大試射大会

「俺、復活!!」


 骨折してから約四ヶ月半。

 ついに俺の怪我も完治し鍛えなおしもある程度は終了した。それに加えてついに俺の武装が全て完成したのだ!

 あ、でもコートとかは一回マダム・ジュリーに調整に出している。ルルたちもだ。マナのコートの新調と合わせて、俺たちのコートも調整に出したのである。多分明日くらいには受け取れるだろう。……多分。


「お兄ちゃん嬉しそうだね。朝から王都中を走り回ってたしね」

「まあな。でもしょうがないだろう?」

「それはわかるけど……」

「ようやっと怪我も治って鍛え直せて、さらに俺の望んだ武装の全てが揃った。それだけで街中を走り回るだけの理由にはなるさ。途中、憲兵に追いかけられかけたけどな」

「お兄ちゃん……」


 まあまあ、そんな呆れた目をしないでくれ。マナだってウッキウキじゃないか。


「う、うん。だってこれ新しいのだし」


 そう、マナもだ。というか、この場に居る多くの人がウッキウキだ。


「ヤマトさん……私、こんなに緊張するの初めてかもしれないです」


 な?シャリアもだ。

 ルルも親方達も、ドワーフ姉妹も目を輝かせている。それに金属加工などに関わった工房の人員も。


 こんなに人が集まれる場所はそうそう無い。王都の広場とかならいけるかもしれないけどやる事がやる事なだけに王都内じゃ無理だ。


「というか親方、前にもここには来たけど、ここってなんなんだ?盛土とかあるけど」

「おう、ここはよ、王都の鍛冶師連中で国から借りてる土地でよ、新しい武器とかの慣らしをするための場所だ。剣ならともかく、弓なんてのは広い場所が無いと無理だろう?」

「そうだな確かに。俺の武器なんて広くねえと使えやしない」


 ここは王都の西側。その城壁からだいたい二キールほどの行った所にある木の柵で囲まれた、だだっ広い土地。雑草とかも生えてるし、凸凹もしてる。確かに普通の平原には近い土地だ。

 中は柵の端に小屋がある程度で、他は土が盛られていたり、木の的があったりする。

 前に俺の背負うライフルの試射をしたのがここだった。


「ヤマトー!土の準備出来たよぉー!」


 遠くから盛土の準備をしてくれていたルルが手を振ってくる。

 その合図で俺は親方たちに頷く。


「よしっ!お前らァ!よーく見とけぇ!ドワーフの大親父の直弟子の作品だぁ!後学のため、目を見開け!」

『はいっ!』


 おおう、こりゃ凄い。というか作ったのは姉妹だけど、親方たちに見られながら撃つのは俺なんだからな?


「はぁー……でも、二人とも、これは俺の想像以上の出来だ。全てな。ありがとう」

「いやいや、あたしらは依頼された通りに作っただけだ。……えへへ、でもそう言われると嬉しいな」

「ん、存分に使い倒して。修復はいつでもやる」

「そんな簡単に壊れるようなヤワな作りじゃないだろう?」

『当然』

「それで十分。銃職人ガンスミスの保証があれば問題ない」

「ガンスミス?」

「銃の職人。フリーゼもフレアも当然それさ。こいつらの生みの親なんだから」


 俺の目の前にはそのこいつらが大きな屋外用の木の机の上に置かれている。一つ何やら見慣れない巨大な箱があるが……それ以外は全て俺の依頼通り。

 うん、これで完璧。


「ねぇお兄ちゃん。これ、どれがどれなの?」

「んー、じゃあ改めて一つずつ紹介しよう」


 まず机の上には五つの銃と一つの巨大な箱が鎮座している。

 左から行こう。

 一番左にあるのは一丁のリボルバー。二人に依頼していた図面の三番って言ってたヤツだ。

 銘はトライアー。由来は試験製作の銃としての試作品だからトライアルから取った。試作品の通り、受け取った後にルルとドワーフ姉妹によってグリップの中にいくつかの付与魔法を魔石で起動する魔法陣で仕込んである。これら魔法は全ての銃に仕込んであるから内容は後ほど。


