竜剣士と従魔の卵

「あなたは?俺たちはただここに来ただけですが?」


 俺は目の前の〈竜剣士〉様にそう返す。

 こいつ、なんか怪しい気がする。目が細いし、さっきの会話から察するにギルド長とは年齢差があるものの普通に会話できるほどのベテランってことだ。だが彼の見た目は完全に二十代前半だ。しかもさっき聞こえてたあの話が正しいならば正確な年齢は四十代くらいのはず……

 見た目と実年齢がズレてるであろう人物は疑えって誰か言ってたし。

 そもそも、服装が黄色で統一されたスケイルメイルってなんだ?太陽光に反射してすっごく目が痛い。腰に剣を下げているけどそれも黄色。でも向こうでお座りしてる翼竜からして黄色だからもう何も言うまい。


「いやはや、そんな風には警戒されると僕としてもやりにくいんだけどね。君たちで良いよね?あの人から卵を貰ったのは」


「……ええ。そうよ。あれはいったい何なのかしら?私たちは従魔の卵としか言われていないし、そもそも私たちとはなんの関係も無いはずよ?」


「そうか……なら、今はそれでいい。君たちが聞いたようにあれは従魔の卵であっている。──これ以上はここで話すことは出来ないからどこか僕たちだけで話せるような場所はないかな?」


「……それならば私たちの拠点へ案内するわ」


 ルルよ、俺はお前が決めたことだし、事前に相談してあるから何も言わないが普通は怪しむべきだぞ?

 まあ何かあった時のために拠点にはいくつか罠を仕掛けてあるからスイッチ一つで作動できるようになっている。そのせいで本当にこの二日間は疲れた……



 拠点に招き、居間に毛布に包んで置いてある卵を見た瞬間、竜剣士ハントはこう言った。


「これだね。君たちが受け取った卵は。……うん。これは多分だけどあと一週間で孵化するよ」


 え?


『え?』


 三人の声が揃った。

 うん。でも気持ちはわかる。


「まだ孵化に必要な一手が足りないけどね。でもその一手さえあればすぐにでもだね。既に少しだけ動いているよ」


「それで、この卵は従魔とは聞いていますがなんの従魔なんですか?」


「あれ?聞かされなかったのかな?これは『亜竜』の卵だよ」


 え゙?


 おいおいおい、ウッソだろ。

 亜竜って言ったよなこの人。

 ルルたちがこれを貰ってきた時点では動いてなんかいなかった。俺たちも従魔の卵としか聞いてなくてこれがなんの種類なのかを調べようとはしなかった。

 それでも、だ。

 

「まさか竜だとは思わないよな……」


 某ハンターゲームで竜の卵の納品とかそんなのがあったがまさかその納品物の本物を目の当たりにするとは。


「ははは、そんな反応をしてくれる人は初めてだよ。こっちの人は竜の卵なんて見たらすぐに買おうとするからね。食べるつもりなんだろうね。一度売ったことがあったのだけど、その日の夜にやたら大きな卵料理が出てきたから食べたんだろうなぁ……」


 ハントさんは悲しそうな顔をして卵たちを見つめる。


「僕の故郷はサルム大陸のベートという国の出身でね、実家は竜のブリーダーをしているからそうやって卵が扱われるのを見るとね……僕たちにとって竜は家族であり、卵は宝石よりも価値があるものだから食べるなんて考えられなかったんだ……」


 卵に対してどうやら並々ならぬ思いがあるようだ。でも、俺としても卵は食べるものだからな……ニワトリだけじゃなくてダチョウの卵とかも普通に食える文化だったし、確か世界のどっかだと亀の卵とかも食べるらしいからな。


「と、言うわけで君たちにはこの卵を育てて貰いたいんだ」


 さっきの哀愁はどこへやら、笑顔で俺たちにそう言ってくる彼にどう反応すればいいのか。

 そして、「と、言うわけで」じゃねーよ!なんの説明も無いじゃねーか!


 と、言う発言を何とか飲み込んで耐えながら彼の話を聞く。


「これはさっきも言ったように亜竜の卵だ。あの人が君たちには預けたのだから君たちにはこれを育てる義務があると言っていい。ここまでは理解出来たかな?」


「ええ。もとより、私たちが受け取ることを了承したのだから」


 ルルがそう答える。

 別に俺は了承した訳じゃないのだが……


「わかった。じゃあここからは卵を孵すための作業だ。この家に暖炉は……あふみたいだね。これを使うよ」


「は、はい」


 彼に倣ってシャリアも立ち上がって暖炉の方へ向かう。



 既に火は付けてあったから実は居間はかなり暖かい。別に付けっぱなしにしてたわけじゃない。暖炉ってのは火がちゃんと大きくなるまでに時間がかかるから朝一度つけたら夜まで火は大抵消さないのが常識らしいからだ。


「やることは簡単だよ。この暖炉の中に卵を今日含めて六日間入れて火にかけ続けるんだ。あ、中身には別になんともないからね。竜というのは高い山の上で子育てを行うのだけど、卵を孵す時だけは火山地帯に赴いてその熱で孵化させるから」


「へぇー、このまま入れてしまっても?」


「うん。多分三日目辺りからかなりの熱を持つと思う。でも決して水とかをかけちゃダメだからね」


 それから俺たちは数時間かけて卵を孵す方法と、その後どうするべきかを教えてもらった。二週間程後に大森海への遠征も控えているのだけど、その間はハントさんが世話を引き受けてくれるとの事。彼曰く、「僕は確かにハンターとしては金タグを持っているけど、それ以前に竜のブリーダーだからね」だそうだ。



「それじゃあ、卵を入れてみて」


 ハントさんから借りた厚手の革手袋を付けて熱さから守りながら卵を暖炉の火にかけていく。

 四人全員分の卵を置き終えると、


「このまま絶対に火を絶やさないようにね」


 と、真剣な目でハントさんは注意してくる。


「このまま約一週間で、君たちは一生の相棒とのご対面だ。楽しみにしているといいよ」


「あの、卵の段階ではどれがどの種類とかはわからないんですか?」


 俺も少しそれは気になっていた。確かに卵だけでは違いはあまり見られないけど、表面の水玉模様の色の差くらいはわかる。


「うーん、細かな種類はさすがに僕もこの段階じゃわからないかな。あ、そうだ、君たちに竜の種類について教えておこうかな。これから役に立つだろうしね」


 こうして、暖炉の火にかけられた卵を横に亜竜についての講義が始まるのだった。

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