孵化
お待たせしました。実を言うと今私、受験期でございました。というかまだ続行中にございます。なので前回更新から一ヶ月経ちましたがまたしばらく更新は出来ないと思います。
それでは、第127話をどうぞ。
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ここまでハントさんの話を聞いたりと色々やってきたのだけど、結局亜竜の卵の孵化に関してやることはほとんど無かったと言っていいだろう。
やる必要があったのは一つだけで、卵を温めている暖炉の火を絶やさないことだけだった。
ずっと火を見てなきゃいけないから依頼に出ることが出来なかったのは金銭的に少し痛かったけども、大森海への出発前にゆっくり出来たとしておこう。
生き物と言うのは面白いもので、まるで動きそうにもないのに時折震えたりする。哺乳類なんかだとわかりやすいが卵から生まれるものだとそれが面白い。そう感じるのは生前に知り合いの亀を預かった事があったからだろうか。
まあなぜ今こんな話をしたのかと言うと、産まれそうなのである。何がとはもう言わなくても良いだろう。
「お兄ちゃん!また動いたよ!」
ハントさんに言われた通り既に卵は暖炉の火から下ろして毛布で包んである。マナはその卵の様子を見張る係だ。ルルとシャリアはハントさんを探して回っている。
で、俺は何をしているのかと言うと竜たちを育てるための籠を日曜大工の如くトンテンカンやっている。本来なら竹とかの柔らかい素材の方が良いのだろうけど……ちょうど売ってなかったのだからしょうがない。
「おーう。そのまま様子見とけ。あ、そこに籠二つもう出来てるから毛布敷いといて」
「わかったよー。……お兄ちゃん、あんまりこういう事は言いたくないのだけど」
マナが俺の作った籠を見て哀れむような目を向けてくる。理由は分かっているから。頼むからその目を止めてくれ。
「頼む。何も言わないでくれ。今度ちゃんとしたのを買ってくるから」
実は籠というのは思ったよりも高かったりする。よく森に入る採集家とかが背負っているような籠は量産品なのである程度安いのだけど今の俺たちが求める大きさでは無い。かと言って小さいものだともはやそれは笊になる。丁度いいのが無い現象と俺は勝手に呼んでいる。
「はぁ……お兄ちゃん、少し卵を見てて。私が買ってくるから」
「え……あ、うん。すまん」
俺が何か答えるより先にマナが籠を買いに行ってしまった。余程お気に召さなかったのだろうか。
しかし……あの冷たい目には何か来るものがあったというかなんというか。……いや、やめておこう。
◇◆◇◆◇◆
お兄ちゃんは料理も上手いから手先が器用なのかなって思ってたの。でも欠点もあったんだね。まさかあんなに箱を作るのが下手だなんて思わなかったよ。
私はお姉ちゃんたちが多分知らない事をしれたからか上機嫌になっていた。でもそれだけじゃない。一番の理由はやっぱりあの卵。御伽噺でもよく聞くのは龍。それ以外に亜竜って言うのが居るなんて知ったのは初めてだったな。
「おじさん、籠って今いくつある?」
私は普段から馴染みの雑貨屋さんに来ていた。大通りからは少し外れているから人は少ないけどいい物が揃っているんだ。普段使ってるカップとかもここで買ったんだよ。
「おー、マナちゃんかい。依頼に出かけたんじゃなかったのかい?」
「まだだよ。あと……四日もしたら出発だからね」
「そうかいそうかい。で、今日は何が入り用なのかな?」
おじさんに必要な物を伝えるとすぐに取ってきてくれるの。この前こっそり裏を覗いたのだけどとってもごっちゃりしてて何がどこにあるのか私にはわからなかったな……
「中程度の籠が四つに空の中瓶が二本。これで良いかな?」
あ、瓶二本はルルお姉ちゃんからのお使いだよ。
「うん。ありがとね、おじさん」
「また来ておくれ。……ちゃんと生きてみんなでな」