 二つ目、いや三つ目も一緒に紹介しよう。

 図面では六番と四番となる。

 この二丁はショットガンだ。左側にあるのが王都に帰ってきてすぐに受け取った二連装ソードオフショットガン。右側がレバーアクション式のショットガンだ。口径は双方ともに20mm。加工のしやすさからこうした。


 ソードオフショットガンは二発弾を中折式で込めて発射するタイプだから細かな説明は不要だろう。

 レバーアクションの方はそうだな……ターミ○ーターIIで使っていたショットガンと言えばいいか。あの指先でクルンと回して撃ってたやつだ。もちろんこれもクルンと回せるようになっている。

 弾は薬室内含めで七発。少しだけ地球の現物より長いが、普段使っているライフルに比べれば短い。

 さて、見た目なんかを説明会したところで、こいつらの銘だ。これに関してはもう決めてある。ハティとルーナだ。


 理由はまずハティの方から。ソードオフショットガンだが、全体的に銀色で、グリップの部分に木材と狼の魔物の骨が使われている。銃身はミスリルとリュム鉱で丈夫だが、グリップは姉妹が勝手に作ったということで、姉妹が元々持っていた狼の魔物の骨を勝手に使ったのだとか。

 なので俺はそれを銘に使うことにした。

 だからグリップの木材部分には銀色で「Hati」と彫られている。


 ハティというのは北欧神話に登場する狼の名だ。マーナガルムと同一視されることもあるという。

 その伝説に登場するのが月を追いかける狼だ。ハティとは古ノルド語で「敵」を意味するそう。

 なぜ知っているのかって?ふっ。十四歳の不治の病に罹っているのさ俺は……そうだろう?


 さてルーナだ。

 ハティと決まった時点でこっちも決まっていたようなものだが、ルーナとはそのまま「月」を意味する。

 上手く対になっている。

 こちらも主に銀色で、重量の軽減の為に骨を使っているが、使われているのは雷虎だ。そしてグリップに使われている木材には小さく金色で「Luna」と彫られている。

 これにも魔法は仕込まれているが、後ほど。


 さて、次は俺がトライアーを製作した理由の一つの目玉なのだけど一回飛ばして次へ。

 例の箱だ。


「あー、フレアにフリーゼ。この箱はなんだ。大きさから何となく察しはつくが」

「折りたたんだドーラを仕舞っている箱だ。剥き身だと持ち運びにくいだろう?ちょいとおっちゃんとかに協力してもらって作り上げた」

「ん、設計は私」


 自慢げにそう言ってくるから自信作なのだろう。それにフリーゼが設計って。ドワーフって設計も出来なきゃいけないんだな。凄いなドワーフ。


 箱の見た目はだいたい幅が四十セール。縦が六十セール。そして長さが百六十セールととても大きなもので、上面に持ち手が付けられていた。まるでアタッシュケースだ。

 表面は黒の革張りで角には銀の金具が。特に何か刻印されている訳では無いが、どこか気品を感じさせるような見た目だった。


 それに、ドーラが折りたたまれているならこの長さは納得だけど、幅が予想より狭い。小型になっていたとはいえ二脚があるから収納するならもっと大きくなると思っていたんだがな。これもドワーフ技術で折りたたんだのだろうか。


「ん、持ち手の部分にある引き金を引いてみる。持ち上げてそっちを下に立てた方がいい」

「よっと……これか」


 それなりに鍛えられているとは自負しているが、振り回すには重い気のする箱だ。立てられるのはありがたい。

 見た目はアタッシュケースで、持ち手は稼働しない。金属製で、ひんやりとしている。

 持ち手の部分だけ箱が少し窪んでいて、さらにその持ち手は内側から直接外に出てきているような感じだった。


 予想以上にガッチリしていて重い引き金を引くと、


 ガチチ……と何やら歯車が噛むような音が鳴り、


 バクンッ!


 握った持ち手を中心に箱が縦に二つに割れ、箱のガワと言えるものは地面に落ちる。

 そしてガキンッと音を立て、銃そのものが伸びた!


