新装備受け取りとお呼び出し
『え〜ここに、ラナンサス王国王女、ネルハ・シーナ・ラナンサスの成人を宣言する!』
終わりだ。
昨日早寝して、それなりに前の方で見たのだけど、成人の儀といってもこれで終わりである。
なので国民はこれ見たら、「はい、解散!」である。
この成人の儀って意味あるの本人と貴族連中で、俺たち平民には特に意味があるわけじゃない。まあお祭りっぽくはなるけどな。今だって大通りではどんちゃん騒ぎであちこちに屋台が出てて、ルルが目移りしまくってる。
まあ今日の優先はマダム・ジュリーの店だ。調整してもらっていたコートとかの受け取りに行くのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これト、これネ」
マダム・ジュリーから調整してもらっていたコートを受け取る。数週間と掛からずに三人、いやマナの分含めたら四人分か。素早い仕事だ。
木箱に入ったコートを広げてみると、内側に何か細い長方形の物を引っ掛けられそうなポケットのようなものがたくさん付けられている。数え切れないほどに。
あと身長伸びると思って、元々は足首辺りの丈だったのだけど、この数ヶ月鍛えてたりしたおかげで身体に筋肉が付き直して締まると同時に一気に身長が伸びてふくらはぎ辺りにはなっていた。
が、マダムはどうやらそれが気になったようで製作時点で内側に折りたたんでいたらしい革を少し伸ばして丈を伸ばして見栄えを調整してくれていた。
ほかにも木箱には革製品が入っていて、剣の鞘みたいな物が一つ、ベルトに付けられるホルスターみたいな物が大きさ別で二つ、足なんかに巻けそうなバンドが二つ付けられたホルスターが二つ、タスキみたいな物が二つ……とほかにもいくつかあって大量だ。
これら全てが龍の素材では無い。一般的に売られている少し丈夫な革で出来ている。
「ありがとう、マダム。代金はまとめてルルから貰ってくれ」
「わかったワ。でもいい経験になったから感謝するワ」
相変わらずの謎のイントネーションでなにより。
ルルたちも調整してもらったローブなどを試しているが、俺は俺でやることがある。
目の前にある大量の革製品を順に着ていかなきゃいけないからだ。
「えっとまずはこのタスキっぽいのか」
二本あるがそれを肩から下げるように掛け、胸の前でクロスさせる。
これには縦に輪っかのようなものがいくつも付けられていて、むしろそれしかない。
胸の前で交差させるように付ける。
こんなの付けたらショットガン構えたくなるな。
俺は腰のポーチから弾をいくつか取り出し、ベルトに入れてみる。
「大きさもピッタリ、………うん、動いてもズレる事はなし。これなら全然問題無いな」
俺は弾を外し、ポーチに戻す。
これはいわゆるバレットベルト……の亜流品だな。ショットガンベルトと呼べる。
タスキのような帯に弾を一つのベルトにつき数十発は付けることが出来る。
でも入れることの出来る弾は限られ、これに関してはショットガンの弾専用だ。
念願の弾薬帯ってやつだ。
一応ライフルの弾も付けられるが、元々がショットガンの弾薬専用のものなので、どうしてもライフルの弾の保管の仕方も変える必要があった。
なので、このベルトに付けるために箱型クリップから改良されて弾のクリップそのままになった。トウの樹液の天然素材だからポイ捨てしても安心。
次に腰に付けることが出来るベルトとそれに付随したホルスターだ。
このベルトは少しボロくなったのでこれを機に新調したものだ。なので、弾薬帯と同じように弾を入れるための輪っかがあるのだが、ショットガンの弾よりも大きなサイズと小さなサイズの二種がある。
これらはトライアーの弾丸用で、バラの弾とスピードローダーに入れた弾を保管できるようになっている。数は少ないがな。
ポーチはそのままだけど、数は変わらないからホルスターと含めたら少し窮屈に感じる。
