お正月特別編 年明けご馳走
読者の皆さん。明けましておめでとうございます。この【魔銃使いとお嬢様】も執筆を始めて一年が経ち、今回は前に書いたクリスマス特別編のような雰囲気でお正月特別編と銘打って書き上げました。かなりノリで書いてるので多少の矛盾があるかもしれませんがどうか御容赦を。
それでは、今年も【魔銃使いとお嬢様】を、ヤマトとルルの旅をよろしくお願いします。
王都での年明けの時です。時系列的にはギルド長に呼ばれ、ギルドに行く前。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よし、これで肉の仕込みはオッケーだな。次は煮物……も、いくらか煮えてきてる。なら金団は無理だから数の子かな」
材料の中からニシンの代わりにする川魚を探し出して洗い直したまな板の上に置く。
腹がパンパンに膨れた子持ちだ。正直ニシンを使いたかったけど手には入らなかった。北のものだから距離があって王都にはそうそう来ないらしい。
川魚の頭を落として腹を割いて内臓を引きずり出す。一緒に卵を取り出すけどそれは別の皿に乗せておく。 中身を取りだした魚を次は三枚に卸していく。
身は後で刺身とかにするとして、骨は……骨せんべいにでもしようかな。
卵はまるで数の子のように固まっている。
それを洗い、終わったら酒と海藻から煮だした出汁に漬けておく。海藻は高かったからな。ちゃんと処理もしたぜ。
さて次は肉料理だ。作る予定なのはローストビーフならぬローストボア。前に食った
作り方は簡単な方でやる。ただし作るのは庭でだ。
この家のやたら広い庭には何故か竈があった。家の裏でしかも苔に覆われていたから掃除するまで気が付かなかったけどコケを何とか落として一度火を入れたら十分使えるようになった。朝方に日を入れてもう十分熱があるはずだ。
塩胡椒をまぶしてしばらく置いておいた肉を持って俺は外に出る。既に熱い竈に串を刺して、オリーブオイルをまぶして肉を入れる。この時、串は中心じゃなくて端に刺すようにする薪と送風で火を調節しながら表面をじっくりと焼いていく。ただし中まで完全には火が通らないように。あくまでも表面をこんがりと焼くだけに留める。
焼きあがったら一度串から外して清潔な布で包む。そしてその上から大きめの葉っぱでも包む。
そのまま一時間ほど置いておく。
置いておく間にソースを作る。
材料はワインと露店で売ってたウスターソースみたいなもの。あとはトマトソースだな。それと水を混ぜて作る
まあ簡単だからすぐに出来上がるからいくらか暇になる。どうしようか。
「あ、そうだ。あれ取りに行かなきゃ」
今は年末。正確には今年最後の日だ。この前マナの歓迎会と併せて年末のお祝いしたからな。今日は何も無いのだけど、元日本人としてはやはり年始は祝いたいものだ。だからおせちを作ろうと思い立った訳だが、
「ガワだけ作って中に何入れんだよってな」
定番のかまぼことかは作り方知らんし、黒豆とかは普段は完成したものを買っていた。辛うじて数の子は作ったことがあったからともかく、伊達巻ってどう作るんだっけ?って感じだ。あとは栗きんとんもだけどあれ水飴無いとダメだったはず。よって却下。餅は小麦粉から作ったすいとんで補うとして、あとは……
「お、海老が安いな。それもでかいヤツ」
「あれ、ヤマト君じゃないかい?今日も買い出しかい?」
「ええ、ウチにはよく食べる三人娘が居るもので」
もはや馴染みの海鮮問屋のおばさんに苦笑しながら答える。
「今日はね、珍しく海のものが大量に入ってきたんだ。海沿いの人には悪いけど商人としちゃもうしばらく冬でいて欲しいね」
「確かに。冬はいい魚が入って来ますからね。でも夏は夏で旬の物もありますから。あと、あなたも冬だと肌が乾燥しちゃいますからね。夏も挟まないとその綺麗な肌が保てませんよ?」
「あらあら、お上手だこと。じゃあ今日はおまけしとくよ。何が欲しい?」
「それじゃあこの海老を八尾とそこのデカい海老を一尾、その赤い魚を二つ。あとは……お、じゃあこの青魚を……二つで」
「あいよ。じゃあおまけ含めて金貨一枚と銀貨一枚だね。海のものだから高いのは勘弁しとくれよ」
「分かってますよ。でもやっぱり美味しいですからね。これからも贔屓にさせてもらいます」
「あいよ。よろしく頼むね」
「ええ。それじゃあ」
魚を葉っぱで包んでもらい、魔法袋にしまう。次に向かうのは木工細工店だ。俺たちが家具の制作を頼んだところで、俺がその時ついでに頼んでおいたのだ。
「おやっさん、出来てる?」
「おお、坊主か。出来てるぜ。要望通り漆塗りだが……こんなのどう使うんだ?たかだか木の保存材だってのに」
「料理を入れるんだよ。王族が使うような銀の皿と同じさ。俺ら庶民なら庶民らしく、でもそれでいてかっこよく。気品が出るだろ?」
「うむ……言わんとすることはわかった。完成品を持ってこよう」
