追加一品の料理回

「はぁー……疲れた」


 俺は新たに購入した真新しい布張りのソファーに横たわる。

 拠点購入から数日。俺たちは王都で暮らすための家具を揃えるのに奔走していた。食器棚であったり細々した台などは既に設置されていたのだけどベッドとか食器、あとはソファーだったりを買い揃えていた。実はこの建物木造だからそれにあったデザインのものを買わなくちゃいけない。まあそこら辺はマナやシャリアに任せてたからあんまり俺は関わっていない。せいぜい自分のカップを選んだ時くらいだな。



 俺はこんな風に寝っ転がっているが今日はこの家でマナの歓迎会兼引越し祝い兼年末のお祝いをやる予定だ。だからこの数日は休む間もなくこの家の掃除であったり物品購入などに奔走していてすっかり今が年末だということを忘れていた。

 そういえばこの前は買い物に出たらなんか街が騒がしいなと思ったら聖火日だったなんてのもあった。だからルルたちと相談して年末いはちゃんとやろうと言うことになった。

 今は夜の料理の仕込みを終えたところだ。作るメニューは秘密だがこれだけの物が揃うのはさすが王都と言うべきだろう。



 多分三人は外で昼食を取るだろうし俺はさっきまでしていた仕込みの過程で軽く作って食べている。

 ……要は暇なのだ。もしかしたら荷物持ちくらいやれよ、なんて声もあるだろう。だけどな?この世界には魔法袋なんて便利なものがあって中に入れたら重さなんて感じないからその気になればベッド数台をか弱い少女が運ぶことだって出来るんだ。

 さらに言えば俺は料理とかそういったことは多少出来るけどセンスというものがからっきしで地球にいた頃も後輩から色々言われたものだ。別に俺はこの世界でチートスキルとかを貰ったわけじゃ無けりゃすごい知識を持っている訳でもなくすごい魔法が使えたりなんてことも無い。まあ銃の知識に関してはこの世界ではチート扱いだろうけど自分だけじゃどうにもならないからな。

 チートスキルが欲しいなんてことは無い。むしろ要らない。ルルがチートじみてるのはしょうがない。だって天才だから。十年近くずっと近くで見てきている俺が言うのだからなんの間違いも無い。




 なんてことを考えているうちに日も傾いてきた。もう少ししたら三時の鐘が鳴るだろう。六時の鐘を目処に帰ってくると言っていたしそれくらいには飯にできるようにしておこう。


 俺は立ち上がりさっきまで仕込みをしていた食材を置いている棚へ向かう。

 食堂と直結している台所は結構広く、一番奥に最近王都で普及し始めたという魔石コンロが三口。これはガスを魔石に入れ替えただけで見た目は普通のコンロと思っていい。そことコンロの脇のスペースの向かいに食料棚。今は仕込み済みの食材を置いているが本来の使い方もそうだろう。あとはハーブや塩胡椒などが置ける置いてる小さな棚だったり金属製のシンクだろう。ちゃんと水も出る蛇口だったり水道管などとさすが元は公爵家が依頼した物件なだけあってこういった部分はとてもしっかりと作られている。


 こうして台所を見ていると何だかもう一品作りたくなってきた。鳥の丸焼きとか色々作る予定だけどまあ良いだろう。パンともう一つの主食には合うだろうし。

 少し高かった石鹸でガッツリと手を洗うと調理の準備に入る。


「さて、と。じゃあまずは野菜だな」


 まだ完全には食料庫の整理が出来てないので今はまだ魔法袋の中に食材を入れている。俺は中からニンジンに似た野菜と玉ねぎっぽい野菜……面倒だな。ニンジン、玉ねぎ、ゴボウみたいな根菜、あとは午前中に買い物に出た時に偶然見つけた小エビ。どうやら王都脇を流れるマール河を少し上に行った辺にある支流が注ぐ湖で捕れるらしい。大きさは桜エビくらいだから丁度いいだろう。あ、そうそう。強めのお酒も忘れないようにな。


 ピーラーとか便利な物は無いので包丁で地道に皮をむいて幅数ミールの細切りにしていく。

 