「いや、折りたたまれていたのが本に戻ったのか。それに二脚まで展開される……こりゃ凄い」


 引き金を引き、箱が割れて中から現れたのは完璧に展開されたドーラ、E・A.Aドーラだ。


 銃の装填機構の上あたりに取り付けられた持ち手を俺は握っていたようだ。

 

「問題無いみたいだな。ま、あたしらが作ったんだしな!」

「ところでこの箱って誰が作ったんだ?設計はフリーゼと聞いたけど」

「私です。ヤマトくん」

「エヴトさん」


 さっきまで親方と話していたと思っていたが。


「彼女に頼まれましてね。私も仕事が一段落していたので気分で始めて見たのですが、思いのほか熱が入ってしまいました」

「そ、そうですか。……えっと、この箱はどうしたら?」

「それはあたしが。まずドーラの折りたたみ部分の金具、そうその太い針みたいな金具。それを押し込みながら倒すと折りたためる。折りたたんだらその針は引き戻しておいて。そうすれば固定される」

「……お、本当だ」


 それなりに重い。でも滑らかに折り畳めた。


「折りたたんだら、どちらでも良いが、箱の中身の向きに合わせてドーラを入れる」

「こうだな」

「そしたらもう片方も向きを合わせて上から被せて、そのまま押し込むんだ」

「ほぉー、すげえ」

「箱の外側と内側が少し分厚いだろう?そこに細工が成されてるらしい」


 確かに箱にしては分厚さがあった気がするけどその中に細工というか機構があったなんてな。


「エルフの工芸技術の一つです。なので細工という程のものでは無いんですがね。……ほらこんな感じに一つの部品を動かすと他の部品が連動して大きな動きを生み出す。それを利用して、箱の分解と中身の展開を同時に行えるようにしました」


 なるほど……からくり箱みたいなそういうやつか。でもワンタッチで箱を開けて中身を展開させるまで出来るのは凄まじい技術としか言いようがないな。

 それにエルフの工芸技術ってそれ販売してませんか。気になります。



「さてと……最後にこいつらだな」


 何歩か戻ってルーナ&ハティとドーラの間にあるブツを片手で掴む。


「最初は両手持ちで使う予定だったけど、この分ならいけるか……?」


 魔法により軽量化と反動軽減がある程度なされているその二つ。

 大きさこそトライアーに似ているが、威力と中身は全くの別物だし、銃としてのジャンルからして違う。


「45口径特殊改造拳銃……台座に乗せての片手撃ちならライフルでやったこともあるし、修行時代にもやった」


 なんなら、転生前にグアムに行って撃ったこともある。あの頃は筋力とかそんなのが全然足りてなかったが、今の俺は昔から銃に触れてきたおかげか体幹から筋力まで同年代とは比べ物にならないものになっている……らしい。最近は比べる対象とか客観的に見てくれる人が居なくてな。


「でも仮にも45口径だ。片手で簡単に片手で撃とうなんて思わない方がいいな」

「ねえお兄ちゃん、それとこのトライアー?ってどう違うの?」

「そうだな……まず弾の数が違うな。あとは中身の魔法も。トライアーって元々試作品なんだ。万一、本命のこいつらが完成出来ない時にはトライアーをこの二丁の代わりにしようと思ってたんだが、ドワーフを舐めてたな。予想外で予想通りの完成だ」


 右手に黒の、左手に白の。それらを掲げマナに見せる。

 結構ずっしり来るが、トライアーよりも少し重い程度。既に魔法は機能しているようだ。


「そ、そう。すごいってのはわかったよ」

「凄いなんてもんじゃないぞ。これをあの雑な図面だけで理解して作り上げた二人を褒めてやってくれ。下手すりゃ勲章もんだぞ」


「ねえお兄ちゃん、それの銘は?」

「っと、そうだな。こいつらの銘を決めてやらなきゃな」


 こいつらは右手が黒、左手が白だが形状は同じだ。そうだな、ドミ○ーターの銃身部分が変に角張らず前方にむけての完全な長方形になったと言えばいいか。それなりに分厚さはあるが、それでもスタイリッシュさは無くならない。