おやっさんは一旦奥に戻り、布に包まれた箱を持ってきた。
「ほれ、これだ。できる限り要望にそったが、何分俺自身作ったことがなくてな。確認がしたかった」
布を取り払うと、中からは綺麗に外側が黒、内側が朱色に塗られた美しい木箱が出てきた。
「これは見事だ……すげぇ」
「そういう顔をしてくれるなら作ったこっちとしては本望だ」
「さすがだよおやっさん。ありがとう。これがお代だ」
「あいよ。こりゃあなかなか儲けになりそうだがこれからも作ってもいいか?」
「全然構わねえよ。そもそもこれだって本で見っけたやつだし」
本当は地球から持ち込んだ知識だけど俺はこれで儲ける必要が無い。
よくある転生モノだとカレーとかパスタとか料理系統だったり、石鹸とかの技術系統でお金を稼ぐが、俺はそんな面倒なことはしない。というかしたくない。よくある貴族とかの爵位も要らない。でも、もしルルが伯爵家を復活させたいというのなら俺は幾らでも彼女の力になろう。それが今の俺に出来る唯一の恩返しだろうから。
「さてと、そろそろローストボアも出来ただろうし帰るかな」
これからの事も考えながら次に作る料理のレシピを案ずる。
「おせち作るにしても材料が揃わないしな……」
そもそもこの世界には年始を祝うという文化が少ないから作る必要も無いのだが。ちなみに年末にお酒を飲みまくる祝いはある。理由としては年末にはその年の総決算のような形で邪を払う目的で宴会をするのだ。
この世界には悪魔という存在が伝説として信じられている。そしてその悪魔は人に宿り、不幸をもたらすとされている。
それを避けるためには年の終りには宴会をする。料理をたらふく食べ、酒を飲みまくる。そうすることで悪魔を酔わせ、身体から追い出すのだ。だから年始にはお祝いをする必要が無い、と言うよりも出来ない。金銭的な問題で。
俺たちの場合は年末のお祝いでは食べた量が少なかったのと、一番お金のかかるお酒が無かったことで食費はかなり抑えられている。
「お酒に関しちゃシャリアが買ってくるって言ってるが……ついて行ってるのがルルとマナだからな。ワイワイ騒いで困らせてないと良いが……」
「ねえシャリアこっちなんてどう?」
ルルがいかにも高そうなビンを持ってくる。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、これって何?」
マナが値段と材料の書かれている札を指さして棚の向こう側から聞いてくる。
「それはさすがに高すぎます。それはお酒の材料ですね」
シャリアは今の状況を少しだけ後悔していた。朝の段階でヤマトさんに片方でも預けてくればよかったとつくづく思う。
「なんでこうなるの〜っ!」
シャリアは振り回されていた。
「調味料も少し買い足したからこれでもう買うものは無いな。魚も温まっちゃうから早く帰らなきゃ」
何はともあれこいつらを調理しなきゃいけないのだから。
「よし海老は酒蒸し、川魚はちゃんと正解のカルパッチョ、あとは煮付けだ。よし、開始!」
こうして、人生を合計で約三十年続けて初のデスマーチを経験するのだった。
「……ヤ、ヤマト?大丈夫?」
「…………あぁ」
「まあなんとなく何をしてたかは想像つくけどね。この状態を見れば」
「はい。でもよく一人でここまで作れましたね」
「マジで自分がもう一人いたらいいなって思ったのは今日が初めてだ……」
「お疲れ様。しばらく寝たら?」
「そうさせてもらうよ。夕飯も一緒に作っておいたからそれ食ってくれ」
「わかったわ。おやすみ」
俺はそれに手を振って答えるとソファの上でそのまま眠る。……疲れた。
「……きて、お兄ちゃん。もう夜だよ。夜ご飯食べようよ」
「ん……、ああ、悪い。随分と寝ちゃったみたいだな。それじゃあ飯にしようか」
「起きたわね。もう日付け変わっちゃいそうよ」
「え?もうそんな時間か?」
「うん。今日は王族の意向で昼と同じように九時と十二時に金が鳴るの。さっき九時の鐘は鳴ったから」
「そっか。じゃあ食べよっか」
俺はソファから起き上がると今も食事の準備を進めるシャリアの元へ向かう。
「準備ありがとな。俺も手伝うよ」
「あれ、もう大丈夫なんですか?」
「まあな。まだ少し疲れがあるけど。でもやっぱり感想が聞きたい」
この前作った歓迎会の時はみんな食べまくってそのまま寝ちゃったから感想と言えるものはあんまり聞けなかった。でも、とても美味しそうに食べてくれたからかなり嬉しかった。
ちなみにさっきまで作ってたのは明日の分で、今日の夕飯として作ったのはパンと濃いめのスープ、あとは多めに作ったローストボアとサラダだ。
かなり簡単ですまんな。
「やっぱり、美味しいわね。色々一段落したら食堂でも開いてみない?」
「それいいですね。私も賛成です」
「むぐむぐ……私もー」
前にもそんな話をした気がするんだけどな。でも、美味しそうで何よりだ。だって味見してるから俺自身は味を知ってるわけで。