 ……三十分程野菜たちと格闘し出来上がったものと小エビを木のボールに入れ、次は粉だ。まずは小麦粉。これは今まで持ってたやつを使う。

 ちなみに王都に来て初めて知ったのだけど、この小麦粉は中世にしてはかなりの白さなのだ。その理由が、百年ほど前に魔法研究の第一人者が大の小麦粉製品好きでパンなどもどうにかして白いパンを食べたいと思ったのだそう。そこで彼は十年掛けて小麦粉を白く加工する魔道具を開発。さらに五年掛けてそれを大量生産して世界中にばらまいたのだ。当時の為政者たちは小麦粉を簡単に製粉出来ることにかなり戸惑ったのだけどばらまいた理由が「どこにでもこの魔道具があればどこでも白いパンが食べれるだろう?」だったそうだ。閑話休題。


 小麦粉をボールの中の野菜に振りかけながら混ぜ合わせていく。程よく混ざったら強めのお酒を加える。そしてまた混ぜるが、ここでは混ぜすぎないようにな。次は揚げる用意だ。

 使う油はオリーブオイルっぽいもの。木の実を絞ってできる油だが、東の方での特産品みたいで比較的安価に手に入った。安かったから大量購入したその油をフライパンに注ぎ火にかけていく。

 しばらく待って丁度良い温度まで熱すると、スプーンを使ってボールの中の野菜を油に入れ揚げていく。

 ここまでやればもうわかるだろう。そばやうどんとの相性抜群のかき揚げである。

 揚げ上がったら皿の上に綺麗な紙を敷きその上に乗せていく。全て乗せ終わったら皿よりも大きな深皿を上に被せてさっきの食材棚の中に入れて保温する。これでかき揚げは完成だ。

 

 ここまでやってだいたい一時間。ならもう本格的に調理を始めてもいいだろう。まずは確実に時間が掛かる鳥の丸焼きから。これは鶏に似た鳥を使っている。名前は知らん。

 このキッチンの下段にはオーブンも設置されていて、地球の物よりは時間は掛かるがチキンと、いやキチンと焼き上げることが出来る。

 次はサラダだ。これは簡単でまずは水の中にジャガイモを入れてそのまま沸かす。その間に今度はコーンのように小さな身を持つ野菜から身を取っていく。見た目がコーンなのに身は綺麗なオレンジ色だから感覚が狂ってきそうだ。四人分だから一本分取れば良いだろう。火は弱めに付けていたから丁度ジャガイモも茹で上がった。そしたらそれをボールに入れ、麺棒で潰していく。イメージはマッシュポテトだな。ある程度潰れたらそこにさっきのコーンと仕込んであった刻み野菜を混ぜていく。マヨネーズは無いが、野菜それぞれの味が出るようにしてあるから上手い具合に混ざってくれるだろう。人通り混ざったら完成だ。お好みでソースをかけてどうぞ。このソースは一般的に売られていて木の実や酒などを混ぜた物でとろみがあって美味い。味は犬のマークのソースに近いかな。

 

 次は魚料理だ。こっちはもうほとんど終わっている。まず午前中のうちに買ってきておいたマスに似た魚を捌く。本当ならサーモンとかがいいのだけど王都には無かった。でも北の方の港町にはあるみたいな話だからいつか行って買いたいな。

 そんなことを考えているうちに三枚におろし終わる。皮は要らないので剥いでおこう。マナはわからないがルルもシャリアも出たものはみんな食うので大量に作っておこう。でも身の中で油が乗っている部分は切り落とす。後で使おう。

 三枚におろしたらそれを刺身のように切って大皿に並べていく。白い皿なら見栄えが良いんだけど手持ちが無いから今日は木皿だ。でも身のピンク色が綺麗だから大丈夫だな。一通り切って並べたら今度は玉ねぎだ。これは面倒だから先に切っておいた。でも新鮮なまま使いたかったから邪道な気がするが魔法袋の中に保存させてもらった。

 薄く細切りにされた玉ねぎを皿の真ん中に盛っていく。その上にソースなのだけどこれが結構難しい。本来なら使うのはオリーブオイル、レモン汁、塩、胡椒なのだけど胡椒は高くて手に入らなかったしレモンも似た形の物はあっても味が違った。ちなみにグレープフルーツだった。だから今回使うのはオリーブオイル、お手製クレイ〇ーソルト、酸味強めの柑橘系の汁だ。これを目分量で入れていく。かき混ぜながら味見はしつつ調節しているからまあ良いだろう。

 あとはこれをかければ完成。料理名は……そうだな川魚のカルパッチョで。


 カルパッチョを棚にしまって外を見るともうだいぶ暗い。そろそろ帰ってくるんじゃないかな?