 横から見たら中央にまるで顎のような継ぎ目があって、開けそうだ。まあ中身知ってるんだけど。

 グリップは少し太めだが気になるほどではない。金属地に茶色の木が使われている。面白いのが黒の方は木材が暗い茶色で、白の方は明るい茶色になっている。ここに二人のセンスの高さが見えている。

 口径は45口径。やけに大きな銃身は全長340ミール。

 装弾数は12+1発。

 パーツ一つ一つがドワーフの技術の粋を集めて丹念に鍛え上げられ、一切の緩みもないタイトな作りになっている。それでいて遊底などはとても滑らかに動くのだ。

 サイトも一般的なアイアンサイトで、見やすくなっている。

 トリガーも手の大きさに合うように調節され指が掛けやすい。


 そして何よりの特徴がこのトリガー。実は二つ存在していて、まず発砲用のトリガー。そしてとある機構用のトリガー。その二つだ。


 そんな特徴もありながらも中身のモデルはドイツ製P226カスタム45口径ver.だ。

 P226ってのは拳銃の中でもクッソ丈夫と言われてて、かのネイビーシールズも使用している。

 水や泥につけた程度では故障せず、どこまで本当かはわからないがトラクターで踏んだり高度数十メートルから落下させても正常に動いたりとそれだけで丈夫さがわかる。


「あんた、一つ補足だ。それを作ったのはあたしとフリーゼだが、あたしが白、フリーゼが黒を作り上げた。参考になるか?」

「ん、中身の金属枠はどちらも同じ。表面の色の違いは軽量化の為に錬成魔法で二種の金属を合わせた結果」

「主にリュム鉱で、あたしは黒鉄、フリーゼが白鉄を使ったんだ。色鉄って言うものだけどこれは産地によって色が違うだけだから気にしなくていいぞ」

「ん、黒鉄は南、白鉄が北。色鉄はリュム鉱に近い、そもそも元は同じ。だから加工も容易。これにはターム鉱と合わせて薄くしたリュム鉱を使った」


 色鉄か。そんなものもあるんだな。でもリュム鉱の色が変わっただけみたいだけど、産地で違うってのが気になるな。今度調べてみよう。


「黒と白……中身も合わせて考えて……」


 いろいろ候補はある。例えば黒ならシュヴァルツとか極夜とか厨二ネームが出てくるし、白でもブリザードとか白夜とかの厨二ネームが出てくる。あんまりそういうのはやりたくないんだよな。個人的に。

 興味本位で過去にラテン語とか調べてたから多少はわかるけどそれっきりだしな……


 船に付けるみたいに女性名?ご利益あるかな。


「お兄ちゃん、武器にはね、銘を付ける時にはお話にあやかってつける人も多いんだよ」


 お話か。うーん、色に関係した人物。神様でもいいな。誰か居たかな……


「あ、いるじゃん」


 大学生の頃に読んだとある本に出てきて、まあ色に関係している人物。

 なによりもほんの少し指を動かすだけで強烈な威力をもたらすことがてきるその事象を表せる単語に関連するしている。


「よし、決めた。黒がニュクス。白がパンドラだ」


 双方ともにギリシア神話からだ。

 ニュクスは夜の神格化で、死を司るとされているお姉さん、いや女神様だ。

 それに対し白はパンドラだ。こちらはみんな大好きパンドラの箱のお姉さんだ。

 大抵の場合地域柄か色白で描かれ、美人さんだがやらかしたことはやばいというこの銃の中身にピッタリな名前だな。


 そうそう、片方がニュクスならそれに相対するのは昼の神格化であるへメラでは?となるのだけど、これに関しても考えてある。


「フレア、フリーゼ。あとでこの二つにこう刻印しておいてくれ」


 俺は手元の紙にサラサラと走り書きする。

 『Nýx』『Pandora』と。

 

