第5発
二人目の銃士「ガンナー」
ガタガタゴトゴト
大都市とは違い、石畳などで整備など成されていなく、左右が少し草が高めな草原の広がるのどかな道を進む馬車が複数。
列を生して二、三台の間隔をあけて旗を上に掲げた馬車が居る。
その馬車列には幌を付けた人が乗るような馬車は少なく、その多くが荷台に布などをかけた樽や木箱を大量に乗せたものだ。中身は北の奥地のみで採取される薬草の干した物や、毛皮、果物に塩漬け肉など。北の方独自の物が多い。
これは俗に言う
売り物にもならない物を積んでおくことは商人にとっては痛手となるのだが、自分たちの売り物が入手出来る場所が場所なだけにこれは受け入れるしかないものだ。
そして、そんな大商隊を狙う影が複数。
彼らは人とは違う方法で獲物を追い詰める。
「ガウガアッ!!」
のどかに道程を消化していた彼らに戦慄が走る。
鳴き声からしておそらく狼系。だが、左右の草に阻まれて数がわからない。それにこちらは長さのある商隊。
護衛の数もある程度は居るが、全てを守れる訳では無い。さらに言えばすぐさま逃げることも難しい。信用などに関わるからだ。
「クソっ、こんな時に!!護衛は!」
「現在前方と後方に別れて展開!敵数は不明!」
「何としても荷を守れ!痛手ではあるが、我らと荷を守るため。我々の着る毛皮は捨てても構わん!」
「了解!おい、我々のコートの馬車を囮にして奴らを散らせ!」
その声に何人かの隊員が答える。
前後が徐々に騒がしくなり、戦闘が始まったことが伝わる。
それにより馬車は停止し、隊員も各々剣などを持ち、構える。が、それは素人丸出しな構えで、少しでも剣を知っているならばすぐに倒すことが出来、獣にも対応できるのか怪しい程のものだった。
「クソっ、護衛を減らしたからこんなことになるんだ!」
「何が我々は強いだ!俺たちゃ剣なんか持ったことねえんだ!」
「母さん……ごめん」
隊員たちはこの状況にそれぞれの感情を言葉で出すしか出来なくなっている。彼らの言うように隊員たちまで剣を持つようになっているのは護衛を減らした結果であった。また、その分利益となる荷を増やし欲張った結果でもある。
「うるさい!剣さえ構えていればそれでいい!……そうだ、あいつは。〈山狩〉はどこだ!」
「〈山狩〉……?そんなのは……」
「ここ」
隊長が〈山狩〉という存在を呼び、そんなことは知らない隊員たちが訝しげにその名を呟く。
そしてそれに端的に答える声が一つ。上からだ。見上げると、馬車の柱の上に立っていて、背には何やら奇妙な筒のようなものを背負っている。加えて若い。それに声が高めだ。羽織っている外套のフードと顔の下半分を覆う布で顔はわからないが女のようだ。
「敵は
「なるほど……よし、囮の馬車を人を乗せずに左右へ!前に動くぞ!」
『了解!』
もう一度上を見ると、そこには既に〈山狩〉は居なかった。一体、どこにいるのだろう?
