呼び出し

 事の発端は年末の歓迎会まで遡るのだが、食事が終わった頃にシャリアからこう伝えられたのだ。


「ヤマトさん。さっきギルドに顔を出したんですけど、伝言があるそうです。『年が明けてからで良いから顔を出して欲しい。赤タグに上がったら必ず受けなければいけない依頼があるのでその説明をしたい』だそうです」


 まだ年明けてないっての。でもハンターにはそんなの関係無いのか?もしかして。

 でも試験と称した長尾熊テールベアーはもう終わったしな。あの時も赤タグになったら受けさせるとか言ってたけどまたか?

 

「どうやら規則というよりは伝統のようでした。私たちが受けた長尾熊は規則による依頼だったので今回のものとは別と考えた方がいいと思います」


「なるほどね……赤タグから受けれる依頼だろうけど何か心当たりとかはある?」


「赤タグから受けられる依頼もたくさんありますからね。討伐依頼はもちろんのこと、遠距離の護衛依頼もありますし、あとは……あ、そういえば調査依頼なんていうのも見たことあります」


「調査依頼?どんなものだったか覚えてるか?」


「港湾都市にいた時に見かけただけなのであまりよく覚えてはいないんですが確か、近くの大きな森の状態調査とか書かれていた気がします。すみません、それ以上はちょっと覚えてないです」


「いや、十分だ。調査依頼か。赤タグから受けられるなら経験を積ませるとかの名目で受けさせることもありそうだな」


 と、こんな会話を繰り広げたのだが……



「そこで、君たちに依頼したいのはバードダル大森海の調査任務だ。依頼内容は口頭で説明させてもらう」


 まさかの予想大当たりですよ。まあシャリアの話からいくらか依頼の内容を絞ることは出来てたからあまり驚きは無いがな。


「この国の西部から北部にかけてを覆うとてつもなく巨大な樹海が存在するのは知っての通りだろう。我々ハンターギルドは王国からの要請で定期的にその樹海、いや大森海を調査している。内容は様々だが、一定範囲内の植物状態の変化や魔物の状態などを調べることを主としている。その過程で異常、例えば植物に何かおかしな部分があれば可能ならばそれを採取し持ち帰ることが依頼内容だ。魔物の場合は討伐せずとも良い。ただし特徴などの情報を持ち帰ることが任務のうちに入る。もし討伐が必要な状況で討伐可能なら討伐することも加わる」


 ほう。でもどうせその後には「こちらでは責任は負わない」だろうな。


「じゃあ質問よ。その調査範囲というのはどのようなものなのかしら?バードダル大森海は未だに深層まで到達できたパーティーや人物がいない本物の魔境よ。しかも中層すら到達できたという話は聞かないわ。そこら辺はどうなのかしら?」


「その辺りは向こうに着いてから聞くはずだったのだがね。まあ良いだろう。大森海の調査はあまりの広さのために数十もの支部とそれを束ねる本部によって運営される調査ギルドと呼ばれるハンターギルドの下部組織によって行われている。調査を行うものはまず調査を担当する地域から最も近い支部に向かうのだけど王都の場合は基本的に本部に向かってもらう。君たちも同様だ。で、調査だがそれぞれの支部には巨大な杭のようなモニュメントが設置されている。そこを中心として大森海は調査されるが、森の入口となる部分にも似たような杭が設置されている。当然だが調査範囲は広いため森の入口は複数あるぞ。で、まず今言った二本がペアとなる。次に森の奥にも同じような杭があり、こちらは森の入口のものとペアとなっている。その杭と杭の間が調査範囲となるな」


 彼は一旦そこで言葉を区切る。

 丁度良いからここまでをまとめると……


・バードダル大森海の調査はハンターギルドの下部組織が行っている。

・調査ギルドには巨大なモニュメントがあり、それが一種の目印となる。

・担当するエリアの森の入口には杭が設置されていてギルドのものと繋がっている。

・森の奥にも杭が設置されていて、こちらは入口のものと繋がっている。

・森の二本の杭の間が調査範囲である。


 と言ったところか。


「それじゃあその杭を見つけるためにはどうすれば良いのかしら?森の中で真っ直ぐ歩いても目的地に着けないのは知っているでしょう?」


「これこそ向こうで説明されるべきことなのだが……」


 そう言って彼は自身の机の引き出しを漁り始めた。ペンであったり手帳だったり。あ、木のアヒルまで出てきた。


「あった。これだ」


 彼の手には特殊なコンパスのようなものがあった。針の先端が赤色のと青色の二種類のコンパスがくっついた見た目の道具だな。


「赤色が森の奥の杭、青色が森の入口の杭だ。現場ではさらに黄色の針のものを渡されるがそれは万一の帰り用だな。他に質問は?」


「無いわ。だいたいその場所まで馬車でも二月はかかるのだからお金はどうなるのかだけは聞きたいけど」


「ああその事なら問題無い。調査というのは国からの援助がある。まあ当然何かしらの裏はあるのだろうが……

移動に関してはギルドから定期的に出ている竜車というのを使ってもらう」


「竜車?」


「翼竜などと同じような亜竜と呼ばれる種類の魔物で、この大陸に生息するのは地上を駆けるタイプなのだよ。性格も比較的温厚で人にも慣れる。何よりも馬よりも力があり長期的に見れば馬よりも速い。だが維持が大変なので使う者は少ないがね」


「亜竜?それは龍……真龍などとはどう違うのかしら?」


「真龍は正しく伝説などの存在で通称魔獣と分類される。しかし亜竜は魔物だ。この辺りは図書館にある魔物に関する本を読めば分かるはずだ。ただし古いものでないと載っている可能性が低いから注意するように」


 なるほどね。自分で調べなさいと。でもよくある話だと真龍の前段階が亜竜だったりするのだけどこちらでは違うのか。そもそも魔物とは一線を画す存在のね……

 こりゃ一筋縄じゃあいかないか?


「ではもう質問も無いようだな。出発は二週間後の今日だ。明朝五時、まだ暗いがギルドの前に竜車を待機させておくので乗り込んで置いて欲しい。予定では君たちの他にもう一パーティーが乗る予定だがそちらは緑タグの新人たちだ。赤タグとして相応しい振る舞いを頼んだ」


 そう言ってこの呼び出しはお開きとなった。さて、まずは二月分の食料の用意だな。あとは……


 こうして、この国最大の魔境であるバードダル大森海への調査依頼が決まったのだった。

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