 お、そうだ。これも加えておこう。

 俺はちょっとした思いつきでもう一文書き加える。


『Si vis pacem』『 para bellum』


 厨二とか言うなよ。これでも気に入ってるんだからな。だから覚えてたんだけどな。身体が。


 二つに分けた理由は銃が二丁だからだ。それ以上も以下もない。


 さてこれの意味だが、直訳すると「汝平和を欲さば、戦いに備えよ」となる。が、これにはもっと長い原文と呼べるものが存在する。そこには確か、勝利を望むならば技量に依って戦うべきである。みたいな事が書かれているのだ。

 なので戒めの意味としてこの文を刻むが、原文は長すぎるからこの有名な一節を使わせてもらうわけだ。


「さてと、長くなったが、早速試射を始めていこう!」


 俺はまずルーナ&ハティを持って、さっきルルが作った盛土の前に向かう。そこには数メールの感覚を開けて木でできた的が十以上並んでいる。


 立っている位置からはだいたい十メール未満。近距離だ。


 まずはハティから。

 グリップの背の部分にあるスライド出来るパーツを後ろに向けスライドさせると銃身の根元の部分が折れて開く。クレー射撃の銃のように開いていると言えばわかりやすいだろう。


 開いた部分から腰のポーチに入れてある弾を二発取り出す。忌まわしい弾丸生活でアホみたいに量産したからな。人力であそこまでやるかフツー。


「よし、これで……」


 弾を込め、銃身を起こしてカチャンと鳴らしながら無事回復した右手で半身に構え銃口を前に向ける。この銃身を折って弾を込める行為だけで既にコッキングは完了している。

 トリガーは二つ。確か前が……


 ドンッ


 グッと堪えるように反動に耐えて銃を見ると右から煙が上がっている。

 的を見ると左上が少し抉られている。一応当たりはしたみたいだ。


 今度は両手で構え、手前側の引き金を引く。


 ドンッ


 反動は来るが、それなりに軽減されているようだ。今度は的の右下。さっきよりも中心に近く、より大きく抉った。やはり両手の方が命中精度はいい。


「反衝撃魔法の魔法陣。上手く機能しているようで何よりだ。それに俺の〈射撃〉のスキル。すっかり存在忘れてたけど反動軽減とかの効果もあったっけな」


 小説みたいに名前を呼ぶことで効果を発揮するみたいなそんなシステムでは無いこの世界のスキルは自分の一部になりすぎて存在を忘れがちなのだ。


「内部に仕込んだ魔法を耐衝撃から反衝撃魔法に全て切り替えたみたいだけど……どう違うんだか。ま、あとでルルあたりに聞いておくか」


 俺は次にルーナの方を掴み、トリガー付きのグリップを前に動かしてチューブへの装填口を開く。

 これは通常のショットガンと違って、グリップ部分を動かすと、ストックの上側のパーツが連動して銃身とチューブの入口が見えるようになる。そのチューブ側に弾を入れるのだ。

 そして銃身の下にあるチューブに弾を三発程装填する。


 これはポンプアクションではなくレバーアクションなので可動式のグリップ部分を動かし、薬室に弾を送り込む。


 カチャンと軽い音を立て何時でも発砲出来る状態になったルーナをライフルのように構え俺はハティで撃った的の隣を狙う。


 ドンッ


 ハティとは使用している弾を同じにしているので衝撃などは大差ないはずなのだけど、肩にストックを当てている分身体に衝撃がくる。

 でもやっぱりちゃんと魔法もスキルも機能している。


 的には命中。でも中心では無い。


 グリップ部分を前後に動かして薬莢を排出する。

 このカッチャンって音がいい。

 そして飛び出る薬莢もロマンがある。


 次弾を装填したルーナを肩に当てて構えず、今度は腰だめで撃つ。

 実際に出来るものなのかが気になっていたんだ。


 身体を真正面に向けて、右の腰の位置に両手でショットガンを構える。これであとは「ファッ○ューッ!!」とでも言えば完璧なんだがな。ある種の礼儀とも言えるが、さすがにそんなことをする余裕は無いので、