 今日出す予定の料理は今作った三品と今焼いてる鳥と午前中に作りおきしたサラミとトマトソースのと肉とチーズメインのピザのような料理が二種類。買い物ついでに買ったバゲットのようなパンが数個。ビスケットみたいな保存食っぽいのが数十枚。これは王都に来る途中に食ってたやつのあまりだ。チーズでも載せて食おう。それに野菜のスープだな。あとは……いや、もうこれくらいでいいか。これ以上は食いきれなさそうだし、そろそろ……



 ゴーンゴーンゴーン……


 午後六時に鳴る五の鐘だ。もう三人も帰ってくるだろう。なら最後の料理だ。もう寒いからな。さっきのかき揚げに合った料理だ。

 食材棚から取り出すのは白くて少し細めの物体。太さ的にはうどんより太くよりは細いもの。それを沸かし直したお湯に入れていく。

 その間に麺を入れる汁の準備だ。使うのは市場で見かけた謎の物体X。売ってた露店の店主曰く南の暑い地域の漁村で使われる調味料で、夏場の汁物に入れて使うのだとか。まるっきり味噌みたいだけどどうやら豆は使わずに木の実と魚の乾燥させたものなどを混ぜて作っているとか……。

 色合いは確かに茶色で味噌っぽいけどこういうのって発酵させたら大抵茶色にならない?


 俺はとりあえず一掬いを味噌汁の要領で溶かし混ぜていく。

 混ざったら味見。


「うん。こりゃ味噌だな。味薄いけど」


 少し多めに追加してまた味見する。

 ……丁度良いな。


  上手い具合に茹で上がった麺を皿に上げて少し冷ます。盛り付けても良いんだけどまだ三人が帰ってこないからね。


 キィ


 お、門が開いたな。じゃあ丁度良いから盛り付けてしまおう。っとその前に鳥を取り出す。うん、いい出来だ。綺麗にこんがり上手に焼けました。

 大きめの皿に載せ替えて、食堂のテーブルの真ん中に置く。あとはパンなどもカゴに入れてテーブルへ。すると、


『ただいま!』


 食堂の扉を開けて三人が顔を覗かせる。さらに仲良くなったみたいだな。


「うわぁ!これ全部お兄ちゃんが?」


「三人が出かけてからな。買い物に出たりして色々買ったが今日は歓迎会だからな。奮発したぞ。まだまだキッチンに置いてあるからな。座って待っててくれ」


「ううん。手伝うよ。何持っていけばいい?」


「そうだな、じゃあそこのサラダを持って行ってくれ。あとそれを載せる小皿も」


「わかったー」


 マナも一日中動いて疲れてるだろうに。それでも手伝ってくれるなんていい子だよホントに。


 俺はカルパッチョなど作った料理をテーブルに持っていき、ルルがスープをよそってくれる。シャリアがピザを持って行ってくれたんだな。なら俺は麺をやるか。と言っても丼みたいな深皿に汁をよそって中に麺を投入。その上にさっき気分で作った天かすをパラパラと落とし完成。あとはかき揚げでも載せてもらおう。


「よし。これで料理も出揃ったな。じゃあ始めようか!」


「そうね。とりあえず堅苦しいのはやめにして。マナ、これからもよろしくね」


「私も、これからよろしくお願いします」


「お姉ちゃん……はい!よろしくお願いします!」


「ここに丁度よく飲み物があるな。──それじゃあ、乾杯!」


『乾杯!』


 チンッと軽い音を立て、ルルが用意したであろうグラスが鳴る。中身は多分お酒だな。実際まだ俺とルルは成人してないんだが……まあいいか。今日は楽しむわけだしな。



 こうして、新たな家で新たな仲間と迎える年末はとても楽しいものとなったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る