「前方は殲滅。後方も安定、囮によって数は減少。なんとかなった」
隊長から〈山狩〉と呼ばれる者は後ろの方の馬車の屋根の上で寝転ぶ。馬車も動き出したのでその者は屋根で転がりかけるが、周囲の警戒は怠らない。
「それに王都も近い。あまりこれは使いたくなかった」
背中の筒を撫でながらその者は道の先を見据える。
丘などに隠れて見えないが、それを超えれば王都の城壁が見えるだろう。
「一年……ながい」
村を出てからもう一年。各地を転々として時折パーティーを組み、時折このように商隊などの護衛を兼ねて移動をする。
そうして南へ向かいハンターとしても活動し今では赤タグにもなった。でも仲間と呼べるものは出来なかった。それは自身の扱う武装にも関係し、自身の性格にも原因がある。
が、ある時。立ち寄った宿場町でこんな噂を聞いた。
曰く、「弦の無い弓があると」。曰く、「それは細長く、機械弓と呼ばれている」と。
村でも伝承のような形で聞いたことがある。それに自身の武具にも似ている。
それが本当なのかが気になったから予定を変えて王都を真っ直ぐ目指すことにしたのだ。
「彼か彼女か、わからない。でも話してみたい」
〈山狩〉は未だ見えぬ王都に思いを馳せる。自身の武具の原典となった武具をそのまま有するであろう人がいる場所へ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここが……王都」
村で過ごしていては一生見ることが無かったであろうこの巨大な城壁。
木ではない完全な石造り。どうやって積み上げたのかわからないほどに高い壁。
そして何よりも今まで見たことないほど多くの人々。
村には亜人種と分類される人々は居なかった。見たことはあっても、ここまで多くの亜人種を見るのは初めてだ。
「凄い……」
さらに色んな服装もある。村では山の上ということもあって基本毛皮の服だったから。
金属鎧や、革鎧、魔物の物と思われる鱗を使いコートを羽織ったような軽装の戦士や弓士たち、外套やローブを纏った魔法士たち。
見えるもの全てが珍しい。
それに暑い。
フードを外し、多少なりとも熱気を逃がす。
「村よりも暑いと聞いていた。でもこれは……」
村は寒いから下に降りた街は確かに暑いとは聞いていた。それに王都となると位置の関係でかなりの暑さだとこちらの違いも聞いていた。
「早く……ギルドへ…」
そもそもさっきの襲撃も暑さで参っていたから報告だけで済ませた。正直なところ気候に慣れてなくて動けなかったわけだ。
場所は聞いている。でも……
「まずは一休み……」
とりあえず近くの喫茶店に駆け込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっと、カルナさま?」
「うん。私の名前。登録は北の街ハヌで済ませた。人探しをしている」
ギルドに入り、空いていたカウンターで持っていた身分証明の書類とタグ、加えて背から外し少し布を解いた物を見せる。
「人探しですね。お名前や特徴などはお分かりで?」
「わからない。情報は一つだけ」
「一つだけ?そ、それだけでは……」
「これと同じ、それか似たような物を使っている人が居ると聞いた。その人を探している」
「これは……?」
「火筒と村では呼んでいた。見覚えは?」
「私は無いですが……」
「もしかしてそれあいつの事じゃねーか?」
「あいつ……?」
酒場の方から野次のように飛んでくる。
彼らは何か知っているのか?
「あの、心当たりが?」
「おうよ。その細長い見た目、それに火筒って言ったか?火を使って、杖じゃあないんだろう?」
「うん。むしろ弓に近い」
「杖じゃあない細長い見た目で火を使うんなら一人知り合いがいる」
「あ、それってもしかして」
受付嬢は何か心当たりがあるようだ。王都ほど人が多いなら一人くらい居てもおかしくはないだろう。
「あなた、知っている?」
「はいカルナさん。ヤマトさんと言う方です。今はちょうど依頼に出ていて王都には留守なのですが、今日の夕方には帰還する予定です。少し待ってみては?」
「なるほど、ヤマトさん……。うん、待ってみる。一度宿を取りに行く。もしも戻ってきたのなら待機させておいて欲しい。頼める?」
「ええ、ですが……」
「嬢ちゃん、それは俺たちに任しとけ!飲ませて動けなくしといてやるよ!」
「はぁ……」
「そのヤマトさんという人、止めといて」
受付嬢が呆れる中、そう言ってカルナと名乗る少女はギルドから出ていった。
「なんて広い……」
ギルドから出たカルナはとりあえず当面の宿を決めるために王都を歩き回る。
村でも狩りで得た獲物を売りに行く時に近くの街まで降りることはあった。
それでもここまで多くの店が並ぶ商店街は見たことがない
見たことない果物や野菜、雑貨まで目移りが激しい。
屋台に並んでみたり、露店群を冷やかしてみたり。今まで出来なかったことが多くとても新鮮で。
「あっ、早く宿見つけないと……」
ゴーンゴーンゴーン……
計三回。つまり三時の鐘だ。
