調べても、現物無けりゃわからない

「ただいま〜」


 俺は一旦手帳に龍と亜竜について書き込むのを止めた。

 俺の部屋の窓から外を見るともうかなり暗い。今日三人は馬車を見に行っていたはずだけど飯のことは一切考えていないだろう。というかあの三人は料理出来ない。

 初めて見たよあんなの。どうやったら白の野菜と赤い果物で紫色の謎物体つくれるんだ?アニメとかで飯マズキャラはよく居るけど本物は初めてだわ。

 でもシャリアは辛うじて食べ物と見れるものだったからこれからに期待したいな。


「おかえり。ごめんな、飯作ってなくて。今から急いで簡単なもの作るから少し待っててくれないか?」


「あ、今日は買ってきたよ。ヤマト、ここ数日忙しそうだったから忘れてるんじゃないかって思ったから」


 三人の持つ袋の中から大きな葉っぱで包まれた食料が出てくる。開けてみると、サンドイッチや串焼きなど簡単に食えるものだから洗い物も少なくて良さそうだ。


「じゃ、食べるか」


 マナが買い置きしてある瓶入りの果実水を持ってきてくれたからもうやること無くて皆座っている。今日は食堂じゃなくて居間で食べるがたまには良いだろう。


 本当ならここでお祈りしたりと色々あるのだけど俺たち、というよりハンターの大半はそんな事しない。だってめんどくさいし。




 夕食後のティータイムと洒落こみながらシャリア謹製の調合茶を飲んでいると、


「ヤマト、事後報告になってしまうのだけど……」


 ルル、シャリア、マナの三人が改まってこちらに向く。


 すると、ルルが持つ魔法袋から何か大きな物が四つほど出てきた。

 大きさはだいたい五十セール程度の球体。どちらかと言えば楕円に近い球体だがとにかく大きい。今は一つずつ抱えている状態だ。


「これ、従魔の卵なの」


 は?


 俺がそう思っていると、ルルが何があったのかを語り始めた。


◆◇◆◇



 時間は午前中まで遡る。


「ねーねー、馬車ってどこで買えるの?」

 

 マナが私に聞いてきた。そういえば……私も知らないわね。

 私はシャリアを見つめる。彼女はどこで仕入れてくるのかわからないけど結構物知りなのよね。本人は自慢の耳ですって言ってるけどどうなのかしら。


「確か北門の方でと聞きました。南側は畑などがありますし東は港です。それに西側は草原ですがこの前通りましたからね。あるとすれば北しかないのですけど」


 ああ、消去法なのね。でも確かに見た覚えがないわね。それに北側には行ったことがないからあってるのかも。



 北門に向かうと、城壁の向こう側に広い牧草地が見えた。門の衛兵に聞くと、騎士団の馬も一緒に世話しているみたいね。見に行ってみましょう。



「うわぁーっ!馬がこんなにいるんだ!」


 マナがはしゃいでるわね。さっき教えてくれたのだけど彼女の住んでた村の近くには牧場とかが無くて、街に出て初めて大きな牧場を見た時はかなり驚いたみたい。それでもこんな反応なのだからここはかなり凄いのね。

 よく見れば馬以外にも牛や羊も居るわね。


「ルルちゃん、マナちゃん、馬車はどうやら向こうみたいです」


 シャリアが示した所に馬と車輪が合わさったマークのある看板があった。

 それに店の前にも幌付きの馬車が停まっているわね。


「今日って買わないんだよね?」


「ええ。あと十日もすれば私たちは大森海に向けて出発だから。買うのは帰ってきてからになるかしらね」


 店の前まで行くとさっきの幌馬車の人と店の人との会話が聞こえてくる。

 馬車の修理をしてもらっていたみたいね。

 馬車を売ってるんだから修理もやっているのは当然なのかしらね。


 私たちは会話をしているその人たちの脇を抜け、奥で待機してる人に話しかける。


「あのー、馬車の値段を見たいのですけど」


「はい。見積もりですね。では、どんな物が欲しいのか、希望をお願いします」


 その人は手元に紙とペンを取り出したので、要望を伝えていく。


「最低でも五人乗りね。あと屋根があること。ハンターとして長距離の移動もあるからそれに耐えうる耐久性も欲しいわね。それにものを積める多少のスペースが欲しいわ。私はこんなところだけど二人は?」


 後ろにいる二人に声をかけると、


「うーん、私はよくわからないからお姉ちゃんに任せるよ」


「私の要求もルルちゃんと似たようなものですからね……あ、でも屋根には簡単な収納が欲しいです。上に乗せて縄で留めるもので良いので」


 その後も思いついたことを言い合ってある程度まとめて見積もりを出してもらった。


「馬と馬車本体を合わせて大金貨二枚と金貨八枚になりますね」


「なるほどね。わかったわ。ありがとう、一旦持ち帰って検討するわ」


「はい。ではその時はまたお声かけくださいね」


◆◇◆◇


「……と、こんな感じでまずは馬車を見てきたのよ」


 ルルの話を聞いていたが、馬車って高いんだな。やっぱり。


「そうね。それに耐久性を上げようとすると重くなってその分馬を増やさなきゃいけないからその分のお金もかかるわね」


 大金貨が掛かるとは思わなかったけど今後の餌代とかでそれくらいは簡単に吹き飛ぶんだろうなぁ……



「後々に向けての投資と思えば安い気もしますね。でもやっぱり武具を揃えたばかりな以上、あまりお金は使いたくないというのもあります」


 我らが経済担当シャリアがそう言う。手持ちのお金以外に多額の報酬金はあるのだけどそれを使ったらキリがないと思う。


「確かにな。で、この物体は?」


 俺たち一人一人が抱えるこの球体。従魔の卵らしいが、言われてみればそうも見える。表面に薄く水玉っぽい模様がある。まるで

ピ○助の卵だな。中から生まれるのは恐竜じゃなくて魔物だろうけど。


「それなんだけどね、なんというか貰ったのよ。よくわからない人から」


「シャリア、頼む」


「私もそうとしか言いようがありませんね」


 くっ!まさか本当にそんなことがあるのか!?と言うか、知らない人からものを貰っちゃいけませんって習わなかったのか!?異世界だから習わないか!