 ドンッ


 足をふんばって衝撃に耐えるだけだ。当然外れた。大ハズレだ。


 ふむ……やっぱ素人には腰撃ちは無理だな。練習しないと。


 俺はそんなことを考えながらなんとなくでショットガンのグリップを中心にクルリと回す。


 カチャンと音を立ててコッキングされ、排莢される。


 そのまま構えてズドン。

 ちゃんと的の方向さえ向いてれば多少は当たるのがショットガンのいいところだ。


「うん、いい感じ」

「な、なああんた。今の、どうやったんだ?」

「ん?なんとなくだ」 

「あたしも銃については知ってる。でもそんな排莢の仕方は見たことがない。だから気になってよ」

「そうだな……俺一番の秘密とでも言っておこう。これだけは余程の事じゃなきゃ言えないからな」


 俺はフレアに口の前でシーッとやるとハティとルーナを掴んで銃が置いてあった場所に戻る。

 元あった場所に置き、次に持ったのはトライアーだ。


「よし、次はトライアー。撃つのは三発」


 そう宣言して俺はハティ、ルーナと撃った的の隣の的を狙える位置に立つ。


 今度は腰のポーチからリボルバー用の弾を三発取り出す。

 グリップで親指を掛けられる辺にあるピンっぽいのを動かしてシリンダーを左側にスイングアウトさせる。


 このトライアーは上ではなく下に銃身が存在するので、弾を込める位置もそれに合わせて下の方になる。


 カチ、カチ、カチと音を立て弾を込め、手首のスナップでシリンダーを元に戻す。

 

 チャキンッと音を立てたシリンダーはその銀色に光を反射させる。


「サイトは良好。無風、状況もよし」


 ショットガンと同じように身体を真正面に向け両手で構える。

 アイアンサイトを覗き目の前の的を見据える。

 狙うべき的の中心からほんの僅かに上を狙い、滑らかに形作られた引き金を引く。

 ダブルアクションなのでそれなりに重い。が、それに見合った効果は得られる。


 ドンッ!


「ヒット。センター……っと」


 的のど真ん中を撃ち抜き、小声で俺は告げる。

 スキルもあるだろうが、フレアとフリーゼの二人の銃を組み上げるその腕もこの結果を生み出しているのだろう。


 続けて引き金を引くと、


 ドンッ!


 ダブルアクションなのでこうして連射が可能だ。


 くっ、やっぱり肩に当てるものがあると無いとだと反動の感覚が違うな。でもこれでもスキルと魔法で相当軽減されてるはずだからあとは慣れか。


 そして〆の一発をドンッ


 後半二発は真ん中からは外れたが、ちゃんと当たった。

 うん、本当にいい銃だ。


「フレア、フリーゼ。やっぱりこれは本当にいいやつだ」

「あたしらが作ったんだから当然さ。でもまだ本命があるだろう?」

「ん、まだまだ」

「そうだな。ニュクスとパンドラ。それにドーラが残ってる」


 俺はトライアーを元の木の机の上に置き、ニュクスとパンドラを手に取る。うん、美しいフォルムだ。


 それを少し眺めてから俺はパンドラの方を腰に着けた簡易ホルスターに仕舞い、ポーチでは無くコートのポケットに入れてあったマガジンを一つ取り出す。

 金属とトウの樹液から作られたマガジンで構造は基本的に地球の物と同じだ。当然金属だけでも出来るのだろうが、異世界プラスチックことトウの樹液のおかげで相当なコストダウンに成功している。量産は必須だからな。安く抑えられるならそれでいい。


 ニュクスは全長で400ミール。

 こんなにデカくなったのは内部に仕込んであるとある機構が原因なのだけど、これをオミットしてれば普通の拳銃サイズになるというなんか正解のようで違うような気がする銃だ。


 マガジンを装填し、ニュクスの背の部分を動かして薬室にマガジンより弾を運ぶ。


 二つあるトリガーのうち、上のトリガーに指を掛ける。

 

 やっぱりそれなりにデカいからそれに見合った重さがある。当然だよな。いくら魔法で軽くしているとはいえ、重さそのものは消えないんだから。


 両手で構え、トライアーで撃った的の隣を狙う。


 ドンッ!