まず右側には小さなホルスターと長めのホルスター。長い方は金具で角度が付けられているが、コートの裾があまり広がらないようなデザイン性も高い物となっている。
この二つはトライアーとルーナ用のホルスターとなる。
俺は右利きだから右側に銃が集中するんだ。
反対側にはハティ用のホルスターが付く。バランス悪いように感じるが、ここには剣が付いたり、ポーチなどをずらして付けることも出来るから慣れればあまり気にするほどではない。
最後はバンド付きのホルスター。
これはニュクスとパンドラ用だ。太ももに付けるが、太ももの真横ではなく少し前側に位置するように作られている。
これには理由があって、まず一つは腰に付けるショットガン類と干渉しないようにするため。トライアーやルーナ、ハティと剣などは提げている場所が腰の真横だ。なので同じように真横にニュクスとパンドラを提げたらぶつかってしまうのだ。でももちろん対策もあって、ニュクスとパンドラの位置をズラすと同じように、ベルトのホルスターたちも角度が付けられている。それによって長い銃身を持つトライアーやルーナ、全長に長さがある剣などが干渉しにくくなっている。
はっきり言って、武具を持ちすぎだろうと思うはずだ。俺もそう思う。でも、ロマンと実用性を追求したらこうなって、さらに銃たちの大幅な軽量化、そして俺の鍛え直している身体によって実現したのだ。
魔法が使えない俺が魔物なんかに対処するにはこうするしかないと判断した結果でもある。
さてここで一つ二つ疑問が生まれるだろう。今まで使っていたライフルはどこへ?ドーラはどうしたんだ?って。
まずライフルは今まで通り肩から下げる。これは変わりない。
ドーラだが、現在悩み中だ。中身が中身だけにそうそう使う機会も少ないだろうが、持ってないと万一の時に困りそうなのだ。だから魔法袋に入れていれば良いかなと思ってもいる。
新たなコートも羽織り、調子を確かめる。
跳ねたり、しゃがんだりして出来るだけ違和感を探し出す……が、
「うそだろ……一切の違和感無しに完璧な着心地だと」
確かに生前はジーパンであっても飛んだり跳ねたりがとても楽にできるような素材が使われるようになっていた。だがここは異世界で、コートの下に着ているのは外に出る普段着だ。
既に着慣れたものだから違和感も何も無いのだけど、コートを調整したりホルスターを新調したりしたから何らかの違和感があると思ったのだけどそれが一切ない。
ホルスター同士は擦れたりするが、引っかかったりなどということは無い。
この時点でマダムの腕の高さが分かる。
まあそれはそうと……
「お兄ちゃん見て!お揃い!」
マナだ。彼女もついに赤煉龍の翼膜から作られたコートを手に入れたのだ。デザインなどは俺のものとほぼ同じだ。丈の長さが彼女の膝辺りで、俺の物と比べたら裾がある位置はかなり高い。
それに当然内側には大量の小さなポケットなど無い。ただ、コートの腰に付けられたベルトは似たデザインで、剣帯などを付けられるようになっている。
「新しい剣もちゃんと似合ってるんだよ」
昨日の試射の時に調整をしていた彼女の剣。雷虎の時に折れてしまって、親方たちの元で新調していた物だ。
フレアとフリーゼから俺にも持ちかけられた「属性武具思想」とやらの理論を組み込んだ剣らしく、少々特異な物らしい。と、こんな風に言えばなんか良さげだが、彼女たちもこっそり教えてくれたのだけど体のいい実験台というわけだ。
剣の見た目としては刃渡り六十セール、全長八十セールほどの見た目グラディウスだ。
ただしこのグラディウスの本物とは全然違って、最近よく見るリュム鉱石と雷虎の骨や甲殻などを使用して、作り上げられた物らしい。
水につけたらパチッて音鳴るし、肉とか切ったら焼け焦げるような匂いしてきたからマジなんだろう。
その剣を両腰にそれぞれ提げ、俺たちと同じように新調した鎧は中に着込むそうだ。
盾とかを使う重戦士では無くて軽戦士の部類だからあまり分厚い鎧は好まないらしい。