「あんまり期待しないが……マナ」


「多分サルム大陸かイルク大陸の人だね。肌が焼けて褐色で緑目持ち、上手く隠してたけどもしかしたらハーフかも。顔料か何かで肌の色を濃く見せてるね。どこの組織かまではわからなかったけど口振りからして確実に何かには属してるね。加えてこれだよ。これは多分〈竜剣士〉の紋章。目的はわからないけど、この卵がある種一番の目標であることは間違いない……って感じかなー」


 お、おう。いつもとは違う感じで話すから正直びっくりしたぜ。

 それにしてもよく観察してるな。そしてマナ、それどっから持ってきた?

 俺は彼女が持つネックレスについて問う。無視されたけど。


「マナ、前から思ってたけど……あなた、この大陸の生まれじゃ無いわね?」


 ルル?それ、今聞くことか?俺はこの卵とかネックレスが一番気になるんだが?


 睨まれた。


 ……あ、はい。待ってます。


「ヤマトみたいな黒髪黒目は珍しいからこの大陸ではあまり見かけないわ。それにあなたは黒髪緑目。黒髪はこの大陸では少ないから見かけることは少ないけど全く見ないわけじゃ無い。でもね、緑目って言うのは少なくともこの大陸では発現しないのよ」


 俺は小声でシャリアに目の色について聞く。


「目の色というのはとある学者は親から受け継ぐものだと言いますが、それともう一つ要因がありまして、それは魔力なんです。ほとんど無いと言ってもいい程度ですがそれぞれの大陸では魔力の質に差があります。そうですね……目の色で例えるならここウェントッド大陸ならばルルちゃんみたいな青目や黄目、私の故郷のノーク大陸は私のような赤目やエルフなどに緑目が。東のイルク大陸ならば緑目や灰目、サルム大陸ならば黄目や灰目が多く発現するようですね。ですがまだ研究途中だと聞きました」


 ふーん。

 魔力で目の色の変化ねえ。なかなか面白そうだから老後の楽しみにでもしようかな。生きてればだけど。


「お姉ちゃん、それ今聞くこと?って言いたいけど。でもわかったよ。私は元は東のガド=レーグ帝国の生まれだよ。育ったのは国境近くの村。私がこうして外に出てきたのも村の空気が嫌だったからだよ。でもその理由も今なら何となくわかるんだ。私の名前が関わってるから」


 マナってもしかしてこっちが素なのか?今までの間延びした感じも好きだがこっちの真面目な感じだとなんというかシャリアと被るな……


「私の本名はマナ・ロートシュトーク。没落したらしい帝国子爵家の娘……って村長からは聞いてるの」


 没落した貴族か……

 というより貴族か。


「と言っても私自身貴族だった記憶なんて一切ないからただのマナとして接して欲しいかな。これでどう?お姉ちゃん」


 ルルは頭を抱えながらも答える。まさか自分と似たような境遇とは思いもしなかったからだ。誰が思おうか。偶然パーティーを組んだ人間がとある大国の貴族の子女だったなんて。


「はぁ……まあ良いわ。ヤマト、なんで今私がこんなこと聞いたかって気になってるよね?」


 うん。ものすごく。


「ただの興味本位よ」


 ただの興味だったかー。


「あともう一つ理由を挙げるなら私は最初からこれが従魔の卵とは知らなかったわ。帰り道でマナから教えられたのよ」


「うん。お姉ちゃんに教えたのは私だよ。この大陸では従魔の卵ってほとんど見かけないんだよ。帝国ってあの国土もそうだけどサルム大陸の国々と繋がりがあってその関係で従魔を商売にしてることもあるんだよ」


 前に本で読んだことがあるな。

 ウェントッド大陸では昔から魔法に関する事業はあったようだが、従魔と呼ばれる類のものはほとんど認知されていなかったそうだ。その代わり、サルム大陸では魔法に関する事業は少なかったものの、従魔に関しては高い技術がある。結果として竜騎士という職を生み出した。

 つまりサルム大陸と取引をしている帝国はその国土で従魔を育て、サルム大陸に卸すと。


 これを知った時はあまり興味をそそられることはなかったのだけど、今思えばちゃんと調べておけば良かったな。


「この卵を手に入れた経緯はまあいいや。でも俺たちはこれからこれをどうすればいいんだ?」


「これを見て」


 マナが持っていたそのネックレスを渡される。それは金一色で眩しく輝いている。


「それは私たちがこの卵を受け取った人から渡されたもの。さっきマナが言っていたけど〈竜剣士〉の紋章があるでしょ?二日後に王都に本人が来るらしいからその時にこれを見せれば全て伝わるってその人は言っていたわ」


 〈竜剣士〉ねえ……

 世界広しと言えどもわずか数百人しか存在しない人外達。その中でも中位の金タグに位置する彼は基本ソロで活動するらしい。理由はその名の通り竜を駆るからだ。

 それ以外にもいくらか特徴はあるのだけどそれは今度。

 さて、この卵どこに置こうかな……


 俺は一旦部屋に戻り、卵を毛布で包むのだった。

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