そしてハンターの中ではこんな冗談がある。
『三時を逃した者には屋根がない』
大きな街で活動するハンターは大抵の場合長期で宿を取ってたりするのだけど、もちろん毎日のように新たに訪れる者も居る。そうした者に向けて常に大量の宿屋がある訳だが、その宿は三時を過ぎたらほとんどが空いていないのだ。
どんな者でもデカい街に行ったらやるべきはその日の宿の確保なのだがたまーにはしゃいで宿の確保を忘れる者がいるそうな。
「どうしよう」
まずは動いてみるしかないだろう。どこか空いてやしないか。そんな期待を込めて宿屋に入ってみるも、
「ごめんなさいね、今日はもう満室なのよ」
まあこんなこともあるだろう。それにまだ一件目だ。次、
「ウチは……もう空いてないねえ」
手元の帳簿を見て女将さんは申し訳なさそうに謝ってくる。
まだまだ……
「今日は満室。他を当たって」
うーん、なかなか空いてない。
………………………はぁ。
「どうしてどこも空いてないの。ううん、私が悪いのだけど」
何本もの商店街にある宿屋を少なくとも自分の持ち金だけで泊まれる宿屋を片っ端から当たったけど、どこも空いてない。むしろなぜここまで空いてないのかと聞きたいほどに空いてない。
広場に置かれた椅子に座り、空を見上げる。もう陽も傾いて夕方だ。
そろそろギルドに戻らなければいけないだろう。
「仕方ない、戻ろう……」
その日、背中に謎の筒を背負い、何故かものすごく哀愁漂う姿でトボトボと歩く少女が確認されたという。
「あ、カルナさん。ヤマトさん戻ってきてますよ」
「そう、ありがとう」
ギルドに戻り、時間的には何とか空いていたカウンターに声を掛ける。
受付嬢からは酒場の一角を指さされ、そこに居る団体が誰なのかをを教えられる。
「あの赤いコートの人達です。ヤマトさんは黒髪の人です」
「うん、ありがとう」
赤いコートを着た人達……酒場の隅の方に居るからわかりやすい。でも黒髪の人……二人いる。どっち?
金髪の魔法士みたいな人。白髪の獣人族の人。黒髪の剣士の人に、なんか突っ伏してるように見えるもう一人の黒髪の人。剣とかを持ってるようには見えないからあの人?
そもそも、初対面とどうやって話しかける?
「お、さっきの嬢ちゃんじゃねえか!探し人は来てるぜ!おいヤマト、この嬢ちゃんだ」
あ、さっきの人。本当に飲ませて待たせてる……瓶何本あるの?
「あー……この野郎から話は聞いてる……ちょっと待ってくれ……ルル、水」
あ、起きた。顔真っ赤だ。飲みすぎなんじゃ……
「はいはい、ヤマトも乗せられて飲みすぎよ。全く、人が来るのわかってたんだから……ほら」
え!?水ってそういうこと!?
とりあえず何が起こったのかを説明すると、さっきの金髪の魔法士みたいな人が多分水魔法で生み出した水の玉をヤマトって呼ばれてた人の頭にぶつけた。王都ってこんな感じなの……?
「あー、さっぱり。っと待たせたな。俺がヤマトだ。あんたがカルナか?」
「う、うん。私がカルナ。……えっと水は?」
「この程度ならいつもの事だ。宴会でもやりゃ水浸しにしないとここの連中は目を覚まさないからな」
水をかけられて少し。髪の毛ビショビショだけど、目が冴えたみたい。
それに宴会で?確かにハンターの宴会とかは聞いた事があるし参加もしたことある。
大抵は何か大物を仕留めたハンターが調子に乗って酒を大盤振る舞いして宴会になるのが多い。たまに何かその街でいい事があったりすると、街総出で宴会になったりもする。
でもそれがいつもの事……?
「まあ気にしたら負けってこった。で、なんか聞きたいことがあるみたいに俺は聞いてたんだけど、何かあるのか?」
「あ、そうだ。……これを見てほしい」
私は背から常に持ち歩いている火筒を布に包まれたまま渡す。なんか剥き身で渡したくは無かった。
ヤマトさんという人はそれを受け取り、慣れた手つきで布を解いていく。そして中身がチラと見えた時、目が細まった。
「こりゃまた……大筒か?」
「オオヅツ?ううん。それは火筒」
「火筒……ね」
布が完全に取り払われると、彼は
それに見る場所が決まって、自分たちと似ている。まるで、整備の仕方を知っているかのように……
「これはまた……相当古い物だ。でも丁寧に整備されて中心部分はまだまだ使える物だ。何度か肩当は交換されてるみたいだけど、ちゃんと綺麗に交換されているな」
「あなたはこれが何かわかるの?」
「まあな。あとヤマトでいい。堅苦しいのは勘弁だ」
「分かった。ヤマトさん」
「シャリアみたいだな……まあ良い。一つ聞いていいか?」
「うん、答えられることなら」
「そこまでは難しくないさ」
そう言ってヤマトさんは筒口をこちらに向けて、
「これを、どこで手に入れた?」
そう聞いてきたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
次回からヤマト視点に戻ります!
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