「もちろんだよ。私たち四人でまた来るよ」
このお店は私たちが王都で拠点を買った時にもの凄くお世話になったんだ。新参者なのにまるで昔馴染みのようにしてくれたの。私がこっそり理由を聞いたら、
「私も、この王都に来て初めて店を開いた時は誰も知り合いが居なかった。でもその時に私を助けてくれた人が居たんだ。その人は『誰もが最初は新参者だ。私もそうだった。だから君もいつか同じように手助けしてあげなさい』って言われたんだ」なんだって。何世代もそうやって手助けを受けて、それを引き継いできたからなんだって。
つまり次は私たちが同じように新参者って言われる人たちを助けてあげるべきなのかもね。
家に帰ってみると、もうお姉ちゃんたちは帰って来ていた。あ、ハントさんも居る。それにみんなもう卵の前に集まってるね。そろそろ生まれそうなのかな。
「ただいま〜。卵はどう?」
「あ、マナちゃん。おかえりなさい。全ての卵に少しだけヒビが入ったところです。そろそろ生まれるそうですよ」
え!?もうそこまで行ったんだ。早く籠を持っていかなきゃ。
「卵はこの籠に入れて。お兄ちゃん、普通に売ってたよ?」
「え、そうなの?……あの箱、なんに使おう」
お兄ちゃんが目を向けた方にはさっきの籠……とは言えないような箱が三つほど重ねられていた。あの大きさなら食材を入れるのに使えそうだね。後で聞いてみよ。
卵の方では毛布に包まれた卵を凝視している人が数人。
「ごらん。ここにヒビが入っているんだ。亜竜の卵は殻が分厚いんだ。だから出てくるまでも時間が掛かるんだよ」
ハントさんが指さした場所にはハッキリとヒビが入っていてた。故郷にいた頃は家畜の出産とかも手伝ったことあるけど、それとはまた違った印象があるね。で、ところでなんでお姉ちゃんはこんな時に寝てるんだろう?
◇◆◇◆◇◆
長い。
卵割るのにこんなに時間が掛かるのかと思うべきか卵の中から殻を割るのがどんなに大変かを知らないからそう思ってしまうのか。とにかく長い。さっきマナが帰ってきて買ってきた籠に毛布を敷いて今はそれぞれの籠に一つずつ卵が入っている。そして今はそれぞれの前にそれがあるわけだ。
そんなわけで俺の目の前には白い卵。と言ってもみんな白い卵だけど。見分け方としては表面の水玉の色だな。俺のは灰色、ルルは薄青、シャリアは緑、マナは赤といった具合だ。
ピシッ
お?
卵を見ると、最初にあったヒビがそれなりに大きくなっている。でもまだ中は見えない。時折動いてるんだけどな。まるでウズラだ。いや、ウズラは鳥類だから違うのかな。
そもそも魔物の亜竜は爬虫類か?大穴で両生類?
少なくとも哺乳類、爬虫類、両生類などの区分けが生物的には存在することは俺もわかっている。この世界の学問として分類されてるかどうかは別だが。
「これって今日のうちに孵化するのかしらね」
流石のルルも待ち飽きたようだ。まあマナが帰ってきてから約二時間。殻のヒビは少し大きくなっただけで進展が無い。
「僕も正直少し心配なんだ。亜竜というのは一度殻にヒビが入ればすぐに生まれるのだけど、こんなに時間が掛かっている。最初は孵化に失敗したのかとも思ったけど、そもそもその場合は殻にヒビは入らないんだ」
なるほど。こんなに時間がかかるのは予想外だけどヒビが入るまでは予定通りと。
わからないなぁ……
こうやって普通に話しているように見えるかもしれないが、今は物凄く心臓バクバクだ。その理由は後ほど。
それからまた数時間。日も暮れかけた頃にようやく変化があった。
ピシピシッ……パキッ
「キューッ!」
「………」
結論から言おう。卵に対して明らかに大きそうな亜竜の仔が生まれた。