「っつ……でもこれが正しい反動か」


 この銃には実は反動を消す魔法は付けられていない。理由としてはこいつの存在意義に関わるレベルのものだからだ。


 銃を構え直し、もう一発。


 ……うん、反動の強度でやっぱりブレが出てしまう。銃としては当然だけど軽減されてるものからされてないものに変えるとその差がデカい。

 改めてわかる魔法の凄まじさだな。

 でもこの銃にもライフルにも付けられているし、ここに並んでいる銃たちにも当然付けられている消音魔法は良いな。

 だってさっきから俺はずっと耳あてを付けていない。というか今までも付けてはいなかったけどそれだけちゃんと消音が出来ていることに感謝だな。


「よしっ……と」


 構えを直し、今度は連射する。

 一発一発の反動はあるが、耐えられないほどではない。


 そのままマガジン一つ分、計十二発を撃ち切る。

 的はボロボロ、手は多少痺れているが、特に困らない程度だ。


 それとなしに二つ目のトリガーを引く。


 すると、まずハンマーや薬室がある部分と銃身が数セールほど離れる。銃身が前進する形だ。


 前進した銃身は継ぎ目を境にまるで獣の顎のように上下に割れ、内部より太さ二セール程の筒が顔をのぞかせる。


 そして完全に顎が開ききり、筒に光が当たった瞬間、


 カンッと音を立てる。


 銃の音ではない。的を見ると、銀色に光る細い物体。

 それを見て俺は二つ目のトリガーから指を離す。すると展開されていた銃身は仕えが取れたように滑らかに元に戻る。

 

「うん、素晴らしい。無茶を要求したし相当複雑だったはずなんだがな」

「ん、箱の設計よりは楽」


 そうですかい。


 俺は的の方へ向かい、その銀色の物を的から引き抜く。

 刺さっていたのはナイフ。

 柄などは無く、刃だけが銃身よりもいくらか短く、太さは二セール程度のものだ。これを発射したのだ。


「バネ式ナイフ発射装置、簡易的な飛び道具で、奥の手ではあるが……見事。フリーゼ、ありがとな」

 

 彼女は無表情ではあるが嬉しそうに頷く。


 さて、バネ式ナイフ発射装置と大仰な名前ではあるが、要はスペツナズナイフである。

 ライフルを作った時にバネの概念は存在しているとわかったからな。それを利用させてもらった。


 当然奥の手だから常用するつもりは無いが、万一の時には役に立つだろう。文字通り一矢報いるときには使えるだろうな。 



「次はパンドラか……こいつは中も一緒だし、いや……やっておこう」


 

 ニュクスと入れ替えるようにパンドラを持ち、同じように弾を込める。

 やることは同じだ。隣の的を連射して撃ち抜いていく。

 当然二つ目のトリガーの展開もやるが、中身は無い。こちらはナイフではなくて他のものを発射する予定だからな。それがまだ完成していないんだ。


「あたしらの力作はどうだ?」

「最っ高だ!まるで俺の手の寸法を取って作られたみたいに完璧だ!」

「いや実際取ったんだけどな?」


 そんなことはどうでもいい。とにかくこの二丁の素晴らしさよ。


 しばらく俺と姉妹で騒いでから、ようやく最後の銃に行くこととなった。



「最後はこいつか」


 俺はニュクスとパンドラを机に置き、代わりにデカい箱を持つ。


 E・A.Aドーラ。

 18.8mm口径を有する対戦車ライフル。

 戦闘機に搭載される機関砲クラスの口径と威力を有するとされるが、連射は不可。

 威力と魔法によるある程度の制御のためにかなりの大きさとなったが、そのおかげで俺が使える。


 