その鎧も雷虎の皮や甲殻なんかを使った特注品で性能は折り紙付き。赤煉龍の鱗を使って補強されてるからもしかしたら俺たちが使っているものよりも防御性能は高いのかもしれない。
「今まで着てたのよりもずっと動きやすいかも?」
「そうネ。私は鎧に関しては詳しくないけれド、一目見ただけであなたの身体に少し合っていないのか分かったワ。革と合わせた金属鎧には良くあることヨ」
「どうして?」
「金属鎧の利点は硬いこト。革鎧の利点は誰にでも使えるよう調整しやすいこト。その二つを合わせたら双方の利点を持った鎧が生まれル……訳じゃないワ」
「うーん、やっぱり金属で?」
「金属鎧は基本的に少しだけ大きく作られるワ。可動域を確保出来るからネ。でも革はそうはいかなイ。緩く作れば作るほど当然性能は落ちル。だからキツめにされるわネ。その分着心地は落ちるけど、軽イ。それを補うために作られたのが革と金属を合わせた鎧ヨ。軽さ、防御性能、動きやすさと長時間の着心地を両立させたもノ。それが金属と革の複合鎧」
俺も鎧には詳しくないのだけどそういうものなのか。まあマナが扱いやすいなら大丈夫だろう。
シャリアたちも調整されたコートを受け取ったみたいだな。
さて、まだ日も高いし屋台で昼飯にでもしようかな……
ガチャ
「失礼する。この場に、赤タグのハンター、ヤマトとルルという者は居るか!」
ん?
なんで俺とルルだ?それにあの服装は王城付き……いや王族付きで近衛とはまた別の騎士団だな。
つまり、そういう事か。
「ここだ。ただ、ルルに関しては少し待っていて欲しい。うちのお嬢様はお色直し中だ」
「そうか。それは失礼した。早急にと命ぜられているが、ご婦人の用意を妨げるほど騎士として落ちてはいない」
「感謝する」
よし、話は通じるようでよかった。
ルルがまだ調整終わってないのに、意地でも連れてこいなんて言われたらここで赤い花が咲いちゃうところだった。
それにしてもさすが騎士か。入口の近くに立っていても、入ってくる人の邪魔にならない位置に立っていて尚且つ入っていきなり真横に居たみたいなことにならないように少し扉から離れている。でも万一の時に対応できるような位置だ。
うん、騎士としても優秀なようだ。顔つきからして俺の数歳上。そのくらいで王族付きか。
それに、あの口ぶり。多分貴族からの騎士入りじゃなくて平民からの騎士入りだな。変に驕った感じがせず、素振りが丁寧。かなり優秀なのだろう。
それから数分後。マダムが手伝ってルルの着替えが終わった。
「お待たせーってあれ、どうしたの?」
「王城からお呼び出し。まあそろそろとは思ってたろ?」
「そうね。そこの騎士の方、私がルルよ。ありがとう」
「いえ、これが私の任務ですので。表に馬車を待たせてあります。それで参りましょう」
「了解だ。──というわけでシャリア、調整しし直してるマナには夜には戻ると伝えといてくれ」
「分かりました。気をつけて」
「なんも無いことの方を祈ってて欲しいもんだ」
俺はシャリアにそう告げると、ルルの側まで行って彼女のエスコートに入る。
これから行くのは王城だ。武装なんかは一部を除いて全て背負った魔法袋の中に入れてある。
だから身軽な状態で彼女の手を引く。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとう」
「では御二方、数十分程度で到着します。少々揺れますが御容赦を」
俺とルルが馬車の中で向かい合うように乗ると、さっきの騎士が扉を閉め馬車を動かす。
ここから王城は少し遠いからな馬車で移動できるのは助かる……のだけど、
「ねえヤマト。どうして今日なんだろうね」
うちのお嬢様が不機嫌なのだ。理由は今の通り。
出発してからしばらくは外の景色を見ていたのだけど、屋台とかが立ち並ぶ街を見て徐々に不機嫌になっているのだ。