卵の大きさはだいたい五十セール程度だったが、中から出てきたのは一メール弱はある首の長い亜竜だった。鱗はまだ無く皮膚は生まれたばかりらしくシワシワの状態だな。翼になるであろう部分にはまだ翼膜は無い。でもまるで指のように主翼骨から翼骨が少しだけ出ているそれが成長するに沿って発達するのだろうか。その主翼骨も今は体長と同じくらいしか無いが、ハントさんによると最終的には全長の1.5倍から2倍程の大きさになるのだとか。つまり十五メールならばだいたい二十メール強と言ったところかな。楽しみだ。
しかしそれにしても……
「かわいい……」
クリッとした赤色の目で俺の事をじっと見つめてきているのだ。彼?彼女かはわからないが、嘴のような口元で鳥の面影がある頭部に、側頭部から後ろに向けて何やら細い楕円形の短い帯のような物が伸びている。それがその子が頭を動かす度にユラユラ揺れてとてもかわいいのだ。
「これは……なんとも珍しい仔が生まれたね」
ルルたちの竜の世話を手伝っていたハントさんがこちらに来て目を見開いた。
「そうなのか?」
「うん。この子は首が長いだろう?普通の亜竜は首が短いんだ。もちろん珍しいと言うだけであって特に何かある訳でもないのだけどね。でも最後に首が長い竜が確認されたのは百年か二百年程前の事だったはずだよ。僕も本物を見るのは初めてだ。なぜなら、亜竜というのはそれなりには生態も明らかになっているのだけども、首の長さに関してだけはほとんど情報が無かったからなんだ。僕も聞いたことがあっただけで竜は首が短いものだと思っていたからね。……もしかしたらこの子は首も合わせて体長が二十メールは行くかもしれないよ。かなり大きな子にはなるはずだ」
へぇー。お前、すごい子なんだな。お?それに足が四本。つまりお前は珍しい龍翼種の中でもさらに珍しいって訳だ!
「キュー?」
うーん。首を傾げると余計にかわいいな!
「よーしよしよし……」
俺は軽くお湯で濡らした布で仔竜の体を撫でるように拭いていく。目をつぶってとても気持ちよさそうだ。ネコみたいにゴロゴロと喉は鳴らしていないが、尻尾が時折揺れるからな。
「よーしよしよし……」
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで……
あまりにもかわいすぎて撫で続けているうちに仔竜は眠り、夜も更けていたことに気づいたのはこれからさらに数時間後のことであった……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
補足です。ヤマトの仔竜は鳥の面影がある頭部と言いましたが、イメージはモンハンのイヴェ○カーナです。あんな感じの頭です。
四人の亜竜のイメージ(暫定)
ヤマト:骨格…上記の通りイヴェル○ーナ。(龍翼種)もとい西洋ドラゴン
しかし色合いはミラ○ーツがモデル。翼の形状はSkyrimのドラゴン。側頭部からは白竜シー○のような細い帯のようなものが伸びる。
つまり、白竜シ○ス+イヴ○ルカーナ+ミ○ルーツ÷3である。
ルル:骨格…翼竜種。
ワイバーンというかリオ○ウスみたいな骨格である。色合いもリオ○亜種がモデルだが、もっとスタイリッシュな見た目。鱗はあんなにゴツゴツしていない。もっと艶やかな楕円形である。もしくは蛇のような鱗が混じる。頭部はクシャ○ダオラをイメージすれば良い。翼はレ○ギエナをイメージ。
シャリア:骨格…翼脚種。
骨格的にはプテラノドンに近い。
モン○ン的にはセルレギ○スみたいな骨格である。別に鱗が逆立ったりはしない。色合いは薄緑。ライゼ○スをイメージすれば良い。鱗は艶やかな楕円形。頭部は角のないセルレギオス。翼はリ○ス系をイメージ。
マナ:骨格…翼竜種。
ワイバーンの骨格。上記の通りリオ○系。色合いは緋色。鱗は艶やかな蛇のような鱗。翼のイメージは飛竜ヘルカ○トのあれ。別にトゲトゲしてはいない。頭はク○ャルダオラをイメージ。
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