 俺はドーラを専用の的がある場所まで運び、さっきと同じ要領で地面に立てて展開する。


 ガチャンッと音を立て数瞬と掛からず、ドーラはその姿を再びさらけ出す。


 三メール程あるその姿はまるで塔のようで……となった辺りで俺はそれを地面に倒す。

 だってこうしなきゃ撃てないじゃん。


 展開された二脚はドーラをしっかりと支え、銃身の先端に付けられた赤煉龍の鱗で作られたマズルブレーキや龍骨の肩当と相まってまるで地面を踏みしめる龍のようである。


 俺は横たえたドーラの向きを少し調整し、ポーチではなく魔法袋から巨大な弾を一発だけ取り出す。

 当然ながら専用の弾だ。大きすぎるからポーチには入らず、常に魔法袋の中で保管している。


 次にやるのは発射の準備。

 まずドーラの右側に折りたたまれているハンドルを起こし、手前に回す。


 カチャンと音を立てれば、コッキングは完了だ。

 その後は同じく右側にあるボルト。ライフルと同じ要領で九十度回転させて、後ろに引く。

 すると薬室までの道が開け、弾を込めることが可能となる。


 そこにライフルと同じように弾を入れたら、今度は逆の方法で薬室を閉める。分厚い壁があるから大丈夫……らしい。


 ここまでやればあとは発射のみだ。

 伏射姿勢になり、左側に付けられた長方形のパーツを起こす。モデルは機関銃の照準。俺もこのタイプは知識としては知っているが、使うのは初めてだ。


 三百メール先の遠くの的を狙い、そっとやたらとひんやりするトリガーに指をかける。


 そしてグッと握りしめるように引き金を引く。


 小さく何かがレールを滑るような音がした途端だった。



 ドッガアアアァァァンッ!!!



 音の圧と言うべきか。決して銃の反動でも発射音でも無いものにとんでもない衝撃を受けた。


 何事かと、数名が的の方へと向かう。三百メールだ。意外と遠い。


 俺は立ち上がり、なんともないことを皆に示す。実を言うと、俺の居た場所はあくまでもその衝撃に驚いただけで特に何かあった訳では無い。しっかりと消音も反衝撃魔法も機能していたおかげでこのとおりピンピンしている。


 ……うん、遠目にだけど的は消えてるな。それに何やら盛土が低くなっているような?


 そんなことを考えていたら、的を見に行っていた内の一人が帰ってきた。


「ヤマトさん!的は……消滅してました!」

「え、消滅?」

「はい、消滅です!」

「えー……マジか」

「先程のあの音は盛土の後ろにあった石壁を破壊した音だと!」

「破壊」

「破壊です」


 ふむ、つまり俺がこのドーラで狙った的は当たったのかは分からないが、とりあえず消滅。で、弾は盛土にぶち当たるどころか貫通してその後ろにあった石壁まで破壊した……と。


 ……余程こっちの方がグスタフじゃねーか。


 俺は装填と同じようにボルトを動かして排莢を行う。

 まあそうだよな。こんなにデカい薬莢使うんだから威力も当然バカでかいよな。予想はしてたけど予想以上のバカ力だよ。



 ……と、ドーラを撃ったわけだが、このあとは特にすることは無かったりする。なので特に何か書くことは無い。シャリアやマナの武具の調整をやったくらいと言っておこう。

 それに今日は早く帰らないといけないんだ。明日に備えて俺とルルはな。

 本当ならこの後、銃に備え付けられた付与魔法の試験を色々とやる予定だったんだけど、そこまでやってたら日が暮れるって事で後日に回った。まあちょうどよかったな。


 何があるかと言うと、大森海の調査拠点で出会ったシールレッド卿を覚えているだろう。あの人が言うように成人の儀なんだ。この国の王女、ネルハ殿下のな。


 俺たちに何かあるわけじゃ無いんだが、来てくれみたいに言われた以上行かないわけにはいかない。

 明日は明日で武具関連でやらなきゃいけないこともあるのだけど、この試射が一段落したので目下最優先はその成人の儀となる。


 それに、そろそろお呼び出しが来そうだからな。それにも備えないと。


 俺は今日使った銃を携えながら家へと戻っていくのだった。

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