、そもそも持ってたのは複製品だ。でも所々の部品が精度が違ってる。後期になれば当然技術などが洗練されていくのは当然だ。例外もあるが、これを作り上げた彼らにそれは無いだろう」


 ドワーフは加工チートを地で行く種族だ。技術の進歩はあれど機械に取って代わられて技術の失伝なんてヘマはしない。

 それに、この大筒。いや火筒と言ったか。これは相当いい物だ。ライフリングこそ無いが、弾を入れる口と装薬を入れる口が別になっていて、システム的には艦砲に近い弾と火薬が別なのだ。

 それをこの小型の砲で実現し、自壊するような構造でもない。現在これを使っている彼らの整備がちゃんとしているというのもあるのだろうけどな。


「カルナと言ったな。弾と薬……いや弾だけ見せてくれ」

「うん、弾はこれ」

「ありがとよ……ほう」


 やばい物を見つけたよ。俺は。

 この砲の弾の進化がどういう道を辿ったのかは俺は知らない。だが、少なくともこの火砲の威力を敵へ破壊力として伝えることに成功した天才が居ることは確かとなった。


 流線型の弾。ライフル弾と同じ形状だ。

 これは色々と聞かなきゃいけないことが出来たな。


「カルナ、お前さんの宿は?」

「宿?無い。取れなかった」

「取れなかったか。なら好都合だ。ルル、客間片付けたばっかのやつ一つ空いてたよな?」

「ええ空いてるけど……最低限の物しか置いてないわよ?」

「大丈夫だ。俺がそっちで寝る。カルナ、色々と聞きたいことがある。さすがにここじゃ話しにくいんでな。今日の宿は提供しよう。その代わりにこれについての情報をくれ」

「うん、問題ない。成立」

「よっしゃ」

「はぁ……まあ良いわ。たまには良いでしょう」


 ふっふっふっ、聞きたいことはたっぷりとあるんだ。これをどんな状況で使用していたのかとかな。

 どんな話が出てくんのか楽しみで仕方ないな!


 俺は少しフラっとしながらも何とか家へと皆で帰りつくのだった。客人、カルナを連れて。


      ★☆


予告です!同時刻に~予告~として新作、

〈対異能力特戦機隊〉を投稿しました。

異能対ミリタリーをコンセプトにしています。

私のページから是非読んでみてください!

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