「食堂なんて開いても料理担当は俺だけだろ?シャリアはまだ可能性があるけど二人ははっきり言って論外の域だぞ。なんでルルは治癒術使えるのに食う人を毒で殺そうとするんだよ。マナはそもそも食えないよあれ。あれ見るからに危ないヤツだったよね」
あの時のあれは……うっ、思い出すだけで寒気が。
「そ、それは……」
「う、うん……でも美味しそうだったし……」
あの時マナが調理しようとしたのはとあるフルーツ。果肉だけならとても美味しいのだけど、果肉部分を覆う筋、ミカンで言う白い部分にとても強い神経毒が含まれている。加えて種には即効性の劇毒が。なんでそんなものを食べようとするのかと言われたら何も言えないのだが、王族も食べるような珍味として有名なのだ。それをここに引っ越した記念にマナが買ってきて切ろうとしたところで何とか止めたという訳だ。ちなみにその白い部分と皮には毒は含まれていても触っただけでは問題無いからちゃんと処理して食べたぞ。毒部分は分けて俺の部屋に保存してある。魔物も偶に食べて泡を吹いてる姿が確認されるらしいからな。フフフ……
ゴーンゴーンゴーン
夕飯を食べ終わってからしばらくシャリアの淹れたお茶でティータイムと洒落こんで居たがどうやら年は今越したようだ。日本なら「明けましておめでとうございます」だがこっちにはそんな文化は無い。単に「今年もよろしく」程度だな。
「年が変わったわね。みんな、今年もよろしくね」
「うん。お姉ちゃんもお兄ちゃんも今年もよろしくね」
「私もです。今年もよろしくです。あ、そういえばこれで二人は成人じゃないですか?」
「お、そういえばそうだな。これでシャリアが十六歳で、俺とルルが十五歳、マナは……」
「私はこれで十三歳だよ」
「え?マナってそんなに下だったの?」
「そうだよ。それでも赤タグになったのはお兄ちゃんたちと会う一月ほど前だから大して変わらないよ?」
「いや、そうじゃなくて……、十二歳って私たちがハンターとして登録したのと同じ歳じゃない。マナっていつからハンターに?」
「私のいた村だと八歳くらいで強制的に登録させられたの。それで、村の手伝いとかしているうちにいつの間にか緑タグになっていたから……」
「それであの剣の腕ですか。さすがですね。──さて、それじゃあ一旦寝ましょうか。明日の朝になったらヤマトさんの美味しい料理を食べるとしましょう」
シャリアが立ち上がって二人をまとめる。
「それじゃあ、一旦だけどおやすみ」
こうして、新たな一年を迎えるために俺たちは部屋に戻った。
と、言ってもさっきまで結構長い時間寝てたからあんまり眠くないのだ。
こういう時は本を読むに限る。そうどっかのばっちゃんが言ってた。
さて、俺は日本にいた頃は初日の出というものを見る機会が無かった。富士山のご来光だったり、海沿いでの初日の出などなど。
この世界では初日の出は聖なるものとして扱われている。要は創世神話に関連しているのだ。細かいところは覚えてないから端折るが、意味合いとしては「主であり大地の子の神の光が芽生えた。讃えよ。豊穣を我らに与えよ」と言った感じだ。かなり身勝手ぽいが神話なんてそんなもんだ。
まあ何が言いたいかと言うと今俺は外に出て屋根の上で日の出を待ってる。ルル達はまだ寝てるがな。
まだ六時の鐘はなっていないが、あたりの明るさ的にはもうそろそろのはず……
お?
東側、城壁の向こうの地平線から太陽の端が見えた。
この家は王都の中でも高い位置にあるからな。城壁よりも上だからよく見える。
「はぁー、今年も、良い一年になりますように」
手を吐息で暖め、パンパンと打ち鳴らす。
さて、今度は新年料理だ。みんな、楽しみにしているだろうな。
おっとそうだ。新年のお酒も用意しなきゃな。
朝からやることが多くて大変だ。
じきに皆も起きてくるだろう。こうして始まるのが何気ない一日であることを願って、
「明けましておめでとうございます!」
太陽に向かってそう叫ぶのだった。
また、この後初めて飲んだお酒に興奮したルルがべろんべろんになるのだけど、それはまた別のお話。お節は家族や友達と食べるのが一番だからな。そんなのも良いだろう。
ヤマトは満足気に家の中に戻っていくのでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冒頭の通り、今回はお正月特別編でした。そして、これからも本作をよろしくお願いします。
感想やレビュー等等受け付けていますので何かおかしいよ!って所だったり、面白かった!などという感想があれば私のテンションが爆上がりするので更新が多少早まるかもしれません。
批判等もきちんと読み込んで反映させていくので、よろしくお願いします。
それでは、繰り返しになりますが、今年もよろしくお願いします。
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