「まあちょうどいいんだろ。王族も貴族も、なんなら神官連中だって今日は王都に滞在している。こちらに何か手を出すなら今日しかないだろうよ。たとえネル……王女殿下の成人の儀で忙しい中に俺たちとの面会を組み込むには」
「そうね。どんな事聞かれるかしら?」
「まあ確実に『どうやって生き延びた』だな。あとは生存していた人数とかか」
「責任とか聞かれるのかしらね」
「かもな。貴族によっちゃ『なぜ貴様らだけが生き延び罪のない民が死んでいるのか』とか言いかねない。いや絶対言うな」
「はあ……国土がある分貴族も馬鹿になっていくものね」
「ガルマさんみたいな人は稀だろう。むしろこの国の大きさで国としての体裁を維持できている方が驚きだ」
地球でもロシアなど国土が馬鹿みたいにデカい国家は存在しているし、過去にはモンゴル帝国やローマ帝国などそれこそ世界の大半を占めるんじゃないかと言われた国でも国土に対しての人口は少ない。しかもそれは人を害す人以外の存在が居ないから維持できていたようなものだ。
この世界みたいに魔物が居るのにこれだけ広大で国家と成立していることがさらに驚きなのだ。普通ならサルム大陸のように小国家が大量に存在して常に戦争している方が普通とさえ思えてしまう。
「いや、この国が国家として成立しているのは主街道網と四つの地域に分けられた統一域の存在かもな」
「どういうこと?」
「この国には四方向に巨大な主街道、城塞都市など巨大な都市を中継してさらにその方向に伸びるが、そこを基点として別方向にも大きな街道は伸びる。そうして長年かけて構築された街道網、それを利用すれば伝令などの情報伝達も早くなるだろう」
「統一域に関してはどうなるの?」
「街道網を維持することは王都、王城への情報伝達を司るわけだ。まあ情報の価値が少しでもわかるやつはここで理解出来るが、この街道網の維持は国家への忠誠を示すことにもなるんだよな」
「あ、全体で監視できるのね?」
「そう。時間こそかかるのが難点になるが必ず何らかの異常は察知可能だ。でも中心の王都に対して反乱を起こす可能性が存在しているが、その分土地に旨みは少ない王族の近縁が持つ西側。それ以外の国家樹立直後から忠誠を誓う貴族家が持つ統一域。どういう手段かは知らないが、何らかの方法で監視をしているんだろうな」
「そうなのね。お金?」
「金で釣れる高位貴族がそうそういるとは思えないな。商業国家辺りなら侯爵程度なら金で裏から支援して後ろ盾にくらいはなれるかもな。他国の情勢には詳しくないから何とも言えないが───っと着いたみたいだな」
デカい鉄城門が馬車が近づくのに合わせて開いていく。
「これが王城か……」
馬車は表ではなくその脇にある少し小さな扉へと向かう。既に俺たちの事は伝わっているようで、騎士が何人か居た。
すると馬車が止まり、外から扉が開けられる。
「お疲れ様でした。ここからは彼らが案内致します。このまま謁見の間まで直行致しますので、武装などは魔法袋などに入れて頂くようお願い致します」
「あら、一時的に接収などということはしないの?」
「他ならぬ陛下からの命令ゆえ。通常は武装などは全て接収しております」
「そうなのね。ここまでありがとう」
「いえ」
俺はルルより一足先に降りて、彼女が降りるのを手伝う。
少なくとも、王城などが持つフーレン伯爵家の情報では俺はルルの傍付だ。従者としての振る舞いが必要だろう。
「ありがとうね」
彼女の手を取り、降りる。
それだけの動作でもどう見られるかわからないから数年前の記憶を掘り起こして行動する。
「では、ここからは私どもが案内させていただきます」
「よろしく頼む」
馬車から降りると、待っていた騎士たちがこちらへ来て、案内を始める。
王城の中は初めてだからな。よく観察させてもらおうか。
こうして初めての王城となったのであった。
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